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4 【Please give me your smile!】 -biginning-
2001.12.7(金)01:31 - 藤原眠兎 - 10094 hit(s)

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−beginning−

「ふぁあーあ…」
 ブレザー姿の男子生徒が大きくのびをした。
 眠くて眠くて仕方が無いといった感じ。
 暇なのだ。
 最近特に。
「何かいいこと無いかなぁ…」
 ぼやきながら廊下をぽてぽてと歩く。
 ここは星立セブンスムーン学園。
 友情努力勝利に陰謀、剣と魔法と科学と恋と冒険、何でもかんでも詰め込んだ、おもちゃ箱
みたいな学園である。
 当然ながら何でもかんでも詰め込んだ学園にはいろんな生徒がいて…
「眠い…」
 このぼやいてる生徒もいろんな生徒の一人だった。
 背はすらりと高く、体格はあまりがっしりしているようには見えないが、よくしまっている。
 顔は貴重ではない程度に整っていて、優しげな目が特徴的だ。
 男子生徒はもう一度大きなあくびをして、大きなのびをする。
 心底眠そうだ。
 その男子生徒の歩く廊下のちょうど正面から、大剣を背負った生徒が歩いてくる。
 そんなばかなと思うかもしれないが、大剣を背負ってるぐらい割と普通。
 ここはそんな場所。
「や、アレースくん。今日は眠い日だねぇ」
 知り合いなのか、眠そうな男子生徒が大剣を背負った生徒に声をかけた。
 大剣を背負った生徒ことアレースは苦笑を浮かべる。
「藤原、開口一番それか?」
 言われた”藤原”は変な顔をして、それからふと思いついた様に答えた。
「眠兎でいいよ」
「ええ、ああ、そうか?」
 眠兎のマイペースっぷりに戸惑いながら、アレースは返事をした。
 春眠暁を覚えず、とは言うが、こうも眠そうなのも珍しい。
 普段は忙しそうにしているのだが…
「めちゃくちゃ眠そうだな?」
「うん、最近仕事も無くてねぇ…なんか、ない?」
 アレースの疑問にふわあ、と再びあくびをしながら眠兎は答えた。
 ここでいう仕事というのは、体育会系のクラブの助っ人や、委員会の仕事の手伝いのことで
ある。
 仕事と言っても本当にお金をもらうわけでもなく、報酬はまちまちだったりする。
 学食のカツサンド(貴重!)であったり、ラーメン屋でラーメンを一杯だったり、マネージャ
とデートだったり、部員の笑顔だったり。
「最近できた彼女はどうした?いちゃつけば暇の一つもつぶせるだろうに。」
 ぶびび、と振動しながらアレースの背中の大剣が眠兎に尋ねた。
 ちなみにアレースの背中に背負われた大剣は魔剣であり、しゃべるし呪う。
 もっとも呪われるのは持ち主、アレースのみであるが。
「ああ、んー、ふられちゃったよ。一緒にいるとつまんないって。」
「あらら…それは気の毒だな。」
 あっさりと答えた眠兎にアレースが同情の視線を向ける。
 とは言ったものの、まぁ、仕方も無いか、というのも正直な感想だった。
 仕事をしている時の眠兎はそりゃあかっこいい。
 眉もきりっとして、エネルギッシュで、ものすごく活動的だ。
 男の自分だって、気分的にはわからんでもない。
 でも、仕事じゃない時は、いたってのんびり屋のお人好しにすぎない。
 仕事中の眠兎を好きになると、普段の眠兎とのギャップは大きい。
 さぞかし詐欺にあったような気分だったろう。
「ふふふ…本当の僕をわかってくれる人なんてなかなかいないものですよ…」
 壁に手をついてため息混じりに眠兎は呟いた。
 捨て身のギャグ(?)だが、こんなことをやるというのは余裕がある証拠だ。
 本当に傷ついていたら、なかなかこうはできない。
「確かにもてる奴の気持ちは俺にはわからん」
 アレースはきっぱりといった。
 見てる方がすがすがしくなるぐらいにさわやかに。
「ひがむなよ、みっともないぞ」
