『トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション』全ディスク試聴記


【Disc1】
・ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」(1949年11月28日&12月5日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:交響曲第1番(1951年12月21日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「英雄」は冒頭の強和音の表出力から凄みがみなぎる。全編を通してのアンサンブルの強靭な構成力といい、フォルテッシモの燃焼力といい、いずれも並々ならない水準であり、本ボックスに収録されているトスカニーニ/NBCの3種類の「英雄」の中では、この49年録音が最もアンサンブルの活力が目覚ましい印象を受ける。しかし、こと音質に関しては万全とは言い難く、かなり不満が残る。もう少しオンマイクで鮮明に、たとえば、本ボックスDisc2収録の交響曲第7番くらいの水準で録られていれば、また格段に印象が変わっていただろう。交響曲第1番も「英雄」と同じスタイルだが、残念ながら音質レベルがワンランク落ちており、演奏の精彩も「英雄」と比べると、かなり落ちている印象が否めない。

【Disc2】
・ベートーヴェン:交響曲第7番(1951年11月9&10日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:交響曲第2番(1949年11月7&9日&1951年10月5日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:エグモント序曲(1952年1月14日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

トスカニーニが晩年にカーネギー・ホールにおいて手兵NBC交響楽団を指揮して収録したベートーヴェンの交響曲全曲録音のなかでは、この交響曲第7番が間違いなくベスト演奏だろう。オンマイクの音質が実に良好であり、冒頭から弦のシビアな音響的表出力に凄味がみなぎる。これこそトスカニーニのベストクラスのベートーヴェンという感じがするし、以降も湧き立つようなアンサンブルの燃焼力に惚れぼれする。交響曲第2番とエグモント序曲は7番より少し音質が落ちる感じだが、ともにスタイル的にも内容的にも7番に準ずるレベルの演奏と感じる。

【Disc3】
・ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」(1952年1月14日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:交響曲第4番(1951年2月3日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「田園」、4番、ともにトスカニーニ晩年のベートーヴェン全集の中では、いまひとつ表出力が不足する。「田園」は第4楽章がさすがに凄いが、それ以外が振るわないのは、やはり音質がいまひとつのせいか。4番も全体的に音質がモヤッとしているのがマイナス。これがDisc2の交響曲第7番くらいに優れた音質で録られていたら、また一味も二味もちがっていたと思うのだが。

【Disc4】
・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」(1952年3月22日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:交響曲第8番(1952年11月10日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番(1939年11月4日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

交響曲第8番の演奏が出色。トスカニーニ最晩年の実に味の濃いベートーヴェンを、良好な音質で堪能できる。これに比べると5番はかなり聴き劣るのだが、おそらく音質的要因が大きいのだろう。8番の音質の方が明らかに音が立体的で実在感が強い。5番も同じ音質だったらさぞかし。レオノーレ3番は39年録音にしては音質が鮮明。演奏も秀逸。

【Disc5】
・ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」(1952年3月31日&4月1日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 アイリ-ン・ファーレル(Sp), ナン・メリマン(Ms), ジャン・ピアース(T), ノーマン・スコット(Bs), ロバート・ショウ合唱

残念ながら音質が万全でなく、ややオフ気味のマイクによるボヤッとした音質に終始し、音の鮮明度や実在感に乏しく、トスカニーニ/NBCのベートーヴェンの醍醐味が相当に損なわれていると感じざるを得ない。同じ時期に録音のベートーヴェンでは7番と8番が素晴らしく、3番と2番も秀逸だが、1番、4番、5番、6番と9番に関してはかなり不満の残る音質状態であり、この9番も7番か8番レベルの音質だったらさぞかしと思ってしまう。

【Disc6】
・ブラームス:交響曲第1番(1951年11月6日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:大学祝典序曲(1948年11月6日, Studio 8H)
・ブラームス:ハンガリー舞曲第1, 17, 20, 21番(1953年2月17日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

交響曲第1番は第1楽章の冒頭や終楽章のコーダなどは卓抜した演奏水準だが、全体的にはトスカニーニにしては穏健な印象を受けてしまう。やはり音質が万全でないせいか。大学祝典序曲は潤いに欠けるデッドな音質が良くも悪くも。ハンガリー舞曲は圧巻の演奏というべきで、音質がひとまわり良いのがダイレクトに表出力に反映されている。

【Disc7】
・ブラームス:交響曲第2番(1952年2月11日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲(1952年2月4日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:悲劇的序曲(1953年11月22日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

これは3曲とも素晴らしい。交響曲第2番は同コンビが同時期に収録したブラームスの4曲のなかでは、おそらくベストではないか。音質が比較的よいので、NBC響の屈強なアンサンブルの迫力が良く伝わってくるし、イタリア趣味な曲想的にもトスカニーニの指揮に合っている感じがする。ハイドン主題と悲劇的序曲はさらに音質が良く、悲劇的序曲の迫力には圧倒させられる。

【Disc8】
・ブラームス:交響曲第3番(1952年11月4日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲(1948年11月13日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ミッシャ・ミシャコフ(Vn),フランク・ミラー(Vc)

交響曲第3番は録音がかなりオン気味に取られていて、クッキリしてはいるのだが、全体的に響きの線が細く、迫力がいまいち伸びない。やはり音質が古いせいか。トスカニーニの剛毅な解釈には惹かれるのだが、、、。ダブルコンチェルトは名演。これは音質が格段に良く、二人のソロとオケの織り成す響きのリアルな訴求力に引き込まれる。

【Disc9】
・ブラームス:交響曲第4番(1951年12月3日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:ワルツ集「愛の歌」(1948年11月13日, Studio 8H)
・ブラームス:運命の女神たちの歌(1948年11月27日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

交響曲第4番は演奏自体は立派だが、ここぞという時に音質の古さを意識させられてしまうのがマイナス。「愛の歌」はピアノ伴奏による録音。音質はまあまあだが、やはり部分的には聞き苦しいか。運命の女神たちの歌は、録音がオン気味の鮮明感抜群の音質なのが奏功し、作品の凄味をあぶり出すような演奏となっている。これはトスカニーニの隠れた名演というべきだろう。

【Disc10】
・モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲(1947年11月8日, Studio 8H)
・モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」(1946年11月4日, Studio 3A)
・モーツァルト:ファゴット協奏曲変ロ長調K.191(1947年11月18日, Studio 8H)
・モーツァルト:ディヴェルティメント第15番(1947年11月18日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 レオナード・シャロウ(Fg)

最初のフィガロは、音質はオン気味で鮮明なのだが、音の厚みに欠け、響きの彫りが浅い。次のハフナーは、逆にボリューム感こそ出ているものの、ややオフ気味の録音で、鮮明感に不足する。続くファゴット協奏曲&ディヴェルティメント第15番では、音質のバランスがちょうど良い感じで、ボリューム感と鮮明度とが適度に備わっている。演奏自体は、トスカニーニの芸風からすると、少し作品のスペックが弱い。フィガロやハフナーがこれくらいの音質だったら良かったが、、。

【Disc11】
・モーツァルト:交響曲第39番(1948年3月6日, Studio 8H)
・モーツァルト:交響曲第40番(1938年3月7日&1939年2月27日, Studio 8H)
・モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」(1945年6月22日&1946年3月11日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

音質にややばらつきあり。最初の39番は音質的に最も良い。オン気味のくっきりとした音だが、それでも少し彫りが浅く、万全とは言い難い。40番は30年代の録音にしては上等ではあるが、やはり鮮明感や臨場感が弱い。ジュピターは前2録音の中間的音質で、悪くもないが、良くもない。トスカニーニのモーツァルトは3曲とも直線進行。反ロマン型の解釈が独特。

