第1回ファンタジーノベル大賞の受賞作でもある『後宮小説』は、3年以上前に発行された時から読んでみたいとは思っていながら、なぜか手に取れないでいた小説でした。今頃になってやっと読む機会を得てみると、面白いのなんのって……自分の想像力の範囲を遥かに超えた、ロマンと知性の世界が展開される作品でした。
中国を舞台に、史書研究風に描かれたストーリーはエキゾチックな風俗観に彩られ、さらに性愛を描写でなく観念として説いていく面白さは、論文的な文章でありながらもイメージを際限なく広げさせるという見事さ。しかし最大の魅力は、その世界の中で思いっきり生きて見せるヒロイン(達)の存在であり、その部分だけでTVアニメ「雲のように風のように」が作られたほどなのですが(やはり小説とは別物でしたが)、とにかく全てにおいて鮮烈な色彩を感じるような作品であり、イチオシとしておきます。
そしてすぐに読んだのが『陋巷に在り』という作品。こちらも中国が舞台でさらに時代は遡り、孔子が登場する話。とは言っても偉人伝などではなく、非常に不思議な世界です。オカルト的と言っても良いかもしれない。この作品の魅力は、人物とか超能力活劇とか時代考証とか…色々ありますが、なんと言っても、儒学の意味するところを古代中国の習俗の中で、生き生きと提示して見せるところです。どこまでが本当のことかは別として、中国の思想というのはこんなに面白いのか、と思ってしまう……作品です。
同じ作者の短編集『ピュタゴラスの旅』は、古代ギリシアやローマ、現代日本などと舞台を変えて、バラエティーに富んだストーリーを読ませてくれる本です。作者の頭の良さと幅の広さを感じさせる作品達でした。 |