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77 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」
2002.8.17(土)01:42 - CDマンボ - 13531 hit(s)

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  時は7011年。あの日と同じ、5月の昼下がり。
  その日の午前中は、太陽と月が寄り添うようにして、セブンスムーンを見下ろしていた。
余りに近くて日食するのではないかというほどだったが、日食には至らず、海が少し荒れ
た以外は平和な日だった。
  そして、セブンスムーン近くの誰も居ない砂浜で、「太陽の魚」と呼ばれる魚が打ち上
げられていた。


  場所は変わってじゅらい亭。
  日曜日の昼下がりというのは、誰だって眠くなるものだ。平日ならば仕事の合間に昼食
をとりに来る常連達も、今日は居ない。居るのはたまたま立ち寄ってお茶を飲んでいる矢
神と、店のテーブルに置かれている花瓶、それに風舞だけだ。
  見た目には分からないが、花瓶は眠っている。
  心地よい眠気を誘う静寂がじゅらい亭を包み、それを破るものは居ないかのように思わ
れた。

カランコロン♪

  突如破られた静寂に、風舞ははっとして顔を上げる。矢神はいつもの笑顔で入った者を
見た。
「をや」
  130センチの身長、ショートカットの髪。今日は水色のフード付きのトレーナーに、白い
短パンを履いている。10年前にたった一日だけ、自分の隣で眠っていた少女を、矢神は覚
えていた。
「CDマンボさんではありませんか(^^」
「こんにちわ〜☆」
  彼女はまるで時間の空白を感じさせない。10年前と同じ声、10年前と同じ笑顔で、昨日
も来たから今日も来た、といった雰囲気で挨拶をした。相変わらず海星が飛び、花瓶の近
くに落ちた。
「こんにちはと言いますか、お久しぶりです(^^」
「あらぁ、すぃーちゃんじゃない、本当に久しぶりねぇ。今までどうしてたの?」
  風舞も覚えていたらしい。彼女の質問に、CDマンボは上機嫌に答えた。
「お散歩しとってねぇ、海でむぅが居ってねぇ、お友達になったんだよ。それで、ここに
来たの」
  その笑顔から「ほくほく☆」と音が聞こえてきそうだ。風舞はそんなCDマンボの様子
を見て微笑みながら、
「いや、そうじゃなくてね…」
  風舞は質問の意図を正確に伝えようとした。なぜ、じゅらい亭に来て数日で消えてしま
ったのか。10年という長い間、何をしていたのか。どのようにして戻ってきたのか。
  CDマンボの方は「むぅ、むぅ」と言いながらご機嫌に頭に手をやった。手は頭の上で
何かを取ろうとして空振りし、CDマンボの頭にすとんと落ちた。
「あーーーーーっ!!!」
  頭に何も乗っていないことに驚愕して、CDマンボが叫び声をあげる。並外れた魔力を
持つ矢神と風舞は何もなかったが、じゅらい亭の窓や扉はガタガタと振るえ、花瓶にはひ
びが入ってしまった。CDマンボはそんな周りの状況にも気づかず、
「むぅが居らん!!」と叫ぶ。
  ころころと変わる状況の変化に風舞も戸惑いを隠せない。
「むぅ?」
  そう聞き返すのが精一杯だ。CDマンボは涙目でうなずき、
「うん、むぅ」
  そう返すだけだ。しかし、それだけでは分からない。風舞は首を傾げるばかりだ。それ
に対して矢神の方は、「むぅ」とは何かを考えつつ、質問を出した。
「先程はお友達とおっしゃってましたが、CDマンボさんの頭に乗れるようなお友達なの
でしょうか?」
「うん。このくらいだよ。丸くてふわふわなの」
  CDマンボは手で小さく丸を作って答える。全長15センチといったところか。
「ほぅ、ふわふわですか。して、どのような色の『ふわふわ』なのでしょう?」
「えっとねぇ…」
  CDマンボはじゅらい亭の中を見渡す。そして、ひびの入った花瓶の前で視線が止まっ
た。花瓶の中には、少ししおれたコスモスが一輪。それを手にとり、CDマンボは答えた。
「この、葉っぱみたいな色だよ、むぅは」
「ということは、黄緑ですか…?」
  矢神は再び考えた。全長15センチで、色が黄緑。海で出会ったこと。そして、「むぅ」。
  矢神の知っている生物の種類の中で、一件だけ該当する動物が浮かんだ。
「ウミウサギですね(笑)」
「うみうさぎ??」
  ウミウサギとは、鮮やかな黄緑色の毛並みと兎のような長い耳、それにCDマンボは説
明しなかったが頭頂部に小さな角を持つ、一角兎の一種だ。体は小さく人間の手のひらほ
どしかなく、「むぅ」という鳴き声を発する。ワカメなどの海草を食し、砂浜で生活する
ために、水陸両方で呼吸が出来る珍しい動物である。
  体が小さいこと、水陸両方で呼吸が出来ることから、人魚の使い魔とも言われる動物だ。
CDマンボの相棒としてはぴったりかもしれない。
  CDマンボはウミウサギという単語で首をかしげた。
「うみうさぎって、むぅの名前?」
「まぁ、そうです(笑)」
「そっか、むぅの名前はうみうさぎ〜☆」
  CDマンボの頭からまた海星が飛んで花瓶に当たる。ついさっきまでむぅが居ないと泣
きそうになっていたのに、名前を知って機嫌が良くなるところはなんとも集中力がないと
いうか忙しないというか。
「じゃぁ、あーし、探してくるね☆」
  CDマンボは多少乱暴な音を立ててドアを開け、元気に飛び出していった。三つ目に飛
んだ海星をトドメに、花瓶は壊れてしまった。
「すぃーちゃん…変わってないわね」
「多少不自然な程です(笑)」
  そういう矢神も10年前と全く変わっていないのだが、彼女のそれは、変わっていないと
いうよりは、空白の10年間が無かったかのようだった。