【Disc12】
・ハイドン:交響曲第88番ト長調「V字」(1938年3月8日, Studio 8H)
・ハイドン:交響曲第94番ト長調「驚愕」(1953年1月26日, カーネギー・ホール)
・ハイドン:交響曲第98番変ロ長調Hob.I-98(1945年5月25日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「驚愕」が素晴らしい。これは音質の冴えが尋常でなく、演奏の臨場感が生々しい。これを追い風に、トスカニーニのメリハリの利いたダイナミクスの愉悦が、実に見事に捉えられている。トスカニーニ/NBCの隠れた名盤といわねばなるまい。V字は30年代の録音だけに音質が抜け切らない。98番はV字よりは音質がいいが、やはり「驚愕」の後で聴くと大きく聴き劣る。

【Disc13】
・ハイドン:交響曲第101番「時計」(1946年10月9日&11月6日, 1947年6月12日, Studio 3A)
・ハイドン:交響曲第99番(1949年3月12日, Studio 8H)
・ハイドン:協奏交響曲変ロ長調Hob.I-105(1948年3月6日, Studio 8H )
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ミッシャ・ミシャコフ(Vn), フランク・ミラー(Vc), パオロ・レンツィ(Ob), レナード・シャロウ(Fg)

音質的には、3曲とも年代相応というべきか。Disc12の「驚愕」のような突き抜けた音質のものはないが、特に聞き苦しい点もなく、可もなく不可もなく。「時計」は解釈としては「驚愕」と同じく、アンサンブルの強弱のメリハリが明確に刻まれているが、やはりもっとよい音質ならとも思ってしまう。99番も同様。協奏交響曲は音質がひとまわりモヤッとしている。

【Disc14】
・シューベルト:交響曲第8番「未完成」(1950年3月12日&6月2日, Studio 8H )
・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレイト」(1953年2月9日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「グレイト」が名演。トスカニーニ最晩年の練達の指揮にNBC響のハイポテンシャルなアンサンブルが実力を出し切った珠玉のシューベルトというべきか。コクのある弦の音層に金管パートの味の濃い強奏が華を添える。音質も極上。モノラル末期のコンディションの良い録音のようで、下手なステレオ録音よりずっと臨場感にあふれている。「未完成」は少し音質が粗い。

【Disc15】
・シューベルト:交響曲第5番(1953年3月17日, カーネギー・ホール)
・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレイト」(1947年2月25日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

交響曲第5番が素晴らしい。Disc14のグレイトと同時期の録音で、音質が非常に良い。こちらは曲の関係からグレイトと違って金管が大人しいが、代わりに弦楽器のヴァイタリティが目覚ましい。続くグレイトは、Disc14の53年録音の演奏と比べると、大きく聴き劣る。音質がふたまわりほど悪いからで、演奏自体の解釈は変わらない。

【Disc16】
・シューマン:交響曲第3番「ライン」(1949年11月12日, Studio 8H )
・シューマン:劇音楽「マンフレッド」(1946年11月11日, カーネギー・ホール)
・ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲(1951年10月29日, カーネギー・ホール)
・ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲(1952年1月3日, カーネギー・ホール)
・ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

シューマンの「ライン」は音質がに少しクセがある。オン気味のマイクだが、不自然に残響感が高く、鮮明感に欠ける。しかしボリューム感が出ているし、オン型録音のパンチ力も備わっており、なかなか。トスカニーニ/NBC自体も好調。トランペットの胸のすくような響き。ウェーバーの3曲は標準的な音質。最後のオベロンが最も音質が良いが、いずれも燃焼力のあるアンサンブルのホットな温度が良く捉えられている。

【Disc17】
・メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(1954年2月26~28日, カーネギー・ホール)
・メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」(1953年12月13日, カーネギー・ホール)
・メンデルスゾーン:劇音楽「夏の夜の夢」よりスケルツォ(1946年11月6日, Studio 3A)
・メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲Op.20よりスケルツォ(1945年6月1日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「イタリア」はトスカニーニ/NBC響の代表的名盤として評価の高い録音。音質自体はオン気味の残響を抑えた、くっきりとした録られ方で、このコンビのホットなアンサンブルの表出力が良く伝わってくる。「宗教改革」も名演で、ことによると前記「イタリア」よりも上かもしれない。音質もパリッとしていて聞き惚れる。他の2曲は年代の割には音質が冴えている。

【Disc18】
・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(1947年11月24日, カーネギー・ホール)
・チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」組曲(1951年11月19日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「くるみ割り人形」が素晴らしい。音質に恵まれているのが大きく、このコンビの熱い音楽の息吹きが高感度にマイクに収められている。しかし「悲愴」はいまいち。厚みに欠ける、ざらついた音質が足を引っ張っている感があり、このコンビの本領からは離れた演奏という気がしてしまう。ティンパニや金管が肝心な時にものを言わないのも不満のタネ。

【Disc19】
・チャイコフスキー:マンフレッド交響曲(1949年12月5日, カーネギー・ホール)
・チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」(1946年4月8日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「マンフレッド」が名演。Disc18の「悲愴」よりもひとまわり音質が良好ゆえ、トスカニーニ/NBC響のホットな響きの表出力が聴いていてじりじりと伝わってくる。「悲愴」もこれぐらいの音質だったら、また印象がガラッと変わったかもしれない。ロメジュリは音質が残念ながら振るわず、少々くぐもった音が演奏の迫力を減少させてしまっている感がある。

【Disc20】
・フランク:交響曲ニ短調(1940年12月14日&1946年3月24日, Studio 8H)
・サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」(1952年11月15日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

フランクの方は音質にかなり足を引っ張られている感あり。サン=サーンスの方はひとまわり音質が良好。いずれの演奏もトスカニーニ流の均整の取れたアンサンブル展開。オーケストラの内燃力もたくましいが、それが端的に伝わってくるのは音質の関係からサン=サーンスのみで、フランクは厳しい。

【Disc21】
・シベリウス:交響曲第2番(1940年12月7日, Studio 8H)
・シベリウス:交響詩「ポヒョラの娘」(1940年12月7日, Studio 8H)
・シベリウス:トゥオネラの白鳥(1944年8月27日, Studio 8H)
・シベリウス:交響詩「フィンランディア」(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

シベリウス作品が4曲収録されているが、後の録音ほど音質が良くなっている。最初の交響曲第2番は全体に音が冴えない。40年の録音にしては健闘しているし、終楽章の高揚力もさすがなのだが、、、。「ポヒョラの娘」は若干オン気味で音の臨場感が向上している。「トゥオネラ」はクッキリした音だが、ざらついた感じも強い。最後の「フィンランディア」は音の良さに驚かされる。冒頭の野太い金管のファンファーレなど、惚れぼれする響きだ。

【Disc22】
・ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」(1942年7月19日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

歴史的価値の高い録音ではあることは疑いないが、いかんせん音質が万全といいがたい。オフ気味のモヤッとした音ゆえ、ここぞという時の迫力が振り切らない。トスカニーニ/NBCの演奏も、どこか他人行儀というのか、第1楽章中盤あたりでの噛んで含めるようなスローテンポなど、どうも表面的な演奏という印象をぬぐえない。

【Disc23】
・ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」(1939年10月28日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:交響曲第8番(1939年4月17日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

30年代の録音としては健闘している音質なのだが、やはり限界がある。「英雄」だが、同じコンビの後年のカーネギーでの録音(Disc1)と比べるとトランペットやティンパニがか細く、迫力不足と感じる。8番も同様で、後年のカーネギーでの8番(Disc4) が圧巻だっただけに、どうしても聴き劣りがしてしまう。

【Disc24】
・ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」(1953年2月2日, カーネギー・ホール)
・コダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」(1947年11月29日, Studio 8H)
・スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より「モルダウ」(1950年3月19日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

