愛馬との対面、そしてどきどきの納車
 一生に何度も味わえない自分のハーレーの対面と納車。

1999年2月12日(金) Your HOG Has Arrived

横浜埠頭からトラックに載せられて契約したショップに搬入される日。平日だが会社は休暇をとった。
昨夜は興奮のあまり寝付けなかった。 見る夢はこのホームページのことと、ハーレーとの対面のことばかり。
そして輝く日差しの中、待ち焦がれた朝は来た。 快晴、雲一つない。
車でショップに出向く。 

そう、今日は平日だった。 
道路は昨日の雪の影響もありすごい渋滞だが、10時30分にショップに到着。
予定では午前中にトラックが到着することになっている。


ショップに到着後、中でコーヒーを飲みながらローライダーを待つ。
時計を気にしながら、展示されているパーツを眺める。
仕事以外のことで時計を気にすることも、結構いいものだ。
この時間はこれから始まるハーレー・ライフの第一歩。それを待っているこの時間。
思わず自分の世界に浸ってしまう。

時計は12時を大きく回って午後2時を過ぎた。 まだ来ない愛馬に思いを馳せる。

間もなくしてショップのスタッフから声がかかった。
  「到着しますよ」と。
カメラとビデオを持って外へ出る。
Harley−Davidsonのマークが誇らしげに入ったダンボールを6個積載したトラックが入ってきた。
  「どれが愛車だろうか」、真っ先に思った。

「これがご契約いただいたローライダーです」と告げられたのは、トラックの後ろの一番わかりやすい場所にあった。
写真を撮る、そしてビデオカメラを回す。 
ダンボールは車載のクレーンで一台づつ丁寧に降ろされ始めた。

6個のダンボールはショップの駐車場に全て揃った。
まだ見ぬ愛馬は、スタッフの配慮で一番手前にある。


  Your HOG Has Arrived.

そう書かれた箱は、私にとって宝箱。 宝石店で売っているダイヤモンドが入っている宝石箱よりも魅力的な箱。

一段落するとスタッフが開け始める。
ナイフよもっと早く動いてくれ。

箱は開かれ、ビニールの中にミルウォーキーの空気と共に包まれたローライダーが顔を見せる。
フュエルタンクの赤と黒が中に見える。
木枠に入れられたハーレーはどんなだろうか。 今までそれを想像していた。
開梱されたダンボールの内側に木製のベースと二つの枠があった。
そうか、木枠にいれられたというのは、こういうことなのか。 

ビニールを解かれたローライダーはたった今、地元の空気を吸い始める。
この国で一生を過ごす。 そう覚悟を決めたのか、誇らしげに背伸びでもしているような気がした。
目の前にいるローライダーはまだ半完成品。 これからスタッフの手を借りて完成品に仕上がる。

妙に思えたのは、ハンドルバーが木枠に収めるために下向きになっていたからだ。
ハンドルはレンチで緩められ、上向きにされてから木枠から降りてきた。
スタッフに断ってシートに跨り、記念写真を一枚、二枚。
産声である排気音はまだ聞こえないが、こいつは今、誕生した。

納車までこれから約2週間。

これからは夢にこのフュエルタンクの赤と黒が毎晩出てくるのだろう。
その時間もまた素敵なハーレー・ライフなのかも知れない。

1999年2月23日(火) 登録が完了しました

今日、会社帰りに上野に立ち寄り、新しく家族になるローライダーに乗るためのヘルメットを買ってきた。気持ちが高ぶる。
私の場合、ローライダーにあわせて買うヘルメットだから、普通とは違う。
お店の人に向かって、「今度の週末あたりにローライダーの納車なんですよ」と言ってしまう。
言いたくてしかたない。 なんだか子供みたいな自分が恥ずかしい。でもハーレーは、人を本当に素直にしてしまう。

家に帰ってしばらくすると電話が鳴った。ショップからだ!

