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231 長編:異次元戦士ブラスター第十一話『解け行く過去』
2006.4.24(月)06:45 - じゅんぺい - 9857 hit(s)

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 快晴・・・とはいかないまでもそこそこ晴れた昼下がり、純平は慣れた足取りで道を歩
いていた。その割には歩くスピードはゆっくりで、しきりに周りに気を使っている。
 帽子を深くかぶり、いつもの黒いTシャツ、Gパン、サバイバルチョッキを着ているが、
いつもと違い、ため息がやたらと出る。天気も気温も丁度いいのに気分が重い原因は、背
後にあった。
 「ねえねえ、あれなにー?」
後ろからはしゃぐ声がするが、純平は答える気にはなれなかった。一応先ほどまでは答
えていたのだが、今はもうそれほどの気力は無い。片手に持っている大きめの紙袋がやけ
に重く感じる。まあ、もともと重くはあるのだが。
 「なんでこんなことに・・・」
純平はとぼとぼと歩きながら、数時間前のことを思い出した。


 「ということで、じゅんじゅんについていくから」
 多世界間に渡る犯罪を防ぐ異次元警察本部内、次元パトロール隊室の隅のデスクの上に
置いてある一つのパソコンの前に並んで座っていた、アッシュ、クリス、純平が呆然とし
た顔で振り返った。声を発した主、女子高生のエミーは堂々と仁王立ちしている。しばら
くの沈黙のあと、
 「で、三階のチビの倒し方なんですけどね・・・」
 純平の一言で三人は再びパソコンの画面の方に向き直った。画面には白い道着を着た男
が一本道の向こうから来る敵を殴り、蹴っているゲームの映像が映っている。アッシュの
手には、パソコンに接続されたTVゲームのコントローラーが握られていた。
 「ちょっと! 無視しないでよ〜」
 「いやあ、それはちょっと・・・」
 困った顔で純平が再び振り返った。アッシュとクリスも苦笑しながら振り返る。
 「君はあの世界に行かない方が良いと思うぞ」
 「そうそう、僕もそう思う。それはそれで面白いかもしれないけどね」
 エミーは二人の言葉にもまったく耳を貸す気はない。むしろ、より堂々と胸を張った。
 「じゅんじゅんたちは駄目かもしれないけど、エミーが行くと言ったんだからいいの!」
 「・・・・・言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い自信ですな」
 冷汗を流しながら純平がつぶやいた。アッシュとクリスは同時に軽く肩をすくめると純
平を残して再びパソコンの画面に向かう。
 純平は薄情な二人を横目で見つつ心の中で毒づいたが、すぐに諦めた。この2人がエミ
ーに対してまったく役に立たないことは前から分かっていたからだ。目を鋭くしてエミー
の顔を見る。
 「いいですか、駄目ですからね! 絶対駄目ですからね!! 絶対絶対駄目ですからね
っ!!」


