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236 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』
2006.4.24(月)07:27 - じゅんぺい - 8900 hit(s)

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深夜、人気の無い小さな空き地にて。こげ茶色の髪を背中まで伸ばした少女、美沙は、
黙々と体を動かしていた。
一歩進んでは宙に向かって右手で突き、一歩進んでは左足で蹴る。現在習っている巳
滄流古武術の練習をしているのだ。だが、顔の表情は少し暗い。
「ふう」
途中で止めて、一息つく。空き地の隅に置いていたタオルを取りに行き、汗を拭う。
拭いながら、美沙はため息をついた。
 (・・・駄目だなあ)
 最近美沙は、いくら練習しても武術の腕が上達しない気がしていた。師範代であり姉
のような存在の颯樹は褒めてくれているが、美沙にはどうも納得がいかない。実感が湧
かないのだ。だから、真夜中の秘密特訓をしているのだが・・・
 しばらく悩んでいると、背後から何かの気配を感じた。普通の人間よりも並外れた能
力を持つ美沙だからこそ気づいた気配は、段々と美沙に近づいてくる。美沙は勢いよく
振り返った。
 『・・・ずいぶんと悩んでいるようだナ』
 空き地の入り口に立っているのは人・・・のようなものだった。頭にはトサカのよう
な物が付いていて、目は横に長く黄色に光っており、体は全身タイツをはいているかの
ような姿で、トサカから胸と肩口までが銀色、その他は全て赤色という正に宇宙人的な
容姿だ。さらに額には小さなランプが、そして左手の甲にはそれよりも少し大きいクリ
スタルが青く光っている。
 美沙は指をさして驚く。
 「あ、ビデオで見たことがある! 確かウルトラセ――」
 『違ウっ! 私の名前は・・・そう、イレブンとでもしておこウ』
 何故か語尾に微妙なエコーがかかるが、美沙はその辺は特に気にはしなかった。
 「イレブン?」
 イレブンは鷹揚に美沙の問いに頷く。
 『うム。君のお兄さんに頼まれテ、一週間だけ君に武術を教えるためにやっきタ』
 「本当!? ありがとう!」
 飛び跳ねるぐらいに喜ぶ美沙を見て、イレブンは真っ赤な手で銀色の頭をかいた。
 (・・・・・信じないだろうと思って、色々と話を考えていたんだが・・・)
 頭をかくのを止め、両腕を組む。そして静かにため息をついた。
 (武術の前にもう少し疑うことを教えるべきかもなあ・・・)
 「今、お兄ちゃんはどこに居るの?」
 美沙の声でイレブンは考えるのを止めた。首を横に振る。
 『外国とだけ言っておこウ。場所は知らない方がいい、君に危険が及ぶ可能性があル』
 残念そうにうつむく美沙にイレブンは話を続けた。
 『それよりも、今は武術の練習ダ』
 美沙の横を通り過ぎ、空き地の中央に立つ。そして美沙の方へ振り返った。
 『さあ、まずは基本から見せてもらおウ』
 イレブンは美沙に手招きをし、練習を開始した。



 「最近、美沙の上達がめざましいんだよ」
 イレブンと美沙が出会う数日前。颯樹の家の近くにある喫茶店で、颯樹と純平がジュ
ースを飲んでいる。昼過ぎ、大学から帰ってくる途中で待ち合わせたため、颯樹の足元
には大学の荷物が入ったバッグが置かれている。
 普通の大学生である颯樹は気の強そうな顔立ちをしていて、その通り、気が強い。生
半可な男たちでは手も足も出ないだろう。巳滄流古武術師範の孫であり、師範代として
道場生に武術を教えられるほどの腕の持ち主である。そんな颯樹の中学からの友人であ
