RCA『ロリン・マゼール グレイト・レコーディングズ』全ディスク試聴記


【Disc1】
・ベートーヴェン:交響曲第1番&第6番「田園」
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年-1978年

両曲ともにマゼール流の個性派ベートーヴェンとなっており、その斬新な音景は一聴に値する。意識的にハーモニーの主部と副部との関係が同等化ないし交代されており、普通なかなか聞こえてこないような旋律や音形がくっきりと表面化されている。「田園」第2楽章の(5:09)などがそうで、この弦の下降形をこれほど強調する解釈は異色だし、あるいは終楽章冒頭のピチカートなども同様だろう。面白いといえば面白いが、「田園」第4楽章の迫力不足など、オケのトッティでの根元的表出力が全体的に物足りないのが気になる。

【Disc2】
・ベートーヴェン:交響曲第2番&第7番
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年-1978年

CD1の交響曲第1番&「田園」同様こちらもマゼール流の個性派ベートーヴェンとなっており、その限りでは新鮮な面白味もあるが、肝心の演奏の表出力がCD1の2曲に輪をかけて物足りない。大きな要因となっているのが強奏時のトッティの迫力不足だが、CD1の2曲はベートーヴェンの9曲のなかでも比較的おだやかな楽想だったため、それほど気にならなかったが、こちらは交響曲第2番と第7番の組あわせだけに、さすがに気になる。ティンパニやトランペットも肝心なところで全く冴えないし、どうにも凄味不足と感じられてしまう。

【Disc3】
・ベートーヴェン:ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」&第8番
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年-1978年

CD2よりは多少もち直したかという印象。「英雄」・8番いずれもマゼール流の行き方で、普通に演奏していると埋没してしまうような細かい旋律や音形が鮮やかに浮き彫りにされている。「英雄」第2楽章中間部の高弦部の響きなど、こんなに強調された演奏も珍しい。CD2でからっきしだった金管の訴求力も、「英雄」終楽章など一部で冴えており、そのぶん音楽の精彩がアップしている。

【Disc4】
・ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」&「フィデリオ」序曲
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年-1978年

演奏の傾向はCD3までと同様、相変わらず迫力不足、凄味不足ではあるが、時おり聴き手の意表を突く仕掛けが織り交ぜられているので、その意味でのユニークさが持ち味ではある。例えば「運命」第1楽章のコーダでホルンをガンガン吹かせる解釈など個人的には面白くて良いと思う。それにしても迫力に乏しいのは、徹底的にティンパニを抑制している点も大きいが、あるいはステレオ感が過剰なくらい強調されている音質にもよるのかもしれない。

【Disc5】
・ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」&エグモント序曲
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 ルチア・ポップ(Sp)、エレナ・オヴラツォワ(Ms)、ジョン・ヴィッカース(T)、マッティ・タルヴェラ(Bs)
 録音:1977年-1978年

マゼール/クリーヴランドのベートーヴェンのなかではこの第9が最も秀逸ではないかと思う。基本的な行き方は第1〜第8と同様、かなり個性的なアンサンブル展開だが、この第9ではマゼールのディテール重視方針がピタリと嵌り、アンサンブルの音の情報量が並々ならず、それが純音楽な迫力に昇華されている感がある。それだけこの第9という曲の懐が深いということか。ステレオ感の強調されている音質も、ここでは響きの奥行きを深めるのに一役買っており、オン型の鮮明な音録りも追い風。この音質はCD1〜CD5のなかではベストだろう。実際、この第9のあとに収録されているエグモント序曲を聴くと明らかに音が第9よりもモッサリしている。

【Disc6】
・チャイコフスキー:イタリア奇想曲
・チャイコフスキー:序曲「1812」
・ベートーヴェン:ウェリントンの勝利
・リスト:交響詩「フン族の戦い」
 ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
 録音:1995年

