ライヴ記--1997--

★AREPOSライヴ 97.02. 南青山マンダラ

 いつものAREPOS、楽しくて気持ち良くて、ほっと息のつける、心のオアシス。


★さねよしいさこ「円形音楽会」97.05.07・青山円形劇場

 そしてこの日のゲストミュージシャンはAREPOSのふたり、れいち&清水一登なのでした。私の意識はほとんど主役を脇に追いやり、れいちさんのドラムと清水さんのピアノに向けられてしまいましたが、それは仕方がないですよね。特にドラムを叩くれいちさんの姿は久しぶりで、独特の粘り気のあるビートにはしびれてしまいました。しかし二人の音楽家としての度量の深さゆえ、さねよしいさこの強烈なアクを吸収し、さらにのびのびと歌わせてあげてたところが、とっても良かった。さねよし&れいちのデュエットなども、ファン垂涎のシーンでありました。


★さねよしいさこ「円形音楽会」97.05.10・青山円形劇場

 この日は、古楽器アンサンブルの「ロバの音楽座」を迎えてのコンサート。私の目は当然のごとく、見慣れない楽器の数々に注がれたのですが、楽器マニアだもん、仕方ないよね。でも、さねよしの歌もそんな演奏に合って、とても落ち着いていて、持ち前の歌唱力が存分に発揮されていたと思います。たしかに歌の天才です。去年初めて見た時は、自分の中の昂揚を抑えきれないというような落ち着かないパフォーマンスに戸惑ってしまいましたが、今年はバックのミュージシャンの懐の深さに、安らぎを持ってステージに登場していたと思うのです。とても良かったです。


★板橋文夫ライヴ 97.7.19・ル・クラシック

 藤沢のクラシックでのライヴに行くのも久しぶり、板橋も昨秋のジャズプロムナード以来となります。板橋文夫といえば、テレビ神奈川での横浜ジャズプロムナード番組で、彼の病気のことも含めた演奏ツアーのドキュメントが放映されたのも感動的でした。 そしてこの日のライヴは、アメリカ〜ヨーロッパでの演奏旅行から帰ってきたばかりの板橋と竹沢悦子、太田恵資のトリオで。外国での観客の熱狂が新鮮だったという板橋ですが、その感覚が残っているかのように、じっくり聴き入る日本の観客の前でも、いつも以上のテンションで聴かせてくれました。私はピアノのすぐ後ろ、手の届く距離で聴いたのですが、ただもう圧倒されてしまいました。


★国江徹&高橋琢哉「一対」97年8月24日 plan-B

 この1年前、後楽園前の公園で観て以来の、舞踏家・国江くんとミュージシャン高橋氏2人のライヴということになります。この間にも、定期的に共演を行ってきた2人ですから、新しいものが出来上がってきているということは当然考えていたのですが、期待していた以上に観るものの感情を震わせる1時間の舞台でした。舞台なんてない、フラットな空間ですけれど。 ギターは美しい音を奏で、踊りは静かな動きで始まり、音と動きは着かず離れず、ちょうど良い関係を保っていき、やがて激しい動きと音に変わってダイナミズムが生まれていく…即興性の中に、2人の表現者の交歓が確かに感じ取れました。


★谷山浩子「大101人コンサート・VOL.300」97年9月21日 オーチャードホール

 101人コンサートの300回記念ということで、大ホールです。でも、内容的にはいつもと変わらない普通の浩子さんでした。やっぱり、青山円形劇場でのコンサートに比べると1日だけだし、距離があるし、構成がしっかりしすぎてるし…少しばかり物足りなさは感じてしまいます。とは言っても、毎年浩子さんをナマで見ないと生きている実感がないってくらいで、彼女の声に包まれるのは貴重な一時です。今年の円形には2回行く予定です。


★劇団☆世界一団「ハワイの結婚式」97年10月4日 扇町ミュージアムスクエア

 大阪に行って、その日にある公演を観るということで行き当たった世界一団。実はこの劇団、93年に大阪を訪れた時にも観ていたのでした。その時も面白かった記憶はありますが印象はそれほど強くもなくて、なんとなく覚えのある劇団名だなという程度でしたが…これは拾い物、すごかったです。観客の熱気がぎゅう詰めされた席も懐かしい雰囲気で、小劇場演劇ってこんなに面白かったんだという再確認。こんな楽しさ、この醍醐味、これが好きだったんだなぁ。 このタイトルからどんな内容が想像できるでしょう?良い意味で裏切ってくれる見せ場満載のストーリー、関西ならではのアドリブのノリ、キュートな女優陣。皇室を恐れない精神も…批判にはなっていないんだけど…それでこその小劇場。この芝居のチラシにも大笑いでしたが、作・演出のウォーリー木下氏はちょっとマイナー感覚の天才に違いありません。


★横浜ジャズプロムナード97

10月11日

 5回目を迎えた記念色もあって盛り上がっていた感があります。日頃スポットライトの当たりにくいジャズメンにとって、こうしたイベントが続き発展していくことの喜びは、他のジャンルのミュージシャン以上に嬉しいに違いありません。

 初日はどうしても聴きたいというステージが少なくて、2日間のうち1日だけ行きました。まずはランドマークホールで「JAZZ NOW FROM EUROPE」と題したヨーロッパのミュージシャン中心の5ステージのうちの3つを聴いて、山手ゲーテ座に移動、板橋文夫ライヴを楽しむという綿密なスケジューリング。