る純平は、美沙の兄であると同時に、異次元戦士として人知れず異世界の犯罪者たちと
戦っているという顔を持つ。勿論、後者の顔は颯樹にも秘密にしている。ちなみに容姿
の顔の方は恐持てで無骨な印象を相手に与える。
 颯樹はコーヒーを一口飲んだあと、話を続けた。
 「いや、元々上達がめちゃくちゃ早いんだけど、この一、二週間ぐらいはさらに動き
が良くなってるんだ」
 「ほう」
 純平はわずかに驚いた表情を見せつつ、オレンジジュースを飲み込んだ。颯樹はそん
な純平を見てニヤリと笑いつつ、さらに話を続ける。
 「お前に少しでも近づきたくて頑張ってるんだよ。可愛いじゃねえか」
 颯樹の言葉に苦笑しながらもまんざらではない純平。だが、颯樹は少し真剣な顔つき
になる。
 「・・・それにしては、最近何か悩んでるみたいなんだよなあ」
 「ほう」
 「壁にぶつかってるんじゃないか? あたしがつきっきりで教えてやると簡単だけど、
それだと美沙のためにならないからなあ。何か特殊なきっかけでもあればいいんだけど
さ」
 純平は空になったコップを見つめて考えた。
 (特殊なきっかけ・・・か)
 「どうした?」
 颯樹の言葉で我に帰ると、純平はごまかすように笑って颯樹の方を見る。
 「いえ、なんでも」
 「ところでさあ」
 颯樹が急に声のトーンを変えてきた。普段よりも少し低めでゆっくりな口調になる。
 「あのエミーという子とはどういった関係?」
 純平は心臓を鷲?みにされたように固まり、数秒間を置いたあと、視線をあさっての
方向へ向けた。
 (き、来た。来るんじゃないかとは思っていたが・・・)
 「で、どうなの?」
 笑顔だが目は笑っていない颯樹。純平はじわりじわりと脂汗を流す。
 (だ、誰か! 誰か助けてっ!)
 心の中で叫ぶ純平だが、しかし誰も助けに来なかった。意を決して若干振るえるよう
な声で答える。
 「し、仕事であっちこっち飛び回っている時に知り合います、ました。とある大富豪
の娘さま、さんで、このたび旅行で来賓、来日されましたので、仕事の一環としてボデ
ィガードをしつつ、観光案内をしとりましたです、はい」
 「で、付き合ってるの?」
 相変わらずの恐ろしい笑顔の颯樹。その時、とうとう耐え切れなくなってしまった純
平の中の何かが弾けてしまった。
 (もう嫌だぁ! いっそのこと腹を斬らせてくれ〜!)
 両手で頭を抑え、もがくように動きだした純平に颯樹は驚き、立ち上がって純平の身
体を抑えた。しかし純平は動きを止めない。
 「お、おい、どうしたっ?」
 「死して屍拾うものなし〜!」 



 夜遅く、空き地の近くまで来た純平は、周りを気にしつつ、傍の建物の影に隠れた。
そしてチョッキのポケットから横長の眼鏡を取り出す。しかし、眼鏡はレンズとその周
りのフレームだけしかなく、レンズは黄色で変な線が入っており、フレームは真っ赤で
およそ眼鏡と言えないような代物だった。どことなくイレブンの目と似ている。
 「デュアッ!」
 変な声を出しつつ、その眼鏡を勢いよく両目に持ってくる。すると、眼鏡は目の周り
にくっつき、途端に眼鏡から上がイレブンになり、その後、下にイレブンへと変わって
いく。
 この眼鏡こそ、異次元警察科学班の有志が作ってくれた、イレブンになるためのアイ
テムである。勿論、イレブン・スーツの至る所に細工が施されている。
 純平=イレブンは空き地へと向かった。もうすでに美沙は練習を始めているようだ。
イレブンは空き地に入って少しのところで、美沙の様子を静かにじっと見る。
 美沙は型の練習をしているらしい。敵が居ること想像しつつ、攻撃や防御を順に繰り
出す。一見すると華麗に見える、が、その動作の一つ一つにいまひとつ切れが無いこと
