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55 第二章 占い師
2002.7.15(月)23:52 - モリリン - 8476 hit(s)

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第二章 占い師


「男、危ない!」
 彼は振り向きざまにシャイニングスターで一撃を加える。槍のリーチで一度に数体の敵が息絶えた。
「そんな事くらい判る! それより後ろだクレア!」
 クレアも死彩で敵をばっさばっさと切り倒していく。
「人の心配してる暇があったら自分の心配しなさい!」
「その言葉!」
 彼はシャイニングスターを振り回しながら突進し、クレアの目の前にいる敵をなぎ倒した。「そっくり返させてもらう」
「む……」
 私達はモンスターと戦っていた。それも、無数の。
 敵は、全て雪だるまの出来損ないのような不気味なのか可笑しいのかよく判らない姿をしたモンスターで、これが雪の中から次々に湧いて出てくる。
 しかも当然雪が深く降り積もっているので、全速力で走って切り抜けるという事も出来ない。
「嫌になるわ……」
 私もトゥインクルスターを振り回して応戦したけど、全然当たらないのよね、これが。彼とクレアの攻撃はちゃんと当たるのに……。
 どうやら、この雪だるま達は鈍そうな外見の割に意外と素早いらしかった。そして彼とクレアは敵の動きを予測して攻撃していたのに対し、それが出来ない私はただ武器を振り回すだけ。これじゃ当たる筈も無い。
「大丈夫か!?」
 彼が、ぼうっとしていた私をいつのまにか囲んでいた雪だるま達を一気に叩きのめした。
「一応大丈夫と言えば大丈夫だけど……攻撃が当たらないんだもの……」
「直接攻撃が駄目なら飛び道具のような物を使うというのは? ジェーンによれば、私達かなり高位の魔法使えるらしいし」
「……そうよね、やってみるわ」
「よし」
 彼は、再び私から離れていった。人間離れしたジャンプ力で身軽に動き回り、空中から敵を狙う。
 私は目を閉じ、精神を集中させ始めた。何故か次第に暑くなってきた。
 目を開けてみると私の周囲の雪が無くなり地面が露出していて、雪だるま達も近づき難そうに遠巻きに私を見ているだけだった。
「あら? どうなってるのかしら?」
 状況が判らなかったのでぼうっとしていると、周囲の雪だるまが段々融けていく。
 ふと思いついた私は、試しに強く念じてみた。
(融けろ)
 すると私が向いていた方向の雪と雪だるまが、一瞬で全て気化した。
「うわ、すごっ」
 驚くクレア。彼は……空中で槍を音速を超える速さで振り、衝撃波で敵をなぎ倒している。そっちも十分凄いと思うんだけど。
「やるではないか! こちらの奴らも頼む!」
 私は再び強く念じ、敵をどんどん気化させていった。
「ふーっ、片付いたわね。それにしてもあんた達、ちょっと強過ぎない? いくらその武器が強いからって……」
「私武器使ってないけど」
「…………」
 彼が歩き出した。
「邪魔な敵が消えたんだ。とっとと行くよ」
「これだけの激闘のあとなのに全く疲れの色が見えない……」
「私も疲れてないけど」
「…………」

「いやーっはっはっはっ、ごめんごめん、ついうとうとしてしまって」
 彼が笑うのを初めて見た。そして、笑って誤魔化そうとしているのも。
「何がうとうとよ! あれはぐっすりって言うのよ!」
「そうかな?」
「そうよッ!」
「そうなのか……」
 何なのこいつら。
 2日目の昼、私達は早くも氷雪地帯を抜け、ツンドラに入っていた……筈だった。筈だったんだけど、彼が異常とも思える時間眠り続け(就寝は昨日の夜8時、起床は今日の正午)、予定が大幅に遅れてしまったのだった。
「大体、何であんなに寝る必要があるのよ! 疲れてなかったんでしょ!?」
「疲れていないからと言って寝てはいけないという訳ではあるまい」
「確かにそうだけど、睡眠は疲労回復の為に行うものなのよ! 疲れてなかったらあんなに寝る筈無いわ!」
「では疲れていたのかも知れないね」
