ライヴ記--1995--

★AREPOS・ライヴ(95.1.16、南青山マンダラ)

この日、渡辺等が身内の不幸で急遽参加できなくなったため、久し振りに二人だけの純正AREPOS。3人目がいなくなったことで、余計にリラックスした感じの素敵なライヴでした。この日は雑誌取材も入っていて、アサヒグラフに記事が掲載されたので転載しようと思ったら、どこかに行ってしまって…


★向井滋春カルテット・ライヴ(95.1.22、ル・クラシック)

藤沢ル・クラシックでのライヴシリーズに行くのは2度目、向井滋春は始めて。とは言っても、世界的なトロンボーンプレイヤーの向井は、板橋文夫や大西順子などを従えて演奏してきたひとなので、CDなどでは聴いていました。さすがに実力者、安定した演奏で聴く者をリラックスさせたり緊張させたり、大いに楽しませてくれました。


★山下洋輔ソロ・ライヴ(95.2.18、ル・クラシック)

ル・クラシックのコンサート50回目記念というわけで、大物の登場。さすがに会場いっぱいに詰め掛けたファンで、いつもとは雰囲気が違っていました。山下洋輔ファンは、おばさんが多い…。

ソロということで気さくな感じの、しかしパワフルで熱い演奏を聴かせてくれました。文筆家でもある彼のワールドワイドなトークも楽しいし、素敵な時間を演出してくれたのですが、私はといえば、会場の端の席で必死に咳を耐えていたのでした。


★田中泯舞踏「春の祭典」(95.3.4、湘南台文化センター市民ホール)

田中泯は、舞踏を代表する踊り手のひとりですが、実際に公演を観たのはこれが始めて。クレーン車に吊るされた巨大な板が、湘南台の無機的で特殊なホール空間を自在に切り分け、高さ広さ、光と陰を演出していく完成された刺激的な舞踏を観せてくれました。現代舞踊の原点とも言うべき春の祭典を題材に、人間の生と死を見詰めさせてくれるような深い舞台でした。


★ポリー・フェルマン ピアノリサイタル(95.3.9、銀座ラ・ポーラ)

主にアルゼンチンタンゴを中心に、南米の作曲家の曲を弾いた彼女は、駐日アルゼンチン大使夫人だということで、大使なんていう人も初めて間近に見ました。ラテン好きの私、そして最近では板橋文夫と斎藤徹が演奏しているピアソラの曲もやって、楽しめたプログラムでした。


★本田竹廣トリオ(95.3.25、ル・クラシック)

ベテランの味というか、ジャズピアノの落ち着いた、そして素直に楽しませてくれる演奏を聴かせてくれました。オーソドックスなトリオ編成も良いムードで、ル・クラシックの雰囲気にぴったりだったかもしれません。


★森山威男セッション(95.3.31、新宿PIT−INN)

ベテランと言っても、この人は熱い! かつてまだ少年のあどけなささえ残る頃、山下洋輔トリオに参加、天才ドラマーと言われたようで、当時のライヴアルバムも聴いていましたが、さらにパワーアップしている感じです。ピアノの板橋やサックスの林栄一など、共演者を煽り盛り立てながら、自身の全てを燃やし尽くしていくようなドラムは、大きな感動を与えてくれました。本当に素敵な一夜となりました。


★梅津数時セッション(95.4.23、ル・クラシック)

ロッド・ウイリアムスのピアノ、三好功郎のギターというトリオでのセッション。梅津はずいぶんと生で聴いてきましたが、彼がリーダーシップを取ってのセッションというのは初めてだったかもしれません。とにかく、どんなジャンルでもこなす梅津数時の音楽家としての度量と、エンタテイナーとしての器量が全面に出た、ジャズの面白さ満開のライヴでした。マイクなしの生音でありながら、その迫力は血を湧かせてくれます。


★板橋文夫・MIX DYNAMITE ライヴ(95.5.6 エアジン)

