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85 短編『じゅらい亭日記封印編』
2002.8.20(火)12:42 - コマンド・ツヴァイ - 3062 hit(s)

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轟々と吹き付ける雨と風が
先ほどから窓をがたがたとせわしなく叩いている。
今朝方から上陸してきた台風77号のおかげで今日は
客の出入りが悪い。

「あーあ。今日はもう店閉めちゃおっかなー」

閑散とした、というか誰もいない店内。そのカウンターの上で、だらりと夏バテ気味の
犬のように突っ伏したこの店の主ことじゅらいは、店内をぼんやりと
眺めながら、一人憂鬱そうにつぶやいた。
他のスタッフ達、風舞、陽滝、悠之、時音、時魚、そして娘の月夜は
昨日から、避暑、と称してテンスムーンに旅行に出かけてしまっている。
そんなわけで、店には今じゅらいしか居ないわけである。すなわち留守番。
もちろん、一緒についていこうとはしたのだが、
『ぱぱー。おみやげ買ってくるからいい子で留守番しててねー』
なる愛娘月夜の言葉に胸を張って「ははは、まかせておけいぃ」
などとうっかり応えたもんだからこんな始末。
思えばあれは風舞の作戦だったのかもしれない、
などと今更言ったところで後の祭り。
じゅらいは、はぁ、とため息を一つつくと、よっこらせと気だるい体を起こし
店の看板をひっくり返しに入り口までノロノロと歩いていった。

カランコロン。

と、ちょうどドアノブに手を掛けようとしたところで、ゆっくりと、しかしじゅらいが
あけるより早く、ドアが押し開けられた。そこには

「へふー。いやー、ひどい雨っすねー」

見慣れた花瓶があった。いや、一見花瓶に見えるが、いややっぱり花瓶の常連客の花瓶さんが
そこにいた。
彼はそのまま、するりと店内に入ると手近の植木鉢に、自分の中に溜まった雨水を
だーっとそそぎ込む。うーんいい仕事してますね(謎)
と、そこで彼はようやく、先ほどから妙に力の抜けた顔で突っ立っているじゅらいに気がついた。
視線に気づいたじゅらいは、少し残念そうなそれでいて嬉しそうな顔で花瓶を出迎えた。

「いらっしゃい花瓶さん、いや、ほんとにひどい雨と風だね」
「ええ、あっしなんか来る間に、軽く20回くらいは吹き飛ばされちまいましたよ」

吹き飛ばされた時に体をあちこちぶつけたのか、花瓶のボディには無数の細かい亀裂
がはしっていた。

「で、今日はどうしました花瓶さん。こんな天気の日に来るなんて」

当然といえば当然の質問。

「いやぁ、ちょっと新しい技を開発したんで、是非じゅらいさんに見ていただこうかと
 思いまして」
「新しい技?」

花瓶の言葉に首を傾げる。
新しい技?つまり割れたり、ひっついたり、また割れたり、さらにくっついたり、
挙げ句割れたりする以外の何かをひらめいたってことなのかしら?
ちょっと興味を覚えたじゅらいは、やめときゃいいのに、

「へー。そうなんだ。じゃぁ早速見せてよ」

とにこやかにそう言った。
この後、自らの身に悲惨な事態を招くことになろうとはつゆ知らず。

「わかりました。では・・・とうっ!」

花瓶は口の部分を、頷く様に”へにゃり”と曲げると、軽やかにジャンプし
じゅらいの左手にハンマーコネクト(謎)。
そして口から一枚のカードを、ぺっと吐き出す。

「おっと・・・何これ?」

反射的に受け取り、しげしげと手のひら大の虹色に輝くカードを眺める。

「さぁ、じゅらいさん!そのカードをあっしにインストールするっすよっ!」
じゅらいの言葉をまるで無視し、口から残っていた雨水をぺっぺと飛ばす。
「い、インストール?」
「あっしのボディにあるスロットにインするっすよ!さぁはやく!かみーん」

何がなんだかまるでわからない。しかしここでノらないのは何だか漢じゃない気がする。

「よ、よーし!何かよくわかんないけど燃えてきたよ!コマンド・インストーーーーール!!!」

もはや勢い任せのじゅらいは、唐突に花瓶のボディに現れたスリットの存在を気にすることなく
かけ声とともに、カードをスリットに押し込む。

「オヤバカ・ベント」

妙にロボットチックな花瓶の謎の言葉と同時にじゅらいの体がカードと同じ色に輝く。

「こ、これはっ!?なんだっ体に力がみなぎってくるぞっ!!?」

不思議な高揚感に包まれ、やや興奮状態のじゅらいはこれから自分の身に起こる
出来事に淡い恋心にも似た期待を膨らませる。(爆)

「ソイル!我が力っ!!」
カッ!!

