なにかに出会うため、私とあの子はここに座っている。
高波が運んでくるもの、強風が飛ばしてくるもの。 河が流してくるもの。 なにかを見付けるたびに、私たちはときめき、はしゃぎまわる。
このごろ、なにも来ないね。 うん、なんにもね。 新しい漂着物がないと、私たちの会話はこれで終わってしまう。 自分について、そして相手について、何も語ることがないのだ。
風が強くなり、波が荒れはじめる。 気圧が低くなり、頭の芯がしびれてきた。 胸が高鳴ってくる。祭りの時が近付いている…
タイフウンがそこに。 大不運? いろんな物を壊して、運んできてくれるよ。 物かあ…人なんて流れてこないかな。猫でもいいけど。 蛇や鼠くらいならねぇ。
強い雨、風。 台風が通り過ぎるまでは、二人して身を寄せ合っているしかない。 でもこの時のわくわくする楽しさときたら。 思わずくすくすと笑いがこぼれてしまう。
台風一過、私たちの長い海岸線。 強い陽光の中、キラメクように打ち上げられた無数のガラクタ。 さあこれから、宝探しが始まる。1996.8 豆本発行