SONY『グレイト・コラール・ワークス』全ディスク試聴記


【Disc1&2】
・モンテヴェルディ: 「聖母マリアの夕べの祈り」(全曲)
 フリーダー・ベルニウス指揮
 ムジカ・フィアータ
 シュトゥットガルト室内合唱団
 録音:1989年

ベルニウスの統制のもとに緻密に描き出される音楽の透明な美しさが素晴らしい。80年代の古楽器オケによる演奏にしては声楽・器楽とも全体的に音が洗練されているし、総じて速めのテンポで進められるアンサンブルは淡々としているようで、その俗離れした音彩がまさにモンテヴェルディの音楽の特性を浮き上がらせていている。また「聖マリアによるソナタ」をマニフィカットの後、すなわち全曲の最後に配置することで音楽全体の余韻を深める効果をもたらしている点も見逃せない。この作品の隠れた名盤というべき逸品。

【Disc3】
・フックス:
 「死者のためのミサ曲〜皇帝レクィエム K.51-53」
 「4声のためのソナタ K.347」
 「3声のためのソナタ K.370」
 「モテット: リベラ・メ(我を解き放ちたまえ) K.54」
 「ミゼレーレ」
 ローランド・ウィルソン指揮
 ムジカ・フィアータ
 ラ・カペラ・ドゥカーレ
 録音:2010年

こちらもCD1&CD2と同じムジカ・フィアータのアンサンブルだが、そのベルニウス指揮の浮世離れした透明な響きの美しさに満たされたモンテヴェルディと比べると、このフックスは幾分コッテリした響きという感じがする。こちらの方が音質的にも明らかに上だし、器楽演奏の洗練度も上回っていて、その意味では名演というべきだが、それでもベルニウスのモンテヴェルディから続けて聴くと全体的に音楽の俗っぽい印象が耳につく。モンテヴェルディとフックスの作風の違いというべきか。

【Disc4】
・ゼレンカ:「神の御子のミサ曲 ZWV.20」「聖母マリアのためのリタニア ZWV.152」
 ナンシー・アージェンタ(ソプラノ)
 マイケル・チャンス(カウンターテノール)
 クリストフ・プレガルディエン(テノール)
 ゴードン・ジョーンス(バス)
 フリーダー・ベルニウス指揮
 ターフェルムジーク・バロック管弦楽団
 シュトゥットガルト室内合唱団
  録音:1989年

CD1&CD2のモンテヴェルディと同じくベルニウス指揮で、録音年も同じだが、このゼレンカはターフェルムジーク・バロック管の器楽演奏となっているが、ここでもムジカ・フィアータを指揮したモンテヴェルディ同様、音楽の透明にして高貴な美しさが素晴らしく、まさに浮世離れした宗教作品の醍醐味を聴く楽しみを感じさせてくれる。ややオン気味の鮮明な音質なのに、合唱とオケが織りなす透き通るような音彩に引き込まれるあたり、やはりベルニウスの創出するアンサンブル展開は絶妙というほかない。

【Disc5&6】
・ヘンデル:オラトリオ「メサイア」(全曲)
 クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
 アンナ・ラーソン(アルト)
 ミヒャエル・シャーデ(テノール)
 ジェラルド・フィンレイ(バス)
 へルべルト・タヘッツィ(オルガン)
 シュテファン・ゴットフリート(チェンバロ)
 ヘルヴィヒ・タヘッツィ(チェロ)
 ニコラウス・アーノンクール指揮
 アルノルト・シェーンベルク合唱団
 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
 録音:2004年

アーノンクールの円熟味とWCMの圧倒的に洗練されたアンサンブルが結託した純音楽的美演というべきか。各楽器の音色固有の色彩的メリハリが強いのはこの指揮者の特性だが、ムジークフェラインの美しい残響とオン型の鮮明な音質が絶妙な味わいを演奏にもたらしている。しかしハレルヤ合唱に関しては、ちょっと抑制を効かせすぎという気もするが、、、。

