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6 【Please give me your smile!】 -Phase two-
2001.12.7(金)01:36 - 藤原眠兎 - 10299 hit(s)

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−Phase two− 「ああ、”第4図書館の呪われた姫君”だよ。」

 わいわい。
 がやがや。
「っとと。相変わらずのこみっぷりだな。」
 押し合い圧し合いの中を要領よくすり抜けながら、アレースはぼそっとつぶやいた。
 ここは第弐学食。
 高級品を扱う第壱学食とは違って、デザートを擁するAランチ,量たっぷり味いまいちのB
ランチ,日替わりメニューで一番人気のCランチを代表とする庶民的な味がナウなヤングにバ
カうけである。
 つまり、よく混んでいるのだ。
「おい、あれ、早く席につけ。さっきからぶつかりまくってかなわん。」
 ぶんぶーんと弱々しく振動しながらあびが愚痴る。
 別に人ごときにぶつかったところで、傷つく訳でも困る訳でもないが、鬱陶しくてかなわない。
「いや、俺だって座りたいんだが…空いてる席が…」
「アレースさん、こちらへどうぞ」
 まるで見計らったように、テーブルの方から声がかけられた。
 そこには眠兎がにこにことした顔で座席を1つ確保して座っていた。
「お、悪いな。」
 そう言って、アレースは遠慮なく確保してあった座席についた。
 ちなみに正面に座る眠兎の食事はカレーうどん。
 どんなに気を付けても汁が飛ぶ、危険なやつである。
「いえいえ、アレースさんに伺いたい事がありまして。」
「…俺に?いいけど?」
 自分のCランチをテーブルの上において、アレースはどっかと椅子に座った。
 眠兎は相変わらずにこにこと上機嫌そうにその様子を見ている。
「で?」
「知りたいのはある人物の名前と、もしもあるのなら噂話も、です。」
 そう言ってから眠兎はずるずるとカレーうどんをすすった。
 アレースは軽く肯きながら七味をぱっぱとランチのミニソバにかけた。
 ぺこん。
 どさっ。
「うぐっ。」
 思わずアレースの口から短い悲鳴が洩れる。
 七味のふたが外れて色とりどりの香辛料がミニソバの汁の表面に山を作っていた。
「先程アレースさんのお勧めで第4図書館に行ったのですが…変わった女の子に会いまして。」
 そう言いながら眠兎はひょいっとアレースのミニソバを取り上げると自分のカレーうどんを
代わりに置いた。
「変わった女の子、ねぇ?」
 眠兎の心遣いに感謝しながらアレースは鶏の照焼き丼に箸を伸ばした。
 変わった女の子と言っても意味が広すぎる。
「ええ。身長は…そうですね、150cm弱、肌の色はスノーホワイト、瞳,髪の色は共に鮮
やかな黒、髪の長さは腰まではあるロング、きわめて希少と言える美少女ですが無愛想な事極
まりありませんでした。」
 絞り込む条件を眠兎がすかさず提示する。
 アレースはしばらく無言で視線を宙にさまよわせた。
「ああ、そうかそうか。それだよそれ。」
 アレースは妙に得心がいったように眠兎に言った。
 怪訝そうな顔をする眠兎。
「なにがです?」
「いやな、眠兎に第4図書館勧めた後で、何か第4図書館にあったような気がしたんだよな。
それだ、それ。」
 うんうん、とアレースは頷いた。
 思い出せなかった事が思い出せると非常に気分がいい。
「それとは?」
 実に我慢強く眠兎が尋ねる。
「ああ、”第4図書館の呪われた姫君”だよ。」
 満足気にアレースがカレーうどんをすする。
 眠兎は軽く小首をかしげた。
「なんです、それ?」
「んー、何でもいつも第4図書館にいる女の子でね、ものすごい美少女なんだけど…呪われて
るんだ。」
 アレースはもっともらしく言ってから残った照焼き丼を一気にかきこむ。
