ライヴ記--1996--

★ニューイヤージャズフェスティバル(96.1.6 新宿厚生年金会館)

新宿PIT−INN創立30年記念のコンサート。まさに日本のジャズを作ってきたライヴハウスのお祝いだけに、参加したミュージシャンの顔ぶれの豪華さは凄いものがありました。ただ、ちょっと改まったよそゆきの雰囲気もあって、山下洋輔や梅津・仙波のユニットなどはメンバーの名前から期待される破茶目茶さはありませんでしたね。中で一番印象に残ったのは、やはり森山威男でした。


★JAZZ&FUSION NIGHT 西島芳&JazzDragons,パンプキンテイスト(96.1.13 ミノヤホール)

大阪は中津のライヴハウス。西島のジャズも良かったのですが、パンプキンテイストはエスニックなムードもある個性的なバンドで、旅先での思い出にもなりました。


★パンクラス「TRUST」(96.1.28 横浜文化体育館)

パンクラスの試合も、旗揚げ当時の秒殺から、技術の攻防で時間切れ判定というケースが多くなってきました。それでもそのストイックな闘いの姿勢は他に比べて際立っているし、緊張感があるから飽きることがありません。船木は相変わらずかっこいいですし。


★谷山浩子コンサート(96.3.3 狛江エコルマホール)

斉藤ネコカルテットがバックで、落ち着いた良い雰囲気のコンサートでした。


★クレヨン社ライヴwith吾郷三木生(TAKE7)

クレヨン社、3年ぶりのライヴだそうですが、私としては89年の初ホールコンサート以来、2度目。曲のイメージはできあがっているのですが、飽きのこないバンドの一つです。気持ち良く盛り上がったライヴでした。前座という感じで前に出た吾郷は、ちょっとアイドルフォーク系のソロシンガーで、アンケートに答えたら返事の葉書が来て、応援してあげたくなりました。


★板橋文夫&TOYライヴ(96.5.4 エアジン)

立花泰彦のベース、芳垣安洋のドラム、板橋のピアノをバックに太田恵資のバイオリンが朗々と唄い上げていく日本の歌。子供の日(イヴ)ライヴは心地好かったです。


★さねよしいさこコンサート(96.5.11 青山円形劇場)

初めて生で見たさねよしいさこ。天才シンガーとは思っていましたが、あの奔放な歌い方は…衝撃的でした。しかし歌を心から愛していて、歌うことが自己のすべてというような全霊での歌い方は、このひとならでは。とても開放的な気分になれるコンサートでした。


★AREPOSライヴ(96.6.9 南青山マンダラ)

久し振りに行けば、新曲もあったし、ビートルズあり、ブルースありで、極楽でした。


★自転車キンクリート公演「蠅取り紙」(96.7.6 スペースゼロ)

急に代理で観に行った芝居で、派手でもなく長い作品でしたが、退屈もしないで面白かったです。いろんな人間の生き方が丁寧に描かれていて、なんか身につまされる感じもありました。芝居らしい芝居は久し振りだったので、舞台ならではの演出にどきっとしたり、新鮮さもありました。


★パンクラス(96.9.7 東京ベイNKホール)

この日、会場に集まったほとんどすべての人達が期待したこと…それは船木誠勝がチャンピオンベルトを腰に巻いた姿を見ることでした。彼は一生に一度しかベルトに挑戦しないと公言していて、それがこの日だったのです。果たしてその試合は、期待をはるかに上回る凄まじいものでした。そして関節技を凌ぎ切った最強の王者バス・ルッテンの、強烈な打撃技に、船木は何度もダウンしては立ち上がり、立ち上がり…しかし壮絶に散ったのでした。

血を流し顔を腫れ上がらせ、痛々しい敗者の姿…それでもなお、輝きを失わず「生き続けること」を泣きながらも力強く宣言した船木は、やはり最高にかっこいい男なのです。


★国江徹舞踏(96.10.2 磔川公園内)

屋外の様々な場所やフェスティバルなど、精力的に自分の踊りを追及している国江くん、新しい試みは若い即興音楽家の高橋琢哉さん(ギター)とのデュオ。この日は後楽園駅上の公園で行ったパフォーマンス。いろんなひとが通る屋外の公共スペースで、演者は二人、そして観客も二人。舞踏手と演奏手という役割分担的なパフォーマンスでなく、お互いの新たな関係性を模索していくといった感じで興味深いものでした。ただ、テクニックを「見せる」部分がもう少しあると、面白さが出たのでしょうが…。大きなハプニングというのはなかったですが、周りのひとの反応や、その場の様々な音や風や光が、非日常の世界を作り上げていくものです。

ハプニングと言えば、終わった後にその公園のベンチで、高橋さん持参の地酒を4人で飲みながらいろんな話をしたのが面白くて、そこにその公園に住んでいるホームレスのおじさんが加わり、酔っ払いの女性が加わり…で、私にとってはまったく初めての刺激的な夜となったのでした。国江くんにはいつも刺激をもらってて、感謝です。


★横浜ジャズプロムナード96(96.10月12日)

4年目の今年も、2日間をめいっぱい楽しみました。ほんと、横浜に行くなら、この時に行かなくちゃ損ですよ。 


☆シャクシャイン(県民小ホール)

今年のオープニングは梅津数時で、前日にロシアから帰ってきたという梅津は腰を痛めていましたが、かっこよく一気に勢いを付けられました。ただ、一番手は準備に時間がかかるので予定よりライヴ時間が短くなってしまうのが残念です。


☆市川秀男&斉藤ネコ(イギリス館)

会場は「港の見える丘公園」に建つ観光名所の洋館で、庭から差し込む午後の陽光は優しく、市川のピアノとネコのバイオリンのハーモニーが眠気を誘うほどに心地好いライヴでした。


