ライヴ記--1993--

★AREPOSライヴ(93.2.3、マンダラ2)

 吉祥寺は遠いけれど、AREPOSのライヴなら行かないわけにはいきません。今回はゲストもなく、いつものリラックスして落ち着いた演奏。れいちさんの声はやはり心地好く、草原を吹き抜ける風のよう。清水一登のピアノは自由自在、今回はノリ捲ってロックンロールを歌ったりもしました。AREPOSのライヴは、私の大切な時間、という感じです。


★カンパニー・プレルジョカージュ公演「ある関係」「婚礼」(93.2.4、シアター・コクーン)

 2年ぶり来日のフランスのダンスカンパニー、前回の公演は衝撃的でしたが、今回は面白い、という印象でした。とにかくなんでこんなに面白いのだろう、というダンス。「ある関係」は男性二人のダンスでしたが、同性愛的心理描写が絶妙で面白い。「婚礼」は男女入り乱れての、春の祭典的な内容。躍動感が凄くて、激しくて、見ていて爽快でした。またの来日が楽しみです。


★板橋文夫・スーパーライヴ(93.2.6、エアジン)

 最高に激しいジャズを聴かせてくれる板橋のピアノは、癖になってしまいます。今回はドラムが小山彰太で、エネルギーも倍増という感じ。そのドラムの真ん前で聴いていたので、彼の気をモロに浴びていました。まったく、ここでハードジャズを聴きながら飲む酒は、本当に美味しいです。

☆と、以上の3つは、わずか4日間に行ったもの。この後の4つは、HARUMI演劇祭での公演です。晴海に建てたドームを会場に、実力派の4団体が1週間くらいずつ公演を行ったもので、私は4劇団の通し券を買って観に行ったのでした。


★新宿梁山泊公演「少女都市からの呼び声」(93.3.14、HARUMIドーム21)

 名前だけはよく聞きながら、観たことのなかった梁山泊。この公演は唐十郎の戯曲でした。役者陣の力強さと暗い雰囲気の舞台は、「アングラ劇」の面白さを味わわせてくれました。が、どうも今一つ乗り切れないものがありました。セリフやテンポ、場面転換、そんなものがしっくり来なかったような気がします。コミカルな内容ではない分、それでも伝わってはきましたが、ちょっと想像とは違う劇団だったという印象です。


★第3エロチカ公演「タイタスの肉屋」(93.3.20、ドーム21)

 こちらも有名ながら観たことのなかった劇団で、シェイクスピアの「タイタス・アンドロニカス」が原作の芝居。原作を知らないのは残念でしたが、とにかくそのドロドロとした人間関係を暗く激しく暴力的に描いた舞台は、力強くて圧倒的でした。観ていて気持ちが寒々として来るのです。精神的にも生理的にもゾクゾクさせる刺激的な世界でした。


★維新派公演「ノスタルジア−僕ラハ、歩ク機械ニナッテ−」(93.3.25、ドーム21)

 昨秋、少年王者舘の名古屋野外公演で協力出演していた維新派。その後ビデオで彼らの公演を観て、すでにファンとなっていたのですが、やはり生はまた違う味わいでした。音楽も生で、しかもパーカッションのすぐ前の席で観ることができ、迫力も倍増。ヂャンヂャン☆オペラと言う維新派のスタイルは、無機質な言葉を羅列していく、音楽的な世界です。また、舞台を幾何学的に歩き回る役者達は、やけに似ていて個性的。役者と共に動き回る大きな舞台セットは、美術的な世界。五感に間断なく、隙間なく押し寄せる刺激の波の中で、ノスタルジアの世界に引き込まれてしまうのでした。今度は、彼ら本来の持ち味である、大野外劇を観たいと待ち望むのです。


★大駱駝艦・天賦典式「雨月−昇天する地獄−」(93.4.5、ドーム21)

