エマーソン弦楽四重奏団のショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲全集試聴記
【Disc1】
まず全体的にテンポスピードが速いのが特徴的。第1番で見るとモデラートの第1楽章と第2楽章はボロディン四重奏曲よりも1分近く短いし、逆にアレグロモルトの第3楽章はボロディン四重奏曲よりも30秒も短い。第2番も同様で、ボロディン四重奏曲が13分をかけた第2楽章を9分で弾いているし、第3番もボロディン四重奏曲が11分をかけた終楽章を8分で弾いている。ボロディン四重奏曲は緩急対比をアダージョとアレグロで大きく取る解釈だが、エマーソンはそれと対照的な解釈というべきか。アンサンブルの組み上げも実にシャープ。野暮ったさのかけらもない。第1番は気の利いた小品という雰囲気が強調されているし、第2番は音抜けの抜群な各声部の絡みがシャープな恐怖感を抉り出していて第2楽章の絶望のロマンツェや第3楽章の死神のワルツなど、なるほどこの曲は第2次大戦期の陰鬱な雰囲気をまとっているのだなと認識させられる。第3番は交響曲第8番の姉妹作とされるが、なるほど8番での狂気を滲みだすような稠密な迫力が素晴らしい。
・ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第1番・第2番・第3番
エマーソン弦楽四重奏団
録音:1994〜99年
【Disc2】
スマートな現代的解釈のショスタコーヴィチ。第4カルテットはジダーノフ批判がらみの謎めいた作品だがエマーソンで聴くとすべてを白日のもとに晒すかのような明晰性を感じる。交響曲第10番の姉妹作である第5カルテットは第1楽章のシャープなフレーズの刻みなど痛切を極めていて惹きこまれる。第6カルテットは冒頭の気楽なムードが緩やかに緊迫味を帯びていき抜き差しならない雰囲気のクライマックスを迎える第1楽章の表情の移ろいが鮮やかで素晴らしいが、第3楽章のパッサカリアは少し薄味か。
・ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第4番・第5番・第6番
エマーソン弦楽四重奏団
録音:1994〜99年
【Disc3】
第7カルテットはショスタコーヴィチの全15曲のカルテットの中でも最短の作品ながら音楽の凝縮力が出色。終楽章のフーガの峻烈な迫力はエマーソンならではというべきか。第8カルテットはストレートな狂気を全面に押し出した作風だが、ここでのエマーソンの演奏は素晴らしいが、ボロディンと比べると、やや重み不足か。第9カルテットはアイロニカルなユーモアが全開といった感じの奇想性が特徴だが、エマーソンのスマートなアンサンブルでは、少し諧謔味が弱い気もするが、演奏自体は立派の一言。第10カルテットは交響曲第11番の構造とそっくりで、第2楽章の強烈な迫力は全15曲のカルテットの中でも屈指。ここでもエマーソンはストレートな解釈で純音楽的に優れた演奏を展開している。
・ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第7番・第8番・第9番・第10番
エマーソン弦楽四重奏団
録音:1994〜99年
【Disc4】
第11カルテットは全7楽章という特異な構成のレクイエム的な色彩の強い作品。エマーソンの演奏はシャープで明晰。第5楽章の峻烈なアンサンブルの絡みが圧巻。第12カルテットは2つの楽章のみで構成され、全15曲のカルテットの中で最も難技巧な書法の作品として知られるが、エマーソンは流石に技術的に一部の隙もない。第2楽章冒頭のアレグレットの緊迫感が出色。第12カルテットはヴィオラを主役とした1楽章だけの特異な作品で、絶筆のヴィオラ・ソナタの先駆けともされる。ここでもエマーソンのアンサンブルはキメ細かく音を構築し、作品の渋い味わいを過不足なく描き出している。
・ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第11番・第12番・第13番、アダージョ(エレジー)、アレグレット(ポルカ)
エマーソン弦楽四重奏団
録音:1994〜99年
【Disc5】
エマーソンSQは2曲とも速めのテンポでスマートに仕上げており、純音楽的に練り切れた演奏を展開しているが、このあたりになると、さすがにボロディンSQの牙城を崩すまでには至らず、やや薄味という印象も否めない。とくに第14カルテットはユーモアと恐怖が同居するような第1楽章、狂気の盛り上がりを示す終楽章など、まさにショスタコのカルテットの集大成ともいうべきインパクトがあるが、この作品のコアは虚無的な美しさが印象的な第2楽章であり、ここをボロディンSQの濃密な演奏表現と比べると、どうしても聴き劣りがしてしまう。
・ショスタコーヴィチ 弦楽四重奏曲第14番・第15番
エマーソン弦楽四重奏団
録音:1994〜99年