にイレブンは気づいた。もう少し観察してみると、どうやら技術というより精神的なも
ののようだ。集中はしているが、動作に気迫がこもっていない。
 イレブンは観察を止め、ゆっくりと美沙に近づいていった。美沙は気配に気づいて型
を止め、イレブンの方を見た。少し息を切らせている。
 『今日は型の練習ダ』
 イレブンは美沙に言う。
 『いいカ、型には全て意味があル。それを理解して行わなければ・・・』
 イレブンは途中で言葉を止めた。美沙が何か言いたそうにこちらを見ていることに気
づいたからだ。
 『どうしタ?』
 「教えてほしいことがあるの」
 『なんダ?』
 「お兄ちゃんがたまに言ってた技を教えてほしいの。極派八なんとかっていう」
イレブンは押し黙った。美沙の顔はあくまで真剣であり、冗談を言うような雰囲気では
ないようだ。
 『極派八炎轟のことカ? あれの意味を知っているのカ?』
 美沙は首を横に振った。
 「でも、とても大事なことのように言ってたの。だから、美沙もそれを知ってやりた
いの」
 イレブンは少し宙を見上げ、再び押し黙った。少しして美沙へと視線を戻す。
 『極派八炎轟とハ、お・・・あいつが8つの流派から自分に合った技を抜き出し、さ
らに自分流にアレンジしたものだ。一式は空手、ニ式は八極拳、三式はテコンドーとい
ったようにナ。だかラ、お前が会得したからといって役に立つとは限らン』
 「それでもいいの! 少しでもいいからお兄ちゃんに近づきたいんだ・・・」
 最後の方は寂しそうに言う美沙。その様子をじっと見たイレブンは間を置いて大きく
頷いた。
 『よかろウ。ならばお前にもできそうな技をいくつか教えてやろウ。その後は自分に
合うように工夫するんダ』
 「うん!」
 イレブンは喜ぶ美沙を置いて、早速見本を見せることにした。軽く構えて、顔だけ美
沙に向ける。
 『まずは一式・炎龍。これは空手の基礎中の基礎である突きを極限まで磨いた技ダ』
 イレブンは顔を前に向け、一歩前に踏み出した。それと同時に腰を捻り突きを放つ。
空気を裂くような音が美沙の耳にも届いた。
 『移動する力、突きを放つ腕の力と広背筋の力、踏み込んだ足の力、そして腰の捻り
による力なド、その時に利用できる力を全てフル動員シ、尚且つ無駄なことは切詰めル。
それらの結果が全て1つになった時の突きの威力は凄まじいものとなル。まア、これは
どの格闘技でも一緒ダ』
 イレブンは構えを解き、普通に立った。美沙はすぐ練習に入ろうとしたが、イレブン
はそれを止める。
 『今はまだ極派八炎轟を重点的に学ぶ時ではなイ』
 美沙はまた何か言いたそうにしたが、イレブンの言葉の続きのほうが先だった。
 『今は基礎を築き上げる時ダ。基礎が出来てこそ技を練れるのダ』
 納得しきれない美沙にイレブンはさらに話す。
 『お前の兄モ、基礎を大切にしていたゾ』
 そこでやっと美沙は渋々ながら頷いた。イレブンも一度頷く。
 『安心しロ。八炎轟の中からお前にもできそうな物をいくつか選んデ、一人で練習で
きるようにテキストにしてやろウ』
 イレブンはそこまで言うと戦う構えを取った。その構えは巳滄流の基本的なものだ。
 『巳滄流古武術は実戦で磨き上げられた武術。演武だけの技など無イ』
 何度か空気中を突いて、蹴る。空気を裂くような音が美沙の耳にも届く。イレブンは
構えを解いた。
 『型を見せてみロ。型の種類は何でもいイ』
 美沙は背筋を正して足を肩幅に開き、呼吸を正す。数秒置いた後に型を始めた。相手
を仮想し、決まった順番に技を繰り出していく。相手のみぞおちを突いたり、突いてき
た腕を払って流したり、相手のこめかみへ蹴りを放つ。