 麿赤児率いる大駱駝艦の本公演は、89年夏に津島市の公園の水上舞台で観て以来。暗黒舞踏の老舗ではありますが、今回の新作にしても意欲的にパワフルでフレッシュな世界を造り上げていました。日本的なジメジメと暗いものが、古代から現代までの時間軸を超越して表現されていた感じがします。前半の静かな動きでは眠気も誘われましたが、中盤から後半にかけての圧倒的な盛り上がりには、すっかり興奮させられました。ラストシーンに至っては、その舞台演出も含めて圧巻! 私の好きな白虎社の、品の悪いスペクタクル性ともまた違った、精神的なスペクタクルが劇的でした。


★辛島文雄セッション(93.5.4 エアジン)

 辛島は日本のジャズシーンをリードしてきた有名なピアニストのひとりですが、まともに聴くのはこのライヴが初めて。あまり遊ばなかったGWの、唯一の娯楽として出掛けて行きましたが、普段ハードなジャズを聴いてる分、物足りないなぁという感じが残りました。安定したスイング感のある、良い演奏なんですけどね。


★『ブリキノマチノ真夏の夜の夢』(93.5.18 シアターコクーン) 

 昨年はバリ島版の上演を見た、コクーン恒例の「真夏の夜の夢」、今年は大好きな“ブリキの自発団”中心の公演ということで、楽しみにして行きました。しかし悲しいかな、仕事の都合で少し遅れ、最初の仕掛けを見れなかった…。それが最後まで響いてしまい、一つ掴み切れぬ間に終わってしまって…シェークスピアの劇はモチーフとして使っただけで、別物の芝居だったのです。…後日BSで放映されたのを録画したので、ゆっくり見直さなければなりません。 そんなわけで、『真夏の夜の夢』としては昨年の不思議で重厚な演出の方が見応えがあり、拍子抜けしてしまったのは仕方ないところでしょうか。コメディタッチの演出は面白かったですが。


★少女童話『オカルト』(93.5.29 アール・コリン) 

 昨年は写真展とビデオ上映だったので、芝居は久し振りの少女童話。けれどそんな時間を感じなかったのは、やはり毎回欠かさず観ている想い入れの強さかもしれません。さてその芝居ですが、旗揚げ公演以来の良い出来で、非常に楽しめました。タイトル通りの恐怖シーンは十分に怖い演出でしたし、美女は美女らしく、美男子は美男子らしく、猫は猫らしく、吸血鬼は妖しく…そしてちょっとぞくっとするロマン。小劇場演劇の面白さを久々に味わわせてくれた舞台でした。


★板橋文夫セッション(93.5.29 新宿PIT−INN)

 日本のモダンジャズの中心地と言えば、ここ。1年ほど前に移転したとはいえ初めて名門ライヴハウスで聴くことが出来、ちょっと興奮気味でしたが、演奏はもっともっとエキサイティング。板橋文夫が新しい自主レーベルから4枚同時にライヴアルバムを出したのを記念してのライヴで、他に梅津和時sax小山彰太dms井野信義basの最高のセッションメンバー、さらにゲストとして老クラリネット奏者の井上敬三、サックスの片山広明を加え、実に贅沢にして迫力とスリルのある、そしてバラエティに富んだ面白さのあるライヴでした。ただ、新宿で夜11時過ぎまでやられると、深夜バスにも間に合わないのが辛い…。(セッションメンバーの違う4枚のCDは、どれも個性的な魅力が一杯でした。)


★AREPOSライヴ(93.6.9 マンダラ2)

 このところ欠かさずに聴きに行ってますが、れいちさんの歌と清水一登のピアノのハーモニーを一度でも聞き逃すのは、損だって気がしてしまいます。今回はまた渡辺等がゲストで参加していてサウンドも厚かったのですが、さらに嬉しいことには、久し振りにれいちさんのドラムが聴けたこと。全身で跳ねるように太鼓を叩きながら歌うれいちさんは、一番魅力的なんです。


★プロ野球・ヤクルトvs阪神(93.6.15 神宮球場)

