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■ AntiquE:Unknown ■
 
「ねぇ、フィリカ」
「ん?」
「お腹が減ってきたよ。次の街はまだかなぁ」
「そうね……先に見える二本の古代杉を抜けたら、小さな村があるらしいわ」
  「先って。僕の見間違いならいいけど、まだ結構な距離がありそうな気がするよ。豆粒にしか見えないじゃないか」
「乾パン、食べる?」
「……喉が渇くから、よしておこう。あーあ、せめてこの道が上り坂じゃなかったらなぁ。
 着いたら、真っ先に宿に行こうよ」
「牧草があるとは限らないわよ?」
「何を今更。僕は雑食さ。……あ、さては食事代ケチる気だな」
「雨の少ないこの付近だと、下手すれば牧草の方が高いかも」
「まぁ、どっちでもいいけどね。……ところで、さっきから鳴っているこのメロディは何だい?」
「オルゴール」
「それは聞けば分かるけど。どうしたのさ、急に」
「ん。何となく聞きたくなったの」
「ふうん。……随分と古そうな箱だね、それ。骨董品かな」
「よく知らないわ。私に旅を教えてくれた人から貰ったの。――確か、『このオルゴールは世界そのものだ』とか何とか」
「世界?オルゴールが?」
「うん。生きる者、動かぬ者の全てが発条。見るもの、聞くもの、全ての光景が旋律。
 そしてまた、自分の足という発条を回して、五感で感じる世界という曲を楽しむのが旅――
 って、あの人はそう言っていた」
「物の例えか。詩的だねえ。旅人にはそういう人が多いのかな」
「私は?」
「うん?フィリカは……詩的というより無敵かなあ」
「何よ、それ。そんなに乱暴じゃないわよ」
「ああ、いや。別に腕っ節が強いとか、そういうのじゃなくてさ。
 何ていうのかな……君と話していると、最終的に首を縦に振らざるを得ないというか」
「……偉そう?」
「そういうのでもない……難しいね。何となく、言葉にならない説得力があるのかな。
 直感的に信じてもいいかな、というか」
「その割には、割と疑ってない?」
「最終的に、って意味さ。じゃなかったら、あてのない君の旅になんてついてこないよ。僕は定住タイプの羊だからね」
「ふうん。そういえば、テオ。貴方はどうして、私についてこようと思ったの?
 ちゃんと理由を聞いた事がなかったと思うけど」
「何となく」
「貴方、そればっかりね」
「まぁ、いいじゃない。もう一言付け加えるなら、君についていけば面白い旅と人生が送れそうだなって思ってね。
 ……あれ、羊でも人生って言っていいのかな」
「『羊生』っていうのも変だし、いいんじゃない?」
「それはさておき。ああ、お腹減ったなぁ。早く着かないかなぁ。せめて、その村が見えたらなぁ」
「あの杉の先からは下り坂だから、そこまで行けば見えると思う」
「今日中に着くかなぁ?」
「大げさねぇ。昼のうちには到着するわよ」
「よし、じゃあ早足で行こう。ああ、早く食べたいなぁ」
「あ。待ってよ、テオ!……もう、仕方ないわね」
 

 
Unit GrowSphereの十三枚目、オリジナルアルバムとしては七枚目になる作品は、
「不思議」で「奇妙」な「旅」をテーマに据えた「AntiquE:UnknowN -誰モ知ラナイ昔語-」
 少女「フィリカ」と、人語を解する不思議な羊「テオ」の、終わりの分からぬ旅を綴ったアルバムです。
ある時は長閑な村、またある時は不思議な遺跡、彼女達の訪れる先にはどんな景色が広がっているのでしょうか。
物語は、彼女が持つオルゴールの旋律から始まり、そしてその旋律へと還ります。
それは現実かもしれないし、夢かもしれない。
貴方の思い出の狭間にも、ひょっとしたら存在しているかもしれない、そんな不思議な旅の世界へ。
一寸、出かけてみませんか――?

 【トラック構成】
 Tr.1 発条(ぜんまい)仕掛けのおとぎ話
発条仕掛け、つまりオルゴール。
発条が奏でるどこか懐かしい、けれど誰も知らない昔語。
 Tr.2 紫煉瓦の螺旋塔 -Purple Dawn, Purple Brick-
夜明けの空にシルエットを伸ばす紫色の塔。
ちょっぴり不思議なその建物は、この街のちょっとした観光名所。
 Tr.3 竜の背骨の、その先へ -Mountain-range "The Spine of Dragon"-
その昔、世界を創ったという始原竜がその生涯を終えた時に出来たという山脈。
険しく続く街道は、世界で最も有名な旅の難所。
 Tr.4 おしゃべり羊は花が好き -Chatty sheep is flower fancier-
赤い花はいいねえ、とっても綺麗だよ。青い花も捨てがたい、神秘的だしね。
え?オレンジの花?うーん……美味しそう?
 Tr.5 帽子のナカミ -A strange world in the hat-
遠い昔に貰った帽子。由来は知らない。覗き込んでも、底は見えない。
理由も知らない。何処に繋がってるんだろう。
 Tr.6 キミが旅する理由(わけ) -Truth of world for you is...-
旅をしようと考えたのは自分。理由は考えたことなかった。
ひょっとしたら、理由を探しに旅に出たのかもしれない。
 Tr.7 僕らの歩いた旧世界 -Escher's City-
おおよそ僕らの知る世界の常識が通じない街。違和感と矛盾で構成された世界。
失われた遠い世界の面影、僕らはその一部に迷い込んだのだった。
 Tr.8 霞むレクシェンバッハ -Air garden "Lexenbach"-
雲海の果て、長い吊り橋を渡った先に浮かぶ巨大な庭園。
豊かな緑は、けれど不確かに霧に霞み、既に「忘れ去られた場所」なのだと教える。
 Tr.9 AntiquE:UnknowN
そのオルゴールは「世界」だった。流れるその世界は、未知の世界だった。
旅をして、旅をして、けれど未だその世界を知るには、きっと遠い。


【作曲・イラスト・設定・ジャケットデザイン】
諌月 呉霞 / Unit GrowSphere
【頒布価格】
500円

2007/4/29(日) 第19回M3にて初版頒布します。スペースはC-38「Unit GrowSphere」にて。
[ 全曲クロスフェードサンプル( mp3 ) ]


バナー作ってみました。

【 「AntiquE:UnknowN」トラック順番ミスについて(2007/4/23) 】
4/29 M3頒布分につきまして、
Tr.4「おしゃべり羊は花が好き -Chatty sheep is flower fancier-」、
Tr.5「帽子のナカミ -A strange world in the hat-」

の二曲が、実際のトラック上で逆になっております。
この順番が違う以外、曲そのものには問題ありませんので(CD-TEXT情報は正しいものが入っています)、
曲名を差し替えて把握して頂ければ幸いです。
なお、次回生産分(夏コミC72以後の頒布分)からこの順番は訂正の予定です。
大変申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
 

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