『ジェイムズ・レヴァインのRCAマーラー交響曲集』全ディスク試聴記


【Disc1&2】
・マーラー:交響曲第1番「巨人」
 ジェイムズ・レヴァイン指揮ロンドン交響楽団
 録音:1974年
・マーラー:交響曲第10番
 ジェイムズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団
 録音:1978年(第1楽章)・80年(第2〜5楽章)

「巨人」の方はレヴァインらしい明晰緻密なアンサンブル展開にロンドン響のオケがハイ・ポテンシャルに応答したマーラーで、全体的に木管パートがかなりオンに録られているので、カラフルな色合いの響きを印象づけられる。ただ、全体的に金管パートがもうひとつ伸びない。確かに鳴りは悪くないのだが、なにしろ木管がオンなので、木管がこれだけ鳴るなら金管はもっと鳴るのではという感じがしてしまう。第10番の方は、第1楽章が良くない。音質が随分とオフマイク型で、「巨人」から続けて聴くと、いかにもソフトでモヤモヤした響きに終始し、音楽が冴えないこと甚だしい。しかし第2楽章になると音質がひとまわり良くなり、モヤモヤ感がかなり払拭されている。それに比例して音楽の精彩も向上、終楽章ではフィラデルフィア管のアンサンブルを駆使し強烈な音の奔流を描き出すことに成功している。

【Disc3&4】
・マーラー:交響曲第4番
 ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団
 ジュディス・ブレゲン(S)
 録音:1974年
・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
 ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団
 録音:1980年

交響曲第4番・第7番ともにレヴァインらしい細部まで良く練り込まれた情報量の多いマーラーだが、4番はかなりオフマイクで収録されており、そのぶん音の線の細さが気になる局面もある。とはいえオフマイクゆえの残響感の豊かさが、作品の持つ幻想的なカラーにマッチしている局面も多分にあるので、一長一短というべきか。7番の方は4番よりも多少オン気味で、そのぶん個々のフレージングに厚みが乗り、音楽の鮮烈さが増している。シカゴ響のマーラー7番というとショルティの個性的な録音が思い出されるが、後発のレヴァインの録音はショルティに比べるとオーソドックスなテンポ運用で、万人向けだが、音質を含めた総合的なインパクトではショルティ盤に一歩を譲る感もある。

【Disc5】
・マーラー:交響曲第5番
 ジェイムズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団
 録音:1977年

このマーラーは素晴らしい。レヴァインの入念緻密なアンサンブル運用にフィラデルフィア管がベストパフォーマンスで応えている点に加え、音質が万全な点も大きく、オンマイクの鮮烈な響きが演奏の美質を伝え切っている。レヴァイン/フィラデルフィアのマーラーというと10番アダージョ楽章におけるオフマイクのもっさりした音質が残念だったが、あれとはえらい違いだ。レヴァインの運用はテンポ面ではオーソドックスだが細かいモチーフの克己的な鳴らし方にかなりの拘りが伺え、特に管楽器の冴えが目覚ましく、オケ自体のポテンシャルを良く活かしているという感じがするし、弦楽器にしても随所にえぐりの効いた表出力みなぎる響きを捻出しており、トッティでの迫力にも実直に惚れぼれさせられる。

【Disc6〜8】
・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
 ジェイムズ・レヴァイン指揮ロンドン交響楽団
 録音:1977年
・マーラー:交響曲第3番
 ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団
 マリリン・ホーン(Ms)
 録音:1975年

交響曲第6番の演奏はレヴァインの70年代のマーラー録音の中でもフィラデルフィア管の5番と並んでベスト水準を示している。同じロンドン響との「巨人」で感じたマイナス点であった金管パートの弱さが見事に解消されており、ここぞという時の金管のパワフルな表現力が素晴らしいし、クライマックスでのティンパニのド迫力といい、情に流れない端正な造形展開をベースに、アンサンブルのヴァイタリティが目覚ましい。続くシカゴ響との3番も悪くないが、ロンドン響との6番に比べると、ひとまわり表出力に弱さを感じる。レヴァイン/シカゴ響のアンサンブル展開それ自体は引けを取らないと思うが、6番よりもマイクが明らかにオフ気味に録られているため、響きの肉厚感がロンドン響との6番の録音ほどは冴えていない感じがする。

【Disc9&10】
・マーラー:交響曲第9番
 ジェイムズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団
 録音:1979年

レヴァインがRCAにセッション録音した一連のマーラー録音においては、フィラデルフィア管との録音である交響曲第9番と第10番におけるテンポの遅さが目立っているが、とくに9番は総タイムで92分というスローテンポが異彩を放っている。この9番に関してはレヴァインの明晰なアンサンブル展開の手腕、フィラデルフィア管のハイレベルな音響表現力、オン型の鮮明な音質と3拍子そろっており、本来なら素晴らしい録音のはずなのだが、正直いまひとつマーラーの音楽的指向にフィットしていない違和感も聴いていて覚える。その原因はやはりこの特異なスローテンポにあり、レヴァインのような明晰なスタイルでこのテンポだと、客観の極みというのか、過分に冷めた表情が助長され、どこまでも人間的なこの9番の楽想にそぐわないような印象がつきまとう。

コンテンツ一覧へ  トップページへ