 ぶびび、と、すばやく突っ込む魔剣。
「言うな、あび。事実と認めれば空しくなるだろう?」
 眉をしかめてアレースは魔剣に文句をつけた。
 ちなみに”あび”ってのは魔剣の愛称。
 正しくは”アビスブレイド”らしいが、そんな事はどうでもよい。
「あははははははは」
 何がおかしかったのか、一人と一本の漫才を見て眠兎は大爆笑していた。
 アレースはがっくりと肩を落として、先程の眠兎がやっていたように壁に手をつく。
「ふ、ふふふ…本当の俺をわかってくれる人なんてなかなかいないのさ…」
 アレースの台詞は先程の眠兎と同じものであるにもかかわらず、真に辛そうだった。
 きっと心から言っているからだろう。
「はははははははは」
 にも関らず、眠兎は爆笑を続けていた。
 鬼か、あんた。
「そ、そんなに笑わなくたって…」
 ひどく情けない気分でアレースはぼそぼそと呟いた。
 あびが何も言わずにぶぶぶ、と震える。
 同調してるんだか、いないんだか。
「はぁ…はぁ…ああ、いや、ごめんごめん。ホントにいるんだなって、おかしくなっちゃいま
して。」
 まだ笑いがおさまらないのか、ぜひぜひ言いながらもアレースの呟きに眠兎が答えた。
 怪訝そうな顔をするアレース。
「本当にいるって、何が?」
 アレースの疑問に、眠兎はとんとん、と自分の胸をたたいてまずは呼吸を整えた。
 そして口を開いて曰く。
「恋愛喜劇症候群」
 アレースは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
 言葉の意味は分からないが、何やら病気っぽい。
「…それって、どんなのなんだ?さっぱりわからんぞ。」
「いや、僕もさっき聞いただけなんですけどね。自分に気持ちを向けてくれている人に気がつ
かない、他人の事なら鋭い、やる事が裏目に出る、何故かモテモテ、女子寮の管理人、宇宙人
に惚れられた…その他にもあるらしんですが、これらのうちいくつかを併せ持っていると、そ
れにあたるらしいですよ?」
 少し思い出すようにして、眠兎はアレースに教授した。
 アレースはと言えば、条件を聞いていて自分は違うな、等と考えていたりする。
 もちろんこの症候群に自覚症状は、ない。
「失礼だな。俺は言っとくけど鋭いぞ?大体お前の方がそれっぽいじゃないか」
 眉をしかめて言うアレースに同調するようにあびはぶぶぶ、と震えた。
 忍び笑いを漏らしているように見えなくもない。
「いやだなぁ、僕はまた別のやつですよ。」
 そう答えて眠兎は困ったような笑みを浮かべた。
「人の気持ちは理屈でわかりますけどね。人を愛するって感覚が僕にはいまいち理解できない
んですよ。困りものですよね」
 まるで他人事のように眠兎は続けた。
 実のところ、それは大袈裟に言っているような事でもなく、本当の事なのである。
 そういう感覚が非常に薄いのだ。
 だからなんとなく女の子とつきあっては、ふられるのを繰り返している。
 眠兎としてはつきあってるうちに”好き”も自覚できるかな、程度にしか考えていないのだ。
「そんなお前、人事みたいに…」
 アレースが呆れたように呟く。
「いや、まぁ、きっと時が解決してくれますよ、うん。」
 実際にアレースにもそれ以外にはあまり解決方法はないように思えた。
 だけどそれを本人が言うのはどうだろうか。
「それより、この辺で昼寝に向いてる場所ってありますかねぇ?」
 お互いにとってよろしくない話題と思ったか、眠兎はおもむろに話題を変えた。
 むしろ実のところ当初の目的に戻ったのではあるが。
「うーん、そうだなぁ…この辺なら第4図書館がお勧めだな。」
 しばし思考の後、アレースは回答を示した。
 大剣など背負っていると体力バカ一代と見られがちだが、なかなかどうして、アレースは実
のところ、とても情報通なのだ。
 もちろんお勧めのデートスポットから、女の子のスリーサイズまでなんでもござれ。
 いや、もちろん女の子が絡まなくとも色々知ってますよ?