「ッ……!」
 クレア、言葉になってないわ。
「それより、文句を言っている暇があるなら出発したらどうだ?」
「あんたの所為で予定が遅れたんでしょうが!」
「予定はあくまでも未定であり、決定ではない」
「んなっ……!」
 彼が歩きだした。
 ここで、普通だったらクレアみたいに怒るんだろうけど、私は逆に安心していた。何故か妙な懐かしさを感じていた。
「さあ、行くよ」
「あんたが仕切るな!」
「何故に?」
「ッ……!」
 言葉になってないってば。

 そして3週間後。
「2週間で着く筈ではなかったのか?」
「あんたが毎日12時間以上寝てるからでしょうが……!」
 クレアが、怒りに全身を震わせながら言った。食料をきっちり2週間分しか用意しなかったので、1週間何も食べていなかったから。でも、最初に比べればモンスターも少なくなったし、プラスマイナスゼロ……にはならないわね。やっぱり、マイナス。
「まぁ、良いではないか。寝る子は育つと言うし」
「そういう問題じゃないと思うんだけど……」
 その瞬間、地平線の彼方で何かがキラリと光った。
「あら?」
「どうかしたか?」
 もう一度、目を凝らしてよく見てみる。
「あれ、ひょっとしてテンスムーンじゃない?」
「え!? 何処何処!?」
「ほら、あそこ!」
 私は、光が見えた方向を指差した。何かが、陽の光を反射して光っていた。
「あーっホントだ! あれぞまさしくテンスムーン! ほら、あんた達早く行くわよ! ぐずぐずしない!」
「ふふ、急に元気になっちゃって……」
「さっき迄死にそうな顔をしていたのにね」

「で、テンスムーンに着いたはいいけど、一体どうするつもりだ?」
 彼は無表情な顔で問うた。
「どうって……まずは食事よ。空腹で今にも倒れそう……」
 本人の言葉通り、クレアはふらふらしてかなり危なっかしい足取りだった。私達も、お腹が空いてなかったわけじゃないけどそれ程ふらふらしてはいなかった。……というか、全くふらふらせずしっかり立っていた。
 私達がいたのはアーステン(テンスムーンの外周部分ね)の北側にある商店街。色々なお店が並んでいて、中には美味しそうな物(記憶が曖昧……)を売ってる所もあったけど、クレアはそれらには見向きもせずどんどん進んでいった。
「クレア、何処迄行くの?」
「え? ああ、行きつけの店へね。この季節なら……あ、あったあった」
 クレアは路面電車のような物に向かって走っていった。私達もそれに続いた。
「何それ?」
「これに乗ってくのよ。スピードは遅めだけど、普通に走るのよりは速いから」
 私達は、その路面電車のような物に乗った。それは段々テンスムーンの中心部、ラピュタテンに近づいて行く。彼が言った。
「ところで、どれ程の時間でその行きつけの店に着くんだ?」
「えーと、あと40分くらいかしら」
「空腹で倒れそうならさっきの商店街で何か買えば良かったのではないか? わざわざそれ程の時間をかけなくてもさ」
「まあ確かにその通りなんだけど、食事以外の用事もあるからね」
 そのあとは、店に着く迄クレアがテンスムーンについて説明してくれた。北の第1の大陸の北西端に位置し、その冷厳な気候条件から「氷のテンス」の異名を持つ事。世界で最も魔法や法術等の研究が進んでいるという事。その他色々。そして、世界にはテンスの他にも11の同じような魔法都市があるという事。
「あ、着いたわ。ほら、降りるわよ」
 クレアはひらりと身軽に路面電車から飛び降り……損ねて、派手に道路に叩きつけられた。脚を滑らせたらしい。
「いたた……あんた達、ぼさっと見てみないで手貸しなさいよ?」
 その言葉に、クレアとは違い身軽に飛び降りた彼が答えた。
「自業自得だ。空腹で力が入りづらいのを忘れて飛び降りようとした貴方が悪い」
「ッ……!」
 いい加減、ツッコみ飽きた。
「それより、貴方が言っていた店とは何処だ? 大体、ここはラピュタテンだろう? 何故にこんな重要施設が集中した場所に貴方の行きつけの店がある?」
「うるさいわねえ、ちょっと黙っててよ」
 クレアはすたすた……とは程遠い足取りで歩き出した。私も路面電車から降り、彼と一緒にクレアを追いかけた。
