ライヴ記--1999--

★谷山浩子「幻想図書館・雪の女王」99.2.6 スペース・ゼロ

 アンデルセンのファンタジーを基にした音楽劇。谷山浩子の歌だけでなく、演技まで見られるというなかなか新鮮なステージでした。浩子さんといえば、ラジオドラマでの声優とかコンサートなどでの朗読で、魅力的な声による表現力は歌にも匹敵すると思っていましたが、体も使っての演技となると…かなり恥ずかしい感じはありましたね。もう一人俳優の青山伊津美と、二人だけで何役もこなすし。しかしストーリー展開とか演出とかがしっかりとしていて、ファンタジックな世界が完成されていたので、かなり密度の濃い時空間だったと思います。


★板橋文夫ライヴ「バッハ特集」99.5.3 エアジン

 メンバー:前田祐希(vo)太田恵資(vn)吉野弘(b)小山彰太(ds)
      小森けいこ(cl)梅本みのる(tp)

 ゴールデンウイークはエアジンで板橋文夫を聴くというのも毎年恒例になりました。私が行ったのは3日間のうちの2日目で、バッハ没後250年記念特集と銘打ってのライヴ。激しく叩きつける板橋スタイルがどんなバッハを演奏するのか、興味津々でありました。

 私にとってのバッハというと、15年近く前になるでしょうか、ソ連の女流ピアニストでバッハ演奏で世界的に知られた巨匠タチアナ・ニコライエワ(故人)のプライベートコンサートに行って、その深さに感動を受けたことがあります。彼女は、「バッハは単に大作曲家というのではなく、大自然の現象なのです」と語っていました。もう一つは、タルコフスキー監督の映画に使われていた音楽。彼もバッハが好きでよく使いましたが、特に「鏡」のラストシーンでのヨハネ受難曲は心に染みついています。 

 どちらかと言えば宗教色の強いバッハの音楽を、板橋文夫はシンミリと厳かに聴かせるのではなく、ずっと人間の生身の感覚に近づけてくれました。まぁ、そのスタイルはいつもの板橋サウンドからして当然期待していた通りなのですが、激しく楽しい演奏の中に、バッハの精神…いのちに対する純粋な賛歌を見事に浮き立たせて聴かせてくれたように思います。そう、古典という枠の中だとどうしても耳触りが良すぎて聴き逃してしまいがちな生きることへの熱やパワーに気付かされた、そんな演奏でした。ボーカルとトランペットがバロック調のエッセンスを効かせていて、ジャズと融合していたのも心地良い感じでした。

 それにしても、この日の板橋さんはじめ他のメンバーの皆さんも最初からテンションが高く明るい感じで、バッハの音楽が幸福感に満ちたものになっていたのも、とても良かったライヴでした。


★さねよしいさこ「円形音楽会」99.5.9 青山円形劇場

 4年目になるコンサート企画、今年はゲストミュージシャンを呼ぶのではなく、普段のメンバーによる演奏です。だからといってリラックスしているかといえば、かえって観客への意識が強くなって落ち着かない感じだったかもしれません。いつも落ち着きがないんですけどね。

 トークの時にはまったく落ち着きがなく、話題の脈絡さえなくなってしまうのですが、さすがに歌となると気持がどこまでも伸びていくような歌唱は健在。やはり歌うことで自分のすべてを出し尽くす、鳥のような人だなぁと思います。羽根を持たない腕でパタパタとはばたく痛々しさもあって、それがさねよしソングの特徴であり、魅力なんでしょうが…。実はCDで聴いていた方が楽なんですが、新しいCDは6年振りに出たということで、その事実がまた少し哀しいのです…。


横浜ジャズプロムナード99

10/9(土)

青少年ホール

●坂田明・ボーダーライン シンドローム 

 <坂田 明(as)仙波清彦(per)黒田京子(p)バガボン鈴木(b)>

 オープニングに選んだのは、坂田の名前にプラスして、仙波が出るということからです。久しぶりに見る仙波のドラムは、鮮やかにバンド全体をまとめ上げ、盛り立てていて、さすがと唸ってしまいました。聴衆を盛り上げるのは坂田の真骨頂。ベースもピアノも負けずに熱く応え、ステキなコンサートでした。2日間を振り返ったときに、一番安心感のあるまとまったライヴだったように思えます。

ランドマークホール

●「ヤヒロ・トモヒロのWORLD MUSIC」

 紅葉坂を下ってまっすぐ行くとランドマークタワー、という道をはじめて知りました…。横浜市民なのに。そして今年の企画モノ第一段、パーカッショニスト・ヤヒロの7時間ライヴ!