 イレブンは一つの型が終わるまで黙って美沙の動きを見ていた。型が終わり、構えを
解く美沙にイレブンは言う。
 『何故、すぐに構えを解いタ?』
 美沙は「えっ?」と不思議な顔をする。
 『攻撃が当れば必ず相手が倒れるとは限らなイ。最後の最後まで相手に集中しロ。そ
れニ…』
 イレブンは美沙のすぐそばに行くと、美沙の片手を取り、自分の腹部に当てる。
 『型はただやればいいというものではなイ。相手をしっかりイメージし、一つ一つの
動作を実戦と同じにするのダ。型の全ての動作にはちゃんと意味があることを忘れるナ』
 イレブンは美沙が今行った型を自らやってみせた。美沙とは違い、一つ一つの動作が
鋭く、気迫がこもっている。実際にその技が当れば相手は倒れるのではないかとたやす
く想像できるくらいに。
 美沙は感嘆の息を漏らした。型が終わり、構えをゆっくり解きつつも、最後まで視線
を相手の方から外さない。
 『…分かったか?』
 「はい!」
 『よし、もう一度やってみろ』
 イレブンに促され、美沙は再び構えを取り、型をの練習を始めた。



 多世界間に渡る犯罪を取り締まる組織、異次元警察。その本部内にある次元パトロー
ル隊員室に二人の人物が居た。一人は次元パトロール隊員のゼロで、もう一人はアルバ
イトのエミーである。
 ゼロは自分のデスクで何か書類を書きながら、時折考え込むようにして、ペンでハー
フエルフの特徴である人間よりも少し細長い耳を掻く。
 エミーはガングロメイクの状態でゼロの横のデスク(外出中の他の隊員のデスク)に
座り、ゼロの様子を観察したり、一人でぼやいていたりする。
 「あ〜あ、じゅんじゅんと遊びたいなあ」
 「まあ、ブラスターもそれほど暇じゃないからね」
 ぼやくエミーを見ることなく、作業を続けながらゼロが言う。エミーは『ぷくっ』と
頬を膨らませた。
 「きっと、あっちの胸デカ女と遊んでるんだよ」
 ゼロは苦笑しただけで、今度は答えなかった。エミーはさらにぼやき続ける。
 「エミーもアルディオスに居候しようかな〜」
 アルディオスというのは異次元警察が誇る超次元戦闘母艦5号艦のことで、ブラスタ
ー=純平が普段拠点として寝泊りしている。
 ゼロは止めも薦めもせず、書類を書き続ける。やがてペンを置くと、今度は自分のデ
スクの角に設置されている小さなテレビ通信機に手を伸ばして入力し、誰かを呼び出す。
少しの間のあとテレビの画面に映ったのは、ゼロの上司であり次元パトロール隊隊長の
アッシュだった。アッシュは椅子に座り、両足を散らかっているデスクの上に乗せなが
ら煙草を吸い、こちらを見ている。
 『どうした?』
 「今後のために自分の世界で色々とマジックアイテムを買いたいんですけど、経費で
落ちますか?」
 ファンタジーもへったくれもないことを画面に言うゼロに、アッシュは少し考えてか
ら答えた。
 『難しいんじゃないか?』
 「でも、噂では隊長の煙草代は経費で落ちてるって話ですけど?」
 『・・・分かった。俺から話をつけておこう』
 「ありがとうございます」
 いたずらっぽく笑うゼロ。アッシュは渋い顔で何か言おうとして煙草を口から離した
が、こちらの上のほう(向こうの画面の奥)を見て、慌ててデスクから足を下ろし、煙
草を灰皿にこすりつけて消す。すると、間もなく画面の中に綺麗な女性が姿を現した。
エミーも一国のお姫様だが、こちらも(元)お姫様でアッシュの恋仲であるリミアだ。
 リミアは腰まで来る金色の髪を優雅になびかせながら、にっこり笑いつつも、無言で
散らかっているアッシュのデスクの片付けをし始めた。何か圧力を感じたらしいアッシ
ュは顔をひくつかせる。
 『じゃ、じゃあな』
 通信が切れた。ゼロは特に気にせず、さっきとは違う書類を書き始める。画面が元の