「本日登録が完了しましたので、ご報告します」と。

眼には12日に見たあの赤と黒のローライダーの姿が浮かぶ。そうか、あいつに火が灯るのか。

初めて対面してから今日まで、毎晩ハーレーの夢を見ていた。
どこにあるのかわからないサイドスタンド。
これって、ネットで書き込んであった言葉そのものではないか。
まだ乗っていないのに、サイドスタンドが出せなくて右側に倒れそうになっている自分の姿を見ていた。
夢とは不思議なもので、右手で支えて倒れないようにしていた。
「待てよ。 ハーレーを手で支えられる訳がないぞ。 もしかして今、夢を見ているのか?...」
そう感じていた。 夢を見ていることがわかる夢というのも不思議だ。

今度の土曜日、東京地方は雨の予報が出ていた。
雨のなかの納車は寂しい。 
そう考えて、念のため金曜日に休暇をとった。 正解だった。
金曜日を納車の記念日にしよう。

こうして納車まであと3日ということが決まった。
この3日間を楽しい日々にしたい。 
ハーレーがくるのを待っている日々は、人生でそう何回もあるもんじゃない。
せいぜい楽しもう。 今日は旨いワインを飲んで眠ることにしよう。

1999年2月25日(木) まるでクリスマス・イブ

納車が明日に迫ってきた。
全く不思議なことに、納車日が近づくにつれてハーレーが手に入るという実感が無くなってくる。
「一生に一度はハーレーに乗りたい」
XS650に乗っていた時に、いつも思っていたことだったはずなのに。
やはり本当にハーレーが手に入るということが、信じられないのだろうと思う。
これは夢で、朝になったら、また今までと同じ一日が始まってしまうような気がした。
でも、たぶんこれは夢ではないようだ。
朝になってみないと分からないが...

帰宅する途中、都会を歩いている自分の姿に気がつく。
今夜のイルミネーションは、やけに目立つ。

「まるでクリスマス・イブ」そんなことを感じる夜だった。

机の上には、渋谷で買ったサドルバッグが、早く取り付けてとばかりに待機している。
ハーレーの資料を集めたファイルは、そろそろパンクしそうだ。
秋から買い始めたハーレーの本は、もう本棚を占領しはじめている。

さて、今晩も気に入ったワインを飲みながら眠ることにしよう。

1999年2月26日(金) 披露宴の新郎の気分

朝はゆっくりと過ごした。
納車の日の過ごし方も、納車前に考えていた。
何を着ていこうか? クラブ・ハーレーに載っているようなカッコがいいかな?
やっぱりハーレーを買う日は特別な日であってほしい。
そう思う気持ちは夫婦共通だった。 
今日の日のための着ていくものをコーディネートしてくれたのは、結局家内だった。
11月に購入を決めてから、我が家の中にはハーレーに似合うグッズが妙に増えた。

ショップは朝10時からオープンしていることは知っていた。
が、あえてゆっくり起床したのは、この日を特別な一日にしたかったからだ。
ハーレーとはそんなものだということが分かってきた。
自分で演出して出演するドラマの主人公なのかもしれない。
とっておきのコーヒーを立てる。 
これが特別な一日の始まりだった。
十分な睡眠のおかげで体調は万全だ。

正午となった。 さて出発することにしよう。
家の玄関を出るところからビデオを撮る。 
JR京浜東北線を使って川口に出る。 
この町のあちこちがクリスマスの時のように見えるのは、きっと私だけなのだろう。
心配だった天気も、不思議と良くなっている。 薄日も差してきた。

ショップに到着した瞬間を忘れたくなくて、歩道からショップに入るところをビデオに撮ってもらう。

店内はいつものように沢山のハーレーが展示されている。
でも私のローライダーはここには無い。そうかまだ整備場にあるのだろう。
担当の森田さんの顔を見た時、我がローライダーが今日手に入ることの実感が沸いた。
購入した人がもらえるハーレー・ジャパンのビデオの中にいるような自分を感じた。

そうか。今日の気分は披露宴の新郎なのだ。 私が主役でいい日なのだ。

いろいろな手続きが次々と進んでいく。
XS650を買った19年前、近所のヤマハのショップでの手続きとは明らかに違っていた。
ハーレーのショップはあくまで特別な場所であり、ハーレーの納車日もまた特別な日である。
今、その特別なことが進んでいる。 そう感じさせるひとときである。