最初の「新世界」が圧巻! 音質が抜群に良く、トスカニーニのダイナミックな指揮に呼応する絶好調のNBC響のアンサンブルのヴァイタリティが目覚ましく、それをオン気味の鮮明な音質が感度良く伝えている。次のコダーイはドヴォルザークに比べると音質が大きく落ちるが、演奏自体はまずまずか。スメタナは「新世界」と同等の高音質。

【Disc25】
・ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」(1939年2月27日,3月 1日&29日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:七重奏曲(1951年11月26日, カーネギー・ホール)
・ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲(1953年1月19日, カーネギー・ホール)

トスカニーニの運命の中で最も充実していると言われる39年のスタジオ録音だけに、アンサンブルの充実感には目覚ましいものがあるし、最晩年録音の「運命」(Disc4)よりもひとまわり精彩を感じる。ただ、それでも音質的な物足りなさはつきまとう。逆に七重奏曲の方は音質はずっと良いが、曲想の関係もあるが、いまひとつ音に精彩がない。エグモントは音質、演奏いずれも素晴らしい。

【Disc26】
・ブラームス:交響曲第1番(1941年3月10日&4月14日,12月11日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:セレナード第2番(1942年12月27日, Studio 8H) (1952年11月15日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

トスカニーニ/NBCのブラームス交響曲第1番には10年後の51年録音もあるが、それと比べると音質がふたまわりくらい悪い。全体的に音の厚みが平板で、潤いに乏しく、迫力的にも弱い。演奏アプローチはトスカニーニらしいインテンポ主体の格調高い行き方だが、音質のせいか淡泊に聞こえてしまう。セレナード第2番は少し音の膨らみが増しているが、ノイズ感が悪化しており、やはり音質的にパッとしない。

【Disc27】
・ケルビーニ:交響曲ニ長調(1952年3月10日, カーネギー・ホール)
・ケルビーニ:歌劇「アリ・ババ」序曲(1949年12月3日, Studio 8H)
・ケルビーニ:歌劇「アナクレオン」序曲(1953年3月21日, カーネギー・ホール)
・ケルビーニ:歌劇「メデア」序曲(1950年2月18日, Studio 8H)
・チマローザ:歌劇「秘密の結婚」序曲(1943年11月14日, Studio 8H)
・チマローザ:歌劇「計略結婚」序曲(1949年11月12日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

トスカニーニの得意とするイタリアの作曲家の作品集だが、全体的に音質が冴えないせいか、いまひとつ精彩に欠ける。ケルビーニの交響曲とアナクレオン序曲はモヤッとした音質ゆえかパンチ力不足に聴こえるし、「アリ・ババ」「計略結婚」は音の彫りが浅く、「秘密の結婚」は鮮明度不足。この中でのベストは「メデア」。オンマイクの迫力ある響きが素晴らしい。

【Disc28】
・プロコフィエフ:交響曲第1番「古典交響曲」(1951年10月15日, カーネギー・ホール)
・ショスタコーヴィチ:交響曲第1番(1944年3月12日, Studio 8H)
・グリンカ:幻想曲「カマリンスカヤ」(1940年12月21日, Studio 8H)
・リャードフ:キキモラ(1952年7月29日, カーネギー・ホール)
・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」より第1場「謝肉祭の市場」&第4場「謝肉祭の市場」夕方(1940年12月21日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

最初のプロコフィエフは最も音質が良好。やや残響が多めだが、ぼやっとした感じよりも音のふくよかさを感じさせる。演奏の表出力としてもまずまずだが、やや穏健というか、この音質でトスカニーニ/NBCならば、もっと凄くてもいいような気も。次のショスタコーヴィチは音質は落ちるが、音の張り、強度感が目覚ましく、シビアな曲想にフィットしている。リャードフはプロコフィエフよりは音質が落ちるが、演奏はまずまずか。グリンカとストラヴィンスキーは40年の録音にしては随分と音がいい。いずれも好演。

【Disc29】
・ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」(1953年12月6日, カーネギー・ホール)
・モーツァルト:交響曲第40番(1950年3月12日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「英雄」はトスカニーニ/NBCがRCAに録音した3種類のひとつだが、39年録音(Disc23)は音質的に難が目立ち、49年録音(Disc1)は音質が少し粗いがアンサンブルの活力が目覚ましい。このCDの53年録音は、音質的には3種類の中のベストだが、オケの活力が49年録音のものと比べて大人しい印象を受ける。個人的には49年録音を3種類の中のベストとしたい。モーツァルトは39年の録音(Disc11)と比べると音質が大幅に良いが、トスカニーニらしいアンチ・ロマンな演奏なので評価も分かれるだろう。

【Disc30】
・R・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」(1953年11月22日, カーネギー・ホール)
・R・シュトラウス:交響詩「死と変容」(1952年3月10日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 フランク・ミラー(Vc)

死と変容が超名演! とにかくアンサンブルの迫力、表出力がハンパじゃない。オン型の鮮明な音質を追い風にベストフォームのトスカニーニ/NBCの凄味が炸裂する。これは同曲のベストワンを狙える録音と言っても過言でないだろう。これに比べてドン・キホーテは演奏・音質ともにひとまわり落ちる。オフ気味の音質のせいもあるのか、トスカニーニにしては淡々とした素気ない演奏に聴こえる。

【Disc31】
・R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」(1951年1月10日, カーネギー・ホール)
・R・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(1952年11月4日, カーネギー・ホール)
・R・シュトラウス:楽劇「サロメ」より7枚のヴェールの踊り (1939年1月14日, Studio 8H)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」より「夜明けとジークフリートのラインへの旅」(1941年3月17日&5月14日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌(1946年3月11日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

ティル・オイレンシュピーゲルが圧巻。音質が抜群に良く、前巻収録の「死と変容」をも上回るほど。演奏も素晴らしく、トスカニーニ/NBC絶好調の痛快なアンサンブル展開に引き込まれてしまう。「ドン・ファン」も悪くないが、「死と変容」や「ティル」と比べると聴き劣りがする。「サロメ」は音質面が弱い。ワーグナーの2曲はそれぞれ年代相応の音質だが、アンサンブルの精彩は前記リヒャルトほどは振るっていない。

【Disc32】
・レスピーギ:交響詩「ローマの松」(1953年3月17日, カーネギー・ホール)
・レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」(1951年12月17日, カーネギー・ホール)
・レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」(1949年12月12日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

トスカニーニ/NBCの代表的録音として知られるレスピーギのローマ三部作だが、音質的に3曲でムラがある。最初の「ローマの松」はボリュームレベルが高めで、迫力は十分なのだが、マイクが近接すぎるのか冒頭のあたりなど音がきつ過ぎてキンキンしているし、響きに潤いが足りず、そのあたり万全の録音状態では必ずしもないと感じる。「ローマの噴水」は3曲の中で最も音に潤いのある音質だが、この曲は印象主義的作風を織り交ぜているだけに、やはり録音年の古さはマイナス要因か。しかし、第3楽章の迫力は目覚ましい。そういう意味で、「ローマの祭り」が最も安心して聴ける。トスカニーニ/NBCの持ち味がストレートに発揮された名演。

【Disc33】
・ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」(1953年11月28&29日, カーネギー・ホール)
・ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」第2部(1947年2月17日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 カールトン・クーリー(Va)

「ハロルド」だが、53年の録音にしては音質がパッとしない。音がモコモコして抜け切らない感じで、オフ気味のマイクゆえ迫力も伸び切らない。演奏自体は味の濃い好演なのだが、あるいは音質のせいかもしれないが、トスカニーニ/NBCの絶好調のレベルとはちょっと感じない。ロメジュリはノイズレベルが高めだが音自体の精彩はハロルドよりも上か。トスカニーニ流の格調高いカンタービレが味わえる。

