読書記 92.3

(つばめ通信14号より)

★荻原規子「白鳥異伝」福武書店

 児童文学の新人賞をとった前作「空色勾玉」も面白くて一気に読まされた作品でしたが、その続編的なこの作品も、さらにスケール大きく魅せてくれました。古代神話時代の日本を舞台にした壮大なファンタジーなのですが、少女を中心にとても人間的な登場人物たちの心情が丁寧に描かれていて、本当に引き込まれてしまうのです。本屋では児童書コーナーに置いてありますが、大人にとってもこれほど楽しめる本は滅多にあるものではないと思います。

★池澤夏樹「南の島のティオ」

 彼には珍しい、ファンタジックな連作です。リゾート開発の途上にある南の島を舞台に、いろいろと不思議な出来事が起こるのですが、これを読むと島に行きたくなること間違いなし。普段の生活で埋もれてしまっている、自分の中の人間性にきづかされるような作品です。

★池澤夏樹「タマリンドの木」文藝春秋

 もう1つ池澤の作品。彼は世界中を旅して回っている火とですが、それだけにその感覚も考えも日本火と特有の閉鎖性から切れている気がします。恋愛小説と謳ってはあっても、新しい関係性を求めています。社会に縛られない自由さがあって、気持ち良いのです。

★増田みず子「童神」中央公論社

 孤独な人間をテーマにいつも淡々とした重い作品を書く彼女には珍しく、寓意的な作品で詠みやすくて、また楽しめるものでした。ファンタジーの形式の中に人間の内奥に潜む様々な本質が描き出され、考えさせられます。

★村松栄子「至高聖所(アパトーン)」

 芥川賞受賞作。無機的な大学キャンパスを舞台に、孤独な魂同志の触れ合いが生まれる、言ってみればそんな話かな。私好みの作品でした。

★小川洋子「余白の愛」

 芥川賞をとって話題になった「妊娠カレンダー」よりも静かな感じで好きなのですが、ちょっと内に入り過ぎていて残念さもありました。ただ、ずっと「病気」を書き続けている彼女の作品には、心休まるものがあります。

★司修「奏迷宮」 ★北原リエ「あのひとの行方」

 この2作は続けて読んだのですが、酒づけで破滅的な画家と編集者という登場人物がそっくりで、印象が混ざってしまっています。実はそんな作家っぽい無頼さというのには少し憧れてしまうのですが、まあ、重苦しい作品でした。他人に薦めにくいけれど、でも司、北原ともに自分のテーマを描き切った感じで、読み応え十分です。

★清水アリカ「革命のためのサウンドトラック」集英社

 ラジカルで倒錯的、つばめはこういう作品が大好きです。ちょっと構成は実験的であり、面白い小説でした。

★大鶴義丹「湾岸馬賊」

 俳優としてはテレビドラマで人気がある大鶴の小説は、パワフルでトレンディなのだと思います。読んでて面白いのですが、ちょっと安っぽいかな、とも思ってしまいます。