キーンコーンカーンコーン・・・
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・あ、危なかった・・・」
荒い息をつきながら自分の席に座る。
「う〜・・・・朝からバテバテだよぅ・・・」
そう言いながら机にぐでーっとなる天音。
「そうですね、本当ギリギリでしたね」
と言いながらも、大した呼吸の乱れも無しに氷沼が席に着く。
そういや氷沼は結構体力あるんだよな・・・・足なんかおれより速いくらいだし・・・
氷沼の方を見ながら、そんなことを考えてた時・・・
「くっ、くっしゅううううううううううううう!?」
ドタッ!ずべ―――――――っ!
変わった悲鳴と共に誰がこけて床を滑るのが聞こえる。
あんな独特な悲鳴はあの人しか居ないな・・・・
ガララ・・
「くしゅ〜・・・みなさんおはようございます〜」
教室のドアからスーツを埃まみれにしながらやってきた独特な口調の女教師。
小泉ひより。
まだ大学を出て 教員免許を取り立ての、新米先生がおれらの担任なわけなのだが・・・
「それでは皆さん、出席を取りますね〜・・・・く、くしゅ!?
出席簿じゃなくて、お昼の出前メニュー!?」
・・・・・・。
こんな風にドジでおっちょこちょいなのだ。
ひより先生(通称:ひよ先生)のボケボケっぷりを見ながら、学校生活は始まっていく・・・。
キーンコーンカーンコーン・・・・
「それでは授業を終わる」
「起立、礼」
くは〜・・・・・やっと授業が終わった〜・・・・・!
体を伸ばして、パキポキと背骨を伸ばす。
「おい、尚也」
おれを呼ぶ声がして振り返る。
「ん、康治か。どした?」
田村 康治。
中学で一緒のクラスになって以来の親友。
穏やかな性格の持ち主で、相談とかでたびたび世話になっている。
「お前・・部活動やらないか?」
「また、その話か・・・おれはバイトやってるから無理だって」
「だよな・・・悪いな、何度も聞いて」
「いや、別にいいんだが・・・まだバンドのメンバーは集まらないのか?」
「ああ、そうなんだよ。お前が入ってくれれば言うこと無しなんだけどな」
「はは・・・それに関しては断らせてもらうわ、悪いな」
康治は学校でも有名なバンドのドラムを担当していて、
月に1回はどこかのライブハウスでライブをやってるはずだが・・・
最近はバンドのメンバー内のいざこざで、まともに活動出来る状態じゃないと言う。
部活動――――――――――。
中学の頃は充実な時の中で部活動を行っていた。
たった数年前のことなのに、今では遠い昔のことに感じられる。
「・・・ちゃん、尚也ちゃん」
「・・・ん、天音か。どうした?」
天音の呼ぶ声で現実世界に戻される。
「うん・・尚也ちゃんったら私が何度も呼んでも気づいてくれないんだもん」
ちょっとすねたような声で天音がしゃべる。
「はは・・悪い悪い。で、どうした?」
「うん、新城さんが尚也ちゃんのこと呼んでて・・・ほら」
天音が指差す、教室のドアの方を向いてみると・・・こちらの視線に気づいて、
手をひらひら振る女の子の姿が見える。
「おう、わざわざありがとうな。ちょっと行って来るわ」
「う、うん・・・」
どことなくさびしそうな天音の声を背に教室のドアへと向かう。
「やっほ〜、尚也くん。こんにちは〜」
「ああ、こんにちは。沙織ちゃん」
新城 沙織。
おれと同じ学年の女の子。赤髪のロングヘアーが印象的で
いつも明るくて元気で、一緒に居るとどこか安心出来る 笑顔がとってもまぶしい女の子。
沙織ちゃんとは、臨海学校の時の肝ためしで一緒に回るようになって、まあ色々あって
その日からお互い下の名前を呼び合う仲になったわけだ。
「えへへー・・・」
「ど、どうしたの・・そんなに嬉しそうに」
「うん、あのね。尚也くんにこれ食べて欲しいんだ」
「ん・・・これは?」
可愛いラッピングのされた小さな袋を受け取る。
「なんだと思う?開けてみてよ」
少し照れた表情でおれに言う沙織ちゃんに、少しドギマギしながらもラッピングをほどく。
袋の包みを開けると、そこには色とりどりのクッキーが入っていた。
「クッキーだね。これ、どうしたの?」
「さっきの時間が調理実習でね、それで尚也くんにも食べてもらおうと思って・・・」
えへへ・・・と恥らう沙織ちゃん。
「ちょうど小腹が空いてきてたとこだったんだよ、ありがたくいただくね」
「うん・・お口に合わないかも知れないけど・・・どうぞ」
クッキーをつまんで口へ運ぶ。
サク・・・サクサク・・・・
「どう・・・・かな?」
少し不安げな表情で心配そうに、おれの様子を見る沙織ちゃん。
「うん、こりゃ美味しいよ」
「ホント?尚也くんにそう言ってもらえてよかったぁ〜・・・」
沙織ちゃんの花が咲いたような笑顔を印象的だ。
サクサク・・・サクサク・・・サクサク・・・
「ふぅ、沙織ちゃん。ご馳走様」
「ううん、こちらこそどういたましてっ・・・あっ、そろそろ次の授業だから教室戻るね。」
「わざわざクッキーありがとう」
「尚也くんに喜んで貰えて嬉しかったし・・・それじゃあね!」
ひらひらと手を振りながら、沙織ちゃんは走っていってしまった。
席に戻ろうと後ろを振り向いてみると・・・・
「!」
「けっ!やってらんねーよ!」とでも言わんばかりなジト目でクラスの男子に睨まれた。
その中で氷沼と天音が寂しそうな表情をしていて、胸が少し痛んだ。