 暫くすると「冒険者ギルド」と書かれた看板が見えた。クレアはその看板がかかった建物に入っていった。私達もそれに続いた。
 建物内は薄暗く、何と言うかちょっと怪しげな雰囲気だった。そして、いかにも冒険者といった格好の人達が出入りしていた。
「ちーっす」
 クレアは近くにいた男に声をかけた。
「ん? おお、クレアじゃねえか。どうしたんだよ、毎年この季節にはイスィーグにいる筈だろ? それとも、ついに村を追い出されのか?」
 ニヤニヤしながら答える男。小太りの中年で、髪は茶色、口髭が凄い。背中の鞘に剣を入れていて、右手には酒瓶を握っていた。
「んな訳無いでしょー。今回はちょっと訳ありでね。ほら、早く来なさいよ」
 私達は数歩前に進み出た。このオッサン、息が酒臭い。早く離れたかった。
「何だこのガキは? まさかお前の子供か?」
「ジェーンも同じ事言ってたわよ。はあ、何であたしの周りにはこんなのしかいないのかしら……」
 嘆くクレア。オッサンは豪快に笑う。
「がっはっはっ、冗談冗談。で、こいつらどうしたんだ? 拾ったのか?」
「ええ、そうよ。雪の中にぶっ倒れてたの。大怪我してね。全身血まみれだった」
 拾った、って……。
「いつ拾ったんだ?」
 オッサンは酒をかっくらいながら訊いた。
「3週間前よ」
 オッサンの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「冗談だろ?」
「本当よ」
「……こいつはたまげた。ジェーンの奴、得意なのは回復魔法だけだがそれを極限迄極めたって訳か」
「違うのよ」
「何が」
「ジェーンが治した訳じゃないの。一旦あたしのベッドに寝かせてからジェーンを呼びに行ったんだけど、帰った時には既に全快してたのよ」
「そんな馬鹿な」
「本当よ」
「うーん、本当に本当だとしたらこいつら物凄い……って、そういやお前何しに来たんだ?」
「え? あ、そうだ忘れてたわ! まずは食事よ! 1週間何も食べてないんだから!」
 そう言ってクレアはどんどん建物の奥の方へ向かう。
「お、おい……」
「ごめん、詳しい話は食事のあとで! ほら、早く来なさいよ」
 私達も歩き出す。
「何処へ行く?」
「ここの食堂よ」
「行きつけの店というのはそういう事か」
「ん、まあね」
「じゃあ、さっきのオッサンは?」
 訊いたのは私。
「ジャックっていって、ああ見えて結構腕利きの剣士なのよ。性格は悪くないんだけど、とにかく酒好きでね。何度か一緒に仕事した事があるんだけど、酒臭くてたまらなかったわ」
「一緒に仕事って事は……クレアも冒険者ギルドのメンバーなの?」
「そうよ」

 3時間後。
「ふーっ、食べた食べた。やっぱり、ここの料理は最高ねえ」
 流石に1週間絶食していただけあって、クレアの食欲はかなりのものだった……んだけど。
「それにしてもあんた達、ちょっと……いやかなり食べ過ぎじゃない?」
 私達の食欲はそれを遥かに凌駕していた。
「そうか? 私としてはまだ食べたりないんだけど。君はどうだ?」
「私も、もうちょっと食べたいわね……」
「何百人前もたいらげてまだ食べる気か……」
 彼はにこやかに言った。
「正確には私が418人前、彼女が415人前だ」
「ああ……お会計が怖い……」
 泣きながら言うクレア。
「おいクレア、そのガキ……」
 オッサン――ジャックが、呆れるのを通り越して半ば感動した様な顔をして近寄って来た。
「ああ、こいつらね、記憶喪失なのよ」
「記憶喪失だと? それってこんな馬鹿みたいに飯を食うようになる病気だったか?」
「食欲は関係無いわよ! 何もかも忘れるって事!」
「ああ、判ってる。冗談だ」
「冗談じゃないわよ……」
「で、何だ?」
 クレアは手で涙を拭った。
「イスィーグに最も近い人が住んでる所って言ったらここでしょ? だから、この子達もここの出身じゃないかって思ったのよ。で、無い?」
「何が」
「行方不明者とか、家出人とかの捜索願」
 ジャックは呆れた。
「そんなもんがある訳ねえだろう、ここは警察じゃねえんだからよ。最近は専らモンスター退治ばっかだ」