曲目を見てのとおり、アレ系のオーケストラ曲を集めたアルバムで、潔いコンセプトではある。しかし肝心の演奏がものたりない。まず音質だが、オフ気味の品の良い音録りで音の見晴らしは良いが、全体的に音の線が細めで、肉厚不足、ひいては迫力不足という印象を受ける。マゼール/バイエルンの演奏も節度を保った理知的な行き方に終始しているが、作品が作品だけに、もっとはめを外したイケイケ・スタイルでも良かったのではと思ってしまう。ベートーヴェンのウェリントンなど、真面目に演奏されてもどうにもならないのだし。

【Disc7】
・ベルリオーズ:幻想交響曲
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年

マゼール/クリーヴランドの代表的名盤として評価の高い録音。アンサンブルに対するマゼールの絶妙なバランスコントロールが冴え渡り、強奏弱奏時を問わず音の情報量が素晴らしく、それが掛け替えのない色彩効果として演奏を鮮やかに彩っている。第2楽章のコルネットの味の濃さも惚れぼれするし、後半の楽章での抉りの効いたクライマックスの描出にも舌を巻く。

【Disc8】
・ドビュッシー:バレエ「遊戯」、交響詩「海」、夜想曲
 ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、アルノルト・シェーンベルク合唱団
 録音:1999年

交響詩「海」が素晴らしい。第1楽章は遅めのペースを維持した稠密なアンサンブル展開からウィーン・フィルの優美な響きをドビュッシー特有の夢幻的音響美に絶妙に適合させるマゼールのアンサンブル統制手腕が見事だし、第2楽章は一転して速めのペース、終楽章のパワフルな表現も含め、ハーモニーの色彩的メリハリを巧妙に強調したアンサンブル展開に引き込まれる。「夜想曲」と「遊戯」も好演だが、欲を言えば音質がもう少しオン気味にパリッとしていたらと思う。

【Disc9】
・グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」
・ハーバート:交響詩「ヘーローとレアンドロス」
・ハーバート:オペレッタ名曲メドレー
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1991年

グローフェのグランド・キャニオンはスペクタクルな曲だけにマゼール/ピッツバーグにはうってつけのはずだが、全体的に物足りない。ボリュームレベルの低い音質とオフ気味の音録りの影響なのか、全体的に音の線が細く、聴かせどころでの迫力が伸びない。ハーバートの2曲も同様だが、交響詩の方は作品としての面白味もいまいちピンとこない。

【Disc10】
・ホルスト:組曲「惑星」
・ラヴェル:「ボレロ」
 ロリン・マゼール指揮フランス国立管弦楽団、フランス国立女声合唱団
 録音:1981年

CD9同様こちらもスペクタキュラー系だが、全体的にCD9よりは演奏の精彩がワンランク高い印象を受ける。マゼールの方針自体は変わらないが、音質がひとまわり良いのか、オケの音の肉厚が過不足なく伝わってくるし、またオケもフランスの名門だけに本来の高いポテンシャルがマゼールにより十分に引き出されているのだろう。

【Disc11】
・マーラー:交響曲 第1番「巨人」
 ロリン・マゼール指揮フランス国立管弦楽団
 録音:1979年

このマーラーは素晴らしい。指揮よしオケよし音質よしの三拍子。ここでのマゼールのアプローチはテンポ面については全体にオーソドックスであり、後年のウィーン・フィルとのマーラー全集(あるいは最近のフィルハーモニア管とのライヴチクルスでもいいが)で披歴したような奇抜なスローテンポは見られない。しかしディテールに対するこだわり、それがもたらすアンサンブルの情報量の多さは特筆的であり、これにフランス国立管の華やかな色彩美が絶妙に照応している。オン気味のくっきりと鮮明な音質も秀逸。マゼールの隠れた名盤というべきか。

【Disc12】
・ラヴェル:ボレロ&「ダフニスとクロエ」第1・2組曲&スペイン狂詩曲&ラ・ヴァルス
 ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1996年

