コリン・ウイルコックス (旅先で読む文庫本)
コリン・ウイルコックスのヘイスティング警部ものは、1970年から
80年にかけて書かれた警察ものだが,一人称で書かれているので,探偵
ものに近い印象を受ける。
訳者の宮脇孝雄の「訳者あとがき」に曰く。「エド・マクベイン他の警察
ものは,警察の捜査の面白さに主眼を置くので,警察小説とはいわず,警察
捜査物という言葉が使われており,同時進行する捜査の面白さを最大限に
表現するため,ほとんどが三人称多元描写の手法で書かれている。ヘイステ
ィング警部シリーズは(一人称のため)広がりを犠牲にしているが,話に
奥行きを持たせることに成功している。」に同感。
ヘイスティング警部は学生時代と卒業直後は,アメフトのQB。
結婚し奥さんの親の会社(東部)に入り広報担当。客への接待に自分を見失いかける。
離婚。サンフランシスコに戻って警官になる。こういった経歴が淡々と語られる。
また,ウイルコックスの警官仲間同士の人間関係の描写が,
他の探偵ものにはない,いわば日本のサラリーマンものに近い位置関係にあることに
共感を覚える。
部長の記者会見に振り回される様。同僚のフリードマン警部とのやりとり。部下の
カネリ刑事の要領の悪さ。マーカム刑事の出世欲。
また,マニュアル遵守をしたいのだが,そんなまだるっこいことが出来ない,と,
あえて無視する心の葛藤も面白い。(日本の警官物にはこういった行動規範
は出てこない)
離婚歴が当たり前のアメリカは,小説でも当然離婚話が題材に入ってくるが,
離婚をしない建前の80年代の日本でウイルコックスを読んで新鮮な驚きは今も
忘れられない。読み返してみて,それほど古いという印象は受けなかった。
<文春文庫>
依頼人は三度襲われる(ビル・プロンジーニと共著)
容疑者は雨に消える
女友達は影に怯える
殺し屋は東から来る
警察署長は最後に狙われる
父親は銃を抱いて眠る
子供たちは森に隠れる
暗殺者は四時に訪れる
ロックシンガーは闇に沈む
ロンリーハンター
ひろさんの旅枕
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