まばゆい光と大量の煙が店内を満たす。
やがて光が消え、ゆっくりとじゅらいが立ちこめる煙の中から姿をあらわす。

「電波・・・受信っ」

満足げな表情で、自分の体の変化を、そして先ほどまでの自分とは明らかに違う
意識の拡大を感じる。いける、いけるぞっ!何かしらんがこれはいけるっ!
無意味な自信を確かめつつ、じゅらいはゆっくりと目を開ける。

「おおっ・・・・?」

そして一瞬思考が停止する。

「あのー、花瓶さん?」
「なんスか?」
「なんでしょうかこの格好は?」

あまりにアレで、そしてある意味ソレな、文章ではとうてい描写不可能な
自分の体を呆然とした顔つきで眺める。

「・・・ははは、いやーじゅらいさん、格好良い格好良い、いけてるいけてる」

乾いた声と、何処にあるのかは不明だが、ニュアンス的に瞳を逸らすような花瓶。

「うそだね。っていうか全然ダメじゃん!やり直しを要求するー!!」

両手をわきわきとさせ、左手に装着されている花瓶をすさまじい形相でにらみつける。

「っていわれてもー。変身は3時間しないと解けないんっすよー」

なんですとっ!?冗談じゃない。こんないかにもアレな姿をみんなに見られてたまるか。
咄嗟にというか、当然の如くそう思ったじゅらいは
先ほど返しそこなった看板を返すため、大慌てで、出入り口のドアにダッシュをかける。
しかし。

カランコロン

無慈悲なドアベルの軽やかな音と共に、現世と幽世をつなぐ扉が開かれる。
たとえて言うなら、個室のトイレに入ったは良いが、うっかり鍵をかけ損ない
用を足してる最中に、いきなりずばっと開けられちゃった時のような。(下品)

「いやー、ひどい雨だねー、じゅーちゃ・・・ん?」

長い黒髪を滴らせ、幽世に足を踏み入れたのはじゅらい亭の常連にして
じゅらいの友人のクレインであった。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

ガタガタガタガタ。
広い店内に、雨が窓を打つ音だけが流れる。
硬直する一同。

あまりにアレな格好のままでじゅらいはドアノブにのばし掛け、行き場を失った
右手をわきわきさせながらあわてて弁明。

「あ、いや、これは、その、ね?」

目の前の友人の姿を、ほほえましく、そしてもの悲しく、
どこか遠くを見るような眼差しでクレインは、

「−−ダイナマイト」

意味不明の一言。
そして店内は白い空気に包まれた。

3時間後。

台風が通り過ぎ、突き抜けるような青空の下。
じゅらい亭につづく道をゲンキと矢神が歩いていた

「いやー、ひどい台風でしたねー」
「いやいや、まったく」
「それにしてもじゅらい亭の方は大丈夫でしょうか?ニュースによると
 結構被害が大きかったみたいですが」

「はっはっは、それは心配ないでしょう。毎回の暴走に平気でで耐えてる
 くらいですから」
「ゲンキさんに言われたくありませんな(笑)」

そんな取り留めもない話をしながら二人はじゅらい亭に向かう。
そして店の前まで差し掛かった頃。

「あれ?」

扉の前にかかった『CLOSE』という看板に首を傾げる二人。

「珍しいですねー。お休みなんて」
「ふむ・・・」

ゲンキの言葉に曖昧な返事を返しつつ、じゅらい亭の2階、店主の自室らしきところ
に目を向ける矢神。

「どうやら、台風の被害とは別に被害があったみたいですな」

カーテンの閉め切られた窓と、かすかに聞こえてくる
「しくしく、ぐっすん」という妙な声に眉間に立て皺を寄せ、矢神は眼鏡をずり上げた。


追記:
以後、じゅらいがこの兵器を使うことはなかったそうな。
今回の封印兵器:花瓶バイザー。(謎)

END


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