【Disc7】
・J.S.バッハ:モテット集(BWV.225〜229)
 「主に向かって歌え、新しい歌を」 BWV225
 「霊はわれらの弱さを助けたもう」 BWV226
 「イエス、わが喜び」BWV227
 「恐るることなかれ、われ汝とともにあり」 BWV228
 「来たれ、イエスよ、来たれ」 BWV229
 アンドレア・エゲラー、インガ・フィッシャー(ソプラノ)
 マルティン・ファン・デル・ジースト(カウンターテノール)
 マルクス・ブルッチャー(テノール)
 トーマス・ヘルベリヒ(バス)
 フリーダー・ベルニウス指揮
 シュトゥットガルト室内合唱団
 シュトゥットガルト・バロックオーケストラ
 録音時期:1989年

このバッハのモテット集でもベルニウスはアンサンブルの透明な美感を絶妙に捻出し、音楽の持つ浮世離れした静謐な美しさを浮き上がらせることに成功している。これらのモテットは基本的に声楽9割・器楽1割というバランスなので、歌手と合唱の発声自体の美的魅力が相対的に音楽の前面に出てくるが、その意味では同じくベルニウス指揮シュトゥットガルト室内合唱団によるCD1&CD2のモンテヴェルディないしCD4のゼレンカよりも、このバッハの方がベルニウスの持ち味をダイレクトに堪能することができるように思う。

【Disc8&9】
・J・S・バッハ: ミサ曲ロ短調(全曲)
 トーマス・ヘンゲルブロック指揮
 バルタザール・ノイマン合唱団
 フライブルク・バロックオーケストラ
 1996年

印象としてはフリーダー・ベルニウスの宗教曲に対するアプローチを一層推し進めた地点での純音楽的な美しさを極めたロ短調ミサというべきか。全体的に低カロリーな響きではあるのだが、ノンヴィブラートのアンサンブルの透明感を中核としつつピリオド楽器のシャープな色合いと声楽の細密なボリューム・コントロールが音楽の色彩に絶妙なコントラストを与えており、それが固有の深みを音楽にもたらしている。

【Disc10&11】
・J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ(全曲)
 クリスティーネ・シェーファー(ソプラノ)
 ベルナルダ・フィンク(アルト)
 ヴェルナー・ギューラ(テノール)
 クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
 ジェラルド・フィンレイ(バス)
 ニコラウス・アーノンクール指揮
 アルノルト・シェーンベルク合唱団
 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
 録音:2006年・2007年

アーノンクール/WCMが同時期に収録したヘンデル「メサイア」(CD5&CD6)よりも、こちらのバッハのほうがマイクがオン型で収録されており、そのぶん高カロリーなアンサンブルの表出力が際立っている。オーケストラの味の濃い合奏、名手を揃えた歌唱陣の名唱とが織りなすアーノンクール会心のバッハというべきか。

【Disc12&13】
・ハイドン:オラトリオ「天地創造」全曲
 ジモーネ・ケルメス(ソプラノ)
 ドロテー・ミールズ(ソプラノ)
 スティーヴ・デイヴィスリム(テノール)
 ヨハネス・マンノフ(バス)
 ロッキー・チャン(バス)
 トーマス・ヘンゲルブロック指揮
 バルタザール=ノイマン・アンサンブル&合唱団
 録音:2001年

CD8&CD9のバッハ・ロ短調ミサに続くヘンゲルブロック指揮の録音だが、オケと合唱が相違していることもあるのか、そのバッハとこのハイドンとは演奏の雰囲気が少なからず変化している。低カロリーながら音楽の透明感を重視した純音楽的美演のバッハに対し、こちらのハイドンはかなり高カロリーなアンサンブルのバイタリティが印象的であり、それが作品本来の祝祭的な晴れやかさに満ちたムードに良くマッチしている感がある。

【Disc14】
・モーツァルト:ミサ曲ハ短調
 アーリーン・オジェー(ソプラノ)
 バーバラ・ボニー(ソプラノ)
 ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
 ロベルト・ホル(バス)
 ベルリン放送合唱団
 クラウディオ・アバド指揮
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音時期:1990年

モーツァルト新全集のエーダー版を使用している。アバドらしい端正にして清涼感のあるアンサンブル展開であり、4人の歌手にも名手を得て、演奏自体には申し分がないのだが、いかんせん音質がいまひとつ弱い。オフマイクのモヤッとした感じの響きで、音の鮮明度、細部の見晴らしなどが良くない。もうすこしオン気味にくっきりと録られていたら良かったが、、。