マゼール/ウィーン・フィルはCD8のドビュッシー作品集も名演だったが、こちらのラヴェルも素晴らしい。最初のダフニスとクロエからマゼールはウィーン・フィルの持ち味たるウェットなアンサンブルの美彩を絶妙に引き立たせ、スペイン狂詩曲とラ・ヴァルスにおいても音彩的訴求力が並々ならない。しかし白眉は最後のボレロで、ここでは大胆不敵なテンポ変化や金管フレーズの大芝居的強弱の付け方など、指揮者の遊び心が満載の演奏となっており、その型破り的な表現が実に面白い。

【Disc13】
・レスピーギ:交響詩「ローマの松」&交響詩「ローマの噴水」&交響詩「ローマの祭り」
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1994年

これは音質がダメ。オフ気味の音録りでボリュームレベルが低く、アンサンブルのバランスは管楽器が前に出ている反面弦楽器が全体的に引っ込んで聴こえる。「ローマの噴水」のように繊細な音の綾の推移を聴く分には申し分ないが、「ローマの祭り」のように管弦ともにダイナミックに鳴らす曲想となると、いかにも迫力不足という印象を受けてしまう。

【Disc14】
・サン=サーンス:  交響曲第3番「オルガン付き」&交響詩「ファエトン」&交響詩「死の舞踏」
 歌劇「サムソンとデリラ」より 第3幕「バッカナール」
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団、アンソニー・ニューマン(Org)
 録音:1993年

音質の傾向としてはCD13のレスピーギと同じだが、こちらの方は全体的に演奏の精彩がレスピーギよりひとまわり落ちる印象。とにかくボリュームレベルが低いうえにオフマイクの線の細い音録りであり、なおかつ弦楽器が引っ込んでいるときては、迫力不足がいかんともしがたい感がある。確かに管楽器の色合いは鮮やかであり、動きも細やかなのだが、、、、

【Disc15】
・シベリウス:交響曲第1番&第7番
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1990〜1992年

名演。マゼール/ピッツバーグはCD14のサン=サーンスなどイマイチだったのだが、このシベリウスでは段違いの演奏を披露していて驚かされる。とはいえ、マゼールのアプローチ自体はサン=サーンスと変わらず稠密な情報量重視の行き方なのだが、音質がこちらの方がオン気味で、アンサンブルの動きが鮮明に捉えられている点が大きいのだろう。

【Disc16】
・シベリウス:交響曲第2番&第6番
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1990〜1992年

CD15の第1番・第7番と同様、こちらも名演。音質の傾向が同じく良好なのが大きいと思われ、マゼール/ピッツバーグの持ち味がダイレクトに伝わってくる。マゼールの指揮によりアンサンブルのパート相互の距離感が綿密にコントロールされた、非常に奥行きのあるハーモニーが味わい深いし、それがひいては純音楽的なスケール感に結実している。

【Disc17】
・シベリウス:交響曲第3番・トゥオネラの白鳥・カレリア組曲・悲しきワルツ・フィンランディア
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1990〜1992年

マゼール/ピッツバーグのシベリウスは概ね名演ぞろいだが、この交響曲第3番も素晴らしい。ここではピッツバーグ響のブラスセクションが絶好調なのか、音色が実に冴えており、惚れぼれする。マゼールの練達の指揮も堂に入ったもので、わけても透きとおるようなフォルテッシモの描出は見事というほかない。

【Disc18】
・シベリウス:交響曲第4番&第5番
 ロリン・マゼール指揮ピッツバーグ交響楽団
 録音:1990〜1992年

やはりマゼール/ピッツバーグのシベリウスはハイレベルであり、この交響曲第4番・第5番も素晴らしい。2曲とも比較的晦渋な作風の曲だが、マゼールの捻出する稠密なアンサンブルの綾は純音楽的な美しさを醸し出しており、とくに交響曲第4番は現代音楽を聴くような面白さがあるし、交響曲第5番の透き通るような音楽の感触もまたマゼールの本領発揮という感がある。

