この中の一遍で川端賞を受賞したりと、すっかり作家として一流になった感のある司修ですが、その文体の奥には、やはり独自の画家としてのまなざしが生きているように思います。それが彼の小説の面白さですが、画家のまなざしって何だううと考えてみると、それは一枚の紙やカンバスの上に描き出すことの出来る世界のとらえ方、でしょうか。
これは司修の少年時代を書いた作品です。戦中・戦後の厳しい時代に、自らの存在の基を描く文章の鮮やかさは、強い生命感に溢れているものです。甘いロマンチックはないけれど、生きることに根差した様々な意欲があります。
そんな少年時代と共に、中年から初老に入りかけている現在の自身の姿が描かれ、その間40〜50年の歳月をも包括した一人の人間の生きざまが痛々しくも直接的に刺さってくるような、安穏とした自分自身を問い質してしまうような、力強い作品でした。 |