 眠兎も、箸でぐりぐりとミニソバをかき回す。
 汁は既に真っ赤だ。
「…ふむふむ、それで?」
「何しろものすごく可愛いからな、男も放っておかない。当然声をかけに行くんだが…声をか
けた奴の末路は決まって悲惨なものになる。近付いただけで、何かに吹き飛ばされるんだ。霊
視が出来る奴に言わせると、白銀の騎士と黒鉄の騎士が彼女を護ってる…らしいけどね。」
 アレースは一息つくと、カレーうどんの汁をずずずっとすすった。
 眠兎も同じように真っ赤な汁をすする。
「で、男どもの屍山血河を築き、ついた仇名が”第4図書館の呪われた姫君”って訳だ。今じゃ
誰も近付かないよ。男も、女もね。」
「…女の子もですか?」
 不思議そうに眠兎が尋ねた。
 その問には答えずにアレースは軽く肩をすくめた。
「ま、呪いに関しては、死んだ彼女の父親が娘の行く末を案じた説やら呪われた本を読んでし
まった説とか、色々言われてるけどね。少なくとも確かなのは、彼女に近付くと、男女共に痛
い目を見るってのと…」
「のと?」
 眠兎が先を促す。
「彼女自身がその事を全く気にしてないって事かな。」
 アレースはそう結んで、一気にカレーうどんの汁をすすった。
 ミニソバからカレーうどんにチェンジしたせいか、まさに満腹であった。
「ふうむ、なるほど。」
 眠兎は感心したように呟いてから真っ赤なそばをすすった。
「ま、眠兎が見た女の子ってのはそれで間違ってないと思うよ。名前は確か…」
 記憶の糸を辿るようにアレースが目をつぶる。
 それを見計らったのかどうかはわからないが、眠兎はおもむろに七味を手に取ると、更にそ
ばに投入した。
「…みのり。四季 みのり、だったはずだよ。歳はよく憶えてないけど、確か俺なんかと同じ
学年だったはずだ。」
「四季 みのり、ですか…」
 その名前をかみ締めるように、眠兎は呟いた。
 逸話を聞いて、萎縮するどころか、ますます燃えているようだった。
「なんだ、とうとうお前にも”好き”って奴が理解できたのか、ん?」
 からかうようなアレースの言葉に、眠兎はちょっと考えるような仕種をした。
「いや、そういうのじゃありませんね。どちらかと言えば好奇心、ですね。」
「なんだそりゃ?」
 眠兎の言葉にアレースが疑問符を浮かべる。
「いや、聞いての通りですよ。あれだけ可愛くて無愛想な女の子の笑顔って見てみたいと思い
ませんか?」
「さぁ、俺はまだ見た事無いからなぁ…なんとも」
 アレースはそう答えてふと眠兎のミニソバどんぶりを見た。
 真っ赤だった。
 まるで血で染めたかのように。
「ところで…女の子を笑わせるのって、どうすりゃいいんですかね?」
「くすぐりゃあいいんじゃないのか?確実に笑うぞ?」
 眠兎の質問にアレースはきっぱりと答えた。
 極めて物理的で確実な方法だ。
 もっと気の利いた方法を知ってればいいのだが、そんな方法を知ってるなら”もてる奴”の
気分はわかっているだろう。
 多分。
「ふむ、なるほど。くすぐる、ですか」
 眠兎は納得したように呟くと、一気に真っ赤なミニソバをすすりこんだ。
 見ているだけで汗が噴き出しそうだ。
「なぁ、眠兎?」
 満足気に器をおろした眠兎を見て恐る恐るアレースが口を開いた。
「なんです?」
「お前…辛くないのか?」
 もっともな疑問だ。
「もちろん辛いですよ。辛いのが好きなだけですよ。さて、有意義な情報、ありがとうござい
ました。」
 アレースの疑問に眠兎はさらっと答えた。
「では!」
 そして眠兎はにこりと笑って、席を立つ。
 目指すは第4図書館。
 目的は四季 みのりの笑顔を拝む事。
 さぁ、やるぞぉ!
 眠兎は己に気合いを入れて第4図書館へと歩いていった。
「辛いのが好きにも程があると思うんだが。」
「さあな。眠兎も何だかんだいっても変わり者だからな」
 呆然とあびと会話するアレースを残して。