ベース井野信義、ドラム小山彰太と一番手の合うトリオでの演奏だけに、スリリングさとリラックスさが微妙なバランスなのと、やはり狭く汚いエアジン独特の雰囲気がさらに心地良さを引き立てて、まさにジャズを聴いた、という満足感を与えてくれたライヴでした。MIX DYNAMITEとしてのライヴは1年以上ぶりだったので、レパートリーが変わっていて新鮮でもありました。


★板橋文夫ライヴ「バチワッチャイマシタ」(95.5.27 ル・クラシック)

続いての板橋ですが、この日は邦楽のミュージシャンたちとのセッションで、自ら習い始めたばかりという三味線まで弾くという、楽しいライヴでした。ピアノという西洋楽器を使いながらも日本やアジアという世界にこだわって音楽活動をする板橋が、邦楽器に目を向けるのはむしろ当然のことでしょう。また新たな音楽世界を開き始めた彼の意欲的な姿からは、熱いエネルギーを受け取ることができました。


★AREPOSライヴ(95.6.12 南青山マンダラ)

毎度おなじみのライヴですが、新しいCD発売記念のこの日はゲストにバイオリンの向島ゆりこを迎えてひとつ違ったスパイスを効かせてみせてくれました。


★維新派ライヴ「BABEL」(95.6.13 なかのZERO大ホール)

ジャンジャンオペラという独自の舞台を作る維新派が、初のCDを発売した機に行った“コンサート”。もちろん歌うだけでなく、鉄骨の櫓が組まれた多層的な舞台上で、その曲が使われた芝居のシーンをアレンジしたダンスパフォーマンスがあっての、いわば“ショウ”という感じのステージ。その視覚・聴覚に訴えかけて浮揚するような快感は、アメリカ的な“ショウ”なんて足元にも及ばない、日本文化の新たな結晶だと思ったくらいに感性に“魅せる”ものでした。


★梅津数時 The Great Improvisation Act 2(95.7.5 新宿PIT−INN)

アメリカのフリージャズ系ミュージシャン4人トム・コラ、サム・ベネット、ウエイン・ホービッツ、マーク・リボー…に、ゲストの日本人2人…清水一登、佐藤通弘…を加え、いろいろな組み合わせ編成での即興演奏を試みた刺激的なライヴ。アメリカ人のフリージャズはどうも感性が違う感じであまり聴かないのですが、彼等が日本のミュージシャンと絡んだ時には、文化がぶつかり合うようなスリルがあってとても面白くなります。これだけのメンバーをアレンジしていく梅津の手腕の偉大さも見事ですが、特にコラのチェロと佐藤の津軽三味線のデュオ、なんていうのは最高に素敵な組み合わせでした。


★AREPOSライヴ(95.8.14 南青山マンダラ)

いつも通りの渡辺等を入れた3人でのライヴだけど旅行記にも書いた通り、宮沢賢治記念館を訪ねる直前に聴いた「ポランの広場」は印象に残っています。透明で世界に対する優しさに溢れているアレポソングは、どんな時にも心に響かせておきたい歌です。


★パンクラス「EYES OF BEAST」(95.9.1 日本武道館)

この日のメインは、チャンピオン鈴木の初防衛戦でした。挑戦者はオランダのキックボクサーからこのリングでトータルファイターに変身してきたバス・ルッテン。鈴木絶対有利の予想の中、寝技でもひけをとらない動きを見せたルッテンが逆転勝ちしたのですが、その瞬間は、観客全員が勝負の厳しさを知った瞬間だったはずです。それでも新チャンピオン誕生の歓声の大きさは、この団体の在り方自体へのファンの支持の熱さだったのでしょう。私も胸が熱く興奮しました。真剣勝負は、最高の自己表現だから…。


★新星日響定期演奏会(95.9.14サントリーホール)