  CDマンボが閉めたドアのベルは、まだ少し揺れていた。


  ぽてぽてぽて。
CDマンボの歩く姿は、擬態語をつけるならこんな感じだろう。歩幅が小さくて体が無駄
に上下に揺れている。
「むぅ…どこに行っちゃったのかなぁ…」
  流石に友達が居ないのは少し寂しいらしく、声にも元気がない。しかし、やはり子供ら
しく落ち着きが無い。歩いていたかと思うと急にしゃがみ込み、足元にあったこぶし大の
石ころをひっくり返して裏側を見る。いくらなんでも石の下には居ないだろうと冷静に考
えれば分かりそうなのだが、本人は真剣に探している。
  道行く人にも一生懸命尋ねた。
「あの、むぅを知りませんか?」
  いきなり尋ねられた方も首を傾げつつ、むぅとは何かを聞くのだが、彼女の説明はあま
りにも稚拙だ。「お友達なんです」とか「むぅはむぅやもん」とかしか言わない。これで
は普通の人には答えようにもなかった。
  一人の道をとぼとぼ歩きながら、彼女は呟いた。
「むぅ…迷子になっちゃったのかなぁ…」
  しかし、そう呟いてから10メートルもせずに立ち止まる。その表情は先程とは打って変
わって輝いている。道の隅に小さな花が咲いていた。
「花瓶さんにあげよ〜☆」
  その場所には、花の代わりに海星が残された。