 4年振りくらいかな、神宮球場は。しかも、バックネット裏! 今年も快調に走る我がスワローズですが、たまたまこの日は完敗で……残念でしたが、こんな日もあるさって言えるのは、他の球団のファンの人には申し訳ないけど、余裕だな、っと。負けてたって、球場で飲むビールは美味しいんだ。


★シューティング(93.6.24 後楽園ホール)

 ほぼ1年ぶりの試合観戦は、初の国際試合。佐山サトルの創始したシューティングと提携したのは、ブルース・リーがアメリカで始めた総合格闘技、ジークン道。今回来日の2人は出演映画も多数という、格好良い選手達でした。そして、期待をはるかに上回る強さ。 対抗戦とは言っても殺伐とした雰囲気ではなく、とても友好的な中で闘志をぶつけ合うファイトになり、結果も含めて感動的な試合が展開されました。シューティングの素晴らしい未来への、新たな一歩に立ち会えた感じがします。しかも、リングから3列目のド迫力の席で、ね。


★遊◎機械全自動シアター『オー・マイ・パパ』(93.7.11 銀座博品館劇場)

 高泉淳子の作・主演の物語、音楽をバイオリンの中西俊博が担当してのミュージカル作品。小劇場演劇の雄、遊◎機械の世界と、ミュージカルという極めてエンターテイメント性の高い表現手段の合体は、なかなかに独特の味があって楽しい舞台になりました。 から元気の中でとても寂しさの漂うテーマの芝居を、その方向で演出していった音楽が印象的。中西をはじめとする楽隊の、演奏だけでなく不思議な魅力の演技もあって、役者たちの個性まで一段と輝いていたように思います。非常にJAZZYな作品で、素敵でした。


★孤 宴(93.7.11 キャラメル)

 知り合いの国江くんが出る、舞踏公演。出演は二人で、もう一人は白人女性でした。そのせいもあって、狭い客席の半分は外国人という、日本とは思えない面白い雰囲気の中での舞台となったのですが(六本木だったし)、そこでの国江くんのパフォーマンスには、従来の舞踏表現を一歩越えるような、独自のアプローチが感じられました。 感じた、という前に、音楽を使わず自ら本を朗読したテープで踊るなんてことは、誰が見たって新しいことです。しかしそれは目新しさを狙ったわけではなく、まさしく彼らしい表現、彼が探している表現(あるいは生き方)であるわけです。 それが舞踏として成功だったかどうかは別として、普段から自分自身の生き方を鋭い感性で見詰めている彼が、かなり純粋に手に入れた形ではなかったかと思いました。


★レオ・スミス ライヴ(93.7.24 エアジン)

 フリージャズのセッション。スミスは、色々な楽器を鳴らしていました。何が本職だったのだろう…トランペットだったかな? 打楽器や琴まで弾いていたので、よくわからないのでした。 私は、共演した津軽三味線の佐藤通弘の演奏が楽しみだったのです。以前に2度ほど聴いたことがあったので。ただ今回のフリーセッションでは、津軽三味線の醍醐味が出なくて、少しがっかり。セッションも緊張感はあったものの、音楽的なまとまりという点ではちょっと散漫な感もありました。けど、それもジャズの面白さです。


★谷山浩子コンサート「天空歌集」(93.7.26 オーチャードホール)

 大ホールでのコンサートは、しっかりした構成で彼女の歌を魅力いっぱいに聴かせてくれます。なにせ自分自身で作った持ち歌の多さは、18年のキャリアの賜物。それなのに、知名度ほどのヒット曲が無い人でもあります。それだけにコンサートでの演奏曲も、何が出るか分からないという楽しみ。旧くて地味で、だけど大好きな曲をやってくれた時には、本当に嬉しい気持ちになるし、今回もそんな歌が何曲もありました。 このコンサートでのパンフレットに、谷山浩子の生まれてからの年譜が載っていて、これはファンにとっては貴重だと、喜びました。


★孤宴・舞踏遊祇(93.8.8 キャラメル)

