ふらっと入ってみたら迷ってしまった。遠くにクルマの走る音がするから不安にはならなかったが、やみくもにササ藪の斜面を登り、道にでてほっとしたときには汗でぐっしょりだった。ほんの1時間くらいだったがこんな体験は初めてで、小網代の森と私との出会いはこんなふうにして始まった。
町の中で道に迷っても、回りの建物やサインで、おおよそ自分の居所は見当がつくし、いよいよ分からなければそこらの人に尋ねれば良い。だが森の中ではそうはいかない。周囲には同じような樹木ばかりだし、チョウやトンボに道をきく言葉などもちろん知らない。 |
しかたなくしばらくじっとして、耳元をかすめる小虫の羽音や、なにかが藪の中を動きまわる音、チロチロ流れる水の音に聴き入っていると、ふっと肉体の存在感が薄れ、精神だけの自分になり、周囲の森と同化して自分が自然の一部になって、地球を感じ、宇宙を感じる不思議な気分になってしまった。 | |
今では、森に入って知り合った多くの不思議な人たちと、小網代の森のこれまでのことや、森の未来の事について話し合いながら、森の不思議を共感し合っている。そして身近にある自然に対する感受性を磨く事により、自然との争い事も少なくできるのではと思いながら今日も森へ入る。 |
朝、露に濡れたクモの糸のベールを一枚一枚はがしながら森の奥へ入っていくと、人間のカバーが一枚一枚はがれて裸の命になれる、不思議な次元へ通じる小網代の森へ