フルオーケストラの演奏なんて、高校生の時にチェコフィルを聴きに行って以来。最近はジャズばかりの自分にとっては、ものすごく新鮮でしたし、日本のオーケストラの目に見える進歩も感じました。曲目はハイドンの「王妃」、吉松隆の「天馬効果」、リムスキー・コルサコフの「シェエラザード」で妙な取り合わせと思いましたが、一つのファンタスティックな流れになっていました。目玉は山下和仁ギターの天馬〜で、とても美しく熱く、魅惑的な演奏でした。ただ私は、日本人の奏でるシェエラ〜がいろんな意味で面白かった。自分がいかにロシアの文化に心酔し、感性を育ててきたか、なんてことが浮き彫りになった気がしたから。


◎横濱ジャズ・プロムナード(95.10.7)

★コンペティション・本選(ランドマークホール)

★SADATO(ドックヤードガーデン)

3年目のジャズプロ、一日目はチケットを買わずに、ただで見れるものを聴きました。コンペはうまいバンドもありましたが、やはりちょっと迫力も面白味も足りない感じ。イラン人のSADATOは、ノリの悪い聴衆にいらつき気味でしたが、寒い屋外で一般聴衆相手にやるには難しい音楽だったように思います。


◎横濱ジャズ・プロムナード(95.10.8)

★U−Project(ランドマークホール)

女性リーダーのオリジナルジャズでつまらなくはないけれどインパクトはもう一つ、でした。


★板橋文夫の世界〜大地の歌〜(ランドマークホール)

今年のメイン企画はついに板橋。彼のいろんなセッションのメンバーが一同に会し、4部構成で広い板橋ワールドが一度に聴けてしまうボリューム感のある大コンサートでした。長丁場で疲れながらも、その分テンションはどんどん高くなっていって、すごい演奏でした。ただ、イベント用に各曲の演奏時間は短くしてあるので、演奏者個々の本当の魅力という点では、少し物足りなくはなります。これがフェスティバルの欠点でもあります。


★三吉ポンタUnit(TOHRYUMON)

三好功のギター、村上秀一のドラム。文句なしの一級品テクニック…面白さはないのですが。


★ケシャバン&森山&クリョーヒン(TOHRYUMON)ロシアの天才ピアニスト、セルゲイ・クリョーヒン、ついに登場。共演が伝説の天才ドラマー、森山威男とアメリカのサックスプレイヤー、ケシャバン。国・文化も違えば、演奏スタイルもまったく違う、しかも青二才風と、ひとのいいおじさんと、マフィアのボス的な風貌の3人。実に個性的なユニットになったものです。この3人が相手に媚びることもなく、しかし喧嘩することもなく、自由に演奏しながら合わせていくところに、まさにジャズならではの面白さがありました。それにしてもクリョーヒンのロシアの感性は、最高だぁ。
★維新派公演「青空」(95.10.14 湘南台文化センター)この日、会場の音響施設が壊れて、音楽がぶつぶつ途切れてしまって、舞台に集中できなかった…あああ、せっかくの大好きな維新派なのに残念でした。
★谷山浩子コンサート「漂流楽団」(95.11.4オーチャードホール)

大ホールでのコンサートということで、構成もしっかり、万事抜かり無しという感じでじっくり聴かせてもらえます。小さなホールの時よりもミュージシャンとしての実力ってものを強く感じましたが、彼女ならではの身近さは薄くなってしまいますね。


★国江徹ソロ独舞(95.12. 稲毛海岸)

日がわからなくなっていますが、12月だけどとても天気の良い、暖かな日でした。でも砂浜で、ほぼ全裸で少ない動きで舞うには寒かったでしょう。しかしそこに極限的な緊張感が生まれて、白昼の海岸に特別な空間を現出させていたと思います。国江くんは屋外のいろんな場所で独舞をしていますが、都合が合わずにまだこの時しか観ていません。それでも自分の知り合いが独自の舞踏を確実に生み出している姿を見ると、すごく嬉しい気持ちです。