【Disc34】&【Disc35】
・ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」全曲(1947年2月9&16日, Studio 8H)
・ビゼー:「アルルの女」組曲より(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
・ビゼー(トスカニーニ編):「カルメン」組曲より(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 グラディス・スウォザート(Ms), ジョン・ガリス(T), ニコラ・モスコーナ(Bs), ピーター・ウィロウスキー合唱団

ロメジュリはDisc33収録のものと同じ時期の録音だが、あちらがカーネギー・ホールでのライヴなのに対し、こちらは8Hスタジオでのセッション。こちらの方がマイクが近接的でクリア感が高いが、そのぶん音色の潤いに欠け、幻想味が弱い。まあ一長一短というところか。ビゼーの2曲は同日録音のようだが「カルメン」の方がひとまわり音質がいい。このあたりはオペラ指揮者トスカニーニの面目躍如たる溌剌たる演奏が聴ける。

【Disc36】
・ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」(1953年1月26日, カーネギー・ホール)
・エルガー:エニグマ変奏曲(1951年12月10日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

両演奏ともに秀逸。「展覧会の絵」はトスカニーニ/NBCの押し出しの強い色彩感が作品のカラーに良くマッチしているし、音質が優秀な点も追い風。オンマイクの鮮明な録られ方で、多少耳にきつい部分もあるが、なんともド迫力。エニグマ変奏曲の方は「展覧会の絵」と比べると少し音質が落ちるが演奏自体は名演。トスカニーニ流の味の濃いメロディラインが何とも言えない。

【Disc37】
・メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」序曲/間奏曲/夜想曲/スケルツォ/結婚行進曲/終曲(1947年11月4日, カーネギー・ホール)
・メンデルスゾーン:八重奏曲変ホ長調op.20(1947年3月30日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「真夏の夜の夢」は音質面では年代相応の可もなく不可もない音質。トスカニーニ/NBCの行き方は序曲の冒頭あたりからエネルギッシュにオケを走らせる小気味よいものだが、音質も含めて幻想味に乏しい点は好悪を分けるか。八重奏曲の方は「真夏の夜の夢」よりひとまわり音質が鮮明。ハードタッチな弦の流れが何ともトスカニーニらしく、聴きごたえ十分。

【Disc38】
・ドビュッシー:交響詩「海」(1950年6月1日, Studio 8H)
・ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲(1953年2月13&14日, カーネギー・ホール)
・ドビュッシー:管弦楽のための「映像」より「イベリア」(1950年6月2日, Studio 8H)
・ドビュッシー:夜想曲より「雲」「祭り」(1948年3月27日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

ドビュッシーの管弦楽作品ともなれば古い録音だと音質的不利が否めないところだが、なかなか健闘しているというべきか。この中では牧神とイベリアの音質が相対的に良く、ドビュッシー的な陰影ということでなく、純粋なオーケストラ作品としての味の濃いアンサンブル展開に引き込まれる。「海」と「夜想曲」も悪くないが、やはり音質的に厳しい局面もそれなりに。

【Disc39】
・ガーシュイン:パリのアメリカ人(1945年5月18日, Studio 8H)
・スーザ:カピタン行進曲(1945年5月18日, Studio 8H)
・グローフェ:組曲「大峡谷」(1945年9月10日, カーネギー・ホール)
・バーバー:弦楽のためのアダージョ(1942年3月19日, カーネギー・ホール)
・スーザ:星条旗よ永遠なれ(1945年5月18日, Studio 8H)
・スミス(トスカニーニ編):星条旗(1942年3月19日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

アメリカの作曲家による管弦楽アルバムだが、音質にやや開きあり。ガーシュインとスーザの2曲は音質がかなり良く、45年の録音としては上々。この音質もあり「パリのアメリカ人」の演奏が素晴らしい。トランペットの鳴りの良さ、オケの切れのいいアンサンブル、いずれもNBC響がアメリカのオケであるという事実を認識させてくれる。グローフェもオケの迫力はなかなかだが、音質が少し落ちるのが残念。バーバーはノイズ感が高めで少し聴きづらい。

【Disc40】
・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲(1949年11月21日, カーネギー・ホール)
・デュカス:「魔法使いの弟子」(1950年3月19日, Studio 8H)
・サン=サーンス:「死の舞踏」(1950年6月1日, Studio 8H)
・ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」(1953年1月19日, カーネギー・ホール)
・フランク:交響詩「プシュケ」第4曲「プシュケとエロス」 (1952年1月7日, カーネギー・ホール)
・ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」より「マブ女王のスケルツォ」(1951年11月10日, カーネギー・ホール)
・ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」よりラコッツィ行進曲」(1945年9月2日, Studio 8H)
・トマ:歌劇「ミニョン」序曲(1952年7月29日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

最初のラヴェル「ダフニスとクロエ」が圧巻。演奏も音質も抜群で、これはトスカニーニ/NBCの40年代の録音の中ではおそらくベスト音質ではないか。オンマイクの音質が冒頭から管楽器の幻想的な音色を鮮明に描き出し、引きこまれるし、トッティでのホットな響きの奔流もトスカニーニならでは。他の曲も水準は高いが、このラヴェルの後に聴くと多少聴き劣りがする。

【Disc41】
・ワルトトイフェル:スケーターズ・ワルツ(1945年6月28日, カーネギー・ホール)
・L.モーツァルト:おもちゃの交響曲(1941年2月15日, Studio 8H)
・J.シュトラウスII世:トリッチ・トラッチ・ポルカ(1941年5月6日, カーネギー・ホール)
・J.シュトラウスII世:美しく青きドナウ(1941年12月11日&1942年3月19日, カーネギー・ホール)
・スッペ:「詩人と農夫」序曲(1943年7月18日, Studio 8H)
・ポンキエルリ:歌劇「ジョコンダ」より時の踊り(1952年7月29日, カーネギー・ホール)
・パガニーニ:常動曲Op.11(1939年4月17日, Studio 8H)
・J.S.バッハ:G線上のアリア(1946年4月8日, カーネギー・ホール)
・ウェーバー:舞踏への招待(1951年9月28日, カーネギー・ホール)
・グリンカ:スペイン序曲第1番「ホタ・アラゴネーサ」(1950年3月4日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

ムード曲的なオーケストラ作品を集めたアルバムという趣だが、全体的に音質がいまいち振るわない。だが、オンマイクの厚ぼったい音質傾向ゆえの濃厚な響きに引き込まれる。おもちゃの交響曲みたいなバカバカしいような曲までも大真面目にバンバン響かせているし、これはこれで十分に面白い。スッペ「詩人と農夫」序曲は音質がまずまずだしオケの表出力が高く、この中では最も聴きごたえを感じる。音質的なベストは最後のグリンカ。逆に「ドナウ」と「G線上のアリア」は冴えない。

【Disc42】
・ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲(1940年3月11日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番(1944年10月29日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn), アルトゥール・ルービンシュタイン(P)

ヴァイオリン協奏曲はナクソス・ヒストリカルからも同じ録音が出ているので聴き比べてみたが、音質的には一長一短か。こちらのトスカニーニ・コレクションと比べるとナクソス盤はノイズ感が低くて聴き易いし、残響成分が多めで音に膨らみが出ている。逆にコレクション盤はナクソス盤より音が鮮明であり、モヤッとした印象が抑えられている。しかし、ちょっとノイズ感が高くて聞き苦しいのも確か。年代を考えると仕方がないのだが、、。いずれにしても、ハイフェッツだけに、音質がもう少し冴えていればと思ってしまう。ピアノ協奏曲は音質がヴァイオリン協奏曲よりひとまわり良い。ルービンシュタインの美しいピアニズムがオンマイクで鮮明に捉えられている。

【Disc43】
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 (1944年11月26日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 (1945年8月9日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ルドルフ・ゼルキン(P:4番), アニア・ドーフマン(P:1番)

