<WWWの今後に関する一愚考>

(一般公開:1995.8.12)

 先日、知人達との間で「大学の自分の研究室のHomePageを作ることに果たして意義はあるのか?」さらには「個人レベルでのHomePage作りについてはどうか?」・・・という話題について往復書簡による議論を行いました。これをきっかけに、少しWWWという情報媒体についての短い愚考を述べてみたいと思います。


Q(X氏):
最近、WWWを利用した情報発信が盛んだけど、うちの研究室でも研究室紹介のHomePageを作りたがっている後輩がいるのよ。ここでちょっと考えたいんだけど・・・、って言うか正直、二の足を踏んでいるんだけど、今のWWWの現状を考えてみるに、大学の研究室が自己紹介HomePageを作ることって、本当に意義のあることなのかな?

A(沼田):
まず初めに、ウチの研究室では私も含めて、「WWW自体の媒体としての現時点での活用のされ方」については、いろいろ懐疑的な意見が主流ですね。まあウチの場合、私はさておいても、みんな強烈なパワーユーザーばかりなので、ページを作ること自体への興味はありますが、「面倒くさい」に結局は収斂されてしまって、HomePage作成の動きは今のところないですねー。 (^_^;

確かに現在、研究室によっては、WWWに興味を持つ大学院生が主体となって研究室紹介のHomePageを作っているところもあります。例えば東大駒場であれば、 駒場キャンパス内のHTTPサーバ一覧をご覧下さい。 東大本郷キャンパスの方は、研究室紹介のページはさらに多いです。例えば、 東京大学内のWWW Serversをいろいろ探ってみては如何でしょう。

しかしながら、それぞれの事情により、支障のない範囲での研究内容の広報の意義は認めますが、特にWWWの形態をとる必要は果たしてあるのでしょうか?世界中のあらゆるところから、いつでも好きなときにアクセスできて便利なのは確かですが・・・(「世界」と言い出したら、やはり日本語版だけのページでは、意味がないというか弱い気もしますね)。つまりWWWのメディアとしての特性を生かした形での情報発信が、みなさん、果たして出来ていますか?って言いたい訳です。

Q(Z氏):
でも、研究室のホームページの意義については、必ずしも否定的なものばかりでもないと思いますよ、沼田さん!(ドンッ!(机を叩く音))
研究者としての個人的な情報交換や、進学や院試を考える学生にとっての情報源としては、WWWは結構有用だと思いますが・・・。研究の分野・事情にもよるでしょうけれど。例えば私の専門である生物学なんかでは、文字で伝えづらい情報が多いんですね。その点、WWWを使うと画像情報を交えた他人に分かりやすい情報提供ができてかなり役に立ってもいますが、如何ですか?

Z氏の所属研究室ページを大慌てで拝見・・・「うーん、これは・・・!」)
註:Z氏の多大なる貢献があったであろう上述のページは、研究内容の写真入り解説、研究関連・学術雑誌等データベースへのリンク、関連分野研究施設等へのリンクなどが盛り込まれた、とてもアカデミックな秀作でした!

A(沼田):
いやいや、よくぞここまで・・・。確かにZ氏のおっしゃる通り、研究内容や成果を支障のない範囲で、このようにWWWを使って紹介することは、同業者のみならず、専門外の人にとっても意義深いことだと思います。同業者同士での情報交換の意義も、よく理解できますし、とても有用な利用法だと思います。また、「文字で伝えにくい情報の伝達手段として・・・」というのは、まさにこのWWWという媒体には打ってつけですね。全くだと思います。お見それしました! 

ただ、研究室によってはX氏のところのように、「対外性を考えるに、うちの場合、紹介することに意義が殆どない。」という意見が大勢を占めるところもあるんですよね。公開性より隠匿性を優先すべき事情も、それぞれの分野・環境によっては多かれ少なかれあるでしょうね、ってことです。

まあ、とりわけ、企業なんかの研究所の場合は、特許とかが大事だし、研究施設の紹介くらいならともかく、実際の研究内容の紹介については公開性に色々と制限があるでしょうね。でも、少なくとも 官公庁の研究所の場合、プライオリティを獲得した上で、研究成果を社会に向けて広報することは重要な義務でしょう。実際、 工技院電総研 CRL 郵政省通信総研のページは私もよく見てますよ。

Q(X氏):
じゃあ、今度は、キミのWWW自体に対する意見を聞かせてよ。

A(沼田):
では、まずは学生個人のHomePageについて、日頃苦々しく感じていることから述べてみましょうか・・・。

世間のはやりに無思慮にのっかって、遊び半分の個人HomePageを作ってみても、 東大駒場キャンパスの学生のリスト を手繰っていけば分かるように、他人が参照するに足る情報としての価値は殆どありませんね。学生達は「情報図学」講義の担当教官の嬉しがりな発想による環境整備にのっかってX-Window環境をホビーとして漂っているだけであり、実用的な道具として使ってはいないです。もちろんネットワークそのものの仕組みを体で理解すること自体も情報の講義の目的にあるのだから、まあ大目に見ましょうか。でもそんなことは本来、 大学で教えることじゃない。例えば、情報専門学校の講師をインストラクターとして招聘すれば、こと足りることです※。彼らはおふざけな自己紹介ネタが尽きれば、あとはサークル内外の連絡・友人同士のリンク・Xのソフトの連動などリンクを張ることにしか行き着くところがなく、他人にとって何の価値もないですね。