黒い状態になっているのを見つめながら、エミーはつぶやいた。
 「…リミアさんて怒るとどうなるんだろうね〜」
 「槍の達人だって噂を聞いたことがるあよ」
 「ふ〜ん。…そういえば、クリス君には彼女居る?」
 エミーは視線をゼロに移した。クリスとはゼロの本名である。ゼロは書類を書く手を
止めない。
 「居ないよ。別に欲しいと思わないしね。ここには気の合う仲間たちが居るし、見て
るだけで面白い変な同僚も居るしね」
 「そう言うクリス君も不思議少年って感じ〜」
 ゼロは純平と同い年で十八歳だが、見た目はそれより若く見える。伸びた前髪が目の
半分を隠しているため、時折どこを見ているか分からない時がある上、言動が掴みづら
いこともあって、不思議少年と言っても大して違和感は無い。
 「そうだ。じゅんじゅんの妹の美沙ちゃんてすっごい可愛いよね!」
 「そうだね」
 「二人とも仲がすごく良いんだよね」
 「そうだね」
 「美沙ちゃんて普通の人間よりも成長が速いってホント?」
 「そうだね」
 エミーは半眼で、作業をし続けるゼロを見た。
 「ね〜、ちゃんと聞いてよ〜」
 「そうだね」
 それでも止めないゼロに頬を膨らませ、両手を腰に置き、あさっての方を見た。
 「次にじゅんじゅんを捕まえた時には、容赦しないって感じ」
 「そうだね」
 「っていうか、今回エミーの出番てこれだけ?」



 深夜の特訓を始めてから中日が過ぎた日。それまで通り二、三時間の特訓が終わると、
イレブンはさっさと帰ろうとする。だが、その日だけは別で、美沙がイレブンの腕を掴ん
で止めた。
 イレブンがゆっくりと美沙の方へ振り返ると、美沙が口を開く。
 「お話しよ?」
 少し疲労感は見えるものの、明るい笑顔を見せる美沙にイレブンは少しとまどった。イ
レブン、いや純平も美沙と一緒に居たいと思っているのだが、一度そうしてしまうと、美
沙と別れる時が辛くなってしまう。そのためにイレブンである時はそっけない態度をあえ
てとっているのだ。
 『分かっタ』
 しかし純平は承諾した。異次元戦士である自分はいつ死んでもおかしくはなく、これが
美沙と居る最後の時間かもしれないということを考えたからである。
純平=イレブンは美沙と共に地面に座る。
「お兄ちゃんのことを聞かせて」
 美沙が話を切り出した。純平の事を聞きたいがために引き止めたことは明らかだった。
純平は美沙の顔を見ず、夜空を見上げる。
 『…アイツは今、各国を渡り歩きながら人々のために活動していル』
 「うん、それは颯樹お姉ちゃんから聞いてる。正義の味方なんだよねっ?」
 誇らしげな美沙だが、イレブンは頷かなかった。
 『そんな善人じゃないサ』
 急に口調が変わったことに美沙が驚く。イレブンはそれに気づいて話を続けた。
 『…ツ、つまりだナ。アイツがその仕事を始めた最初の動機は憧れや自己満足のためと
いった物だったのダ。それほど褒められたものじゃないということだナ』
 「そんなことないもん! お兄ちゃんはカッコイイんだよ」
 全力で否定する美沙だが、イレブンは話す調子を変えない。
 『…何故、武術を習い始めタ』
 美沙に逆に質問する。美沙は押し黙り、少し考えるようにして時間をかけてから答えた。
 「お兄ちゃんに近づきたかったから」
 『それだけカ?』
 美沙は再び押し黙った。やや時間を空けてから思い切ったように話す。
 「強くなりたいの。強くなってお兄ちゃんや颯樹お姉ちゃんたちを守るの。今は守って
もらってばかりだから…」
 『それでいイ』
 美沙はイレブンの言葉に「えっ?」という顔をする。
 『今のアイツは大切なものを守るために戦っていル。そう、自分の中にある信念を貫き