ピアノ協奏曲第4番は前巻収録のルービンシュタインとのピアノ協奏曲第3番と同年録音で、音質的にも五分五分だが、演奏としてはルービンシュタインほどには音が冴えていない感じがする。格調の高い演奏ではあるが。ドーフマンとの1番は音質が良好で、ノイズが少し多いが、ピアノの音がかなりリアルに捉えられていて好感的。ドーフマンのピアニズムも全体に秀逸。第1楽章終盤のカデンツァでの痛快な指さばきが印象的。

【Disc44】
・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(1940年5月9日, カーネギー・ホール)
・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(1941年5月6&14日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヴラディーミル・ホロヴィッツ(P)

双方ともにノイズ感が高めで聞き苦しい音質だが、ピアノ・オケともに音自体の実在感はしっかりしており、天才ピアニスト・ホロヴィッツ往年のピアニズムの凄味の片鱗を堪能するには十分だが、やはり音質が万全ならと思わずにはおれない。チャイコの方がブラームスよりノイズ感が若干高いが、演奏自体の表出力はチャイコの方が上か。まさに鬼気迫るピアニズム。

【Disc45】
・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番(1943年4月25日, カーネギー・ホール)
・ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ピアノ版)(1951年4月23日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヴラディーミル・ホロヴィッツ(P)

ホロヴィッツ&トスカニーニ/NBCのチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番はRCAから2種類リリースされており、本演は43年のライヴ。Disc44の41年セッション録音と比べると、全体にオケが後方に引っ込んでおり、そのぶんピアノの音がクローズアップされる形になっている。演奏自体の表出力は41年録音と甲乙付け難いがピアノを中心に聴くならこちらを取るべきか。ムソルグスキー「展覧会の絵」は51年のライヴ録音で、原曲に手を加えた「ホロヴィッツ版」での演奏。「バーバヤガ」など異様なまでのド迫力に息を呑むが、51年録音にしては音がいまひとつ冴えない感じなのが残念。

【Disc46】
・ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番(1945年6月1日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:序曲「献堂式」(1947年12月16日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:序曲「コリオラン」(1945年6月1日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲(1939年11月18日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲(1944年12月18日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第2番(1939年11月25日, Studio 8H)
・ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番より第3楽章&第2楽章(1938年3月8&18日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「レオノーレ」第3、「献堂式」、「コリオラン」は年代からすると音質が良好。とくに「献堂式」は秀逸で、オン気味の鮮明な音質がトスカニーニ/NBCのベートーヴェンの醍醐味を伝えている。「エグモント」「プロメテウス」は年代相応の音質。「レオノーレ」第2は39年にしては随分と音質がいい。演奏自体も素晴らしいので、表出力は45年の「レオノーレ」第3を凌いでいる。最後のカルテット編曲は年代相応の音質で、静かな曲想ゆえノイズの多さが煩わしい。

【Disc47】
・グルック:歌劇「アウリスのイフィゲニア」序曲(1952年11月21&22日, カーネギー・ホール)
・グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」第2幕(1952年11月20-22日, カーネギー・ホール)
・グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」第2幕より精霊の踊り(1946年11月4日, Studio 3A)
・ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」第1幕より「悪者よ、どこへ急ぐのだ」(1945年6月14日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 バーバラ・ギブソン(Sp), ナン・メリマン(Ms), ローズ・バンプトン(Sp), ロバート・ショウ合唱団

グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」第2幕が中心のCDだが、音質は年代相応。52年録音としては突き抜けた音質ではないが、トスカニーニ/NBCのオペラ録音の中では良好な部類に入るだろう。演奏自体も秀逸で、「ダンス・オブ・フューリーズ」など、オケの表出力が素晴らしい。歌手はいずれも重厚型なのでバロックオペラの様式云々の問題はあるが、その味の濃い訴えかけは一聴の価値あり。

【Disc48】
・ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲(1950年4月14日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「ブルスキーノ氏」序曲(1945年6月8日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「セビリャの理髪師」序曲(1945年6月28日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「チェネレントラ」序曲(1945年6月8日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「どろぼうかささぎ」序曲(1945年6月28日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「コリントの包囲」序曲(1945年6月14日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」序曲(1951年9月28日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲(1953年1月19日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

ロッシーニの序曲8曲が収録されているが、最後の「ウィリアム・テル」が素晴らしい。この中では音質がずば抜けて良い点が大きく、トスカニーニのロッシーニの凄さを高感度に伝えている。他の7曲では「セミラーミデ」が比較的音質が良く、あとの6曲はいまいち音がパッとしない。年代相応の音質ではあるのだが「ウィリアム・テル」が抜きんでているだけに、どうしても物足りなさを覚えてしまう。

【Disc49】
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲(1951年2月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲(1951年10月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲(1946年3月11日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕への前奏曲(1951年11月26日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」第1幕への前奏曲(1949年12月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」聖金曜日の音楽(1949年12月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:序曲「ファウスト」(1946年11月11日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「ローエングリン」は51年録音だけに音質が素晴らしく、第3幕への前奏曲はトスカニーニ/NBCのワーグナーの真価ともいうべき、実にブリリアントなアンサンブル展開。マイスタージンガー、パルジファルも悪くないが、ローエングリンの後だとどうしても音質的に聴き劣る。最後の「ファウスト」は音質は一番振るわないのだが、オン気味のマイクが奏功しオーケストラの怒涛の表現力に圧倒させられる。

【Disc50】
・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」(パリ版)序曲とヴェヌスベルクの音楽(1952年11月8日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲(1941年3月17日&5月6日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」愛の死(1942年3月19日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」ワルキューレの騎行(1946年3月11日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」夜明けとジークフリートのラインへの旅(1949年12月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの死と葬送行進曲(1952年1月3日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

最初の「タンホイザー」は52年録音だけに音質が良好だが、やや引き気味のマイクゆえ、前巻「ローエングリン」ほどの水準には到らず。「ローエングリン」は41年録音にしては随分と音が良い。ノイズは多いがオケの響きがリアルで引きこまれる。トリスタンとイゾルデは残念ながら音質が振るわない。ワルキューレは年代相応か。「神々の黄昏」は2曲とも音質が抜群!とくに「ジークフリートのラインへの旅」はオン気味のマイクによる壮麗な音幕が素晴らしい。

【Disc51】
・モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲(1941年2月15日, Studio 8H)
・ドニゼッティ:歌劇「ドン・パスクァーレ」序曲(1951年10月5日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」6人の踊り(1945年6月8日, カーネギー・ホール)
・カタラーニ:歌劇「ワリー」より第4幕への前奏曲(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
・カタラーニ:歌劇「ローレライ」より水の精の踊り(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
・プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲(1949年12月10日, Studio 8H)
・ヴェルディ:歌劇「ルイザ・ミラー」序曲(1943年7月25日, Studio 8H)
・ヴェルディ:歌劇「椿姫」第1幕への前奏曲(1941年3月10日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「椿姫」第3幕への前奏曲(1941年3月10日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲(1942年1月24日, Studio 8H)
・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲(1952年11月10日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「オテロ」よりバレエ音楽(1948年3月13日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

オペラ関連のオケ曲が12曲収録されているが、収録時期がまちまちなので音質に当然ムラがある。ベスト音質は間違いなく「運命の力」序曲。はちきれんばかりの音の奔流に圧倒させられる。次点は「マノン・レスコー」間奏曲。49年だが、オンマイクの実在感豊かな音が素晴らしい。次いではカタラーニの2曲、ドン・ジョヴァンニ、オテロ。最も音質が冴えないのはウィリアム・テルだが、イタリア・オペラを知悉したトスカニーニだけに演奏自体は悪くなく、どの演奏も高水準にまとめられている。