「そういえば…」
  カウンターで栓の開いたワインを確認していた風舞は、何を思い出したのか、矢神の方
を振り返った。彼女はウミウサギの単語を最近聞いていたのだ。
「ウミウサギって、確か冒険者ギルドの依頼の中にあったのよ。ウミウサギをセブンスム
ーンで目撃したから捕獲してくれって。そのウミウサギ、すぃーちゃんのむぅのことかも
しれないわ」
  ウミウサギは冒険者達の間で高く売れる。正確には、その髭だ。ウミウサギの髭は混乱
や魅了などの魔力による精神の錯乱状態を無効化することができる。
  風舞の言葉を聞いた矢神は、さすがに少し眉をひそめた。
「可能性はありますね(笑)。その依頼を受けた人はいらっしゃるのでしょうか?」
  風舞は首を横に振った。
「依頼は現物との交換だったから、依頼の張り紙を見た冒険者の全員が受けた人ってこと
になっちゃうわね」
  つまり、CDマンボは無数の冒険者を相手にしなければならない。まさかウミウサギを
かけて冒険者と戦ったりはしないだろうが、誰か他の冒険者がウミウサギを見つけて冒険
者ギルドに行ってしまえばおしまいだ。髭を抜かれた上に、あとは煮るなり焼くなりお好
きなように、となってしまうだろう。
「ではまぁ、少しお手伝いをしてきましょうか(笑)」
  矢神の言葉に、風舞は安心したように頷いた。CDマンボは戦闘能力は全く持っていな
い。まぁ、セブンスムーンの中でならさほど危険なことはないかもしれないのだが、CD
マンボはいかにも迷子になりそうで心配だったのだ。
「すぃーちゃんの分と矢神さんの分の夕食、用意しておきますから。一度連れて帰ってき
てくださいね」
「承知しました(笑)」
  矢神はゆっくりとした足取りでじゅらい亭を出た。時刻は午後5時、日も少し傾いてき
ている。
  そして、入れ替わって入った客が居る。。
「風舞さん、こんにちわ♪例の物、仕入れられました?」
  犬の姿のWBだ。
「あぁ、はいはい、苦労したけど仕入れましたよ(笑)」
  風舞は少し笑いながらそれを取り出してWBに渡した。
「はい、辛子明太子味のホネっこ。エイスムーンから取り寄せたんですよ」
  WBが嬉しそうに尻尾を振る。
「ありがとうございます♪これ、一回で良いから食べてみたかったんですよね♪」
  流石にWBの体から音符が出ることはなかった。


  そしてCDマンボの方はというと、風舞の期待を裏切らずに迷子になっていた。花瓶に
あげようとした花はCDマンボの手の中でしおれてしまっている。もちろんウミウサギも
見つけていない。
  花を見つけてからも、途中でちょうちょを追いかけたり、ソーダの栓やビー玉を拾った
り、果物の木を見つけては美味しそうと思ったり、奇声をあげて近くに居た女の子の手に
ソフトクリームを出現させたり、子供は実に忙しい。ちゃんと最初の目的を覚えているの
か、多少疑問が残るが、たまに「むぅ〜」と言っているあたり、本来の目的はちゃんと覚
えているようだ。脱線が多いだけで。
  太陽はセブンスムーンの建物よりも低くなっている。綺麗な夕焼けだった。
「ここに居られましたか(笑)」
  矢神がようやくCDマンボを見つけた。ようやくといっても、じゅらい亭を出てから1
時間ほどしか経っていない。セブンスムーンの広さを考えれば、すぐに見つけたという表
現の方が正しい。
  なぜこんなに早く見つけられたかというと、じゅらい亭を出ると所々に海星が落ちてい
たからである。
「ウミウサギの方は見つかっ…てはいなさそうですね(笑)」
  見つけていれば当然傍にその姿があるはずである。CDマンボは俯いてこくりと頷いた。
「もうすぐ日も暮れます。今日はとりあえずじゅらい亭に戻りましょう。いくらセブンス
ムーンの治安が良いといっても、夜の一人歩きは避けるべきです(笑)」
  CDマンボは涙目でしゃがみ込んだ。まるでだだっ子だが、彼女にとってはこれが精一
杯の意思表示だ。矢神が更に何か言おうと口を開きかけた、その時。
「むぅ」
  決してCDマンボの奇声ではない、動物の鳴き声だ。CDマンボの目が途端に輝く。
「むぅの声やぁ!」
  そう叫んだかと思うと、忙しなく辺りを探し始めた。建物と建物の間を覗き込んだり、
ゴミ箱の蓋を開けたり、通行人の足の下を調べたりしている。
  しかし、矢神は別の意味で驚愕していた。流石にこればっかりは呆然とせざるを得なか
った。CDマンボの上着にはフードがついている。そのフードの中から、黄緑色の長い耳
と、小さな角が見えるのは気のせいだろうか。
  しかし矢神は実に辛抱強く、CDマンボが周辺の捜索を終えるのを待った。そしてその
頃には、いつものペースを取り戻していた。CDマンボは訝しげな表情で矢神の前に立っ
た。
「矢神さん、今、むぅの声がしたよね?」
「はい、確かに(笑)」
  妙に確信を持って頷く矢神を見上げつつ、CDマンボは首を傾げた。
「なんでどこにも居らんのやろう?」
  矢神はいつもの笑顔で、CDマンボに諭して聞かせた。
「CDマンボさん、なくしたと思っていたものが、実はなくしていなかったというのは良
くある話です。ですから、なくし物をした場合は、まず自分の身の回りを徹底的に探す事
を強くお勧めします(笑)」
  言われていることの意味が分かっているのかいないのか、CDマンボは無表情で首を傾
げた。多分理解していない。
「CDマンボさん、本当に身の回りをよく探しましたか?ポケットの中や、…フードの中
も(笑)」
「むぅ」
  ウミウサギの二度目の鳴き声は、最後の矢神の言葉とほとんど同時だった。そして、C
Dマンボの背中からウミウサギが出てきた。ウミウサギは背中をつたってCDマンボの肩
に乗った。CDマンボの表情がぱっと明るくなった。
「うみうさぎが、帰ってきた〜☆」
  CDマンボの機嫌に比例して勢い良く飛んだ海星は、そろそろ赤から青に変わろうとし
ているセブンスムーンの空に消えていった。
「それは帰ってきたとは言いません(笑)」
  矢神は突っ込みを忘れない。
  CDマンボはウミウサギを手に乗せて顔の高さに持ってきた。
「むぅの名前はうみうさぎっていうんやって。矢神さんが教えてくれたんだよ〜☆良かっ
たね、うみうさぎ☆」
「一応言っておきますが、固有名詞ではありません(笑)」  
  CDマンボが欠伸をする。一日中歩き回って、疲れたのだろう。
「では、そろそろ帰りましょう(笑)」
  矢神は促して先に歩き出した。その後ろを、CDマンボがうとうとしながらついていく。
ぽてぽてぽて。二人の影を映す太陽も、もう完全に沈んでしまっている。

