ベスト・ライヴ−2
「ひらかれた地平」

ゴルバチョフによるペレストロイカ全盛の時。それまで西側世界にはほとんど紹介されることのなかったソ連のポップカルチャーが、急激に注目を浴びはじめた時期でした。もっとも、ロシアが好きで社会主義国・ソ連 に対しても憧れを持っていた私個人としては、以前から輸入レコードなどで少しはジャズやロックを聴いていたので、一般の人のように「ソ連にもテクノがあるの」といったような驚きはなかったのですが、本当に先進的なものに触れる機会はなかったと言えます。
「ひらかれた地平」コンサートは、そんな時期のソ連から4人のアバンギャルドなジャズミュージシャンを招いて、日本で初めてのソ連の先鋭を紹介するイベントでした。メンバーはセルゲイ・クリョーヒン、ウラジミール・チェカシン、ウラジミール・タラソフ、ヴァレンチナ・ポノマリョーワという、まさに世界のトップクラスのアーチストたちだったのですが、もちろんその頃はまだほとんどの人が、彼らの実力を知らなかったわけです。
そうしたミュージシャンを選んで招いたのは、現代音楽の高橋悠治とロックの高橋鮎生親子でした。実際にソ連を訪れ、そこで優れたジャズやロックに接してきた2人によって「ROCK IN THE USSR」という紹介セミナーのような企画が3ヶ月前に開かれていて、このコンサートにつながりました。
日本から参加したのは高橋親子に、三宅榛名、梅津数時の4人。さらにアメリカからはジョン・ゾーンとビル・ラズウエルの2人。ソ、日、米の時代の先端をいく、ものすごいメンバーでしたが、その頃の私はまだそれほどジャズに親しんでいたわけでなく、このミュージシャンたちのスタンスも理解していませんでした。逆に言えば、先入観なくいきなり世界のトップの音を体験できたことは素晴らしかったのですが。
コンサートは、10人のミュージシャンたちがデュエット、トリオ、カルテット…と何通りにも組み替えながらフリージャズの形式で行なわれました。東京3日、大阪1日のコンサートの初日だけを聴いたので、出演者ごとで多少の演奏時間の偏りはありましたが、個々の持っている芸術性、表現力、世界観までが十分に伝わってくるようでした。ステージ上では、3つの国、民族でいえばさらにさらに多くの文化的背景の激しいぶつかり合いと優しい融合が展開され、そして何よりも自由を謳歌している幸福感で満たされて輝いて見えていたのです。
私は客席からこの光景を眺め、音に包まれながら、音楽とはこれほどまでに自由な世界なのだと発見して、体を震わせ手に汗を握りながら涙まで流していたのでした。
このコンサートではまちがいなく、東西の壁の崩壊が見えていました。さらに広くアジア・ヨーロッパ・アメリカの三角形の中で世界が一つになれる可能性さえ感じられた、文化史的な瞬間に立ち合えたのだと思っています。当日、NHKがビデオ収録していたので、放映があるのではないかと期待していたのですが、やったのでしょうか。ビデオ発売でもいいから3日分全部を見たいと思っています。