☆小山彰太「一期一会」(イギリス館)

陽が傾きはじめたところで、今度はハードなジャズ。小山のドラムのすぐ前で聴けて、ハートを熱くしてもらえました。


☆板橋文夫の世界「大地の歌3」with TOY(ランドマークホール)

昨年に続いてメインの企画となった板橋文夫。今年はTOYの3人と、邦楽器の演奏家たちを交えてのセッションでしたが、これまで数多く聴いてきた板橋文夫のライヴの中でも、最高の部類に入るほど、熱くてバラエティーに富みながらもまとまったステージでした。


★横浜ジャズプロムナード96(96.10月13日)

☆ドラマーズ(ドックヤードガーデン)

昼一から見る予定だったワークショップの開始が遅れたので、青空会場でしばし休憩。名だたるロックバンドのドラマーたちが集まって、タイコを叩きまくる…ならもっと面白いのでしょうが、それでは音楽にならないので、決められた楽譜で単調なビート、手順通りの演奏は、ジャズファンとしてはちょっと物足りない感じです。


☆ワークショップ「NEW MUSIC ACTION」(ランドマークホール)

今度、私と一緒に即興をやろうと言ってくれたひとが参加すると言うので見に行ったのですが、さて、これが面白かったのです。誰でも参加できるということだからもっと易しい感じかと思ってたら、参加者はみんな、もう自分を出しまくる演奏者ばかりで、圧倒されてしまいました。いろんな楽器や機材を感性からの発想次第でマニュアル外に使っていくのも、大変勉強になりました。初めての参加者が自己紹介代わりに演ったソロ演奏まで聴いて、別の会場に移ってしまったのですが、この後、多数の参加者がいろんなユニットで即興していったはずで、やはりそれを聴くべきだったと後で後悔しました。


☆ケシャバン&金井英人(県民小ホール)

後悔しても聴きたかったのが、こちらの会場で続くプロの即興でした。マフィアのようなケシャバンは昨年、仙人のような金井は一昨年のこのイベントで聴いて惚れ込んだので、二人がどんな風に合わせるのか興味深かったのです。これにターンテーブルの第一人者、大友良秀も加わり、まさに即興という演奏で面白かった…けれど、ノイジーな音は聴きやすくはなく、辛さもあった、というのが正直なところです。


☆ロイ・キャンベル&豊住芳三郎(県民小ホール)

これもフリージャズということでしたが、とてもアメリカンなジャズのスタイルを踏んでいるものでした。聴きやすいけれど、面白味は少ないです。


☆ジョエル・レアンドレ&斉藤徹(県民小ホール)

斉藤が連れてきたフランスの女性とのデュオということで、DMが送られてきたときから興味がありました。男女ふたりが2台のウッドベースを使って絡み合うように演奏する姿は、遊んでいるみたいで楽しかったり、喧嘩しているみたいに緊張したりと、とても感情的なステージだったと思います。

でもやっぱり世界の一流ミュージシャン同志よりもアマチュアのワークショップの方が面白かったんじゃないかな、と思うのは…なぜなんでしょうね。


★谷山浩子・101人コンサートスペシャル (96.11.19 青山円形劇場)

昨年は大ホールだけだったので、2年ぶりとなります円形劇場コンサート。今年はゲストプロデューサーを招いて、いつもとは違った選曲・構成にするという試みをしていました。

この日は漫画家の楠桂がプロデュース。彼女の作品を読んだことはないのですが、ホラー系の作家らしく、怖くて暗めの曲ばかりが集まっていました。照明等もどっぷりとした演出で、聴いて心がすっきりという感じにはなりませんでしたが、じっくりと歌を聴いた、という手応えは大きかったように思います。ゲストミュージシャンは斉藤ネコでした。


★谷山浩子・101人コンサートスペシャル (96.11.22 青山円形劇場)

この日のプロデュースは童話作家のあまんきみこ、ゲストミュージシャンはバカボン鈴木。あまんさんの作品も読んだことはないのですが、しゃべりかたにしてもおっとりとしていて、童心を持ち続けているひとだということがありありとわかります。そんなひとの選曲ですので、自然とほっとするような歌が集まりました。出演者全員が終始優しい表情だったのが印象的でした。

このあともう2プログラムあって、Cプロがなんとお客さんプロデュースのオールリクエスト大会ということですが、行けません。次の綾辻行人プロデュースのDプロには行きます。これは次号にて報告。なんにしても、私にとって谷山浩子のコンサートは、年に一度か二度のごちそうなんです。


★谷山浩子・101人コンサートスペシャル (96.12.1 青山円形劇場)

 前の号の続きになりますが、この日のプログラムは、綾辻行人プロデュースで、全12日間の公演の最終日でもありました。3回行ったこの年のコンサートの中で、一番印象深い内容だったのは、綾辻の暗い趣味もあるけれど、さすがミステリー作家、構成力も抜群だったからです。谷山浩子への愛情の深さも伝わってきたし。特に「鳥は鳥に」をみんなで合唱したのは、すごく気持ちの良い演出でした。最終日なので、アンコール後の再アンコールにも応えてくれて、谷山週間を満喫しきった101人コンサートでありました。


★大駱駝艦・天賦典式「死者の書96」(96.12.22 浅草公会堂)

 当時つばめ通信に書くのを忘れていたので、2年経ってから思いだそうとしていますが、舞台上の巨大な天秤がぐるっと回って観客の頭上で踊ったシーンを一番よく覚えています。水が散って、少し濡れたから…。白虎社が解散したあとこんな大掛かりなセットを使う舞踏集団はないので、スペクタクルな感動を得るには良いです。グロテスクで美しい、アンバランスな魅力ですね。