  しかし、CDマンボの足は、途中にあった公園の前で止まった。
「矢神さん、あーし、今日はもう寝る〜」
  その声はいかにも眠そうだ。CDマンボは公園の中に入っていった。山型で中が空洞の
アスレチックの前で一瞬立ち止まり、「ここにしよ〜」とか呟きながら中に入ろうとした。
「CDマンボさん!?まさか、そこで寝るつもりですか(^^;;;」
  中に入ろうとした瞬間にCDマンボの目的を察した矢神は、慌てて引きとめた。
  CDマンボは眠そうに頷いた。
「うん、眠いもん。駄目なん?」
「駄目です(笑)」
  答えたCDマンボの目は既に半分閉じかかっている。しかし、矢神としてもこれを許す
わけにもいかない。眠いといって公園で眠ろうとするくらいだ、じゅらい亭に居ないとき
食料をどうやって得ていたか、夜どこで寝ていたか、簡単に想像できる。しかし、それで
はまるで浮浪状態だ。
  それに何より、矢神には風舞との約束があった。
「どちらにしろ、じゅらい亭に連れて帰るしかありませんね…(笑)」
  それでも(笑)が付く矢神だった。


「はぁ…そういうことだったんですか…」
「そういうことでした(笑)」
  さて、日曜日の夜は、昼と違ってかなり忙しい。風舞は悠之や店主じゅらいと共に店を
切り盛りしながら、矢神の話の顛末を聞いた。
  話題に上っているCDマンボの方は、じゅらい亭のテーブルの一つに突っ伏して寝てい
る。カウンターは備え付けの椅子に座っても背が低くて届かないのである。ちなみに、風
舞が用意していた夕食は寝る前に綺麗に平らげた。
「でも、まさか10年間ずっと毎日公園で寝ていたわけじゃないわよね?」
  聞くまでもない質問だということは風舞にも分かっている。そんな子供が居ればすぐに
それなりの施設に入れられるはずだ。
「まぁ、彼女の体質を考慮すれば、海で生活していたとも考えられますし(笑)」
  食後のお茶をすすりながら矢神が応じる。実際、その線が真実に近いだろう。
「本人に聞くしかないわね…」
  多少のため息混じりに風舞は呟くと、CDマンボの背中に毛布をかけた。CDマンボは
もうすっかり眠ってしまっている。聞くなら明日にするしかないだろう。
  ウミウサギはCDマンボの頭の上で丸くなって寝ていた。