【Disc15】
・モーツァルト: レクィエム(ランドン版)
 マリーナ・ウレヴィッツ(Sp)
 バルバラ・ヘルツル(Ms) 
 イェルク・ヘリング(T)
 ハリー・ファン・デル・カンプ(Bs) 
 テルツ少年合唱団
 ブルーノ・ヴァイル指揮
 ターフェルムジーク・バロック管弦楽団
 録音:1999年

かなり速めのテンポで駆け抜けるモツレクであり、そのわりには弦楽器の強い色合いが印象的だし、声楽との緊密なアンサンブルの連携にも隙がなく、独唱陣の饒舌だが透明感を帯びた歌声の魅力も素晴らしい。しかし全体的に管パートが振るわないのが気になるところで、ディエス・イレなど、もう少し鳴らせないものかと思ってしまう。

【Disc16&17】
・ベートーヴェン: ミサ・ソレムニス、合唱幻想曲
 ルーバ・オルガナソーヴァ(Sp)
 ヤドヴィガ・ラッペ(A)
 ウヴェ・ハイルマン(T)
 ヤン=ヘンドリク・ロータリング(Bs)
 ゲルハルト・オピッツ(p)
 コリン・デイヴィス指揮
 バイエルン放送交響楽団&合唱団
 録音:1992年・93年

ミサ・ソレムニスはデイヴィス特有の遅めのテンポとバイエルン放送響の重厚な弦の響きとが相まって展開される荘厳な佇まいに惹かれるものがあるが、しかし音質がどうもイマイチ。かなりのオフマイクで収録されており、ここぞという時に金管が全くものを言わないし、全奏にしても終始モヤッとした感じに聞こえるので、もっさりとした演奏という印象になる。もっとオンマイクでくっきりと収録されていれば、また印象も違ってくるのだろうが、、、。合唱幻想曲も同様の音質傾向で、こちらはテンポ面でもオーソドックスなので印象が更に弱い。

【Disc18】
・ロッシーニ: 小ミサ・ソレムニス
 カーリ・レファース(Sp)、ブリギッテ・ファスベンダー(A)
 ペーター・シュライアー(T)、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br)
 ヴォルフガング・サヴァリッシュ(指揮&pf)
 ミュンヘン・ヴォーカル・ゾリステン
 録音時期:1972年

ピアノ2台とハルモニウムによるオリジナルバージョンでの演奏。この小ミサ・ソレムニスは個人的には管弦楽版の方が面白いと思うが、独唱者に名手を得ている場合、やはり音楽が映える。この録音ではフィッシャー=ディースカウとシュライアーが顔を合わせているのが大きく、宗教曲というよりは歌曲的な細やかなニュアンスが巧く表現されているあたりが美質となっている。

【Disc19】
・ベルリオーズ: レクィエム
 ヴィンソン・コール(T)
 タングルウッド音楽祭合唱団
 小澤征爾指揮
 ボストン交響楽団
 録音時期:1993年

全体的に味気ないベルリオーズでいただけない。かなりオフ気味のマイクで録られているうえに小澤/ボストンのアンサンブルの線の細い音の展開もあり、味の薄い響きに終始しているというのが率直な印象。タングルウッドの合唱団の細やかな歌唱は良く練り込まれているし全体の完成度も高いが、ライヴにしては生気不足な印象を受けるのは、やはりオフマイクの音質のせいだろうか。

【Disc20&21】
・メンデルスゾーン: エリヤ
 シビラ・ルーベンス(ソプラノ)
 レベッカ・マーティン(アルト)
 マルクス・シェーファー(テノール)
 アレクサンダー・マルコ=ブーアメスター(バリトン)
 ヴィンツバッハ少年合唱団
 カール=フリードリヒ・ベリンガー指揮
 ベルリン・ドイツ交響楽団
 録音時期:2006年

