脳内被害妄想物語


これは管理者が収容所生活ゆえの禁欲生活から

生み出された妄想の産物を文章に記したものである。

この内容をネタとして取るか、本気として取るかはすべてあなた次第・・・

物語を読むのも自由。読まぬも自由。

選択はすべてあなたにゆだねられてるのだから・・・


第3回


 ゆさゆさ。

 「・・・・・・・ん、・・・・・・・・・ちゃん」

 ゆさゆさと、ゆさゆさと、おれの体が揺れている。

 「・・・也ちゃん、尚也ちゃん」

 聞き覚えのある声の誰かがおれを呼んでいる、この声は・・・

 「起きてよ尚也ちゃん、もうお昼休みだよ」

 「なにッ!?」

 ガバッ!

 「わっ・・・・・尚也ちゃん、おはよう」

 突然起きだしたおれに天音がびっくりしてる。

 「尚也ちゃんったら、先生が起こしてるのにぐっすり寝てるんだもん・・

  見てるこっちがハラハラだったよ」

 そう言えば、沙織ちゃんからクッキーを貰った次の時間辺りでおれの記憶が抜けてるな。

 と言うと、3時間目からずっと寝てたことになるのか・・・・って、昼休み!?

 「天音!急がないと学食の席に座れないぞ!」

 そう言って、走り出すおれ。

 「あ、待ってよ。尚也ちゃん」

 慌てておれの後ろを走り出す天音。


 「そういや、天音」

 廊下を小走りしながら、後ろに居る天音に声をかける。

 「教室に康治や氷沼の姿が見えなかったけど・・先に学食行ったのか?」

 いつも昼飯は康治、天音、氷沼、可憐たちと食べることになっているのだ。

 「康治くんはバンドのお友達と教室出ていっちゃったみたいだけど・・

  もうすぐ学園祭だから、その事でのお話とかあるんじゃないかな?」

 「そっか・・・そういや、もうすぐ学園祭だもんな・・」

 カーブを曲がって、階段を降りる。

 「氷沼さんは先に学食に行って席を取ってますね。って言ったから学食じゃないかな」

 「お、そりゃありがたい。氷沼に礼を言っておかなきゃな」

 階段先のカーブを曲がって、戦場と化してる学食までの直線を突き進む。

 目指すべき場所は、昼飯を求めるために暴徒と化した学生たちで溢れていた。

 「天音!おれから離れるなよ!」

 「うんっ」

 きゅっと背中の学生服が掴まれる感触。

 いつからだっけかな・・・こうやって学食の混雑時に天音がおれの制服を掴んでくるのは。

 学食の混雑ではぐれる天音に

 「はぐれないようにおれの後ろについてこいよ?」

 「うん・・・でも、凄い人の勢いでついていけないよ」

 悲しそうに顔をうつむける天音。

 「・・だったら、おれの体のどっかを持ってろ。それなら大丈夫だろ?」

 「うん。ありがとう、尚也ちゃん・・・でも」

 「それでも駄目なようだったら、体をくっつけるくらい近く居ていいからな」

 「う・・・・うん」

 今を思うと言ってて恥ずかしくなるが、そのおかげで天音ははぐれずにちゃんと

 学食の戦場を抜けてこれたし。

 何より、あの時の天音の照れた表情が今でも目に思い浮かぶ。

 ぴとっ。

 背中にくっつく天音の感触。

 「ごめんね、尚也ちゃん」

 少し照れながらもおれに体を預けてくる天音。

 「気にするなって、よし。一気に行くぞ!」

 

