読書記 94.10

(つばめ通信26号より)

★安西水丸「空を見る」PHP研究所
 久し振りに読んだ水丸氏。彼のロマンチシズムに満ちた短編集なのですが、どれも同じような作品で、とても物足りない感じでした。雑誌に載っている時は良いのでしょうが、一冊にまとめるのは辛いように思います。毎晩一遍ずつ読むには向いているのでしょうが…。

★小林道雄「劇団月夜果実店」講談社
 これは現代の若者論というような本です。月夜果実店の芝居は私も見たことがあるので、読みたいと思っていたのですが、新刊の時に買いそびれていてやっと古本屋で見付けました。書かれてから3年、その間に変わった状況なんていうことも含め、興味深い若者論であり、劇団の内実…極私的なことも含め…面白いドキュメンタリーでもありました。それはそのまま、ほぼ同世代の自分自身について考えさせられる物でもあります。

★村山由佳「BAD KIDS」集英社
 青春小説の魅力は、そのままヒロインの魅力にかかっていると思うのですが、その点でこの小説は前作より良かった。ただ、この都という少女、どことなく自分の描く子に似ていて、文章やストーリーの若さと共に、読んでいてちょっと照れ臭い感じもしました。男の子の同性愛感情というのも、その一つの理由でしょう。読んでいて切ない気分にさせてくれる作品ですが、後に残るものが少ないかな。

★楡井亜木子「傷春譜」新潮社
 そんなことで言えば、この人の作品は後に残ります。つまり、奥にあるものが違うということでしょう。人間の見方ってことですが…。切なさよりも、痛みを感じさせてくれる作品です。しかし、どうしてこんな歳上の男が良いのだろう?なんて思ってしまいますけれどね。それなら私でも中高生の女の子と付き合えるのか?…なんてことは思えませんが。ただ歳上なのではなく、どうしようもない男なんだもん、だけど普通じゃないところに、女の子は魅力を感じるのでしょうねぇ。そんな救いのない方向に走る少女の情熱みたいなものが、よく描けていい面白い作品でした。