「や、これはどうも。こうなっては不貞寝しかありませんよ、もはや」
 何がこうなってなのかいまいち分からないが、アレースは同調するようにこくりとうなずいた。
 第4図書館は陽当たり良好、冷暖房完備、おまけに騒がしい奴はゴーレムが表に放り出して
くれるというオプション付きだ。
 理由はどうあれ寝るのには最適のスポットだ。
 ん?
「じゃあ、お達者で〜」
 見るからに眠そうな目をこすりながら眠兎がふらふらと歩いていく。
 その後ろ姿を見送りながら、アレースは首をかしげた。
 はて、第4図書館になにかあったような気がするが…
「あび?」
「なんだ、あれ?」
 アレースは背に担いでいる魔剣に話しかけた。
 なんだかちょっとマヌケな感じ。
 もっとも、だからといって剣を抜く訳にもいくまい。
 一応学校の中だし。
「いや、第4図書館って、何かなかったっけ?」
 何かが引っかかる。
 でもそれがなんだかいまいち思い出せない。
 非常にもどかしい。
「そりゃあ本があるだろうな。」
 あびのあまりにも当たり前の答え。
「そりゃそうだ。」
 アレースはそう答えると、軽くため息を吐いた。
 ま、思い出せない程度だから、所詮その程度な内容なんだろう。
「きゃっ!?」
 前方不注意怪我一生。
 とはいったものの、ぶつかられたアレースの方はびくともしていない。
 どちらかといえば、女の子が勝手にぶつかって勝手に転んだって感じ。
「ん、悪いね…大丈夫かい?」
「は、はい…」
 アレースの差し出した手をおずおずとつかんで、女の子はよろめきながらも立上った。
 制服(あってないようなものだが)から考えれば女の子は高等部の一年っぽかった。
 なんとなく初々しい。
「この学校はいい奴と同じくらい変な奴も多いからな、気をつけろよ」
 アレースはそれだけいうと、首をひねりながら廊下をてくてくと歩き出した。
 どうにも第4図書館が気になってしょうがない。
「…なるほどな」
 ぶぶぶ、と震えながらアレースの背中であびが呟いた。
「何だよ、あび?」
「いや、なんでもない」
 あびはあふれ出そうになる感情を柄の奥深くに沈めながら答える。
 その一人と一本の様子を熱っぽい視線で先程の女の子が見ていた。
 これは…
 面白い。
 思わず笑い出しそうになるのを必死にこらえながら、あびは心の中で呟いた。
 アレースが思い出せずにいる第4図書館の事も、今のちょっとした出会いから生まれた小さ
な恋の事も、あびは知っていたし気がついていた。
 それで教えてやらないのは何故か?
 理由:呪っているから。
 これはもちろん冗談だ。
 理由:面白い事になりそうだから。
 これも冗談…かなぁ?
 まぁ、何にしてもあびは真相を知っていながら話さなかった。
 大海の如く広い親心からなのか、はたまた面白がってかはわからないが。
 かくして物語は大きな一歩を踏み出したのであった。
 いや、後退したのかもしれないけどね。


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・[15] 作者の戯言のような後書きのような愚痴。 2001.12.7(金)01:57 藤原眠兎 (492)
・[16] 短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.7(金)02:33 藤原眠兎 (10417)
・[17] 作者の比較的というよりむしろダメなコメント 2001.12.7(金)22:00 藤原眠兎 (282)
・[18] 感想:短編【ラストワン・スタンディング】 2001.12.9(日)16:46 CDマンボ (259)
・[19] 初めに立ちし者 2001.12.9(日)22:38 藤原眠兎 (296)
・[29] 近いうちに 2002.3.24(日)19:59 藤原眠兎 (129)
・[30] 期待しています。 2002.3.30(土)13:47 じゅ (311)
・[42] ごめん、もうまるで駄目。 2002.6.17(月)23:34 藤原眠兎 (218)
・[44] とりあえず 2002.7.3(水)04:55 じゅ (79)
・[216] ネタバレ始めました。 2006.2.10(金)11:08 藤原眠兎 (129)

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