【Disc52】
・エロール:歌劇「ザンパ」序曲(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
・フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲(1952年8月5日, カーネギー・ホール)
・カバレフスキー歌劇「コラ・ブルニョン」序曲(1946年4月8日, カーネギー・ホール)
・モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲(1949年11月26日, Studio 8H)
・ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲(1939年4月1&29日, Studio 8H)
・スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲(1946年11月17日, Studio 8H)
・トマ:歌劇「ミニョン」序曲(1942年3月19日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲(1945年6月28日, カーネギー・ホール)
・ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲(1945年5月25日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

Disc51同様オペラ小品集となっているが、こちらは抜きんでた高音質録音がなく、印象がいまひとつ弱い。最初のエロールとフンパーディンクは52年録音にしては音質がざらついているのが気になる。他の曲は年代相応の音質で可もなく不可もなく。ヴェルディ「運命の力」はDisc51の52年の高音質録音に比べると聴き劣るし、ロッシーニ「ウィリアム・テル」もDisc48の53年録音の方が圧倒的に音質がいい。ウェーバー「魔弾の射手」もDisc16の52年録音と比べると音が振るわない。

【Disc53】
・ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第1幕第3場(1941年2月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第3幕よりワルキューレの騎行(1952年1月3日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌(1952年7月29日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死(1952年1月7日, カーネギー・ホール)
 ヘレン・トローベル(Sp), ラウリッツ・メルヒオール(T)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「ワルキューレ」第1幕第3場は41年のライヴにしては歌手の声が良好に収録されており、稀代の名テノール・メルヒオールのスケール感あふれる歌唱の醍醐味が良く伝わってくる。しかし全体的にオケの響きが歌手に比べて引き気味で、ここぞという時のクライマックスでトスカニーニ/NBCの真価が聴けないのが残念。この後の「ワルキューレの騎行」52年録音での張りのあるオケの響きを耳にすると、さっきのワルキューレもこの音で聴けたらさぞかしと思ってしまう。ジークフリート牧歌とトリスタンとイゾルデの前奏曲と愛の死は年代相応の音質で、52年録音としては突き抜けた音ではないが、聴き易い。ジークフリート牧歌はDisc31にも収録されているが、こちらの方が音質がひとまわり良好なぶん訴求力が高い。

【Disc54】
・ワーグナー:楽劇「ジークフリート」森のささやき(1951年10月29日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」夜明け(1941年2月24日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」ブリュンヒルデとジークフリートの二重唱(1941年2月, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」ジークフリートのラインへの旅(1941年2月22日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの死と葬送行進曲(1941年5月14日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」ブリュンヒルデの自己犠牲(1941年2月, カーネギー・ホール)
 ヘレン・トローベル(Sp), ラウリッツ・メルヒオール(T)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

最初の「森のささやき」は51年だけに良好な音質だが弱奏中心の性格ゆえノイズ感もそれなりに目立つ点も否めないところ。「神々の黄昏」は「葬送行進曲」以外はDisc53のワルキューレ第1幕第3場と同日録音ゆえに同じことがいえ、歌手のスケール感には感服だがオケが引き気味で迫力が伸びないのが残念。しかし「葬送行進曲」だけは例外で、同じ41年録音でも何故かこれだけ格段に音質が冴えており、オーケストラの充実した迫力を堪能することができる。

【Disc55】&【Disc56】
・ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」全曲(1944年12月10&17日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ローズ・バンプトン(Sp), エリナー・スティーバー(Sp), ジャン・ピアース(T), ヘルベルト・ヤンセン(Bs), ピーター・ウィロウスキー合唱団ほか

これは音質が非常に良い。44年の録音にしては鮮明にして実在感の高い音であり、オン気味のマイクが歌手の歌唱・オケの響きをリアルに捕捉しているのが何より。キャストはレオノーレがローザ・ハンプトン、フロレスタンがジャン・ピアース、ドン・ピツァロがヘルベルト・ヤンセン。当時の名歌手のスケールの豊かな歌唱を良質の音質で味わえるのが嬉しいところ。

【Disc57】&【Disc58】
・プッチーニ:歌劇「ボエーム」全曲 (1946年2月3&10日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 リチア・アルバネーゼ(Sp), ジャン・ピアース(T), フランチェスコ・ヴァレンティーノ(T), ジョージ・チェハノフスキー(Br),ニコラ・モスコーナ(Bs)ほか

「ボエーム」の世界初演指揮者トスカニーニの指揮によるだけに悪かろうはずもないが、それにしてはオケの訴求力が伸び切らない印象を受けるのは、やはり音質のせいか。年代相応の音ではあるが、Disc55&56のベートーヴェン「フィデリオ」ではさほど気にならないノイズ感もプッチーニだとどうしても気になるし、もう少しオン気味に音が捉えられていればとも思う。歌手はミミがリチア・アルバネーゼでロドルフォがジャン・ピアース。両者ともこの音質で訴求力が並みでなく、やはり凄い歌手だと実感させられる。

【Disc59】&【Disc60】&【Disc61】
・ヴェルディ:歌劇「アイーダ」全曲(1949年3月26日&4月2日, Studio 8H & 1954年6月5日,カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヘルヴァ・ネルリ(Sp), エヴァ・ギュスターブソン(Ms), リチャード・タッカー(T), ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(Br), ロバート・ショウ合唱団ほか

一部に54年の録音も用いられているが、基本的には49年録音がベースになっているが、いずれにしても音質が素晴らしい。オンマイクの臨場感あふれる音録りが奏功し、歌唱・オケともども非常に精彩感の豊かな響きが伝わってきて惚れぼれする。この高音質により往時のトスカニーニ/NBCのヴェルディ演奏の充実味がいかんなく伝わってくるし、ネッリ&タッカーの訴求力に満ちた歌いぶりも秀逸というほかない。

【Disc62】&【Disc63】
・ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」全曲(1950年4月1&8日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヘルヴァ・ネルリ(Sp), クローエ・エルモ(Ms), アントニオ・マダーシ(T), ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(Br), ロバート・ショウ合唱団ほか

本ボックス収録のトスカニーニ/NBCによるヴェルディ歌劇全曲録音5種のなかでは、この「ファルスタッフ」が音質的にベストと感じる。オンマイクゆえの迫力が素晴らしいし、分解能的にも優れており、とにかく重唱の多い「ファルスタッフ」においても、アンサンブルがごちゃつかず、鮮明度が維持されている。この音質ゆえに演奏も圧巻というべきで、ヴァルデンゴはどんよりした音質の「オテロ」ヤーゴとは別人のような精彩と躍動感あふれる歌いまわしを披歴しているし、オケも相変わらず好調を極めている。

【Disc64】&【Disc65】
・ヴェルディ:歌劇「オテロ」全曲(1947年12月4~13日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヘルヴァ・ネルリ(Sp), ナン・メリマン(Ms), ラモン・ヴィナイ(T), ヴィルジニオ・アッサンドリ(T), レスリー・チャベイ(T), ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(Bs)ほか

40年代にトスカニーニ/NBCがRCAに録音した一連のオペラ全曲盤のなかでは、この「オテロ」が最も音質が良くない。この前年に録音されているプッチーニ「ボエーム」も冴えない感じだったが、この「オテロ」はその「ボエーム」に輪をかけて冴えない。少なくとも44年録音の「フィデリオ」の音質にも遠く及ばない。オフ気味の品の良い音録りで、耳当たりはいいのだが、彫りが浅く、実在感に乏しい。デル・モナコ以前の代表的オテロ歌いラモン・ヴィナイはバリトンあがりのテノールで、高音の弱さと中高音の強さが、良くも悪くも顕著。ヴァルデンゴのカッシオは軽妙に歌うが、音質のせいか、いまひとつ味が薄い。