「そ、そうよね、ある訳無いわよね、は、ははは……はあ」
 またクレアの目から涙が流れる。
「かと言って、警察に行きゃあるって訳でもねえ。最近は強盗とか殺人とか物騒な事は沢山あるが、行方不明の類はゼロなんだ。……ん、待てよ? 確か家出なら2件くれえあったような……」
「本当!?」
 クレアが目を輝かせた。もともと涙で光っていたので、必要以上に眩しい。
「いや、やっぱ駄目だな。家出したのは2件とも野郎だけだ。女はひとりもいねえ」
「そう……」
 肩を落とすクレア。
 その時、彼が唐突にジャックに問いかけた。
「その野郎達の中に、私がいるかも知れないとは考えませんか?」
「何で?」
「何でって……貴方、まさかとは思いますけど私の事女だと思ってません?」
「って事は……違うのか?」
「ふっ……」
 彼は顔をうつむけ、自嘲的に微笑んだ。
「わりいわりい、てっきり女だと思ってたぜ。でも、お前が着てるその服は女物だろう?」
「男物が無かったんでね」
「ああ、そういう事か。でもよ、よくよく考えてみたらお前が男だろうが女だろうがさっきの野郎達の中にいる筈がねえな。俺はその仕事を担当してる奴に家出人の写真を見せてもらった事があるんだが、お前とは全然似てなかった」
「そうか……」
「そうがっくりしなさんな、お前らがテンスに住んでた可能性がゼロになった訳じゃねえ」
 彼ががっくりしてた理由は違うと思うけど。
「そうだ、ちょいと待ってな」
 ジャックは唐突にそう言うと食堂を出て行き、暫くすると黒いローブに身を包んだ小柄で怪しげな男を連れて来た。
「こいつはピーターっていってな、占い師なんだ」
「占い? そんなものが当てになるんですか?」
 怪訝そうに訊く彼に答えたのはピーターだった。近くにいるのに遠くから響いてくるような、何だか奇妙な声だった。
「占いを馬鹿にしちゃあいけませんよ。これだってちゃんとした学問のひとつなんですからなあ。特にここテンスでは高度に発達した様々な法術の力も併用して、そりゃあもう百発百中ですよ、ははは」
「じゃあ、お願いします。私達の記憶が、戻るかどうか」
「よろしい、占って差し上げましょう」
 ピーターは懐から水晶玉を取り出した。それがぼうっと青白く光る。
 固唾を飲んで見守る私達。
「ぬぬぬぬぬ……」
 ピーターの表情が段々苦しそうになってきた。
「おい、大丈夫かピーター?」
「ええ、大丈夫ですよジャック、ははは。この程度、なんて事は……なんて、事は……うわあ!?」
 バリン。耳障りな音をたてて、ピーターの水晶玉が砕け散った。
「ふう、びっくりしました……大丈夫ですか皆さん?」
「大丈夫ですけど、その……占いの結果は……」
 ピーターは水晶玉の破片を拾い集めながら答えた。
「残念ながら、そうすぐには戻らないようです」
「そうですか……」
「しかし安心して下さい、必ず記憶が戻る日が来ます。ただし忘れた頃にね、ははは」
 ピーターは、何が可笑しいのかすぐに笑う。彼はため息をついた。
「それと貴方がた、どうやら人間じゃあないようですな?」
「え?」
「ほえ?」
 私と彼は同時に間の抜けた声を出した。
「気づいていなかったんですか? まあ、見た目は人間そのものですからな、ははは。しかし、魂は違います。貴方がたの魂は、人間のものとは全然違います」
「人間ではないなら、一体何なんですか?」
「さあ、私には判りませんなあ。しかし貴方がたのような魂は初めてですよ、ははは」
「……」
「そう言えば貴方がた、魔法が使えるそうですなあ?」
「ええ、そうですけど?」
 だから何? 別に珍しい事じゃないと思うけど……。
「そんな筈は無いんですがなあ。何故って、貴方がたから魔力が全く感じられないからですよ、ははは」
「そんな馬鹿な」
「そんな馬鹿なって言われましても、事実は事実ですからな。しかし、貴方がたからは何か不思議な力を感じます。魂から発せられる、何か非物理的な力……フォースとでも呼びましょうか。いや、単に力って意味なんですがな、ははは。これは私の推測ですが、貴方がたはそのフォースを魔力に変換する事で魔法を使っているようですな。そうだ、もう1度占ってみますか? 今度はもっと頑丈な水晶玉で」
