競馬GAME大全・ファミリージョッキー




(3)ファミリージョッキー(ゲームボーイ、1991年)


・概要

ファミコン・PCエンジンに続く、シリーズ第三弾。基本的にはファミコン版と同様に、(PCエンジン版で言うところの)[HORSE MODE]しか存在しない。


・周辺事情

 発売は1991年と、PCエンジン版とほぼ同時期らしい。「テトリス」の大ヒットによる第一次ゲームボーイブームを受けて、NAMCOがゲームボーイ参戦を果たした際に、色々とファミコン版のタイトルを移植しまくった内の1本。時期的に、PCエンジン版(「ワールドジョッキー」)開発の片手間に作ったと思われる。

 ちなみに、当時のNAMCOは主力をPCエンジンに移していた上に、89年の任天堂との再契約問題(※1)もあってかなり任天堂とは疎遠であったが、ゲームボーイブームを見て慌てて任天堂に擦り寄ったらしい。最近で言うと、ゲームボーイアドバンス参入を狙うスクウェアみたいなもんですな。

 そこで、「おたくはまだ参入してませんでしたよね」と言われて、抱き合わせでディスクシステム参入もさせられたらしいという説もある。実際、同時期にNAMCO(ハドソンも)はディスクシステムに突然参入し、ROMで発売したタイトルをそのままディスクシステム版で発売していたりする。

 しかし、ゲームボーイバブルはほんの一瞬でしかなく、後年の「ポケモン」ブームに到るまで長い眠りに付く事になる。そもそも、任天堂以外のタイトルのヒットってほとんど無かったし。


・GAME内容

 モードとしては(4人プレイ出来る訳無いので)ファミコン版に準じているが、実際の操作性等の内容についてはPCエンジン版の方に近い。(このあたりの具体的相違は、「ワールドジョッキー」の項参照)

 このあたりを見ると、こちらのスタイルがNAMCOにとっての同シリーズの正常な進化形という事なのだろうが、筆者にとっては余計な事でしかない。

 なお、これまでと違って、画面はプレイヤーを常に中心としてスクロールする。(従来は馬全てが一画面に収まり、先行すると画面前方、交代すると画面後方に位置していた。)

 このため、プレイヤーが先頭に大きく差を付けられた場合は、ファミコン・PCエンジン版の様にスクロールアウトに引っ掛かって前に押し出される(+スタミナ消耗)のではなく、先行集団は画面の先頭のほうに消えていってしまう。そのため、油断していると大差を付けられて、スタミナ残ってて障害もクリアしたのに5着以下という自体もあり得る。
 逆に、直線先頭に立ってもいきなり障害に激突する危険は少ないと思われる。もっとも、エクスプレスやインターラプターでも簡単に逃げられないけど…

 結局のところ、ゲームボーイになって画面が狭くなったためであろうが、これではGAME性が大きく変わってしまうのでは?

 もっとも、常にプレイヤーの前に一定の視界が開けているわけだから、コーナー明けの障害以外にも、アイテムゾーンで先頭に立っていてもアイテムが取りやすい点は便利。

 また、画面後方に行く事が無いと言う事は、障害でこけてもリタイアにならないという事かもしれない。もっとも、道中でスタミナ尽きたら致命的な大差を付けられるだろうが。

 ついでに、これまではプレイヤーは常に1枠であったのが、本作では何故か常に3枠と変更された。理由は全く不明だが。

 この他に、コーナーの斜めの部分が短くなっていたり、内側の荒れた部分に入ったときの減速が大きくなっていたりする。

 また、細かい点ではムチを入れた時やジャンプ時の効果音が無くなっている点が物足りない。


・データ

 本作では、プレーヤーの選択出来る馬が大幅に入れ替わっている。なお、選択出来るのは以下の16頭。(()内は元ネタ)