 とても静かな場所。
 たった独りでいられる場所。
 そして、何よりもここには本があるから。
 みのりは事のほか図書館が好きだった。
 まだ見ぬ本がそこにあると思うだけで、凍えた心に暖かみを感じる事が出来た。
 いつからだろう、本にしか興味を示さなくなったのは。
 本には総てがあった。
 知識はもちろんの事、やさしさも厳しさも、そして恋愛も悲しみも、全部がそこにあった。
 人と交わるのは好きじゃない。
 いずれやってくる別れがつらいから。
 だから、いつからか自分を他人から隔離するモノがいても気にならなかった。
 これが皆が影で言っているように呪いであろうとも、なんであろうとも、どうでもよかった。
 これでいい。
 私には本があるから。
 私自身に出会いも別れも無くても、本の中でいくらでも体験できる。
 だから独りでも。
 かまわない。


 眠兎は第4図書館に来ていた。
 きょろきょろと見まわしながら図書館の中を闊歩する。
「”第4図書館の”って付くくらいだから、きっとまだいると思うんだけど…」
 眠兎はブツブツと呟きながら姫君を探しまわった。
 世の中には言霊という者があるという。
 言葉には魔力があり、その通りになるというものだ。
「あ、いた」
 眠兎は思わず声に出した。
 そして慌てて自分の口を塞ぐ。
 なにかする前に僕からばらしてどうする。
 眠兎は自分で自分に心の中でつっこんだ。
 昔とった杵柄。
 眠兎は音もなく静かに、まるで滑るようにみのりに近付いていった。
 あと3メートル、2メートル、1メートル…
 …ゼロ距離!。
 みのりの艶やかな長い黒髪が目前にあった。
 今なら確実にくすぐれる。
 手をそぉっとのばして…
 ぴたっ。
 ………。
 ち、ちがう。
 これはなにか違うぞ。
 べつに、そんな笑顔が見たいんじゃ無いだろ、僕。
 くすぐってげらげら笑わせて、嬉しいか?
「むう…」
 こんな無理やりな手は、なんだか良く無い気がする。
 それに痴漢さん一歩手前だ。
 手を伸ばした姿勢で固まりながら、眠兎はそんなことを考えた。
「よし、やめよう。」
 そう呟いて眠兎は手を引っ込めようとした。
 引っ込めようとしたが。
「………。」
 何時の間にか、みのりは振り向いて眠兎の方をじっと見ていた。
 冷たい沈黙が流れる。
「いや、これは…」
 気まずさから眠兎が口を開いた。
 みのりの目がすぅっと細くなる。
「………っ!」
 直後、白銀と黒鉄のフルプレートアーマーを身にまとった騎士のような何かが、みのりの側
に現れた。
 びゅっ!ぶんっ!
 それと同時にそのニ体の豪腕が振るわれる。
「ととっ…」
 不意をうたれたものの、眠兎は軽々とかわした。
 やっぱ、この呪いとやらが邪魔だなぁ。
 敵だ。
 敵…。
 ぞくぞくとしたモノが眠兎の背筋を這い上がっていく。
 まずい。
 本気になるな。
 何のために施した封印か。
 僕はもう、”食らい”たくない。
 眠兎は己の欲求を否定する様に軽く首を振る。
 当然といえば当然なのだが。
 がつんっ。
 黒鉄の騎士の豪腕が眠兎のわき腹を打ち抜いた。
 戦い(?)の最中に余分なことに気をとられればそれは致命的な隙を呼ぶ。
 どむっ、がつんっ、ごんっ
 続いて見事なコンビネーションで白銀→黒鉄→白銀の順番で次々と眠兎に打撃が叩き込まれた。
 パンチ・パンチ・キックで3HIT・COMBOって感じ。
 あごを蹴り上げられた眠兎が宙を舞って。
 ぐしゃ。
「ぐへっ」
 顔面から落ちた。
 意識が瞬間的に途絶えそうになったが、眠兎は気力を振り絞って顔をあげた。
 死んでないのが不思議な感じ。
 まぁ、痴漢未遂みたいなものだったから当然なのかもしれないけど。
 それにしたってこれは酷いんじゃないかなぁ。
 まるで他人事の様に眠兎は自分の惨状について考えてみた。
 よし、文句言おう。
 そう考えついて立ち上がろうとした眠兎と、冷たくその様子を見ているみのりの間に紺色の
影が割り込んだ。
『トショカンデハオシズカニ』
 図書館警備用のゴーレムだった。
 がしっ。
 か細い見た目にそぐわぬ剛力で、ゴーレムは眠兎の腕をつかんだ。
「え?うるさいの僕だけ?」
 眠兎が質問を投げかける。
 しかし、その質問に答えは無かった。
『ハイジョシマス』
 ずるずるずるずる。
 ぽいっ。
 眠兎は景気良く第四図書館から放り出された。

