林檎の歩み

10/21  ある日、歩き出した林檎がいた。
       皮をむかれる寸前だった。
       皮をむかれるのが嫌だったのではない。
       ちょっと、考えるところがあったのだ。

10/22  林檎が考えることが出来るのか?
       その疑問はもっともだ。
       誰も林檎がものを考えるなんて信じられないだろう。
       だが、その林檎は考えたのだ。
       考えることが出来るのだ。

10/23  では、いったい何を考えたのか?
       それは林檎本人に聞いてみよう。

10/24  え〜、もしもし、りんごさんりんごさん。
       いま、なにをかんがえていますか?
       ナイショ。
       そういわずに、おしえてくださいよ。
       ツイテクレバワカルカモネ。

10/25  そうだった、林檎は歩いているんだった。
       考えるのと歩くのと、林檎としてはどっちが変だろうか?
       とにかく林檎についていってみよう。

10/26  林檎はぽってんぽってんと歩いていく。
       歩くというよりは跳ねているという方が近い。
       歩道の真ん中を堂々と歩き、
       街中では人にぶつからないように上手によけている。

10/27  林檎はちいさなマンションに入っていく。
       真新しい、かわいい感じのワンルームマンションだ。
       林檎はジャンプすると、202号室の郵便受けにもぐりこんだ。

10/28  しばらくして帰ってきた202号室の住人は、
       このマンションにぴったりの、かわいらしい女の子だった。
       郵便受けの林檎を不思議そうに見ている。
       ちょっと彼女に話しかけてみよう。

10/29  あの〜、このりんご、どうおもいますか?
       「切手が貼ってないから、郵便ではないわよね」
       これ、あるくりんごなんですよ、しんじられますか?
       「動物が林檎をかぶってるの?」
       かんがえたり、しゃべったりもするんです。
       「実は人間が林檎のふりを?」

10/30  ためしに、はなしかけてみてください。
       「り、林檎さん、きょうは暖かいですね」
       ハイ! キモチイイヒデスネ。
       「本当にしゃべった〜」
       アノ、ワタシハ、アナタニ、オレイヲイイニキマシタ。
       「お礼って?」
       センジツ、アナタハ、ワタシヲ、ホメテクダサイマシタ。
       ソレガトテモ、ウレシクテ、ワスレラレマセン。
       ドウモアリガトウゴザイマシタ。

10/31  こころあたりはありますか?
       「果物屋さんで、林檎をおいしそうって言ったことはあるけど」
       ソウ! ソレデス。ソノリンゴガ、ワタシデス。
       もしもし、りんごさん、かんがえたことって、それだけ?
       ソウデスヨ。リッパナモノデショウ?
       いや、その、なんといったらいいか……。

11/1   デハ、コレニテ、シツレイシマス。
       そう言うと林檎は、女の子があっけにとられているうちに、
       ぽってんぽってんと、元来た道を戻りはじめた。
       その後ろ姿は、達成感にあふれていた。

おわり

 

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