 7月に続いて、国江くんの出演する舞踏公演。見た目では前回と大きく違った感じはしませんでしたが、手紙でもらった彼自身の言葉からは、一歩ずつ前進の手応えを感じているようです。実際、舞踏家としての才能というか、舞台上での存在感は非常にあるので、今後、自身の踊りに観る者をどう引き込むか、だと思います。 知人だから、ということだけでなく、一人の表現者としての国江くんの姿には、今後も注目していきたいな、と思うのでした。


★板橋文夫 ライヴ(93.8.28 新宿PIT−INN)

 このところ毎回、この通信を作る度に登場している板橋文夫ですが、今の私にパワーを与えてくれる存在として、彼のライヴには定期的にいかなくてはならないって感じになっています。今回も最強メンバー、小山ds、井野b、梅津、片山saxの5人。涼しい夏の終り頃ではありましたが、このライヴは真夏のような熱さでした。 このメンバーだと、梅津和時と片山広明という、まったくタイプの違うサックス奏者のバトルが一つの見所になります。この二人は共に、非常にエンタテイナーな面があるのですが、必ずしも息が合っていないところが面白いのです。相手の裏をかきあい、意地悪しながらコミュニケートしていく…そんな展開をあとの3人は、楽しみながら演っつている感じで楽しい。もちろん、誰もが自分自身を思いっきり表現していく、その姿の魅力があってこそですが。 板橋文夫は、飽きることがありません。


★世界一団「大列車強盗´93」(93.9.11 オレンジルーム)

 大阪の劇団はどこか違う感じがします。そして、大阪の劇場で観ると、お客さんの雰囲気も違うと思います。共に、楽しませよう、楽しもうという気持ちが強いのかもしれません。そこが面白くもあり、ちょっと馴染めなかったりもするのですが…。

 この芝居は、サスペンス仕立てがしっかり構成されているストーリーで、展開の先も読ませず、十分に楽しめるものでした。列車という限定されていながら移動するという空間の設定が、緊張感を高めていました。

 ただ見ている時は、役者陣のキャラクター作りがかなりくどいな…という感が強くありました。しかしその分、後で時間が経っても、印象に強く残ってます。特に、オカマの役の人は強烈でした。


★谷山浩子「101人コンサート・スペシャル」(93.9.18、25 青山円形劇場)

 6年連続、恒例の円形劇場コンサートは、今年も2回聴きに行きました。

 まずはAプログラムの日。ゲストは女性3人のコーラス隊「アドミラブル」、とても透き通った美しい声が、心地好く谷山世界を広げてくれました。初めて英語の歌を聴かせてくれたのが、ビートルズ・ナンバー。私など、本物の英語にはあまり馴染みがないので、彼女の英語はとても聴きやすくて良かったと思ったのですが…。

 次はCプログラムの日。ゲストはフルート他、笛の旭孝。笛の音は谷山浩子の世界にとても合うと思うのですが、私も笛を吹くので、目の前で吹いていられるとどうも余計なことが気になり過ぎてしまうのでした。笛も歌も、息で音を出すものですから、表現が似ているってこともあります。 それにしても浩子さんのコンサートは、聴かせてくれて楽しませてくれて、大切なことを教えてくれるような、素敵な時間を演出してくれるのです。自分自身の存在を愛し、世界を愛せるひとだから……。


★プロ・シューティング「第一回オープン・トーナメント」(93.9.30 後楽園ホール)

 格闘技マニアの私が、特に注目して見に行っているシューティンクですが、今回初めて、他の格闘技の選手を招いて開いたトーナメント戦。しかし残念ながら、プロの選手として厳しい戦いを経験してきているシューターと、総合格闘技を目指していてもアマチュアレベルの選手達との実力差は大きくて、結局はシューティングのチャンピオン、ランカー達が残ってしまいました。その試合は面白かったのですが、でも敗れた選手達も印象に残ります。 敗戦後、私服に着替えて会場の後ろから決勝戦を見ていた彼らの貌には、とても柔らかな表情がありました。そこには当然、無念さと脱力感もあるのですが、言わば命を賭けて闘った人間だけが持つことの出来る魅力とでも言うのかな、それが感じられたのです。特に一人、試合と試合後の姿が心に残っている選手がいて、彼を見れたことでも行って良かったと思うのでした。私もまた体を鍛え直そうと、強く思いました。


