はじめて目にする故郷の空は、見知らぬ空でありました。
畏ろしいほど澄みきった、高くて深い藍の空。
尋ねる友も、親類も、
ここには誰も居りはせず、
僕が生れた場所はと言えば、
今や平らな道となり。
生れた病院、両親が暮らした学生宿、出生届が出された役場。
記録はすべて、ここにあるのに。
ここにすべてが、ある筈なのに。
宙に浮かんだ僕の心を、
放り出された僕の血肉を、
この地の何処かが、繋ぎ止めてくれはしないかと、
祈りながら、嘆きながら、
さまよい歩いたこの街は、見知らぬ街でありました。
見知らぬ街の、見知らぬ空は、
高く青く聳え立ち、
貴様なんぞは知らぬよと、
冷たい青い一瞥のもと、
この哀れな根無し草を、あの灰色の空の下へと追い返すのでありました。
はじめて目にする故郷の空は、見知らぬ空でありました。
悲しいほどに澄みきった、高くて深い藍の空。