  そんなわけで次の朝である。子供の朝は早い。
「おはよう〜☆」
  頭にはウミウサギを乗せ、朝っぱらから海星を飛ばしている。だが、風舞は仕事柄もっ
と早く起きており、朝市から帰ってきたところだった。
「おはよう、すぃーちゃん」
  この子からは聞かなければならないことが沢山あった。朝食の準備は厨房のフェアリー
達に任せ、CDマンボを手ごろな椅子に座らせる。
「ねぇ、すぃーちゃん?」
  CDマンボは目を見開いて軽く首を傾げる。風舞は屈み込んでCDマンボと同じ高さに
なり、目をまっすぐ見て質問を続けた。
「すぃーちゃんは、どこから来たの?」
  CDマンボは表情を変えない。質問の意図を理解していないのか。風舞はCDマンボに
分かるように言い直した。
「おうちはどこにあるの?」
「おうち?無いよ」
  返ってきたのはあっけらかんとした答え。まるでそれが当然であるかのようだ。
「でも、それじゃぁ、夜は毎日どうするの?お父さんとお母さんは居ないの?」
「う〜?お父さんとお母さんってなに?」
  CDマンボは眉間にしわを寄せて傾げた首を反対側に傾げる。やっぱり理解してない様
子だ。風舞も眉間にしわを寄せた。
「おはよう、風舞。何してるの?」
  じゅらいが部屋から少し眠そうな様子で降りてきた。CDマンボの存在にも気づく。
「や、すぃーどの。昨日は良く眠れたなりか?(´ρ`)ノ」
  じゅらいはCDマンボの頭を撫でた。CDマンボは嬉しそうにほくほくしている。
「えへへ〜☆」
  じゅらいは飛んできた海星をマトリックス風に避けた。
「じゅらい君、すぃーちゃんの事なんだけどね…」
  風舞は昨日の事やCDマンボと先程した会話から分かる限りのことを話した。外見も中
身も、13歳と思えないほどに幼く、保護者も家も無いらしい。
  じゅらいも風舞の話を真面目な顔で聞いていた。
「う〜ん、すぃー殿、海で泳いでるときはマンボウでござろう?」
「にゅ〜?海のことは分かんない。目が覚めたら砂浜で、うみうさぎが居ったんだよ」
  CDマンボも、聞かれることを一生懸命答えていた。彼女には、育てた保護者が居ない
のだ。彼女に「己が何たるか」を教えた存在は無い。だから彼女は、おそらく生まれて初
めて、自分が何者であるかとかいうような下手すると哲学に発展するテーマを必死で考え
ていたのである。しかし、子供の頭では限界がある。

  じゅらいはそんなCDマンボの様子を見て少し考えた。
「まぁ、自分が何なのかなんてのは、ゆっくり知っていけば良いなりよ(´ρ`)ノ」
  自分が何であるかなど、本当は答えは決まっている。自分は自分でしかない。
でも、それは言葉で教えて解決できるものではないのだ。
「それでさぁ、おうちなんだけどね、すぃー殿、ここでお掃除とかしてもらえるかい?」
「おそうじ?うん、分かった☆」
  なんだか簡単ではあるが、こうしてCDマンボには帰るおうちが、じゅらい亭には新た
な常連(というよりむしろスタッフ)が出来たのであった。


「わーーーーーーーーい☆」
  ここはじゅらい亭二階の宿泊用客室の廊下だ。CDマンボが荷台を転がして遊んでいる。
いや、本当は仕事なのだが、彼女がやっているとなんだか楽しそうで遊びに見えてしまう
のである。
「くれしゃん、シーツ取り替えるよ〜☆」
「ん、すぃー、ありがとっ♪」
  荷台の中には時音が洗濯した洗いざらしのシーツが入っていた。CDマンボは小さな体
で洗濯するシーツをベッドから回収し、新しいシーツを広げる。ついでにベッドの上でト
ランポリンをしたり。
  クレインはシーツを取り替えてもらったお礼にCDマンボの頭を撫でる。CDマンボは
ほくほくしながら次の部屋へと荷台を引っ張っていった。うみうさぎは肩に乗っている。
「あ、すぃー殿、落とした海星はちゃんと拾うなりよ(笑)」
「はーい☆」
  すれ違ったじゅらいから注意を受けるが、言う側から落ちる海星が増えるのだからきり
が無い。
  ちなみに、CDマンボの給料については、じゅらいと風舞が話し合って決めた。一ヶ月
に1000ファンタだが、そのうち本人に手渡すのは20ファンタ。残りは風舞がCDマンボに
銀行の口座を作ってやり、そこに貯金することになった。賄いと昼寝もついてこの給料は
かなりのものだ。しかし、じゅらいの計らいでこの値段になった。

「それにしてもご主人様〜、マンボウって、ここでは太陽の魚って言うんですよね〜、不
思議ですね〜」
「不思議って、どういうことだ?」
  クレインは突然現れたヴィシュヌに驚きつつも聞き返す。
「神語では〜、マンボウは月の魚っていう意味なんです〜。マンボウは昔は月の力を糧に
して身を守る呪術を使ってたんですよ〜。今はもうそんな力が使えるマンボウなんかいま
せんけど〜」
  それがどこでどう変わったのか、今は太陽の魚と呼ばれているのがヴィシュヌには不思
議らしい。
  しかし、クレインはその話の途中でナンパに繰り出していたため、ヴィシュヌは怒って
追いかけてじゅらい亭を出て行く。

  誰も居なくなった部屋には綺麗なシーツのベッドの上に海星が一つ乗っていた。

                                                                        fin


〔ツリー構成〕

[76] CDマンボ 2002.8.17(土)01:32 CDマンボ (206)
・[77] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)01:42 CDマンボ (16955)
・[78] 感想みたいなもの 2002.8.17(土)17:29 モリリン (514)
・[81] re(1):感想みたいなもの 2002.8.17(土)21:01 CDマンボ (303)
・[79] 感想:短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)19:24 藤原眠兎 (977)
・[82] re(1):感想:短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー帰還編ー」 2002.8.17(土)21:20 CDマンボ (1009)
・[80] ちょっと遅いですがあとがき。 2002.8.17(土)20:48 CDマンボ (891)
・[83] 感想〜♪ 2002.8.19(月)23:16 ゲンキ (288)
・[89] re:感想〜♪ 2002.8.22(木)23:49 CDマンボ (522)
・[145] じゅらい亭日記CDマンボ的ー労働編ー 2003.6.29(日)23:20 CDマンボ (14997)
・[146] あぅち 2003.6.29(日)23:24 CDマンボ (333)
・[159] 感想:じゅらい亭日記CDマンボ的ー労働編ー 2003.7.8(火)11:01 藤原 眠兎 (285)
・[163] どもです〜☆ 2003.11.20(木)23:24 CDマンボ (318)
・[162] たまに読み返すのよ 2003.11.18(火)07:33 じゅらい (450)
・[164] あわわ 2003.11.20(木)23:36 CDマンボ (486)
・[179] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー年末編ー」 2003.12.29(月)06:29 CDマンボ (36374)
・[180] 今回の教訓 2003.12.29(月)06:36 CDマンボ (375)
・[181] 今年最初の感想 2004.1.1(木)01:12 ゲンキ (373)
・[183] 今年最初のお返事 2004.1.6(火)18:52 CDマンボ (276)
・[182] いやあ、ご苦労様です。 2004.1.2(金)10:42 じゅんぺい (286)
・[184] いえいえ、感想感謝です〜☆ 2004.1.6(火)18:55 CDマンボ (360)
・[185] 読了〜♪ 2004.1.8(木)16:54 カイオ (438)
・[186] 感無量〜☆ 2004.1.15(木)22:29 CDマンボ (298)
・[193] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的水走編」 2005.2.15(火)22:44 CDマンボ (20455)
・[194] あとがき 2005.2.15(火)22:49 CDマンボ (196)
・[195] 感想 2005.3.9(水)16:36 ゲンキ (153)
・[196] どうもです〜☆ 2005.3.11(金)16:40 CDマンボ (116)
・[208] 短編「じゅらい亭日記CDマンボ的ー贈物編ー」 2006.1.14(土)18:09 CDマンボ (22962)
・[209] あとがき 2006.1.14(土)18:15 CDマンボ (224)
・[210] 読みました! 2006.1.15(日)14:30 じゅんぺい (277)
・[211] ありがとうございます〜☆ 2006.1.15(日)19:00 CDマンボ (164)
・[212] 感想 2006.1.16(月)09:37 藤原眠兎 (317)
・[213] ありがとうございます 2006.1.18(水)17:39 CDマンボ (191)
・[214] 拝読しました 2006.1.23(月)16:38 ゲンキ (154)
・[215] ありがとうございます。 2006.1.31(火)11:55 CDマンボ (218)

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