No.006 猿島の惨劇
1998年8月8日(土)
梅雨が明けたにもかかわらずぱっとしない日々が続いている。
前日のニュースステーションの天気予報では
「明日の土曜日は久々に気持ちのいい晴れになるでしょう」
とのこと。
これはどこか出かけなければと、ユキちゃんと2人であれこれ考えたあげく
横須賀沖にぽっかり浮かぶ無人島「猿島」に行くことになった。
昔、やはり横須賀の「うみかぜ公園」に2人で行ったときに岸からこの猿島が見えて
ちょうどその頃ニュースでこの無人島に観光客が押し寄せているというのを聞いたばかりで
今度行ってみようと約束していたのだ。
ついにこの日約束が果たされるときが来たのだが
前日の天気予報とは裏腹にその日は朝からあいにくの曇り空
その後も太陽が姿を現すことは無かった。
思えばこのときに"惨劇"は始まっていたのかもしれない...。
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横浜から京浜急行に乗り横須賀中央駅で下車。
そこから徒歩で15分くらいのところ。
三笠公園から猿島に行く船は出ている。
大人往復1,200円の切符を買って船に乗ること約10分
僕たちは猿島に着いた。
すでに大勢の海水浴客とバーベキュー客で海辺はにぎわっていた。
横浜ウォーカーには
「驚くほど水がきれい」
「東京湾とはとても思えない」
と書かれていたが、水は汚く、周りは貨物船が頻繁に行き来し
横須賀の街はすぐそこに見え、どこからどう見ても東京湾にしか見えない。
昔見たニュースでは島には何も施設が無く自動販売機程度しかないと言っていたが
なかなかどうして、今ではビーチ・ハウスができ、バーベキュー道具のレンタルも有り
立派な観光地と化していた。
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猿島は戦時中日本海軍が要塞として使用していた島で
島内には兵舎や砲台跡があちこちに残っている。
少し歩くとそこはうっそうと生い茂った木々に囲まれた別世界。
なるほど、確かにどこか遠くの無人島に来てしまったような感じがする(写真参照)。
ここしばらく天気が悪かったせいか道はぬかるみ
暗くて長いレンガ造りのトンネルは水が滴り
何かよくないことが起こりそうな雰囲気。
しばらく歩いてふと気が付くとユキちゃんが妙な歩き方をしている。
日本海軍のたたりか?!
単に足が虫に刺されまくっているらしい。
いつも持ち歩いている虫よけスプレーを今日に限って持ってきていない。
この頃からユキちゃんの心に薄暗い影が広がり始めていた。
その後島内いろいろ歩いたがずっと曇りだったせいか景色はいまいち
おまけに上り下りが結構激しく
見晴らしのいい広場に着いたときには2人ともへとへとになっていた。
すでにユキちゃんから笑顔は消えていた。
太陽が出ていない割には蒸し暑く
周りは虫が飛び回っているため上着を脱ぐわけにも行かない。
それでも僕だけ磯まで降りてちょっとだけ遊んだがユキちゃんはもう動こうとしなかった。
仕方がないので売店で買っておいたウーロン茶を飲んで早々に引き上げることにした。
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三笠公園に戻ってきたときユキちゃんの口から思わず出た言葉。
「ホッとしたね」
そこには久々に見るユキちゃんの笑顔があった。
とりあえず気が済んだらしい。
(猿島遊歩道にて撮影)
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