【Disc19】
・R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団
 録音:1977年

名演。マゼール/クリーヴランドは77年にベルリオーズの幻想も録音しており、それも素晴らしかったが、こちらの「英雄の生涯」も甲乙つけがたい。マゼールの指揮は相変わらず稠密な行き方だが、音質が抜群に良く、オンマイクによる臨場感満点のサウンドが、このコンビのベストパフォーマンスともいうべき演奏内容を感度良く伝えている。

【Disc20】
・R.シュトラウス:家庭交響曲&交響詩「死と変容」
 ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
 録音:1995〜1998年

マゼールの細部まで稠密なアンサンブルの織り上げはバイエルン放送響においても健在であり、隅々まで抜かりなく綿密に造り込まれた演奏となっており、家庭交響曲の終曲の夫婦喧嘩を描く壮大なフーガの立体感など聴いていて舌を巻く。ただ音質が全体的にオフマイクで音にいまひとつ肉厚が不足する印象を受ける。死と変容では金管パートの素晴らしさが目立つ反面、弦の音層がちょっと重み不足、迫力不足という感じがする。

【Disc21】
・R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」&楽劇「ばらの騎士」組曲&交響詩「ドン・ファン」
 ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
 録音:1995〜1998年

マゼールの行き方は基本的にはCD20と同じだが、こちらは音質がオン気味でオケの響きがひとまわりパリッとしているため、細部的スケールと音響的迫力の両面に優れた名演となっている。バイエルン放送響のポテンシャルを十分に生かし切ったマゼールならではのリヒャルトというべきか。

【Disc22】
・R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」&交響詩「英雄の生涯」
 ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
 録音:1995〜1998年

マゼール/バイエルンのR.シュトラウス管弦楽作品集はCD21に続いてこちらも好調であり、2曲とも素晴らしい。ティルはオーケストラのアクセルを存分に踏み込んだパンチ力が聴きごたえ満点だし、「英雄の生涯」もこのコンビの長所がいかんなく発揮されている。もっとも「英雄の生涯」はCD19のクリーヴランド管との録音が超名演なので、それと比べると「英雄の戦い」などの迫力で、若干こちらが遜色する部分もある。

【Disc23】
・R.シュトラウス:アルプス交響曲 &交響詩「マクベス」
 ロリン・マゼール指揮バイエルン放送交響楽団
 録音:1995〜1998年

CD21に続いてこちらもマゼール/バイエルンは好調を持続している。アルプス交響曲は相変わらずマゼールの細部まで稠密なアンサンブルの織り上げに感服するが、後半の嵐の場面などは、少し細部に懲りすぎて音響的迫力が振り切らない気もするが、全体的には好演。「マクベス」はリヒャルト初期の作品だけにアルプス交響曲よりも細部に拘泥せず盛大にアンサンブルを鳴らし切っている印象で、ここぞという時の迫力が素晴らしい。

【Disc24】
・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」&交響詩「ナイチンゲールの歌」&幻想曲「花火」
 ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1998年

なるほど「ペトルーシュカ」と「ナイチンゲールの歌」は続けて聴くと互いによく似ている。3曲ともにマゼールらしい細部のこだわりにウィーン・フィルの馥郁たる美音が感度良いレスポンスを示しており、その意味では名演というべきだろう。もっとも、あまりにアンサンブルが整理整頓されているため、かえって作品のカオスな側面が浮かびにくくなっているような印象もあるが。

【Disc25】
・ストラヴィンスキー:組曲「兵士の物語」&三楽章の交響曲&詩篇交響曲
 ロリン・マゼール(指揮&Vn)、バイエルン放送交響楽団
 録音:1995〜1997年

3曲ぞれぞれで収録ホールが異なり、音質傾向に差違あり。最初の「三楽章の交響曲」はウィーンムジークフェライン収録だが全体的に管パートがオンマイク気味で、金管強奏フレーズの表出力が凄いが、第1楽章のピアノや第2楽章のハープなどが概ねオフ気味なのがマイナス。続く組曲「兵士の物語」はバイエルン放送スタジオ収録で、オン気味の張り出しの強い音質が特徴。響きとしてはかなりドライな印象だが、これが作品のニヒルなカラーに妙にマッチしていて面白い。最後の詩篇交響曲はミュンヘンのヘラクレスザール収録。全体に合唱がオン気味でオケがオフ気味。もう少しオケの音が前に出ても良い気がする。