カモノネギ(前作より)
アグリギャップ(オグリキャップ)
ガンバリルドルフ(シンボリルドルフ)
イーグルゴー(前作より)
ハイテック(前作より)
ナントヘリオス(ホクトヘリオス)
ナンノムテキ(ヤエノムテキ)
エクスプレス(前作より)
ウナリツー(イナリワン)
アイネステンジン(アイネスフウジン)
テンカウント(前作より、テンポイント)
スーパークリーム(スーパークリーク)
ミスターエーシー(ミスターシービー)
バウンドメモリー(バンブーメモリー)
インターラプター(前作より)
アイアンホース(前作より)

 パラメータを見ると、スピード1でジャンプ4のアグリギャップとか、スピード0でジャンプ4のガンバリルドルフとか、スタミナタイプのナントヘリオス・ナンノムテキとか、逆にスタミナ不足のスーパークリーム・ウナリツーとか、わざとやってるとしか思えない程実情から外れている。

 もっとも、よく見ると前作にはいたブルーグラス・パフォーマンス・モモタロー等の馬が、名前だけ変えてパラメータそのままで残っているだけなのだが…

※1:NAMCOは、ファミコン参戦当初は任天堂から優遇されて、好きなだけソフトを出すことが出来た。(通常は、1社につき年間5本まで)

 そのため、よその開発したソフトをかなりの数発売していたものだが(「女神転生」、「カルノフ」等)、契約期限が切れての再契約の際に任天堂側から通常通りの契約(年間5本制限)を要求された。

 そこで、一時期はNAMCOを任天堂との契約を結ばず独自流通に挑むらしいと言う情報が流れた事もあった。結局、(少なくとも表向きは)NAMCO側が折れて契約が結ばれたのだが、この時の怨念が後年PS参入時に発揮されたのかもしれない。


・評価

 基本的には、「ワールドジョッキー」の下位互換バージョン。当然、多人数プレイ不可なので(通信対戦はあるけど)、「ワールドジョッキー」よりも評価は厳しくならざるを得ない。

 もっとも、画面が狭い点と、2人プレイが通信対戦のため一画面に全馬収める必要が無い点から、[GAME内容]の項でも触れた様に画面がプレイヤーを常に中心とした形に変更されており、その点でGAME性が大きく変わっている。

 具体的には、常に前が一定量見える点から、逃げ・先行策のマイナス面が無くなっているため、従来の好位待機から直線抜け出しスタイルから、逃げ有利へと変わっている。

 もっとも、NAMCO側もそれに気付いてバランスをいじっているらしく、CPU馬の先行力(スピード?)が上がっていてなかなか先頭に立てず、逆にムチを入れる手が緩むと簡単に後方に置いて行かれる。

 それでいて、直線では(障害と関係なく)最後にスピードDOWNする馬が多く、結局プレイヤーが差し・追い込みで勝つ場合が多い様だ。

 また、ムチを多めに入れないと置いていかれることから、道中のスタミナ消費が激しくスピードタイプのエクスプレス・インターラプターではかなり厳しい様な感じがする。というか、スタミナAの馬がダ2800m戦で星一個取ったのに最後でスタミナ切れってのは厳し過ぎる。

 結局、ファミコン・PCエンジン版は、常に馬群が一定範囲内に収まるスタイルで、前に行き過ぎると不利(障害・アイテムが見えない)なために、好位に押さえて直線瞬発力勝負と言うヨーロッパスタイルの競馬と言う事になる。

 それに対して、このゲームボーイ版は先に行った方が有利だが、周り(CPU馬)もガンガン飛ばすのでなかなか先頭に立てずに、無理に先頭に立つとスタミナ消耗が激しく、逆に押さえてスタミナ温存を計ると後方に置いて行かれるという、アメリカスタイルの競馬と言う事が出来る。

 言い換えると、このゲームボーイ版は従来に比べて大幅にプレイしやすくなった分、CPU馬も大幅に強くなったという、まさに正統なパワーアップバージョンと言う事が出来る。