【Disc66】&【Disc67】
・ヴェルディ:歌劇「仮面舞踏会」全曲(1954年1月17&24日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヘルヴァ・ネルリ(Sp), クララーメ・ターナー(Ms), ジャン・ピアース(T), ジョン・カーメン・ロッシ(T), ロバート・メリル(Br)ほか

本ボックスに収録されているトスカニーニ/NBCによるヴェルディ歌劇全曲録音5種のなかでは、この「仮面舞踏会」の音質のみ特殊であり、他の4種が8Hスタジオでの収録なのに対し、これだけカーネギー・ホールでの収録となる。このため、他の4種と比べるとマイクが明らかにオフ気味に収録されており、そのぶん鮮明で見通しのよい、聴き易い音質となっているが、オフマイクゆえの迫力不足も感じられる。このためか否か、リッカルドのジャン・ピアース、アメリアのヘルヴァ・ネッリ、いずれも他録音ほどには歌の訴求力が引き立っていない印象を受ける。とはいえ、当時87歳のトスカニーニが指揮する渾身のオーケストラ演奏は、理屈抜きに素晴らしい。

【Disc68】&【Disc69】
・ヴェルディ:歌劇「椿姫」全曲(1946年12月1&8日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 リチア・アルバネーゼ(Sp), ジャン・ピアース(T), ロバート・メリル(Br), ピーター・ウィロウスキー合唱団ほか

まず音質の良さに驚かされる。これが46年の録音とは信じられないくらい音がいい。同じ年の「ボエーム」の音質が精彩不足なので、この「椿姫」の音質の良さが際立っているし、47年の「オテロ」の音質とは雲泥の差だ。歌手のアルバネーゼ&ピアースは「ボエーム」でもミミ&ロドルフォで共演しているが、こちらの方が音質が冴えているぶん訴求力が格段に高い。

【Disc70】&【Disc71】
・ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス(1953年3月30日~4月2日, カーネギー・ホール)
・ケルビーニ:レクィエム(1950年2月18日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ロイス・マーシャル(Sp), ナン・メリマン(Ms), ユージン・コンリー(T), ジェローム・ハインズ(Bs), ロバート・ショウ合唱団

このミサ・ソレムニスは素晴らしい。とにかく音質が抜群に良い。オン型の鮮明な音録りでありながら響きのセパレーションも優れており、この年代の音質としては最上の部類に入るように思う。最晩年のトスカニーニが残した珠玉のベートーヴェンというべきか。ケルビーニの方はミサソレより若干音質が落ちるが、これもトスカニーニのベスト・フォームの演奏だろう。ディエス・イレの壮絶な迫力には素直に脱帽してしまう。

【Disc72】
・ボイト:歌劇「メフィストーフェレ」プロローグ(1954年3月14日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「十字軍のロンバルディア人」より「ここに体を休めよ」(1943年1月31日, Studio 8H)
・ヴェルディ:歌劇「リゴレット」第4幕(1944年5月25日, マディソン・スクェア・ガーデン)(1942年7月19日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ニコラ・モスコーナ(Bs), ジャン・ピアース(T), レナード・ウォーレン(Bs),ロバート・ショウ合唱団ほか

メフィストーフェレ「プロローグ」は良好な音質を追い風にオペラ指揮者トスカニーニの本領が端的に発揮されている。十字軍のロンバルディア人はややノイズ感が高いが冒頭のヴァイオリンソロが随分と奇麗に聞こえる。リゴレット第4幕は1944年の赤十字コンサートのライヴ。これは音質が抜群に良く、冒頭でジャン・ピアースが歌う伯爵のアリアからグッと惹きこまれる。やはりトスカニーニの振るヴェルディは絶品と言うほかない。

【Disc73】&【Disc74】
・ヴェルディ:レクィエム(1951年1月27日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:テ・デウム(1954年3月14日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」より合唱「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って」(1943年1月31日, Studio 8H)
・ヴェルディ:歌劇「ルイザ・ミラー」よりアリア「穏やかな夜には」(1943年7月25日, Studio 8H)
・ヴェルディ:カンタータ「諸国民の賛歌」(1943年12月8&12日, Studio 8H)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団
 ヘルヴァ・ネルリ(Sp),フェードラ・バルビエリ(Ms),ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(T),チェーザレ・シエピ(Bs),ジャン・ピアース(T)

トスカニーニ/NBCの代表的名盤のひとつに挙げられているヴェルディのレクィエムだが、確かに演奏自体の充実感には並々ならないものがあるが、こと音質に関しては万全とはいいがたい。同時期にトスカニーニ/NBCが録音した同ジャンルのベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」やケルビーニ「レクィエム」での目覚ましい音質レベルと比べると、このヴェルレクの音質レベルは明らかにワンランク劣っている。このヴェルレクのディエスイレの迫力をケルビーニのレクィエムのディエスイレと比べてみると歴然とした差を感じてしまう。歌手・オケともども演奏自体の表出力はハイレベルだけに、もう少し音質レベルが高ければさぞかしと思ってしまう。ヴェルディ「テ・デウム」の方はヴェルレクよりワンランク音質レベルが高く、演奏ともども申し分がない。ヴェルレクもこれくらいの音質だったらよかったのだが。ちなみに「諸国民の賛歌」は曲の最後でアメリカ国家が盛大に鳴らされるように改編されており、時代を感じさせる。

【Disc75】
・ベートーヴェン:交響曲第7番(1936年4月9&10日, カーネギー・ホール)
・ハイドン:交響曲第101番「時計」(1929年3月29&30日, カーネギー・ホール)
・メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」よりスケルツォ(1929年3月30日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮ニューヨーク・フィル

ベートーヴェンは36年のライヴにしては音質が良く、往時のトスカニーニ/ニューヨーク・フィルの充実ぶりを推し量ることができる。とはいえ音質的限界も顕著であり、とくにベートーヴェンの7番はNBC響との51年録音(Disc2)が充実を極めているだけに、あれと比較すると格段に聴き劣りがするのは否めない。ハイドン&メンデルは29年の録音としては上々の音質だが、こちらも音質的限界が厳しい。ハイドンの「時計」はNBC響との録音(Disc13)の音質もパッとしない印象だったが、それと比べてもワンランク落ちる。  

【Disc76】
・モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」 (1929年3月30, 4月4&5日, カーネギー・ホール)
・メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」よりスケルツォ&ノクターン (1926年2月4日, カーネギー・ホール)
・ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 (1936年4月9&10日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:ジークフリート牧歌 (1936年2月8日&4月9日, カーネギー・ホール)
・デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」(1929年3月18日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮ニューヨーク・フィル

モーツァルトとメンデルは残念ながら音質が一様に冴えない。モーツァルト第1楽章冒頭テーマでの洒落っ気たっぷりのテヌートなど、トスカニーニの20年代の演奏様式は随所にうかがえるが、それにしても音が悪い。ブラームスとワーグナーも、36年にしては音質がいまいち冴えない。むしろ最後のデュカスが29年録音ながら、このディスクの中では最も音質が良い。金管の鋭い音色がうまく捉えられている。

【Disc77】
・グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」より精霊の踊り(1929年11月20-22日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「セビリャの理髪師」序曲(1929年11月21日, カーネギー・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲&歌劇「セミラーミデ」序曲(1936年4月10日, カーネギー・ホール)
・ヴェルディ:歌劇「椿姫」より第1幕への前奏曲&第3幕への前奏曲(1929年3月18日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー 楽劇「神々のたそがれ」より夜明けとジークフリートのラインへの旅 (1936年2月8日&4月9日, カーネギー・ホール)
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」より第1幕への前奏曲&第3幕への前奏曲(1936年2月8日&4月9日, カーネギー・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮ニューヨーク・フィル