「占ってはもらいたいんですけど、お金が……」
 私達が食べ過ぎたせいなんだけどね。
「ああ、それなら心配要りませんよ。ジャックの紹介ですからな、無料でサービスしましょう、ははは」
「それはいいですけど、彼女は記憶が戻るかどうか占って欲しいと言っただけなのに、何故に私達が人間ではないとか、そういう事迄占うんです?」
 確かに、彼の言う通り。
「ああ、その事ですか。他の占い師は違いますがな、私の場合は指定された事だけ占うという事が出来ないんですよ。相手の全てを知ってしまいます。で、そうして得た情報の中で、相手が知りたい事だけ伝えるんですなあ、ははは」
 無茶苦茶ね。
「さて、どうしますかな?」
「折角だ、占ってもらおうではないか」
「そうね……でも、ちょっと待って。貴方、今相手の全てを知るって言ったわよね?」
「言いましたとも、ははは」
「だったら、私達が誰で何処から来たのかとか、全部判るんじゃないの?」
「ああ、そういう事ですか。私が知る事が出来る情報の量や内容は、私と相手の魂の強さ、水晶玉の頑丈さ等で変わるんです。貴方がたの魂は強い。強過ぎる。私など比較になりません。ですから、私では貴方がたについて大した事は判らないんですな、ははは」
「言っておくが、ピーターはテンスでもトップクラスの占い師だぜ」
 ジャックが言った。ピーターが再度訊いてきた。
「占いましょうか?」
「あ、はい、お願いします」
「よろしい、では今度はこの水晶玉でやってみましょう。私が持っている中で最高の水晶玉です。同じ物はあとふたつしか有りませんから、割らないように気をつけませんとなあ、ははは」
 ピーターは何やら呪文を唱え、それに呼応して水晶玉が青白く光る。
「むむむ………………」
「大丈夫か?」
「…………ふう、危うくまた割れるところでしたよ、ははは」
 笑い事じゃないと思うけど。
「それで、どうなんです?」
「貴方がたはサイキックですな」
「は?」
「へあ?」
「超常能力者ですよ。今じゃあ魔道士と混同している人が殆どですがな、ははは。魔法と違うのは、どんなに訓練しても特定の力しか使えないという事です。そちらの女の子がパイロキネシス、男の子はヒーリングの力を持っているようですな」
「聞いた事無いわねえ」
 クレアが言った。
「俺もだ。で、その何とかってえのは具体的にはどんな力なんだ?」
「まず、パイロキネシスは念力放火能力。念じるだけで火を起こせるのです」
「魔法でも出来る」
「そうですな。ただ魔法は使うと魔力が消耗されていき、段々威力が落ちていきますが、これの場合は逆なんですよ。使えば使う程強力になっていくんですな、ははは。で、ヒーリングは癒し。触れるだけでどんな怪我や病気でも治せるのです。力が強ければ死者の蘇生も可能です」
「それも魔法でも出来る」
「確かに。しかし魔法はあくまでも治す訳ですがなあ、これは厳密に言うとダメージを奪い取るんですよ」
「奪い取る?」
「そう。怪我そのもの、病気そのもの、果ては死そのもの迄も奪ってしまいます。もっとも、早く吐き出さないと自分がそのダメージを負う事になりますがな、ははは」
「私達の力について教えてくれて有難う。ところで、占いなら当然未来も判るんでしょう?」
 彼がじれったそうに言った。例の両肘を抱いて体の右側に重心を傾けたポーズで立っている。
「ん、ああそうですな。貴方がたの未来は…東南東」
「は?」
「貴方がたが東南東の方角に行く姿が見えます、ははは」
「つまり、その方角に行けば記憶が戻る……と?」
「さあ、それは判りませんなあ、ははは。しかし、とにかくに行ってみてはどうです? 記憶喪失を治す方法なんて、幾ら探してもありませんしな」
「え、そうなんですか!?」
 驚くクレアにピーターが答えた。
「そうですよ。もしかして貴方、それを期待してここに来たんですか? いくらテンスが学術の都とは言え、それは流石にありませんよ、ははは」
「そう…………あんた達、行くんでしょ?」
「無論だ」
「当然よ」
 私達は同時に答えた。