 実際、ファミコン版の様に、CPUに弾かれて障害激突とか、ジャンプミス一回でリタイアとか、直線で先頭に早く立ちすぎて障害激突とか、アイテムゾーンで前に立ち過ぎてアイテムが取れないとかドクロ取らされたとか、CPU馬がペース上げないのでレコードが全く取れないとか、そういったプレイヤーにとって納得出来ない状況は本作ではほとんど解消されている。

 逆に、それらのミス(不運)が無ければ、CPU馬自体は弱いのでほとんど負けないという点も解消されて、CPU馬がかなりパワーアップしていてノーミスでも全く勝てない場合も少なくない様になっている。要するに、スローペース症候群に慣れすぎると、厳しい競馬に対応出来ないようなものか。

 もっとも、上で挙げた部分というのは、ファミコン版の弱点というよりは「味」というべき部分が多々有り、筆者としても単純に改善点とは認めきれないが。

 ともかく、基本はファミコン版に準じながら中途半端に操作性を修正したために、バランスを大きく崩しただけに終わったPCエンジン版よりも、完全に別物のゲームバランスを完成させた本作の方が遥かに高く評価出来る。

 もっとも、第一印象はかなり悪かったので、この文章の前半では評価ボロクソの様な気もするが…

 後は、パラメータの低い馬でもプレイ次第で挽回出来るのかどうかが気にかかる。このスタイルでは、絶対能力(スピード・スタミナ)が低い馬では、アメリカ競馬に挑んだ日本馬の如く、まるで競馬にならない気がするのだが。もっとも、アイテムが取りやすいのだから、結構カバー出来るかもしれないが。

 最後に、プレイ開始時点では色々と感じた難点のほとんどは、プレイしていく内に納得出来たのだが、ゲームボーイというハードの性能事態に所以するであろう見た目の悪さだけはどうしようもない。
 正直言って、PCエンジンの方でこちらを出して欲しかった気がする。もっとも、向こうは多人数プレイ前提で作っているのだからやむを得ないのだが…


・まとめ(シリーズ全体を通して)

 筆者は元々辛口の傾向があり、この「ファミリージョッキー」シリーズ3本についてもそれぞれかなり厳しい事を書いて来た。

 ファミコン版では実際の(JRAの)競馬との相違点の大きさ、PCエンジン版ではバランスの荒さ、ゲームボーイ版では従来のものとの変更の大きさ、これらについてかなり書いて来た訳だ。

 ただ、それぞれのレビュー中にも書いているように、ファミコン版(というよりシリーズ全般)でのリアリティの低さは、GAME性優先の裏返しであり、PCエンジン版のバランスは4人プレイ優先に創ったため、ゲームボーイ版は独自のプレイスタイルとして成立している、という様にそれぞれ必然がある事が分かる。

 要するに、全てはNAMCOの計算の内という事だ。特に、PCエンジン版とゲームボーイ版は似たような時期に発売された事もあって、多人数で気楽に遊ぶPCエンジン版と、一人でやり込むゲームボーイ版というように棲み分けがなされている訳である。

 もっとも、結果的にゲームボーイ版はほとんど売れなかったため、筆者も今頃になって初めてプレイした様にほとんど世間に知られる事無く終わり、また明らかに第一印象悪い事もあって、新しいスタイルの「ファミリージョッキー」は真っ当な評価を受ける事無く消え去って行ってしまったが。

 筆者としても、もう少しゲームボーイ版と付き合ってみて、名作たるファミコン版を越える存在なのか、不肖の続編なのか、いずれは正当な評価を下してみたいと思う。

 PCエンジン版は、(少なくとも一人プレイでは)はっきりと嫌いだと断言するけどね。


・おまけ

 これが、本文中で強調しているGB版とFC(PCエンジン)版の画面レイアウト(視界)の差。共にプレイヤー馬に全くムチを入れずに放って置いた場合だが、その差は明らか。

ファミコン版(画面後ろに押されて馬群から離れられない)



GB版(遥か前方にCPU馬)





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