◎横濱ジャズ・プロムナード'93 (93.10.9)

 横浜の中心地一帯を舞台に2日間開催された、ジャズフェスティバル。桜木町から関内、石川町辺りまでの港を中心とした地区にあるホールやライヴハウス、駅前や公園などを会場にして、盛大に執り行なわれました。 この特徴は、入場券代わりのバッヂを付けていれば、どの会場にも自由に出入りできるということ。全会場で行われるライヴのタイムスケジュールと地図の載っているプログラムを頼りに、自分の聴きたいミュージシャン、演奏を選んで会場に行けるシステムなのです。 そのプログラムも、演奏のジャンルまで書かれているので、ジャズとは言ってもいろんなスタイルがある中、ミュージシャン自体を知らなくても、自分の好み(に近い)のライヴを探しやすいという優れ物でした。 もう一つの特徴は、参加したミュージシャンの顔ぶれ。よその大きなジャズフェスと違い、日本人中心の人選というのが、私にはとても嬉しいものでした。それも世界的に活躍している大物から若手まで、実力者・個性派が多いのも特徴でしょう。やはり、ライヴハウスのオーナー達が中心になって実行しているだけあるな、という感じです。

 そんなジャズフェスの1日、私はプログラム片手に市内を走り回ることになりました。


★13:00 熊坂明&ラグタイム・アンサンブル(開港記念館)

 ジャズ・プロムナードのオープニングを飾ったのは、ジヤズ史を紐解くようなラグタイムの演奏から。しかも会場が歴史的建造物、煉瓦造りの開港記念館ホール。ムードと演出は最高でしたが、開演が40分も遅れてしまっては、後の行動に響いてしまうではないか! と、やきもきしながら聴いていた演奏は、気持ちとは逆に退屈でありました。心が高ぶっている時にはオールドジャズは合わないね。


★14:40 梅津和時&シャクシャイン(県民小ホール)

 と、いうわけで上のライヴ(というより演奏会って感じ)を途中で抜け出し、走って向かったのは、一番のお目当て、シャクシャインのライヴ。 もう、凄かった。CDなんかとは比べ物にならない、爆発して坂道を転がり落ちるような、スリルと迫力に満ちた演奏。これこそ、私の求めている音なのだ、などと拳を握り締めたのでした。 に、しても会場は後がつかえているので、演奏時間はきっちり予定通りの1時間20分。もっと聴きたい、という想いを残しつつ、盛り上がって終了しましたが、時間にルーズなジャズメン達を集めて、時間通りに進行させるのはなかなか大変だろうと思います。

 シャクシャインの後、そのまま同じ会場で次の演奏を待つので、楽器の入れ替えや音響の調整などのスタッフの働きを眺めていましたが、1時間の中できっちり組み上げたのは大したものでした。 その間、ちょっと外に出て買い物をし、山下公園をぶらついて(ここがこのイベントのいいところ)ホール入り口に戻ってくると、ちょうど梅津和時が出てきたところと擦れ違いました。ああ、サイン貰えば良かった……


★17:00 渋谷毅jazzオーケストラ(県民小ホール)

 メンバー的にも、かなりアバンギャルドなトップミュージシャンが多いようで楽しみにしていたライヴでしたが、どうもノリが合わない。スタイルがアメリカのビッグバンド的な感じで、面白みがなく、大音量にもかかわらず次第に眠くなってきた私は、半分くらいで完全に飽きてしまったのでした。

 そこでプログラムをチェック、他に行くことを決意します。しかし、今のホールを抜け出すにはステージの前、を通らなければならない…演奏中に出ていくのは失礼だし、曲間のおしゃべりの間はもっと目立ってしまう…結局はリーダーがしゃべり終わってピアノを弾き始めるまでの僅か間隙を縫って風のように走り去ったのでした。