■「長谷川きよし(vo,g) 」

 凄いリズミカルに切れのある声とギターのテクニックで、ラテンと自作の歌を奏で出す迫力に圧倒されました。私はまったく知らない人でしたが、またどこかで聴かなければ。もっとヤヒロも前面に出て、ぶつかり合って見せてくれるとジャズ的になって面白かったかもしれませんが、そんな仕掛けも必要ないほど刺激的でした。

■「ダブルブラザーズ」<続木力(Harm)続木徹(p)八尋洋一(b)>

 二組の兄弟ミュージシャンならではの息の合ったセッション。ほとんどリハもしていないといいながら、リラックスして楽しげに演奏する4人の姿は、血とはそんなものなのかという認識をもたらせてくれます。ハーモニカの音色がなんとも安らぎました。

■「寿(沖縄ポップ)」<ナビィ(vo)ナーグシク・ヨシミツ(g,三線)>

 ボーカルは沖縄の元気なお姉さんという感じで、観客を乗せたがっている気持ちがちょっと空回り気味でしたが、島の明るさと自由さ、それに苦しみが伝わってくるステキな島唄を聴かせてくれました。ヤマトの人間は、ノリを手拍子や身体の動きで表わしていなくても、ちゃんと内面では熱くなっているんだから、心配いらないんですよ。(むしろ単調な手拍子なんか打っていると、醒めちゃうこともあるし…)

■ 「ホルへ・クンボGROUP」

 <JORGE CUMBO:(QUENA)GERARDO DI GIUSTO(p)GUSTAVO GREGORIO(b) 岡本博文(g) >

 今回のメインはこれでした。ケーナ奏者の巨匠・クンボが聴けるとは。私自身がもう20年以上ケーナを吹いている(時々ですが)だけに、その楽器の魅力を存分に味わわせてもらえました。ヨーロッパに在住しているクンボの、単に南米のフォルクローレではない洗練されたジャズの演奏は、これがケーナの力だよ!と訴えかけてくると同時に、深みのある音楽世界にどんどん引き込んでいきます。ケーナだけでなくサンポーニャを吹き、歌う静かで熱い姿も印象的です。音楽的には同じアルゼンチン出身のガトーも彷彿させられました。ここにきてヤヒロのパーカッションも冴え、他のメンバーたちとの真剣勝負さも際立ってきました。やはりいろいろな国の文化的背景を持った人間が集まって演奏をする場で生まれる、相手に対する緊張と理解というのがジャズならではの可能性と魅力だと思うのです。

開港記念会館

●ROVA SAX QUARTET(USA)

 <Sアダムス、Bアックリー、Jラスキン、Lオーチス(sax) >

 そのままヤヒロワールドに浸っていようかとも思いましたが、エアジンのマスターが推薦していたロヴァカルテットも聴いてみたくて、会場を移動。

 それぞれ大小2本ずつ、計8本のサックスを狂いのないテクニックで、この楽器はこんなふうに扱うんだよと、見事なアンサンブルを聴かせてくれました。良い演奏でしたが、私にとっては曲自体がちょっと退屈でした。アメリカ人のジャズなんですねぇ。もっとパワフルでメロディアスな曲もあると嬉しかったな。

10/10(日)

 この日は桜木町の自動精算機の前で15分以上並びました…横浜はイベントが盛りだくさんですが、桜木町は一つしか改札がないのに精算機4台じゃ困ります。JRは改善しなさい。

ランドマークホール

●渋さ知らズ&乳房知らズ・大オーケストラ

 <不破大輔(ダンドリスト)片山広明(ts)渋谷 毅(p)大沼志朗(ds)吉田隆一(B.sax)北洋一郎(tp)など、大勢>

 昼一番の公演ながら多数の観客が詰めかけ、改札に時間のかかった私は椅子を確保できず壁際の一番前で立ち見していたので、ステージ全体を見渡すことができなかったのですが、おそらく40人以上のミュージシャンがいたのではないでしょうか…。いやぁ、渋さチビズならライヴハウスで見たことはありましたが、この祭の場においての大オーケストラは、同じ曲を演っていたとしてもまったく別物の、常軌を逸したパワーとパフォーマンスを繰り広げてくれました。これと比類できるのは、解散した舞踏の白虎社しかない。猥雑で破廉恥で暴発する、肉体音の芸術! 渋さと共に公演中の風煉ダンスの一行も加わった大狂乱の世界は、観客の理性もぶっ飛ばしていきました。踊りださなくたって、仏頂面してるおじさんだって、みんな心の奥まで熱くなっていたはずです。

県民小ホール

●金井英人Bass Ensemble

 <小杉敏(b)小井政都志(b)高橋節(b)ほか>

 さて、早足で20分歩き、ギリギリ山下公園前の会場へ移動。渋さの狂乱のあとには仙人のような金井老の超然とした音楽で心を鎮めます。6台のベースとエレキギター+パーカッションでの演奏。静かな中にフリーな緊張感が張りつめた音の世界は、どこまでも心地よく気持ちの隅々にまでしみ込んできます。ジャズプロムナードで3度目、他では聴いてないしCDも持っていないのですが、この人のライヴを聴くと、出会えて良かったみたいな気持ちになります。

