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61 最終章 出発点
2002.7.24(水)22:38 - モリリン - 8244 hit(s)

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最終章 出発点


 村長の家。その1階にある居間で、私達は夕食を取っていた。長方形のテーブルで、私の左隣に彼、私の正面にクレア、彼の正面にセイ。そして向かい側に誰もいない長方形の短い方の辺にあたる所にレイ。
「セイさんの料理、とても美味しいですねっ♪ もういくらでも食べられますよっ♪」
「あ、ありがとう……」
 別にセイのじゃなくても常人の20倍は食べるじゃない……私もだけど。
 そのあまりに凄まじい食べっぷりに引き気味のセイ・レイ(クレアはもう慣れていた)。それにしても私も引く側じゃなく引かれる側っていうのがね、何か……今は慣れたけど。
 それはともかく。1、2時間程してようやく食べ終わると、レイが私達に報酬を手渡した。
「本当はもっと払いたいのじゃが、如何せん貧乏な村じゃからな。すまんのう」
 レイは少しもすまなそうじゃなかった。500ファンタを受け取ったのは私達の中で一番レイの近くに座っていた彼だったけど、私はその手から400ファンタ程もぎ取り、うち200ファンタをクレアに渡して残りは自分の指輪に入れた。
「何故に私の分が君達の半分なんだ……?」
 彼は不満そうだった。
「だって、ロクな事に使いそうに無いじゃない」
「何を根拠にそんな事を」
「根拠なんて無いわ。敢えて言えば女の勘かな?」
「何だそれは……って、もしかして私はオウガより信用されていないのか……?」
 その場の全員が笑った。セイだけは声を出して笑う事はしなかったけど、それでも笑った事には変わりなかった。
「うう、酷い……」
 彼は人知れず呟いた。

「ふう、やっと新しい服を買えたよ……」
 彼が買ったのは白い無地のTシャツに薄いベージュの半ズボン。因みに私も新しい服を買った。
「エル……本当にそれにするのか?」
「てへっ、可愛いでしょー?」
「可愛い……? ま、確かに可愛いか……って違う! 私が言っているのはそういう事ではなく……」
「じゃあ何?」
「……いや、もういい。もう何も言うまい」
 彼は呆れているようだった。よく見るとクレアも呆れていた。どうしてなのかいまだに判らない。確かに高かったけど……そういう事でもないのかな。
 私が買ったのは、穿いている意味が殆ど無いような気もする程短いスカートと、胸の部分だけしか隠していない肌にぴったりフィットした上着(下に何も着ていないから肌着という説も)。それと、それだけじゃちょっと寂しかったからマントも。色は、全部深い紫色。これだけなんだけどな。