 「・・・・はあ」
 小さな道を進みながら、またため息をつく。
 しばらくすると目的地に着いた。目の前には大きな家の門がある。純平は紙袋を持ち直
してエミーへと振り返る。
 「いいっすか、これから友達に会ってこれを返してきますから、ここで待ってて――」
 「よう、アホじゃないか」
 背後からの聞き慣れた声に純平の身体は凍りついた。口を開けたまま、後ろを振り返る
ことができずにエミーを見つづける。そして何故か身の危険を感じた。
 このままでは――
 (殉職するかもしれない・・・)
 Gパンを愛用する刑事が腹部を銃で撃たれて「なんじゃこりゃあ!」と叫びつつ殉職す
るシーンが一瞬頭の中を通り過ぎ、冷汗が背中をゆっくりと伝っていく。これほど恐怖を
感じたのは隊長と初めて本気で組み手をした時以来か。いや、改造手術を受ける時もそう
だった。この次に起こることを想像もしたくないという気持ちだ。だが、やるだけのこと
はしなくては!
 「・・・・・だ、誰だ? その人は」
 口元をひきつかせながらも笑顔で純平に問う颯樹。純平は勢いよく振り返ると直立不動
で答えた。
 「いや、あの、その、友達であります!」
 「エミーで〜す。じゅんじゅんの恋人で〜す♪」
 純平の言葉を根っこから覆す発言を繰り出したエミー。一瞬とも永遠ともつかない沈黙
の時が辺りを流れる。一番最初に復活した純平は慌てて取り消す。
 「え!? いや違うっすよ!!」
颯樹は慌てふためきながらも必死で訂正する純平を見た後、一度ため息をつきながら、
今度はエミーの方へ向き直る。
 「違うって言ってるぞ。気安くじゅんじゅんとか言うなよ」
 「あんたこそ何よ。恋人でもないくせに!」
 「なっ!? あんたには関係ないだろ!!」
 売り言葉に買い言葉という状況に発展していく様に、純平は猛烈な寒気に襲われた。思
わず左手のクリスタルで援軍を呼んで逃げだそうかとしてしまうほどに、純平は目の前の
光景に怯える。
 「偉そうに、胸が少し大きいからって調子に乗らないでよ!!」
 「胸は関係ないだろう!!」
 「あの、お二方、道の真ん中でケンカはやめましょうよ?」
 「アホはだまってろ!!」
 颯樹の鎖骨折りチョップが、止めに入ろうとする純平に炸裂した。純平はたまらず後退
する。それを見たエミーは颯樹にさらにくってかかった。
 「あ、じゅんじゅんに何すんの!? それにじゅんじゅんをアホって呼ばないでよ!!」
 「だから、あんたには関係ないだろって!!」
 「関係あるもん! あんたの方が関係ないんじゃないの!?」
 「落ち着つきましょうよ、ここは和平を――」
 「じゅんじゅんは黙ってて!!」
 再び止めに入ろうとした純平は、今度はエミーに両手で押し飛ばされ、たまらず後退す
る。
 「エミーとじゅんじゅんはね、行き着けの冒険者の店公認の仲なんだよ! あんたはお
呼びじゃないのっ」
 「わけの分からないこと言うな! 今まであんたのことなんか一度もアホから聞いてな
いぞっ!」
 「おふたかたっ! ここはひとまず・・・」
 再び止めに入ろうとした純平だったが、道の前方にふと目をやった瞬間、再び体を硬直
させて凝視した。そんな純平を放っておいて、二人は言い合いを続けている。
 「あたしはアホとは中学からの知り合いなんだ、関係なくはねえよ!」
 「エミーだって、一緒に仕事してるもん!!」
 「あたしの方が古いつきあいだよ!!」
 「ふん、本当のじゅんじゅんを知らないくせに!!」
 「本当の!? アホはアホじゃないか!!」
 「あのね、じゅんじゅんはねっ!」
 「・・・颯樹お姉ちゃん、どうしたの?」
 二人は言い合いをピタリと止め、同時に顔を横に向け、そして視線を少し下にさげた。
 そこにはいつの間にか、十歳ぐらいの少女が立っていた。こげ茶色の髪をポニーテール
にして、首から小さな勾玉のペンダントを下げた少女は、不思議そうな顔で颯樹を見てい
る。
 「ああ、いや、その・・・」
 言葉を濁して困ったように上の方を見上げる颯樹だったが、ふとあることに気づいて、
慌てて純平が居た方を振り返る。が、いつの間にか純平の姿は消えていた。
 「かわいい! お名前は?」
 一方でエミーはしゃがんで目線を合わせ、少女の頭を撫でながら尋ねた。少女は撫でら
れながらも不思議そうな顔のままで答える。
 「美沙だよ。新條美沙」
 「新條・・・?」
 「アホ・・・純平の妹だよ」
 颯樹がエミーに言う。エミーは顔を輝かせて美沙の顔を見た。
 「じゅんじゅんの妹なんだあ! かわいい〜」
 「お兄ちゃんを知ってるの?」
 ぐしゃぐしゃに頭を撫でられながらも、美沙が尋ねる。エミーは撫でるのを止めた。
 「知ってるもなにも、ねえ、じゅんじゅん?」
 エミーは背後を振り返ったが、そこには誰もいない。周囲に目を向けたが純平の姿はど
こにもなかった。
 「あれ? じゅんじゅんどこいったんだろ?」
 「あっ、バカ!!」
 颯樹がエミーの口を塞ごうとしたが、もう遅かった。美沙は驚いて颯樹とエミーを交互
に見る。
 「じゅんじゅんって、お兄ちゃんのこと? お兄ちゃんが来てるんだ!!」
 はしゃいで興奮する美沙の頭に、突然こげ茶色の猫耳がぴょこんと生えた。颯樹は慌て
て美沙の頭を押さえる。
 「美沙、落ち着け!」
 颯樹の言葉とは逆に美沙はさらに興奮してパニック気味になった。すると美沙の全身が
光り輝き、光が消えると、美沙の居た所にシャム猫のぬいぐるみが落ちている。
 「あちゃー」と片手で顔を覆う颯樹と呆然とするエミーの間に居るