★楡井亜紀子「森の匂い」集英社刊 |
年上の男性との恋愛小説集という感じのものでしたが、作家の透明な感性で描かれていて、いわゆるテレビドラマ的な作品にならず、なかなか面白かったです。恋をカタチとして捉えるのではなくて、心の世界の中で見つめているところに、とてもリアリティが感じられました。 |
★吉本ばなな「ハチ公の最後の恋人」メタローグ刊 |
読んだ時よりも、今改めて手に取ってみると複雑なものがある…主人公の女性は新興宗教を背負っていて、男の方もインドで僧になろうとかしているし…。 話自体は、人物のそうしたキャラクターが生きていて面白いのですが、つまりこれがもっとも現代の風潮を反映した感性なのでありましょう。 |
★南絛竹則「満漢全席」集英社 |
中国まで、幻の宮廷料理を食べに行くドキュメント的な話と、料理や酒を題材にした幻想的な短編が収められた本。とにかく、読んでいてよだれがたれそうになり、読み終わった後で中華料理や中国酒が飲みたくなってしまう、美味しい小説です。味覚という具体的なイメージが刻まれることもあり、ファンタジーとしての印象も強く心の中に残る、名作と言えるでしょう。 |
★南絛竹則「虚空の花」筑摩書房 |
「満漢全席」が面白かったので続いて読んだ本。これはフランスの「未来のイヴ」という小説について、その虜となってしまった同士が語り合うというような形で、評していくというものですが、実際に読んだことのない小説に魅力を感じさせる力のある作品でした。私の趣味に合う傾向の作品です。 |
★酒見賢一「陋巷に在り4・徒の巻」新潮社 |
第4巻まで来ても相変わらず面白くなる一方、ストーリーもだれることなくますます冴え渡ってきています。多彩な登場人物達をそれぞれ鮮やかに描き切っていく筆の見事さ。複雑に絡まる人間関係と、心情の奥深い洞察。怪奇と幻想と…なんでもありの歴史小説。ああ、続きが読みたいよう。 |
★酒見賢一「童貞」講談社 |
古代中国、女性が宗教的制度の上で全ての権力を握っている集落において、それを受け入れず、一人で反抗する少年の物語。単なるイデオロギー的な反抗ではなく、少年が女性達から受けた精神病理的な出来事の数々が、やがて体制を破壊し、新しい世界を作るだけの力になっていくところに、悲しくも力強い説得性のある物語になっています。そして、壮大にして深いロマンチックな愛の物語でもあるのでした。 |
★北野勇作「クラゲの海に浮かぶ舟」角川書店 |
企業の中で、バイオ研究をする科学者、作られた怪物、錯綜する記憶、曖昧な自己の存在。読むほどに、登場人物も実際には誰が誰なのかわかりにくくなり、複雑で全体も先も見えないストーリー展開。不思議なSFミステリーでした。これはキチガイ博士と、危ない企業…宗教的な…の物語で、特に今の世情に照らし合わせてみると、考えることの多い作品でした。 |
★川西 蘭「光る汗」集英社 |
スポーツに打ち込む少年少女達のストーリー集。彼にしては珍しく、明るい太陽の下が舞台の小説でしたが、もちろん川西流の屈折したキャラクター達です、スポ根するわけではなく、それぞれの理由でスポーツに取り組んでいるわけです。けど、スポーツ…明る過ぎて、ちょっとしっくりこない感じはありました。 |
★篠原一「壊音」文芸春秋 |
現役女子校生の、文学界新人賞受賞作ということで、多大な期待を持って読んだのですが、なるほど…こっち方面だったのか、ということで私にはちょっとの世界でした。廃虚的な精神世界に生きる少年達。少年の好きな人にはお勧めの一作、かもしれません。 |