宗教声楽曲のエキスパートであるベリンガーだけに合唱の展開が全体的に秀逸。フォルテッシモでの晴れやかな透明感の表現力やピアニッシモでの克明感のある声の刻み込みはメンデルスゾーン畢生の大作であるオラトリオの荘厳さを良く描き出している。これでオーケストラが充実していれば最高だったが、残念ながら表面的な鳴りに終始し、ここぞというとき(例えば第2部のエホバ出現の前触れとなる天変地異の表現力など)の凄味に欠けている。

【Disc22&23】
・ヴェルディ: レクィエム
 キャロン・ヴァーネス(Sp)
 フローレンス・クイヴァー(Ms)
 デニス・オニール(T)
 カルロ・コロンバーラ(Bs)
 コリン・デイヴィス指揮
 バイエルン放送交響楽団&合唱団
 録音時期:1991年

デイヴィス/バイエルンの宗教曲録音としてはDisc16&17のベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」も煮え切らない感じだったが、このベルレクもいまいち良くない。ベートーヴェンよりも更にオフ気味のマイクで収録されているので、どうにも響きの線の細さが気になるし、歌手・合唱がオケよりも一段とオフ気味に録られているのもマイナスで、おかげで4人の歌手のソロに一様に冴えが乏しい。総タイム85分をかけての重厚なアンサンブル展開だけに、もう少しオンで録られていればさぞかし。

【Disc24】
・ブラームス:ドイツ・レクィエム
 ゲーニア・キューマイアー(ソプラノ)
 トーマス・ハンプソン(バリトン)
 アルノルト・シェーンベルク合唱団
 エルヴィン・オルトナー(合唱指揮)
 ニコラウス・アーノンクール指揮
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 録音時期:2007年

ここでのアーノンクールのアプローチはコッテリとした厚塗りの響きとは一線を画したシャープな音彩をオケから引き出しつつもウィーン・フィル本来のふくよかなアンサンブルの美感をナチュラルに引き立たせている点が秀逸であり、歌手・合唱団ともども実に高貴な音の伽藍を描き出していて惹きこまれる。しかしマイクが全体に引き気味で全奏の迫力が少し物足りないのが残念。それと第6楽章主部のトリッキーなテンポ運用は好悪を分けるところかも知れない。

【Disc25】
・ブラームス:
 「3つの歌Op.42」
 「4つの歌Op.17」
 「5つの歌Op.104」
 「7つの歌曲Op.62」
 「6つの歌曲とロマンスOp.93a」
 フランツ・ドラクシンガー(ホルン)
 トマス・ハウシー(ホルン)
 メヒトヒルト・バッハ(ソプラノ)
 フリーダー・ベルニウス指揮
 シュトゥットガルト室内合唱団
 録音時期:1995年

このボックスに収録されているベルニウス&シュトゥットガルト室内合唱団の録音としてはモンテヴェルディ、ゼレンカ、バッハに続いて4点めだが、純粋に合唱の美しさが際立っているという点ではこれがベストか。Op.42、Op.104、Op.62は無伴奏合唱だしOp.17はホルンとハープの伴奏のみ、Op.93aは1曲だけソプラノ歌手のパートが含まれるという構成ゆえ、結果的に合唱の持ち味が前面に浮き上がることになる。それにしても、このコンビの生み出す透明な美しさを湛えた合唱の響きはブラームス特有の儚いセンチメンタリズムに良く合っている感じがする。

【Disc26】
・フォーレ: レクィエム(1893年版)
・プーランク: 悔悟節のための4つのモテット
 スンハエ・イム(Sp)
 コンラッド・ジャーノット(Br)
 バルバラ・フレッケンシュタイン(Sp)
 マックス・ハンフト(Org)
 ペーター・ダイクストラ(指揮)
 ミュンヘン室内管弦楽団
 バイエルン放送合唱団
 録音時期:2011年・2010年

フォーレ「レクイエム」の室内オーケストラ版(1893年版)は最近リリースのナイジェル・ショート指揮テネブレ合唱団の録音が素晴らしかったが、それと比べるとダイクストラ盤は少し遜色感がある。合唱がオケより少しオフ気味なバランスで鮮明さがいまひとつなのと、全楽章にわたりショート盤よりも速めのテンポとなっているため声楽アンサンブルの細密さがショート盤より引き立っていない。しかしミュンヘン室内管の味の濃い響きは秀逸で、オケの表出力ではショート盤をも上回るか。埋め草のプーランクの方はフォーレよりもひとまわりオンマイクで録られているので、そのぶん合唱の精彩もアップしている。