通すためニ。その信念がちゃんと妹に受け継がれているようダ、アイツも喜ぶだろウ』
 イレブンは美沙の顔を見つめた。
 『その信念を失わなけれバ、もうアイツに近づいていのダ。それを憶えておいてくレ』
 予想外の言葉に少し唖然としながらも、やがて理解した美沙は喜んで大きく頷いた。
 「うん!」
 『危険な仕事柄、アイツはお前たちに会うことが今のところできないガ、大切に思って
いることには変わらなイ。だかラ、辛い事があっても負けるなヨ』
 「うん!」
 イレブンは美沙の頭を撫でた。手を頭から離したあと、美沙が新しい質問をする。
 「・・・でも、どうしてイレブンは巳滄流が使えるの? それにお兄ちゃんとどうやっ
て知り合ったの?」
 イレブンはドキッとしつつも、こんなこともあろうかと、あらかじめ考えておいた答え
を言う。
 『それは[イレブン十一の秘密]の二と三だ』
 「ふ〜ん」
美沙はその答えに特に疑問を持たなかったようだ。純平と共に特撮・アニメを見ていた美
沙にとっては、納得できる範囲内の答えだったりする。イレブンの上手く切り抜けたこと
に、心の中でガッツポーズを取った。
 が、次の瞬間、美沙のさらなる質問がイレブンを襲った。
 「・・・今、お兄ちゃんにカノジョっているの?」
 イレブンの動きがピタリと止まった。
 子供というのは無邪気に超剛速球のストレートな発言をすることがある。今放たれた剛
速球は確実にイレブンの心臓にヒットし、イレブンにピンチをもたらす。
 首をかしげている美沙に、イレブンはなんとか答える。
 『・・・・・・俺には彼女は居なイ』
 「イレブンじゃなくてお兄ちゃんの彼女」
 『・・・知らン』
 イレブンの答えに当然納得しない美沙だったが、イレブンは無理やり話を終わらせる。
 『・・・そろそろ失礼するとしよウ』
 イレブンは立ち上がった。名残惜しそうに座っている美沙に言う。
 『では、明日また会おウ。早く家に帰るんだゾ』
 イレブンは手を差し出し、美沙の手を握る。そして美沙を立たせたあと、帰る準備をさ
せた。
 その間、イレブンは美沙の手を握った自分の手を見つめ続けていた。

 

 最後の練習の日。練習を終えたイレブンは美沙と向かいあって立った。
 『最初に話した通リ、今日で特訓は終了ダ』
 イレブンが告げると、美沙は嫌そうに首を横に振る。
 「もうちょっと教えて」
 『駄目ダ。私は忙しい身だシ、お前には颯樹姉さんが居ル。これからは何でも気にせず
颯樹姉さんに聞きなさイ』
 「・・・でも――」
 「おっ、なんだこいつらあ?」
 空き地に、明らかに不良と分かるグループが入ってきた。面白がって2人を観察する。
 「特撮の撮影してんの?」
 「写メでみんなに送ってやろうぜ」
 「おお、いいねえ」
 「こいつあれに似てない? ウルトラセ――」
 『邪魔ダ。消えうせロ』
 淡々と不良たちに言い放つイレブン。不良たちの怒気がイレブンの発言によって一気に
急上昇していく。
 『下がっていロ』
 「やんのかあ? 変態コスプレ野郎!」
 イレブンは怖がる美沙を後ろに下がらせた。そして仁王立ちで不良たちを正面から見据
える。
 『かかってこイ、くそったれどモ』
 「おい、マジでやっちまおうぜ!」
 不良たちは空き地に落ちていた鉄パイプなどを拾って、怒りに身を任せてイレブンへと
向かっていく。
 『ダアッ』
 イレブンは両手で自分の頭のトサカを挟み、取り外して前方に投げる。トサカは高速で
飛んでいき、不良の1人が持っていた鉄パイプの周囲を何周かして戻ってきた。イレブン
が先ほどの動作を逆回りするようにしてトサカを頭に戻すと同時に、不良の鉄パイプがバ
ラバラになって地面に落ちた。
