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ビル・プロンジーニ(旅先で読む文庫本)講談社文庫から、1995年発表の「凶悪」が出版された。 ビル・プロンジーニは,70年代はじめから80年にかけて,
名無しの探偵シリーズを書いた。名無しとは,一人称で書かれた「私」の名前が,全作品を通じて何処にも出てこないからで,他人から呼びかけられても,
名前を呼ばれないように上手く表現されていて,結局私が何という名前か
読者には判らないまま評判になった。(イタリア系の名前ということは
作中に良く出てくる) 作品が進むにつれて「私」の生活は変化するが,サンフランシスコ市警を退職して私立探偵になったことが明かされる。「私」は未婚でパシフィックハイツのアパートに住んでおり,事務所はテイラー・ストリートにあったが,第6作からドラム・ストリートのビルに移す。 その「私」が、この「凶悪」の冒頭で、ガールフレンドと結婚式を挙げる。 また,「私は」第1作から、タバコ好きで咳に悩まされ,肺ガンをおそれている。(結局肺ガンでないことが何作目かで判る。そのときタバコも止め、「凶悪」でもタバコぎらいが続いている。) どの作品もこういった自分のライフスタイルに関する叙述が,事件解決の推理や行動と渾然一体となって表現されている。 (註)パルプマガジンというのを見たことがないが,作品から推察すると, 1920年代後半から50年代にかけて発刊された,挿し絵入りの大衆小説雑誌らしい。 第5作の「脅迫」は,パルプマガジン大会がサンフランシスコで開かれたいる 場を題材にしており,パルプマガジンの書名やジャンルが詳しく書かれている。 サンフランシスコを舞台にしたミステリーは,コリン・ウィルコックスの
描くヘイスティング警部と同じ場所,同じ時代なので,この
二人の共著による「依頼人は三度襲われる」がある。これは,探偵の私(名無しのオプ)とウイルコックスのヘイスティング警部とが競争で犯人を追いかける話で,1章ずつ交互に執筆した。面白く洒落た企画であった。 プロンジーニの初期作品のいくつかは新潮文庫から出版されていたが,後半の作品は徳間文庫に切り替えられた。ウイルコックスとの共著だけ,文春文庫
(ウイルコックスの全作品は文春文庫)による出版である。 <新潮文庫> <徳間文庫> <文春文庫> <講談社文庫>
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