【Disc27&28】
・マーラー: 交響曲第8番「千人の交響曲」
 メラニー・ディーナー(Sp)
 ビルギット・レンメルト(A)ほか
 スイス室内合唱団&WDR合唱団
 デイヴィッド・ジンマン指揮
 チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
 録音年:2009年

ジンマン/トーンハレのマーラー・チクルスは1番から順繰りに録音が進められたから、これは8番目の録音ということになるが、基本的に番号が進むに比例して演奏の精彩がぐんぐんアップしていったというのが一通り聴いた率直な印象で、おそらくオーケストラがマーラー慣れしてきたのと、録音ポリシーがジンマンの方針にフィットしていった(最初は明らかにフィットしていなかった)のが要因ではないかと思うが、いずれにしてもこの8番はジンマン/トーンハレ特有の異様なほどの音の情報量と細密感が素晴らしく、曲がマーラーとしても最大規模の編成であるだけに、そのキメ細かく鮮やかな鳴りっぷりが、途方もない音楽の奥行きを際立たせる形になっている。

【Disc29】
・プーランク: グローリア
 レナード・バーンスタイン指揮
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 ウェストミンスター合唱団
 ジュディス・ブレゲン(ソプラノ)
・バーンスタイン: チチェスター詩篇
 レナード・バーンスタイン指揮
 ニューヨーク・フィルハーモニック
 カメラータ・シンガーズ
 ジョン・ホガード(アルト)
・ストラヴィンスキー: 詩篇交響曲
 レナード・バーンスタイン指揮
 ロンドン交響楽団
 イギリス・バッハ祝祭合唱団
 録音:1976年(プーランク)、1965年(バーンスタイン)、1972年(ストラヴィンスキー)

録音時期ないし録音環境が3曲で相互に異なっているため、音質面での当たり外れが演奏の精彩に大きく影響している。3曲中のベストは間違いなくチチェスター詩篇で、ちょうどバーンスタイン/ニューヨーク・フィルの絶頂期にあたる録音だけにオーケストラの表出力がハンパでないし、自作自演ならではの強みと、オケ・声楽共々くっきりと鮮明なオンマイクの音質の追い風と相まって、圧倒的な聴きごたえとなっている。プーランクのグローリアも悪い演奏ではないがチチェスター詩篇ほどのレベルにはオケも音質も到らず、とくに音質はマイクがオン型なのはいいが76年にしては妙にノイズ感が高いのが気になる。最後の詩篇交響曲は残念ながら音質が良くない。オケの音が明らかにオフマイクのボワンとした響きで録られており、そのくせ合唱がオンなのでボリューム調整も利かず、チチェスター詩篇から続けて聴くとオーケストラの表出力が振るわないこと甚だしい。

【Disc30】
・アルヴォ・ペルト: スターバト・マーテル、交響曲第3番、カンティク・デ・ドゥグレ
 クリスチャン・ヤルヴィ指揮
 ベルリン放送交響楽団
 RIAS室内合唱団
 録音:2009年

この3曲は作曲時期が離れている関係から作風の差違が小さくない。この中での個人的ベストは交響曲第3番。とかくティンティナブリ様式以降の曲が過大評価される傾向にあるペルトだが、この交響曲第3番は現代曲的な音の破壊力・どぎつさと、古楽曲的な音の清らかさ・耳当たりの良さとが、絶妙な共存状態を示しており、まさにペルトならではの不可思議で神秘的な音楽の趣きに代え難い魅力を感じさせる。演奏も素晴らしく、オーケストラの表出力、とくに金管パートの冴えが抜群に良い。スターバト・マーテルは2008年に改訂された、混声合唱と弦楽編成の版での演奏であり、中盤での声楽と弦とが交互に応答してクライマックスを築く場面での音楽の切迫した訴求力が光っている。カンティク・デ・ドゥグレは混声合唱とオーケストラのための作品で、他の2曲と比べると穏健な作風だが、交響曲第3番の後の熱冷ましに聴くと据わりがいい。

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