 そこから次の会場までは1キロ弱。5分ちょっとで走り、息を切らせてホール内へ。


★18:00 赤松敏弘&道下和彦デュオ(関内小ホール)

 ビブラフォンとギターのデュオは、共に私も名前さえ知らなかったミュージシャンで、若い二人。とても静かな演奏だったけれど、程よい緊張感とリラックスできる音色が心地好く、楽器の持つ魅力という面でも、非常に楽しめるライヴでした。 このバイヴの赤松は、引き続き次のプログラムにも参加していたので、続けて見れて良かったかもしれません。


★19:30 市川秀男ユニット(関内小ホール)

 この時間帯、同時に板橋文夫のステージがあり、さらにライヴハウスでは坂田明が演奏。大いに迷った揚げ句、板橋はまた他で聴けるし(会場もさっきのところまで戻らなければならないし)、狭いライヴハウスはいっぱいだろうし、ということで、市川秀男は知らないけれど、斎藤ネコの出るこのユニットを聴くことに決めたのでした。このフェスティバルならではの悩みでした。 さて、ベテラン市川のメロウなピアノと時に狂ったように弾き捲るネコのバイオリン、しっかりした沢田ジョージのベースと色を添える赤松のバイヴ……派手さはないけれど微妙なバランスの、心に染み込むセッションでありました。

 上の演奏が9時過ぎに終わり、ついでに坂田明のやっているエアジンも覗きに行きましたが、こっちはやはり満員で入れず。まあ、合計6時間弱にわたって5つのステージを見たので、十分ではあったのでしたが、やはり板橋も聴きたかった…と、欲はつきないところです。翌日も行きたかったのですが、用があったし……でも来年も同様に開催するようなので、今から楽しみにして待とうと思うのでした。


★日本シリーズ第4戦(93.10.27 神宮球場)

 急に行けることになった、ヤクルトvs西武の対決。仕事があって会社を休むこともできなかったので、勤務時間中に観戦していました。

 さてこの日の試合は、やや大味だった今年の日本シリーズ中でのベストマッチと言える素晴らしい内容。川崎の力投、飯田の好返球などのあった試合ですが、スタンドにいても、観客の雰囲気からしてまったくペナントレース中とは違う、ピリピリした緊張感に包まれていました。余計なはしゃぎもなくゲームに集中してしまうのは、まさしくシリーズの持つ魔力だったのでしょう。

 これぞ野球観戦の醍醐味であると、体中で感じ取れたのです。試合後の川崎、涙のインタビューまで、最高に感動させてくれる試合でした。

 ちなみにヤクルトが日本一を決める瞬間は、品川駅前のWing 中庭のテレビで見ていたのですが、思わずジーンと胸に熱いものがこみあげて来ました。

 そしてその瞬間、テレビのまわりに集まっていた多くのひとたち、とりわけ女子高生たちの歓声には、時代の移り変わりすら感じたのでした。20年もヤクルトファンやってますが、マイナーなはずだったのに……いつのまにかトレンドの中に立っているなんて。


★太虚「白髭のリア」(93.10.30 住友ベークライト跡地)

 この芝居は、多くの面で非常に印象に残るものになっています。 まず、場所。墨田川沿いの工場跡、大きな倉庫の中での芝居は、空気自体が特殊な存在のように思えました。無機質で、物悲しく、攻撃的な感じ……。そして大きな目的だった音楽。板橋文夫のピアノ、斎藤徹のベース、沢井一恵の筝、他の緊張した即興性の演奏は、芝居の脇ではなく、この芝居を構成する大きな要素として、存在していました。とても感情的な音楽になって、素晴らしかった。 演劇的な要素としてはアングラの匂いが強く、刺激的。主役をはじめとして、女優や男優、さらに小人の役者や舞踏手が出ていたりと、個性が強くて強烈。暗く重い演出の舞台は、目に焼き付きます。 舞台ということでいえば、休憩をはさんで前半と後半で、舞台と客席が入れ替わり、さらにラストシーンは外に移動するという演出。面倒な感じはなく、実に効果的な使い分けでした。 さらに、見た日が良かった。ずっと嵐のような雨が降っていて、ちょうど止んだところ。ラストの戸外でのシーンの時には、丸くギラギラとした月の前を、雲がすごい速さで飛んで行くという自然の演出も手伝い、まさに最高の演劇条件であったと言えましょう。