 ――――くすぐり作戦失敗。


〔ツリー構成〕

[2] 藤原眠兎 2001.12.7(金)01:16 藤原眠兎 (545)
・[3] 長編 【Please give me your smile!】 2001.12.7(金)01:20 藤原眠兎 (508)
・[4] 【Please give me your smile!】 -biginning- 2001.12.7(金)01:31 藤原眠兎 (8614)
・[5] 【Please give me your smile!】 -Phase one- 2001.12.7(金)01:35 藤原眠兎 (5866)
・[6] 【Please give me your smile!】 -Phase two- 2001.12.7(金)01:36 藤原眠兎 (9702)
・[7] 【Please give me your smile!】 -Phase three- 2001.12.7(金)01:39 藤原眠兎 (12680)
・[8] 【Please give me your smile!】 -Phase four- 2001.12.7(金)01:41 藤原眠兎 (12971)
・[9] 【Please give me your smile!】 -Phase five- 2001.12.7(金)01:44 藤原眠兎 (9181)
・[10] 【Please give me your smile!】 -Phase six- 2001.12.7(金)01:44 藤原眠兎 (4346)
・[11] 【Please give me your smile!】 -Phase seven- 2001.12.7(金)01:47 藤原眠兎 (5067)
・[12] 【Please give me your smile!】 -Last Phase- 2001.12.7(金)01:48 藤原眠兎 (12785)
・[13] 【Please give me your smile!】 -あとがき- 2001.12.7(金)01:50 藤原眠兎 (392)
・[20] 感想。 2001.12.15(土)20:47 じゅらい (306)
・[21] ご感想ありがたく 2001.12.18(火)02:56 藤原眠兎 (356)
・[14] 短編【たとえばこんなドタバタした日】 2001.12.7(金)01:54 藤原眠兎 (13898)
・[15] 作者の戯言のような後書きのような愚痴。 2001.12.7(金)01:57 藤原眠兎 (492)
・[16] 短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.7(金)02:33 藤原眠兎 (10417)
・[17] 作者の比較的というよりむしろダメなコメント 2001.12.7(金)22:00 藤原眠兎 (282)
・[18] 感想:短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.9(日)16:46 CDマンボ (259)
・[19] 初めに立ちし者 2001.12.9(日)22:38 藤原眠兎 (296)
・[29] 近いうちに 2002.3.24(日)19:59 藤原眠兎 (129)
・[30] 期待しています。 2002.3.30(土)13:47 じゅ (311)
・[42] ごめん、もうまるで駄目。 2002.6.17(月)23:34 藤原眠兎 (218)
・[44] とりあえず 2002.7.3(水)04:55 じゅ (79)
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