いつも楽しみにしているこの作者の本、あいかわらずといえば中国の仙人奇談なのですが、今回は100年後のコンピューター・ネットワーク上の仮想現実界を舞台としたSF(サイエンス・ファンタジー)です。行き着くテクノロジーの幻と、中国古来の仙境の幻を重ねてしまったのは、南條竹則ならではの知的な発想だと、感嘆しました。
脳にデバイスを直結してネットに入り込むという設定は、今や当り前で珍しくもないものになってしまいましたが、その背景には、人間の意識はすべて脳内で起こる電子現象なのだという論理があります。電子的なものならデジタルデータ化して、コンピューター内で再生できるという考え。つまり肉体のように滅することはなく不死の存在にもなれるということです。不死こそがまさしく、仙人という存在です。この物語では、そこに哲学的な問題点を提起し思索しているところが、設定の類似する他の作品から抜け出していて、とても興味深い人間観を作り出していました。
もちろん面白さということでいえば、恋あり戦いあり、個性的なキャラクターたちに美女も出てくるし、コンピューター仮想現実ならではの奇想天外な世界が展開するので、一気に読み進んでしまいました。特定の登場人物に移入するのでなく、物語全体を腑敢するように入り込めて、少し映像的な楽しみ方ができる(漫画、アニメ、映画的な)小説と言えるかもしれません。 |