 ところで、これは『リア王』が原作でしたが、今年は第三エロチカの『タイタスの肉屋』、ブリキの自発団『ブリキノマチノ 夏の夜の夢』と、シェイクスピア原作の芝居を観ました。今までシェイクスピアというと『ロミオとジュリエット』の原作を読んだくらいであまり興味がなかったのですが、タイタスやリアのようにドロドロと演出した舞台を見せられたりすると、元はどうなんだろうと思わされます。本当にこんなに暗いのか、日本の文化が暗くさせるのか。どっちにしても生理的な嫌悪感さえ感じるような悲惨な重苦しさは、一つの演劇的快感です。


★AREPOSライヴ(93.11.2 マンダラ2)

 9月には行けませんでしたが、毎回のように行っているAREPOS。今回もゲストは渡辺等で、いつものように気持ちの良いライヴでした。なのでもう、他に書くことないな。今度は誰かと一緒に行きたい。


★大野一雄舞踏公演「小栗判官・照手姫」(93.12.4 湘南台文化センター)

 大野、86歳の舞。またも意欲的な創作の姿を見せてくれました。まだ10年くらいやれそうな感じ…それほどに、舞うことが生きることとオーバーラップして見え、その新しいものへのチャレンジが鮮烈なのです。 湘南台の半円形舞台で天井の高い、特殊な劇場にも負けない存在感の強さ。その地元・藤沢ゆかりの小栗と照手の物語を題材に創りあげた作品は、静かながら強く、極めて精神的な透明感があり、彼の世界と芸術性をまた一つ高めたように思えました。 もう一つ、音楽担当のパーカッショニスト土取利行の生演奏も、大野の息に合わせながら自由に激しく、心を揺さぶったのも印象的でした。


★青い鳥「最終版 ゆでたまご」(93.12.17 スペースゼロ)

 劇団青い鳥の20周年記念作品としての公演。この作品を最後に、在り方を変えるということで、絶対に見ておこうと思ったのです。大好きな劇団だから。 しかし、見る前にチラシ等をしっかり確認しておかなければいけませんでした。3つの話からなるオムニバス作品だという意識を持たずに見たため、頭の中でストーリーが結び付かず、ちんぷんかんぷんになってしまったのです。 それがなくても、少しばかりノリが悪かったのは確かでした。テーマが掴めず、笑いも掴めず、なんとなく終わってしまった感じで…。次の作品に期待したいけれど、次からはどんなふうに変わるのだろう。不安も大きいところですが、彼女たちの歩みは後退することはないはずだという信頼を持って、楽しみにしていることにしましょう。


★谷山浩子&上野洋子ジョイントコンサート(93.12.23 ルミネホールACT)

 2年前の谷山&あがた森魚コンサートど同し主催のイペントで、今回はザバダクを抜けた上野&浩子さんのジョイント。しかも完全に、2人で一緒のステージを作ってくれたので、楽しいものになりました。ビアニストどして伴奏に専任する谷山浩子とか、お互いの曲を交換して歌ったり。最後にはこの日のために2人で作った曲のデュエットもあり、贅沢で美味しいメニューという感じでした。上野洋子も声の透明感で自分の世界を作って行くポーカルですが、同じ舞台に立っている2人を比ぺて感したのは、谷山浩子の貫禄ある安定感。キャリアと世界の深さが際立っていました。あらためて彼女の魅力に気付いてしまった感じです。W0WW0Wでのコンサート放映も嬉しかったし。