第10話 その声はどこへ行く   


7/27 魂の声が聞こえると感じるときがある。
     耳から聞こえる声じゃなくて、心の表面の声でもなくて、
     もっと深いところの声。
     本当は魂の声なんかじゃなくて、幻聴の一種かもしれないけれど、
     その声が聞こえてくると楽しくなる。
     なぜって、それは人間の声じゃないから。
     子猫のにゃあにゃあいう声だから。

7/28 魂の声が猫の声ということは、私は猫の化身かな?
     それとも、生まれ変わり?
     体の中に猫を飼っている?

7/29 そんなことを考えている間にも、ほら、聞こえる。
     にゃあ、という声。
     いったい何を言っているのか、猫語がわかればいいんだけれど。
     魂の声の意味がわからないって、ちょっとおかしいかもしれない。
     謎めいた魂というのも、魅力的かな?
     にゃあ、にゃあ、にゃあ。

7/30 声は大きくなったり小さくなったり、甘えたり怒ったりする。
     まるで本物の猫みたい。

9/24 本物とちがうのは、ふわふわの毛に触れないところ。
     どんなに追いかけても、姿が見えないところ。

9/25 ある日、魂の猫はニャニャニャニャニャオ〜ンと叫んだ。
     金属的なせっぱ詰まったような声だった。
     半分眠りかけたときだったので、たいそう驚き飛び起きてしまった。
     声はそれきり聞こえない。
     どうしたのか気にはなったが、どうしようもないので寝なおした。

9/26 次の日もその次の日も声は聞こえない。
     聞こえないのが普通なんだから、これでいいんだと思っても、
     気になってしょうがない。

9/27 猫はときどき散歩して帰ってこない場合があるときく。
     魂の猫も、長い散歩中かしら?
     探しに行こうにも、体の中のこと。
     どうすればいいのかわからない。

9/28 とりあえず猫のまねしてないてみる。
     にゃおにゃおにゃお。
     猫の気分が高まったところで、心静かにじっとして。
     ・・・・眠ってしまった。

9/29 気を取り直して、にゃおにゃおにゃおにゃお、
     にゃあにゃあにゃあにゃあ、ニャーニャーニャーニャー。
     ずっとずっと、猫のまね。
     あっ、なんとなく心の中に入っていけそうな感じ。

9/30 にゃっ!
     久しぶりに魂の猫がないた。
     にゃっとないて、しばらく待って、にゃっとないて、しばらく待って。
     待ってる間についつい猫まね。
     にゃっ、にゃお、にゃっ、にゃお。
     心地よいリズム、いっしょにお散歩している気分。

10/1 にゃにゃあにゃーにゃっにゃいみゃーみゃおおん。
     この前いったいどうしたの?って、きいてるつもり。
     にゃおっにゃにゃにゃにゃみぃみぃみぃみぃーみみ。
     ちょっと旅に出ていたんだよ、とこたえているのかも。

10/2 魂の猫は、私の体の中のすてきな場所を教えてくれて、
     今度いっしょに旅することになった。
     もちろんこれは、自分勝手な猫語会話の結果なので、
     本当のところはわからない。

10/3 でも、いいじゃないの。
     体の中にすてきな場所があって、 自分でそれを見に行けるなんて。
     つもりだって、かもだって、魂にとっては全部本当。
     すてきなところに行こう行こう。
     魂の猫についていこう。
     にゃおっ!

おわり

 

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