人肉売買
バイト先の書店では、万引きを捕まえた店員に報奨金が出る。
図書券で3千円分。
たいした額ではないのだが、
僕好みの景品が、その3千円と共に付いてくる。
思い浮かべただけで、鳥肌が立つ様な、陰鬱な悦び。
ガキを捕まえても面白くない。
僕を一番楽しませてくれるのは、
サラリーマンやOLなどの会社勤めの連中だ。
「おそれいりますが」と、そいつの袖を掴んだ瞬間に、ソレはやってくる。
振り向いたそいつの顔に浮かぶ表情、
瞳の奥で繰返される、絶望と狼狽。
警察での取り調べ、家族への言い訳、会社での立場、
めまぐるしく移りゆくその思考を、
やつらは無防備にさらけ出してしまう。
万引き確保の報告のために、
受話器を持ちあげた瞬間、頭の中に響く声。
「俺は今、こいつの人生を3千円で売り飛ばしたんだ」
憐憫の情、微かな罪悪感、緊張からの解放、こらえきれぬ嘲笑と達成感。
このすべてが一時に僕を襲う。
嬉しいのか苦しいのかすらはっきりしない、
微妙な精神状態が引き起こす、現実逃避のためのエクスタシー。
何にも代え難い、最高級の快楽。
僕の人肉卸売問屋は、毎週末、小さな書店内で、営業中。
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