ベスト・ライヴ−1
少年王者舘
「高岡親王航海記」
前日に季節はずれの台風が通りすぎ、まだ強風が吹き荒れているとても寒い日でした。
名古屋に着いた私はすぐに当日のホテルを予約しようとしましたが、なにかのイベントと重なっていてどこも満室。知人に電話をして泊めてもらえることになり、ほっと一安心したところで会場の下見に向いました。
この公演は劇団少年王者舘の10周年記念、名古屋を代表する小劇場である七ツ寺共同スタジオ創立20周年ということで、文化事業として県教委や団体も協賛してのものでしたが、私も事前に協賛金1万円を出してパンフレット付き招待券を手に入れていたため、長い列に加わることなく入れるという安心感もあって、白川公園周辺を散策できたのです。昼間の公園に置かれている可動式の舞台セットは、まだ生命感なく無機質に見えていましたが、これから始まる祝祭のムードを高めてくれています。やがて陽が暮れはじめ、入場を待つ列ができるとともに、気温はぐっと低くなってきました。
陣幕で囲まれただけの野外劇場に優先的に入場させてもらうと、雛段が組まれた客席の真ん中中段あたりに腰を落ち着けましたが、後から後から詰めかけるお客さんに左右前後を挟まれ、早くも身動きできない状態に。そう、ここからが限りなく甘美な地獄の始まりです。窮屈なのは小劇場で慣れてはいましたが、激しく吹き付ける冷たい風と3時間もの作品は、肉体の限界と耐えることの辛さを教えてくれました。しかしそうして苦痛を覚えながら観たものの記憶は、脳だけでなく肉体にも刻み込まれるのです。
芝居は、名古屋の少年王者舘とてんぷくプロ、それに大阪のヂャンヂャンオペラ劇団・維新派の各劇団と、数人の役者が参加。維新派は、野外劇に慣れていて大規模なセットを作る専門スタッフも抱えているため、見事な舞台美術…舞台はないけれど…が、広大で幻想的な演劇世界を構築していました。高く築かれた櫓、巨大な移動式セットに、王者舘と維新派に共通するノスタルジックな街のイメージが描き出され、強風で飛んでしまいそうにはためく幕とともに、演出効果を高めます。
原作は渋澤龍彦の同名小説で、後から本も読んで深く感動することになるのですが、高岡親王が大陸に渡って山を超え砂漠を超え、幻想的な出来事に遭遇しながらインドを目指して何年も旅をして、最後は力尽きて死んでしまうというストーリーです。渋澤の幻想的で哲学的な世界と王者舘のノスタルジー、てんぷくのコメディー、維新派のジャンジャンオペラ、さらに舞踏やミュージカルといった要素までが見事に融合して、最高の演劇世界が生み出されたのでした。
出演した俳優・女優陣も気合いが入っていたし、寒さだけでなく感動で身が震えっぱなしの時間を過ごせたのです。特に印象深く残っているのは、大好きな女優・智恵子さんが櫓のてっぺんに上って歌うシーン。全出演者…だったと記憶しているのですが…による合唱には、涙が出ました。
公演が終了して幕の外に出ると、出演者のひとり藤條虫丸さんが舞踏を踊っていたり、屋台があって人が残っていたりと、夢の空間が続いているような余韻をしばらくその場にたたずんで味わってから、知人に車で迎えにきてもらって家に連れて行ってもらった後、居酒屋で飲んだ酒の味までが、この日の思い出として強く残っています。
王者舘の歴史と役者たち、 公演の裏側がわかるプログラム。 上演賛助者として私の名前も載っています。