キーが渡された。 その瞬間に私は正真正銘のハーレーのオーナーになった。

ショップの表にローライダーが出てきた。
2月12日に横浜埠頭から搬入された時と違って、息をしているようだった。
   「どうだい、あの日よりカッコ良くなったかい?」
私にそう話しかけていた。
こいつが背伸びをして日本の空気を吸い始めた日からちょうど2週間。
   「ちょっと見ないうちに一人前になったなあ」
などと言いたくなった自分がおかしかった。

エンジンが始動する。 ドドーンと響く。
興奮するという気持ちより、愛しいというのが本音だった。
上手く乗ってあげられるかなあ?と話し掛けると、
   「大丈夫だよ。どこでも一緒に行くよ。」と返事していた。
そんな気がした。

ショップの前で記念のポラロイドを撮り、フレームに入れてくれた。
ビデオカメラとスチールカメラに見届けられて愛車ローライダーはショップを出発する時がきた。
心の整理をつけて鉄の愛馬に跨る。 
私のハーレー・ライフが今始まった。

クラッチを握る。 ギアをローに入れる。 
恐る恐るクラッチ・ミートする。
   「やっぱり、試乗車で慣れておけばよかったかな」
なんでこんな時になって今更こんなことを考えるのかなあ。
それでも私の鉄の愛馬は道路に向かって進んでいった。

信号が青に変わり、走っている車の切れ目を待って走り始めた。

   「クラッチ、ちっとも重くないじゃないか」
   「ギアも重くないぞ」
   「ブレーキも悪くない」

それは私にとって安心をもたらした。
潜入観念があり過ぎたのかも知れない。 
ローライダーは素敵なバイクだった。 
振動が愉快に感じられて仕方なかった。
天気はすっかり回復し、西に向かう道路では、太陽がまるで私に向けられたスポットライトのようだ。
 
ハイウェイ・ステップを出してみる。 
あつらえたように、私の足に丁度いい距離にステップはあった。これだよ、これ。 
いかにもハーレーっていう瞬間だった。

自宅までの間、信号待ちも楽しかった。 
振動が心地よい。
周りの車の目が気になる。 
立ちゴケなんかしてたまるか。 今日は新車の第1日目。

自宅に到着した時、愛馬に言ってあげた。
   「ここがお前の家だよ、ゆっくり休むがいい」と。

とっておきのワインを飲みながら、これから一緒に行くであろう場所のことを考えていた。
そしていつの間にか、私は夢の中にいた。 愛馬の振動が夢の中にも残っていた。

ローライダーとの対話

2002年2月まで、走るたびに記録していたツーリング日誌です。現在はフォトライブラリーとしてツーリング記録をみなさんにご覧いただいています。

フォト・ライブラリー

ツーリング先や、オフ会などの写真集です。トップページからもリンクしていますので、ご覧ください。

【2004年11月】


こうして1999年2月から始まった私のローライダー・ライフを振り帰った2004年11月、充実した5年半だった。もっと早く買ってれば、どうなっていたのだろう。そして、これからハーレーに興味を持つ人が何人Hobby Worldを訪れてくれるのだろう。いつか買いたいと思う人の背中を押してあげたい。私の背中を、クラブハーレー創刊号が押してくれたように。
バイクで北海道に行ったり、キャンプする事なんて、ローライダーを購入しても考えつかなかった。不便なキャンプ生活、わざわざフェリーで長時間掛けて行く北海道。どれも私がやりたい事ではなかった。それもみんな考えを変えてくれたのがネット上の仲間だった。私の考えは「井の中の蛙」そのもので、飛び込んでみたら何と素敵なキャンプ生活。料理とワインに囲まれて、家では味わえない心地よさがあったりする。北海道も同様に、ローライダーで走るためにあるような世界にさえ思えたのだった。知ってよかった。今まで楽しませてくれたみんな、ありがとう。そして、これからもよろしく。

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