 そのあとも、私達は真直ぐ東南東に向かって旅を続けた。
 色々な村を、町を、国を歩いた。
 いつもゆっくりだけど、時にはもっとゆっくり。止まる事もある。だって、急ぐ必要は全然無いもの。
 そして……私達は、ついに到着した。
「テンスムーンから東南東に真直ぐ……北の第一の大陸の東端」
「セブンスムーン、か」
「そして、これがその西側の玄関口、セブンスゲイトね」
 大きい。とにかく大きい。ただひたすら巨大な門がそこにはあった。これが、セブンスゲイト。
「本当、大きいわよね……あら? クレアは?」
 彼(例によって(以下略))は何も言わずに前方を指差した。私がそっちを見てみると、クレアがさっさと門の下を通っているところだった。追いかける私達。
 でも、入ってみるとそこは地獄だった。
 人。人。どっちを向いても人ばっかり……それならまだいいけど、私達の場合人が多過ぎて向きたい方向を向く事すら出来なかった。人の流れに呑まれ、もみくちゃにされ、疲れ果て、気が付くといつのまにかセブンスゲイトを抜けていた。
「す、凄い混雑ぶりね……」
 私が冷や汗をたらしながら言う。彼はセブンスムーンの方向を向いて呟いた。小さく、静かに。
「2度とセブンスゲイトには来るまい」
 私達は力強く頷いた。
 アースセブンにやって来た私達。時刻はとうに夕方で、そろそろ何処か泊まる所を見つけたいって思ってたんだけど。
「や、宿が無い……」
 クレアが言った。彼と私は同時にため息をついた。
 セブンスゲイトの混雑ぶりからも想像出来る通り、何故かは知らないけどここセブンスには今冒険者や旅行者が山といる。セブンスゲイトにはそういう人達のための施設が充実している筈だけど、どうやらそれでも足りないらしく、アースセブンの西側にある宿は何処も満室だった。
「ここから北に回ろうが南に行こうがどうせ同じようなもんよね……かと言ってラピュタセブンに行っても……」
 そこで彼が口を開いた。
「いや、ラピュタセブンに行ってみよう。宿屋は無くても冒険者ギルドならあるのではないか?」
「そうね、ラピュタセブンに行こう」
 私が彼に賛同する。
「冒険者ギルドねえ……あ、そう言えば確かそんな感じのがラピュタ夏区にあったような……」
「夏区って言ったら、今私達がいるのがアースの西側なんだから、一番近い区画じゃない?」
「よし、決定だ」
 そして私達は見つけてしまった。
 “店”を。
「これはギルド……ではないね」
 看板を見上げながら、彼が言った。
「まあ、いいじゃない。泊まれれば。部屋が空いてるか訊いてみよう」
 かくして私達は冒険者の店「じゅらい亭」と出逢ったのだった……あら?

「きゃっ……もう、また暴走?」
 少女――エルティアナが日の出とともに窓に座り回想を始めて、数時間が過ぎていた。時が経つのも忘れていた彼女を、丁度南中した太陽が暖かく包み込む。
 店は激しく揺れていた。爆発音や悲鳴なども聞こえる。また、誰かが1階で暴走しているのだ。しかし、その程度いつもの事。彼女も最初は戸惑ったが、まだ10日しか経っていないにも関わらずすっかり慣れていた。
 彼女は右手を軸にして時計回りに半回転し、部屋の中に着地した。そしてドアを開け、1階へと下りていく。
「あら、エルちゃん、お早う……じゃないわね。こんな時間迄何してたの?」
 看板娘の風舞が、驚異的な速さで借金帳簿をつけながら話し掛けて来る。エルはちょっと昔をね、と答えただけで、忙しそうな(そして実際忙しい)風舞から離れ、悠之の所に向かった。
「悠之ちゃん、いつものやつ、お願いね」
「はい、ちょっと待っててね」
 待っててと言いつつすぐ持って来る。そして悠之が持って来た料理を食べながら、彼女と親しげに話すエル。とても背後で壮絶な破壊行為が行われているとは思えない雰囲気である。
「へああああああっ!?」
 エルのパートナー(あまり適切な表現ではない気もするが)にして1日12時間は寝るという非常に眠たげな少年、モリリンの悲鳴が暴走の真只中から聞こえて来る。
 だがエルは公園にでも寝に行った筈なのにどうしてこんな所にいるのかしら、と思っただけで、それ以上は関わらない事にした。借金を背負うのだけはごめんだ。それに、彼にはヒーリングがある。どんなにダメージを受けても、とりあえず死ぬ事は無いのだ。
 一瞬振り返っただけで、またすぐに悠之と話し始めるエル。だがその楽しそうな笑い声は、背後の喧騒に掻き消されてしまった。

 彼と彼女が目覚めてから、今日で丁度2年目。しかし彼らの記憶が戻りそうな気配は全く無い。まず、とエルは思った、忘れなきゃね。自分達が記憶喪失だっていう事を。テンスの占い師――ピーターは言っていた。必ず記憶が戻る日が来ます。ただし忘れた頃にね、ははは。
 まずは、忘れる事から始めよう。ここでなら……じゅらい亭でなら、出来そうな気がする。この、毎日がとても楽しい所なら。
 とても、楽しい所なら。


星暦7004年3月3日

 モリリンの借金総額   約51万ファンタ




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