※ついでに「大学における情報教育」について脱線しましょう。

東大では上記の通り今年度(1995)から全学生にアカウントを与え、 教養課程においてX-Window環境を主体とした情報教育(参照:駒場ECC本郷ECC)を始めているわけですが、X-Window環境そのものが一般的には普及していないため、仕方なくかり出された専門外の理系教官も不慣れのため右往左往する場面が多いと聞いています。従来の情報教育講義で、よく分からないままにBASICやPascalを教えていたのと同じノリです。学生も災難ですねって感じがする。
 数年前から中学・高校の技術・家庭および数学でも「情報教育」という名目で目的の不明瞭なままBASICプログラミングなどをおっかなびっくりで教えているのですが、これでは、かの”CHIBA-REI”の「最初からMacを使ってコンピュータの楽しさを教えてくれたらよかったのに。」という素朴な指摘もあながち笑えません。教育機関における情報教育とはいったい何を目指しているモノなのか、もう少し概念の成熟が必要な気がしてなりません。

次に「WWWというメディア自体の今後」に対する、私自身の考えを述べたいと思います・・・。

私のWWWに対する期待としては、もっとup-to-dateで動的な新陳代謝のある「うごめく」媒体になって欲しいのです。

今の「一回、おもしろ半分に作ってそれで終わり」のようなHomePageなら、ネットワーク雑誌の付録CD-ROMのようにHTMLファイルをデータベース化してしまえばそれまでじゃないですか!!!

このままでは既存の(スピードと信頼性(責任性)を持った)媒体に、とって変わるものにはなり得ませんね。この意味では、今のWWWの使われ方には、限界があるでしょう。情報発信に対する社会的な概念が成熟するのを待ちますか?WWW自体は、テキスト・画像(動画を含む)・音声を参照・取り込み・発信できる、非常に有用な情報形態なのですが・・・。

毎日新聞社勤務の後輩とも話したように、
「個人がてんでばらばらに情報発信をやり始めたら、ただ無秩序・無責任な情報が洪水のように氾濫するのみ。結局は 今のマスコミのようなところが、自前の大衆向け情報をWWWなども活用して行えば、秩序がとれた情報媒体になれる。」
というのが、結構いい見方かも知れません。
件の後輩も
「何しろ、新聞社・TV局といったところは創業以来、写真・画像の情報に関しては、個人ベースではとてもかなわないような、すさまじい量のストックを所持していますから・・・。ウチの「戦後50年」の写真集を見れば分かるでしょう。ストック情報の有効な使い方を思いつかないだけなんですよ。」
と言ってましたし。
実際、朝日新聞などはこの夏辺りから、そのような見地で動き始めていますが・・・。

ネットサーファーS氏):
うーっ!、マスコミなら他にも作ってるところあるっすぅ。この夏あたりからいっぱい出来たんすよ。件の毎日新聞読売新聞も。TV局だって例えばTV朝日とかがあるっすぅ。ニュースステーションで結構宣伝やってますよ。沼田さん見てないんすか?

A(沼田):
えーっ、そうだったのお?!
すんません、TVはあまり日常的には見てないもんで・・・。(^_^;; 私の情報源はもっぱら学生寮でとってる日経新聞のみ。あとはTBSの「ブロード・キャスター」をたまに見るくらいでして。トホホ。 いやはや、これは勉強不足、遅れてましたねえ。お粗末さまでした・・・。(^_^;; Sくん、貴重な情報をありがとう。

では、話を続けましょう。まあ、そんな訳で、私の上記のような「WWWを利用した情報発信の現状」への不満については、世間での情報化社会に関するコンセプトの成熟を待てばいいってことなのかも知れませんね。

Q(U氏):
しかし、そもそもマスコミの一方通行的情報にいつまでも踊らされて情報操作されていては・・・。個人レベルで情報発信することこそ、WWWの画期的な特徴であって・・・。

A(沼田):
おっと、原則的な意見が出てきましたね。じゃあ襟を正してその辺からディスカッションし直しましょうか?U氏もこっちにおいで下さいよ。あっ、向こうに行ってしまった・・・。
では先ほどの話を続けましょう。ソフトウェア関係電機メーカー流通関係の企業では、WWWを利用した情報発信のあり方についてのディスカッションも盛んにやられており、それが反映されて積極的な活用法が生まれつつあります。例えば日経新聞を読んでみましょう。

ただ如何せん、官公庁はこのへんの動きについていけないし、頭もカタイ
(例えば、その最たる者は「電子仮想貨幣」に対する大蔵省)。
彼らが動けば、かなり違うのですが・・・。というより、彼ら(郵政省通産省NTT)が今後の情報社会のインフラ整備の鍵を握っているのですからね。

情報化社会というキーワードひとつとってみても、縦割り構造・利権争いの官僚支配による弊害をあまた抱えている日本は、今のままでは、もう限界かも知れませんね。


以下、ディスカッションは続くかも??
もし、このテーマについて、ご意見がありましたら、

沼田英俊: numata@sakuraia.c.u-tokyo.ac.jp

までmailをお願い頂ければ幸いです。 (^_^)

− Special Thanks to 山下氏、鈴木氏、箕浦氏、佐藤氏 !! −



numata@sakuraia.c.u-tokyo.ac.jp