【Disc26】
・チャイコフスキー:交響曲第4番
・プロコフィエフ:組曲「キージェ中尉」
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団(チャイコフスキー)
 ロリン・マゼール指揮フランス国立管弦楽団(プロコフィエフ)
 録音:1981年

2曲とも悪くない内容だが、音質がパリッとしないせいか、少し物足りない気もする。チャイコフスキーはマゼールらしい手練手管を尽くした演奏だが、妙にノイズ感のあるデジタル最初期の音質で、オフ気味のマイクもあり音の肉厚感が万全でないのが惜しい。プロコフィエフの方も、同じ時期にマゼール/フランス国立管が録音したマーラーやホルストが凄かっただけに、いまひとつ印象が弱い。

【Disc27】
・チャイコフスキー:交響曲 第5番
・プロコフィエフ:交響曲 第1番「古典」
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団(チャイコフスキー)
 ロリン・マゼール指揮フランス国立管弦楽団(プロコフィエフ)
 録音:1980〜1981年

こちらもCD26と同じくチャイコ&プロコだが、2曲ともCD26より演奏がひとまわり冴えている印象。チャイコ5番は音質がオンでパリッとしているぶん、マゼールの手練手管を尽くした演奏の醍醐味が良く伝わる。普通に演奏していたのでは聴こえない細かい音形までこまめにすくいあげられていて面白い。プロコ1番も音質が冴えており、フランス国立管の味の濃い色彩が良く音に活かされている。

【Disc28】
・チャイコフスキー:交響曲 第6番「悲愴」
・チャイコフスキー:スラブ行進曲、序曲「1812年」
 ロリン・マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団(「悲愴」)
 ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(「悲愴」以外)
 録音:1980〜1981年

マゼール/クリーヴランドのチャイコフスキー交響曲3曲は、5番が名演で4番はいまいちという印象だったが、この「悲愴」は両者の中間か。もう少しマイクがオンならとも思うが、マゼールらしい手練手管を尽くした演奏の面白さは伝わる。終楽章は10分をかけたスローペースで独特の大河的濃淡が描かれている。併録のウィーン・フィルとの2曲だが、こちらの方が音質が良く、オン型の迫力ある音録りがウィーン・フィルのコクのあるアンサンブルの持ち味をうまく捉えている。

【Disc29】
・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲とバッカナール
・ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」〜第1幕への前奏曲
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜ジークフリートの葬送行進曲
・ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死
 ロリン・マゼール指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ワルトラウト・マイヤー(Ms)
 録音:1997年

ここでのマゼールのアプローチは作品ごとに緩急レンジを大きくとったアンサンブル展開であり、「タンホイザー」では速めのテンポでガンガン突き進むかと思うと、「ローエングリン」「トリスタンとイゾルデ」は精緻なスローペースを維持して作品の神秘的な美しさを印象づける。そのあたりの割り切った切り分けはマゼールらしいし、ベルリン・フィルのハイポテンシャルな響きも秀逸。ただ全体にマイクが引き気味でいざという時に迫力が伸びないのが惜しい。

【Disc30】
・ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲
・ワーグナー:歌劇「ローエングリン」〜第3幕への前奏曲
・ワーグナー:序曲「ファウスト」
・ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〜第1幕への前奏曲
・ワーグナー:ジークフリート牧歌
・ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜夜明けとジークフリートのラインへの旅
 ロリン・マゼール指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音:1999年

マゼール会心のワーグナーというべきか。こちらの方がCD29よりも少しオン気味に録られているため、ここぞという時の迫力が素晴らしい。マゼールのアプローチはCD29と同様、緩急レンジを大きく取った行き方。最後の「神々の黄昏」での前半のスローと後半のハイテンポとの切り替えが絶妙。「ファウスト」「ローエングリン」での迫力も抜群。ジークフリート牧歌も実に味が濃い。

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