まずグルックだが、これは静かな曲だけにノイズ感が高い音質だと苦しい。ロッシーニのセビリャも音質的にはかなり厳しいがトスカニーニ得意のロッシーニだけにアンサンブルに精彩が感じられる。アルジェとセミラーミデは36年録音だけに音質がグッと良くなる。演奏も充実している。ヴェルディの椿姫の2曲はDisc76のデュカスと同日録音で、29年録音ながら高音質。ワーグナーの2曲は金管の豪快な鳴りっぷりなど当時のニューヨーク・フィルの充実度を推し量ることはできるが、音質がいまひとつ冴えず、全体的に音の彫りが浅く平面的な印象を受ける。

【Disc78】
・ドビュッシー:交響詩「海」(1942年2月8&9日, アカデミー・オブ・ミュージック)
・ドビュッシー:管弦楽のための映像よりイベリア(1941年11月18日, アカデミー・オブ・ミュージック)
・レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」(1941年11月19日, アカデミー・オブ・ミュージック)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮フィラデルフィア管弦楽団

ドビュッシーの海は42年録音にしてはいまひとつ精彩に乏しい音質が残念だが、第2楽章を6分半で駆け抜けるトスカニーニ流の闊達なアンサンブルはフィラデルフィア管においても健在。次のイベリアは海よりひとまわり音質が良好。当時のフィラ管の絢爛たる色彩感が伺われる好演。レスピーギも「イベリア」同様に音質が良好。冒頭のブラスの迫力など並みでない。もっともトスカニーニの「ローマの祭り」には後年のNBC響との名録音があるが、それと比べると聴き劣る印象も否めない。

【Disc79】
・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(1942年2月8日, アカデミー・オブ・ミュージック)
・R・シュトラウス:交響詩「死と変容」(1942年1月11日, アカデミー・オブ・ミュージック)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮フィラデルフィア管弦楽団

いずれも42年の録音にしては音質が冴えない。全体的にオフ気味の音録りで線の細さを感じるし、音の抜けも振るわず、もっさりとしている。チャイコフスキーの「悲愴」はDisc18のNBC響との録音でも音質が冴えずパッとしない印象だったが、相性が悪いのか、こちらでもパッとせず。リヒャルトの「死と変容」も同様に冴えない。この曲では10年後のNBC響との録音(Dics30)が極め付きの名演であるだけに、なおさら印象が弱い。

【Disc80】
・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレイト」(1941年11月16日, アカデミー・オブ・ミュージック)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮フィラデルフィア管弦楽団

音質に関してはDisc79よりもワンランク上という印象で、それなりにノイズ感が気になるが、響きの肉厚や鮮明度、音の実在感いずれもこの年代としては良好な部類だろう。演奏に関してはトスカニーニの卓抜したアンサンブル統制力とフィラデルフィア管弦楽団の絢爛たる色彩美との幸福な融合というべきか。この曲に関してはトスカニーニは最晩年にも珠玉の名演を残している(Disc14)し、あるいは愛着の強い曲だったのかもしれない。

【Disc81】
・メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲/間奏曲/夜想曲/結婚行進曲/スケルツォ/終曲(1942年1月11&12日, アカデミー・オブ・ミュージック)
・ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」よりマブ女王のスケルツォ(1942年2月9日, アカデミー・オブ・ミュージック)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮フィラデルフィア管弦楽団
 エドウィナ・エウスティス(Sp), フローレンス・カーク(Sp)

メンデルスゾーンはDisc79のリヒャルト「死と変容」と同日録音だが、やはり同じように音質がいまひとつパッとせず。それにトスカニーニの指揮ぶりも作品のメルヘン調と相性がいまひとつ良くないという印象も受ける。ベルリオーズに関しても全く同じ印象。このロメジュリはNBC響との全曲録音(Disc34)でも音色の潤いに欠け幻想味が薄かったが。

【Disc82】
・ベートーヴェン:交響曲第1番より第4楽章(1921年3月30日, ニュージャージー、カムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ベートーヴェン:交響曲第5番より第4楽章(1920年12月24日, ニュージャージー、カムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」よりラコッツィ行進曲 (1920年12月24日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ビゼー:「アルルの女」第2組曲よりファランドール (1921年3月11日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ビゼー:歌劇「カルメン」よりアラゴネーズ(1921年3月31日, ニュージャージー、カムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ドニゼッティ:歌劇「ドン・パスクワーレ」序曲(1921年3月29&30日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・レスピーギ:「リュートのための古風な舞曲とアリア」第1組曲よりガリアルダ(1920年12月18日, トリ二ティチャーチスタジオ)
・マスネ:組曲「絵のような風景」よりジプシーの祭り(1921年3月31日,トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」よりスケルツォと結婚行進曲(1921年3月11日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・モーツァルト:交響曲第39番より第3&4楽章(1920年12月18&21日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ピッツェッティ:組曲「ピサの少女」よりファマグストの岸壁(1920年12月21日,トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
・ヴォルフ=フェラーリ:歌劇「スザンナの秘密」序曲(1921年3月10日, トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団

トスカニーニが1920年代前半にミラノ・スカラ座を指揮して収録したアコースティック録音を集めたディスクであり、資料的価値が高いことは事実としても、いずれも鑑賞的には厳しい音質と言わざるをえない。ノイズ処理を中途半端にしているのか一様にオケの響きに実在感や手ごたえが乏しく、ベートーヴェンなど迫力不足も甚だしいし、オペラ系の曲も生気に乏しく、トスカニーニらしさがほとんど感じられないというのが率直な印象。

【Disc83】
・ベートーヴェン:交響曲第4番、序曲レオノーレ第1番(1939年6月1日, クィーンズ・ホール)
・モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲(1938年6月13日、クイーンズ・ホール)
・ロッシーニ:歌劇「絹のはしご」序曲(1938年6月13日、クイーンズ・ホール)
・ウェーバー(ベルリオーズ編):舞踏への勧誘(1938年6月13日、クイーンズ・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮BBC交響楽団

ベートーヴェンだが、音質は必ずしも秀逸ではないものの、要所要所での弦楽器の湧き立つような色彩に惹かれる。弦楽器にマイクが近いのか、弦声部の鳴動感がかなり高いが、逆に管楽器は全般的に引っ込んでおり、とくに木管は味が薄い。とはいえ弦の高カロリーゆえにトスカニーニ充実期のヴァイタリティがストレートに発揮されており、交響曲第4番に関しては最晩年のNBC響との録音が良くないので、このBBC響との録音の価値は高いと思う。モーツァルト以下の3曲も音質の傾向はベートーヴェンの2曲と同様だが、トスカニーニの得意分野だけに演奏は充実しており、ベートーヴェンと甲乙つけがたい。

【Disc84】
・ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」 (1937年10月20&21日, クィーンズ・ホール)
・ベートーヴェン:交響曲第1番(1937年10月25日, クィーンズ・ホール)
・ブラームス:悲劇手序曲(1937年10月25日、クイーンズ・ホール)
 アルトゥーロ・トスカニーニ指揮BBC交響楽団

ベートーヴェン「田園」は37年の録音にしては音が良く、39年のBBC響とのベートーヴェン4番の音質よりもワンランクいい。なにより管楽器が全体的にくっきり録れているのが曲想的にも秀逸。トスカニーニの「田園」は最晩年のNBC響との録音の音質がモヤッとして冴えないので、こちらのBBC響との「田園」の方が、ひとまわり音楽の生彩が引き立っている印象を受ける。次のベートーヴェンの交響曲第1番とブラームスの悲劇手序曲は最初の「田園」の音質と比べると音のピントが少し甘い感じだが、37年の録音にしてはまずまずの音質。いずれもトスカニーニ全盛期のライヴ録音だけにアンサンブルが充実感が目覚ましい。

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