川西蘭「山の上の王国」河出書房新社 |
“ものがたりうむ”で出た本。子供相手の物語でどこまでその作家の個性が出せるかというのは、ストーリー性よりも世界観にあると思うのですが、作者にはもともと少年少女的ロマンの志向があり、また世界は美少女との関係性の中に浮かび上がるので、期待どおりの作品だったという感じです。 |
引間徹「ペン」集英社 |
ぬいぐるみが主人公の小説なのですが、内容も読後感もヘビィな作品で心に刻みついています。人間社会の歪みをも背負ったぬいぐるみの夢と挫折…。自己の存在意義ということについて、人間を描く以上に際立っていて、胸にぐさりと突き立てられてしまいました。さすが引間徹です。 |
仁川高丸「文月に不実の花咲く」集英社 |
これまでの性を前面に押し出した仁川作品からは一歩引いたように、女の子同志の愛を、決して美化し過ぎずに等身大の意識で書いた作品。ロマンチックでない分、読んでいて切ない気持ちばかりが膨らんで、苛々もさせられましたが、中学から予備校という時期の心の葛藤はストレートに伝わってきました。 |
酒見賢一「語り手の事情」文藝春秋 |
作者の博識が中国文化に限られていないというのは陋巷でもわかるところですが、こちらはビクトリア朝の英国に舞台を設定して、性から人間を語っていく作品。非常に面白かったのですが、なんとも評するのが難しいです。語り手とはなにか、それ自体がミステリーですが、どちらかといえば人間の奥深く、暗いところにある諸々を描き出したという筆致はさすがというしかありません。 |
清水博子「街の座標」集英社 |
下北沢という街自体をリアルにそして架空なものにして、生きることのダルさを書いたような…。いや、もっと違うものだった気もしますが、読んでいるときの苦痛を伴う快感は覚えています。文芸の、表現の楽しさというのか、それは良かった。しかし読後数ヵ月経って、心に残っているものは少ないかもしれない。 |
星野智幸「最後の吐息」河出書房新社 |
これがまた、困った小説で。文章はほとんど詩に近い言葉の連なりなのです。絵画的な色があり、熱帯雨林の湿度と温度をいやというほど伝えてくるのは凄いです。あとは好みの問題で、私にはこの花と汗臭い耽美な世界は合わなかったということで。 |
竹森千珂「金色の魚」朝日新聞社 |
少女の青春の爽やかな切なさが、ファンタジックに描かれていてとっても素敵な気持ちで読めた作品でした。主人公の尻尾のある少女だけでなく、一人一人の登場人物に対する作者の愛情があるから、作品全体がとっても優しい感じ。いつか感じたことのある淡い想いを呼び起こさせるような本でした。 |
島田雅彦「内乱の予感」朝日新聞社 |
殺し屋の話です。職業ではなくて、右翼秘密結社の暗殺者というようなもので、怖いことです。そうした生き方と思想と時代と現実の歪みの中で葛藤する主人公は私と同世代であり、彼の悩みや行動は読んでいる私にも突き付けられる刃のようでした。全体としてミステリー小説風ではありますが、どこまでも深みに連れていかれるような作品で、やっぱり怖かったです。 |
川崎ゆきお「小説猟奇王」希林館 |
猟奇王映画祭の時に買ったのですが、漫画の猟奇王の世界がそのまま小説として文章表現されていて、さらに漫画では描ききれない微妙な想いやストーリー展開が、元々のファンのみならず、この世にロマンを求める者すべてに深く訴えてくる素晴らしい作品でありました。そしてもちろん、ラストはお決まりの心が騒ぐあのシーン…。やはり猟奇王は我等のヒーローであります。 |