●金大煥(per,ds/韓国)

 <梅津和時(as,ss,B.cla)巻上公一(声,歌)佐藤允彦(p)>

 今年は板橋文夫のスペシャルを断念したのは、会場で席をとれる可能性が低そうなことと、同じ時のこのライヴもぜひ聴きたかったから。音楽生活50年というキム・デファンの演奏はいくつかのCDで聴いたことがあったと思ってたのですが、実は一つもありませんでした…そんなわけで初めて耳にする彼の演奏だったわけですが、これは素晴らしいドラムと韓国の太鼓の技を聴かせてもらいました。緊張感と余裕、どっしりと安定していながら高みに上っていくようで、どんどん引き込まれていきました。あとの3人いずれもフリー演奏が達者なミュージシャンですが、それらすべてを飲み込み、場を作っていくドラミング。感動です。

●市川秀男(p)TRIO+斉藤ネコ(vln)

 <加藤慎一(b)二本柳守(ds)>

 他に聴いてきたライヴの個性に比べてしまうとやや弱くて、少し寝てしまいました。決して演奏が悪いわけではないのですが、市川の優しさにほっとさせられて気が緩んだところもあるでしょう。ネコがもっと激しいパフォーマンスを見せてくれると目も覚めたでしょうが、そんな曲ではないし。

関内小ホール

●Kasper トランバーク(tp/デンマーク)QUARTET with 南 博(p)

 <J.ディーナセン(sax)N.ディビットセン(b)A.モーゲンセン(ds)>

 会場も移動したくて、ラストには昨年も聴いたこのグループにしました。ジャズプロムナードの掲示板で南博自身が宣伝していたこともあります。で、この演奏がとても良かった。昨年よりも余裕が感じられて、ノリも曲もわかりやすくて、それぞれの持ち味もよく出ていたように感じられました。今年は他にヨーロッパのジャズを聴かなかったせいもあってか、その感覚的なところがとても新鮮でした。ランドマークに行っていれば板橋サウンドで大盛り上がりだったでしょうが、こちらも2日間の終りとして優しく心を満たしてくれるライヴだったのが嬉しいです。


★谷山浩子「アナタ最高LUCKYツアー・コンサート」

99.11.23 オーチャードホール

 最新のアルバム「僕は鳥じゃない」は、久しぶりにピタリと心にはまる作品のように思えて、その中の曲も混じったプログラムはちょっとポップなエッセンスが加わり、コンサートを楽しいものにしていました。

 関心するのは、MCですね。1000人以上の観客を前に、たわいない話を淡々と、長時間聞かせられるというのは…すごいことです。歌もいいけれど、浩子さんのおしゃべりというのは、さすがラジオスター!という魅力に満ちています。オールナイトニッポンほか、いくつものラジオ番組を持っていただけあって、大した話の内容ではなくても、そこにパーソナリティがいっぱいに表現されるので、歌を聴いているのと同じような心地よさを感じるのです。

 コンサートは、大きな劇場ということで、照明の演出などで十分に楽しませてもらえました。しかしこの日、私は失敗をして…コンサート前にCD屋や本屋などで買い物をしすぎていたため、コンサートパンフレットを買うお金がなくなってしまったのです。高いんだもん…。まぁ、浩子さんの写真集みたいな構成だったから、別にいいか…(ほんとはよくないんだよー)…でも買っておくと思い出にもなるし、後でこんな文章を書くときなどに資料として活用できるのです。無念でした。



★板橋文夫&デューク・エリントン楽団 99.12.5 テアトル・フォンテ

 コンサートは第一部に日本の民謡や板橋オリジナル曲、第二部にデューク・エリントン楽団での演奏でした。

 99年はエリントンの記念年だったため、多くの関連イベントが行なわれていたようですが、板橋文夫は自ら専門楽団を集め、真剣に取り組んで公演を重ねてきました。そしてこの日が最終公演となったようです。私はエリントンの曲を意識して聴いたことがなかったので、どこまでが原曲でどこからが板橋流なのかの判断はできませんが、この迫力はこのメンバーならではだろうなぁと思います。そしてビッグバンドを指揮してはりきる板橋さんの姿はかっこ良かったです。でもやはり、一部の演奏の方が面白かったというのも事実で…。直後にWOWOWの番組でエリントンを偲ぶ特集を見たのですが、20世紀のアメリカ音楽界でも屈指の大音楽家で、ジャズの改革者だった彼の音楽に古さを感じるよりも、ちょっと気取った感じというのが、しっくりこなかったのかな。