 「お兄ちゃん〜、こっちだよ〜」

 声のする方を向くと、可憐が笑顔で手を振っている。

 ランチの乗ったトレーに気をつけながら、可憐の元へ。

 「お兄ちゃん、またお弁当を先に食べちゃったの?」

 「いや、今日はバイトだからバイト行く前に食おうかと思ってな」

 そう言いながら空いてる席に座る。

 「氷沼、席取っておいてくれてありがとうな」

 「いえ、いいんですよ」

 と微笑みながら答える氷沼。

 「さて・・それじゃ食べようかな」

 さっそくランチに箸を伸ばした時・・・

 「お兄ちゃん」

 可憐がおれを呼ぶ。

 「いただきますは・・?」

 少し困った顔で可憐がじっとこちらを見る。

 「あ・・・ああ、いただきます」

 妹にあんな表情をされると、兄としては弱いものだ。

 「もう・・お兄ちゃんったら、いつもお食事時はああなんですよ」

 それを聞いて、氷沼や天音がくすくすと微笑する。

 「か・・可憐、みんなの前でそう言う話はやめてくれよ」

 「あ・・・ごめんなさい、お兄ちゃん」

 「いや、しっかり挨拶しなかったおれがいけないんだし。可憐が謝ることはないぞ」

 早めに止めさせないと、どんどんおれの日常生活が暴露されてしまう。なるべくならそれは避けたい。

 「ん、氷沼は今日はさば味噌定食か。また変わったものを・・」

 普通、あんまりお昼時に女の子が食べるメニューじゃないよな・・

 「美味しいんですよ、さば味噌定食」

 氷沼はにっこりと微笑んで、そう答える。

 そんな笑顔で答えられると、おれもさば味噌定食が食べたくなってくる。

 「天音・・お前はまたあんぱんか」

 「あむあむ・・・・うん、わたしあんぱん大好きだもん。それにね、これ こしあんなんだよ〜」

 天音は幸せそうな顔であんぱんを食べている。

 しかし、その横にまだあんぱん2袋をあるのを見ると、見てるだけで胸焼けしそうだった。

 可憐は璃菜さんの作ってくれた弁当を食べている。

 (お、今日の弁当には卵焼きが入ってるのか〜、あとで食べるのが楽しみだな)

 何を隠そう、おれは卵焼きが好物だったりする。

 可憐とおれの弁当は量が違うだけで内容は同じなのだ。

 なので好物があとで食べれるかと思うと非常に楽しみでしかたない。

 「お兄ちゃん、卵焼きいりますか?」

 弁当を眺めてるおれの視線に気づいたらしく、卵焼きを勧めてくれる。

 「え、いいのか?」

 「うん、わたし1コいただきましたし・・それにお兄ちゃんが大好きな物だから

  お兄ちゃんに食べてもらえば、わたしも嬉しいから」

 えへへ・・と笑いながら可憐が答える。

 「はは、悪いな。お言葉に甘えていただくことにするよ」

 箸で可憐の卵焼きをつまもうとした時・・・

 ひょい。

 可憐の箸が卵焼きをつまんだのだった。

 「お兄ちゃん」

 そう言いながら、卵焼きをつまんでる箸をこちらに向けてきた。

 「あーんしてください」

 「なっ・・」

 にこにこと笑顔を勧めてくる可憐。

 驚きを隠せないおれ。

 そして、氷沼と天音の明らかに判る嫉妬の視線。

 まわりからはジト目でこちらを見られてる。

 「お兄・・・ちゃん?」

 泣いてしまいそうな悲しい表情を浮かべ、震える声の可憐。

 氷沼に天音。さっきまで気づかなかったが遠くからは沙織ちゃんにまで見られてる。

 (あああああああああああ・・・・・・・・・!どうすりゃいいんだよ・・・・・・・!)

 「あっちイイイィィ――――――――――!」

 突然の男の叫び声。

 一斉にそちらに向く生徒たち。

 (今だッ!)

 ぱくんっ。もぎゅもぎゅ、ごくん!

 可憐たちの視線が戻る頃には、おれは卵焼きを食べ終わっていた。

 「可憐。わざわざ悪いな、ご馳走様」

 「う、うん・・」

 ちょっぴり不満そうな表情の可憐が答える。

 氷沼や、天音。それに沙織ちゃんには あーんとやる姿を見られなかっただけよかったかな・・?

 でも、あとで可憐に謝っておかないとなぁ。

 いくら恥ずかしかったとは言え、悪いことしちゃったんだし。

 それとあとで判ったことだが、さっきの叫び声は隣のクラスの折原だったらしい。

 何でも下の学年の娘に背中からうどんを浴びせられたとか。

 折原にとっては不幸だが、おれにとっては助け船だったし・・・何だか複雑な気分だな。