読書記 99.1

(つばめ通信33号より)

谷山浩子「浩子の半熟コンピュータ」毎日コミュニケーションズ
自らHTMLを書いてみたいとの理由でホームページを作ってしまう浩子さんの、パソコンとの長い付き合いの中での出来事を綴った本…ですが、これは抱腹絶倒、電車の中でも笑いをこらえるのが大変というくらいの可笑しい1冊でした。浩子さんのキャラクターが面白いのはもちろんですが、コンピューターってものがそもそも、とっても変な存在なんだと思い知らされます。

酒見賢一「陋巷に在り9・眩の巻」新潮社
やっと冥界から脱出しました。やや長すぎたきらいもありましたが、それでもものすごくドラマチックで、人間に対する…というか世界に対する洞察が深くて、やはり面白かった。そしてこの世に戻ってしまえば、孔子の政略の話しがこれまで以上になんともきなくさく感じられたわけです。大長編となってきましたが、クライマックスの連続というようなストーリーの中、最大の見せ場はいつどのように現われるのか、楽しみです。

島田雅彦「優しいサヨクのための嬉遊曲」福武書店
次に紹介する新作が古いこちらの作品の続きということでしたので、ずいぶんと古本屋を回ってやっと手に入れました。作者にとってデビューしたての頃の作品であり、若いロマンチックさと青臭さが感じられました。時代的にも、とても懐かしい感触のある作品でした。

島田雅彦「子どもを救え!」文藝春秋
と、いう若い時の作品を読んでから、その主人公たちが15年の時を経てどんな家庭を作ったのか…この小説は非常に辛さを感じました。甘く夢見る季節が終わり、現実とも向き合いきれない同世代の人間たちの姿。まぁ、この主人公は簡単に家庭を崩壊させてしまえるほどに、才能とか女とかの他のものに恵まれているので、今の世界を守ろうという気持ちが薄く感じられます。しかしその薄さの意味が私には伝わってきてしまって、彼なりには精一杯はいずりまわっている姿が哀しいのですが。

荻原規子「西の善き魔女・4」中央公論社
なかなか良いペースで刊行されています。作者が遊ぶように楽しんで書いているのがわかります。この巻は冒険編でした。恐竜は出てくるし、次元移動はするし、どんな世界なのかなんてことは考えるだけ無駄なようです。ただ、そこで起きる事件に対して主人公の少女が何を感じ、考え、行動していくか…見守ることがとても楽しい、そんな小説です。次の最終巻、作者はきっちりとまとめきれるのか、これも見物です。

中山可穂「熱帯感傷紀行」大和書房
好きな小説家の旅行記…なんてつもりで気軽に読めるものではなく、ドラマチックな物語でした。予算のないバックパッカー旅、しかも失恋した心を抱えながらの異国体験。アジアという渾沌としたバイタリティの渦の中で、さらに疲弊しながらも少しずつ癒されていく彼女の姿には感動を覚えました。やっぱり一人旅は、いいよね。

黒澤明&宮崎駿「なにが映画か」徳間書店
前から読みたいとは思っていたのですが、仕事で日本映画についての文章を書く機会に、参考資料としながら読みました。対談というか、宮崎氏が黒澤氏にインタビューするといった趣でした。それでも、監督同志ということで、ものを創ることの実際に踏み込んでいて、あまり黒澤映画を観たことのなかった私にとっては良い教材となりました。