 不良たちは数秒間黙って鉄パイプの残骸を凝視したあと、それぞれ恐怖に引きつった声
を出して、パニックを起こした。しかし、イレブンは容赦しない。
 『デアッ』
 両手の人差し指と中指だけを伸ばし、額の小さなランプの横に両側から挟むようにつけ
ると、ランプからギザギザの光線が発射され、不良の1人に直撃した。その不良は声にな
らない声を上げて地面に崩れ落ちてゆく。残った不良たちは絶句して、地面に倒れてピク
リともしない仲間を見る。
 『安心しロ。全力は出していなイ。そいつを連れて、消えうせロ。次にお前たちが悪さ
をする所を見たら粉々にしてやル』
 不良たちは悲鳴を上げながら、慌てて、倒れている仲間を担ぎ上げて空き地から逃げて
いった。
 辺りに静寂が戻ると、イレブンは空き地の入り口から美沙へと振り返った。
 『武術は戦いのためにあル。だが戦うことで全てが解決するわけじゃなイ。戦わないこ
ともまた武術の心得という事を忘れるナ』
 「はいっ」
 美沙は真剣な顔で頷いた。
 『日々精進することダ。そして常に自身で創意工夫し高め続けロ。そうすればお前の兄
を追い抜くことも可能だろウ』
 イレブンは美沙に背を向け、距離を取った。そして思い出したように美沙の方に振り返
る。
 『いいカ、この一週間のこト、そして私の事は絶対に他のものには秘密だゾ』
 「はいっ」
 イレブンは最後に一度大きく頷いた。そして空を見上げ、両腕を頭上に真っ直ぐ伸ばし、
軽く膝を曲げてジャンプする。
 『デァ!』
 イレブンはそのまま空へと飛んでいった。ある程度まで上昇すると、今度はどこかへ飛
び去っていく。美沙は飛んでいくイレブンに手を振り、見えなくなってもしばらくの間、
イレブンが去っていった方角へ手を振り続けていた。




おまけ
 
 道場でいつものように美沙が道着を着て稽古に励んでいる。ただ、少し前と違って何か
が吹っ切れたように、動きに冴えが出てきていた。同じく道着姿の颯樹はそれを見て数度
頷く。
 休憩時間に入り、颯樹は美沙に近づいていった。座って休む美沙の前に立ち、覗き込む
ように美沙の顔を見ながら尋ねる。
 「ここ一週間ほどで動きが変わったなあ。何かあったのか?」
 美沙は嬉しそうに何か言おうとしたが、慌てて両手で自分の口をふさいだ。そして顔を
横に振ってからふさいだ手を離す。
 「えへへ、ないしょ」
 美沙は颯樹に背を向けた。颯樹はさらに尋ねようとしたが、しかしすぐに止めた。
 稽古時の美沙の動きが、ある男にとてもよく似始めてきたことに颯樹は気づいたのだ。
やれやれと苦笑しつつ美沙から離れる。
 (バレないように何かしたんだろうけど。まったく、あいつは本当に美沙に甘いな)
 噴出しそうになるのを静かにこらえつつ、颯樹は道場の壁によりかかった。
 そして数日後、美沙の元に荷物が届いた。送り主は純平で、中身は純平の字で武術のこ
とが書かれた巻物数本だった


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・[235] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『風と木漏れ日の中で』 2006.4.24(月)07:09 じゅんぺい (23975)
・[236] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』 2006.4.24(月)07:27 じゅんぺい (20527)
・[237] あとがき 2006.4.24(月)07:29 じゅんぺい (303)

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