「あんた達だけじゃ心配だから、あたしも一緒に行ってあげるわ。さあ、今日のうちに準備して、明日早速……」
「ちょい待ち」
 ジャックが、その場から立ち去ろうとするクレアを引きとめた。逃げられないように肩をしっかり掴んでいる。
「な、何?」
「飯代、まだ払ってねえだろ」
「やっぱり、駄目?」
「駄目に決まってるじゃねえか。なあ、ピーター」
「そうですなあ。そうそう、さっき聞きましたがしめて約4500ファンタになるそうですよ、ははは」
「よ、4500……今1000ファンタしか無いんだけど……」
 泣きながら言うクレア。
「まったく仕方ねえな、俺が代わりに払ってやるよ。丁度仕事が終わったあとだしな、貯金も合わせりゃ4500くらい払えるだろう」
「あ、有難うジャック……。やっぱり持つべきものは戦友ね……」
「ただし、2倍にして返してもらうからな」
 ジャックがニヤニヤしながら言った。
「判ってるわよ。ちゃんとお金貯めて、いつか返すわ。……さてと」
 クレアが建物の奥の方に向かって歩き出す。
「ほらふたりとも、早く行くわよ。今日はゆっくり休んで、明日早速出発よ」
 例のポーズを解き、彼が訊いた。
「行くって、何処に?」
「ここには、ギルドメンバー専用の宿泊施設があるの。今晩はそこで泊まるわよ」
「でも、私達はギルドメンバーではないような気がするんだけど」
「あ、そうか。でもいいわよねえ、一晩くらい。減るもんじゃなし」
「何でも減らねばいいという訳ではないと思うけどね」
 彼が言った。彼って傍から見たらただの「ムカツクヤツ」だけど、私はこの時既に彼の事が好きになってた。何故かは判らないけど――
(そういうシナリオだからさ)
 心の中に、あの妙に懐かしい声が響いた。




〔ツリー構成〕

[50] モリリン 2002.7.14(日)23:59 モリリン (180)
・[51] 長編【追憶】 2002.7.15(月)00:20 モリリン (196)
・[52] 序章 2002.7.15(月)00:46 モリリン (2771)
・[54] 第一章 目覚め 2002.7.15(月)01:09 モリリン (15680)
・[55] 第二章 占い師 2002.7.15(月)23:52 モリリン (18146)
・[56] とりあえずここまでで感想を。 2002.7.20(土)12:21 影ル (474)
・[57] ははは(何を笑っている) 2002.7.20(土)22:25 モリリン (705)
・[60] 第三章 旅立ち 2002.7.24(水)22:34 モリリン (25090)
・[61] 最終章 出発点 2002.7.24(水)22:38 モリリン (6239)
・[69] 感想。 2002.8.1(木)14:19 藤原眠兎 (1513)
・[72] 次回作に向けて気合を入れています 2002.8.1(木)23:09 モリリン (1199)
・[73] 期待しております。 2002.8.2(金)00:52 藤原眠兎 (1423)
・[74] おつかれさまですー。 2002.8.7(水)23:48 影ル (882)
・[75] 疲れているのは暑さの所為です(笑 2002.8.8(木)02:43 モリリン (889)
・[62] あとがき 2002.7.24(水)22:46 モリリン (458)
・[63] 楽屋裏 2002.7.25(木)22:42 モリリン (1443)
・[64] re:なんなんだろうこれ 2002.7.26(金)00:07 じゅ (321)
・[65] さあ、何でしょうね?(ぉ 2002.7.27(土)22:41 モリリン (386)
・[66] 拝読させて頂きました 2002.7.28(日)12:51 ゲンキ (668)
・[67] ありがとうございます〜 2002.7.28(日)22:46 モリリン (1116)
・[68] あひゃー。 2002.7.29(月)22:58 モリリン (160)

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