☆VESARA(ランドマークホール)

 フィンランドから初来日のバンド。遊び感覚もありメロディもはっきりしていて、聴きやすくて面白い演奏でした。


☆高瀬アキトリオ(ランドマークホール)

 ヨーロッパで活躍するピアノの高瀬アキ、ドイツのバスクラ奏者ルディ・マハール、ベースの井野信義。高瀬はおとなしすぎる印象で、井野の安定したテクニックに魅了されっぱなしでした。


☆ブロッツマン(reeds)&バウアー(tb)&羽野(dr)(ランドマークホール)

 後記する(98年のライヴ)足利で話すことのできた羽野昌二さんがドイツから呼んできた二人とのセッション。3人が真剣勝負で、パワフルに自分をぶつけ合う激しいステージでしたが、歌心が出てこないので聴きにくいところはありました。

 ドイツとかヨーロッパと特に意識して聴いてしまうので、そうした文化的な香りを期待しすぎたことはあったかもしれません。でもヨーロッパからのアーティストは、日頃接することのない感性で新鮮さがありました。


☆板橋文夫「大地の歌・3」(山手ゲーテ座)

 1部が邦楽とバイオリンとのカルテット、2部がベース、ドラムとのトリオでゲストあり、そして3部が特別ゲストの大工哲弘と共に、全員が登場してくるという3部構成。他のミュージシャンは名前だけ書き上げると、竹澤悦子、松田惺山、太田恵資、立花泰彦、小山彰太、酒井俊、三好功郎、片山広明、伊藤征子、芳垣安洋、梅津数時。 第3部の大工哲弘は沖縄の人で、三弦を弾きながら独特の素朴な声で民謡などを歌いました。これが盛り上がりに盛り上がったのは、その場の全員と時を共有する祭のような雰囲気が、彼の魂から込み上げてくるような声によって、ミュージシャンと聴衆に直に伝わったからだと思います。すごく解放感のあるライヴでした。


★スペイン国立バレエ団 (97年10月19日 よこすか芸術劇場)

 フラメンコを加えたバレエで、踊りながらや跳躍しながらでも打ち鳴らされるカスタネットなんて、すごい技でした。中でも、ラストの演目だったボレロのカッコ良さといったら、べジャールの振り付けのものなんかより数倍感動的でした。民族の血、生きることの力強さ…あるいは死との対比の強さでもありますが、色彩の強烈な鮮やかさが心地好い高まりを導き、深い感動を与えてくれるのです。そしてスペインという国が、自分たちの文化としてフラメンコを考え大切に育てているというのがわかります。久しぶりのバレエで、舞踏と比較するところもあって、新鮮な感じでした。


★小松亨「〜からの触手」、国江徹「感じることの学習・集中の学習」(97年11月2日 plan-B) 

 遠いのですが、続けてplan-Bまで行きました。先に演じた石丸魚さんの舞踏「の馬鹿」がかなり衝撃的でした。身重の体で、あまりに激しい動き。見てて怖い感じでした。 国江君は、すごく自然な感じになったように思いました。踊ることが自然になるというのは、すごく羨ましいことです。身体そのものを表現媒体にする…媒体というか、それ自体が主体なのでしょうが…自分ができなかったことだけに、知り合って十何年にもなる彼が続けていてくれるのは特別に嬉しいのでした。


★ミュージカル・ファンタジー「金のおさかな」(97年11月9日 クィーンズスクエア・ロビー) 

 板橋文夫が音楽を担当した子供ミュージカル。横浜・ランドマークタワー横にできたクィーンズスクエアのオープン記念イベントの一環で、館内の広場で行われましたが、けっこう多くのひとが足を止めて観ていました。こんな機会に、多くの人に板橋さんの音楽を知ってもらえるのはいいことだと思います。 さて、私はショウ的なミュージカルって苦手なんですが、この作品は演出等もすごく良くて、子供たちも上手くて、演奏には梅津数時・三好功郎他、実に豪華な一流ジャズメンたちが登場し、板橋サウンドもジャズ的にロック・ポップ的に童謡風にと多彩に展開したのが新鮮で、30分の作品でしたが十分な見応え・聴き応えのあるものでした。ラストの大仕掛けにはびっくりしたし…。 そしてミュージカルの後にはこのメンバーでライヴを行ない、この新しいファッションストリートはさらに盛り上がったのでした。


★ドクトル梅津アコースティックライヴ(井野信義、清水一登)(97年11月23日 ル・クラシック)

 梅津のサックス・井野のベースといえば、いつもは板橋文夫のピアノと組んでのライヴで馴染みなわけですが、この日はピアノがAREPOSの清水さん。いつも板橋さんのピアノで聴いていた曲が、また違ったテイストに生まれ変わって、ミュージシャンの個性の違いや、メンバーによる演奏の変化なんかが新鮮でした。ついでにAREPOSでれいちさんが歌っている曲を清水さんが歌ったのも面白かった。ライヴ自体、トリオ・デュオ・ソロと、各個の魅力が発揮されるように組み立てられていて、楽しくていいライヴでした。ル・クラシックでは生粋のジャズファン以外のひとも多くて、ミュージシャンも聴きやすく工夫するので、一味違った演奏が聴けて好きです。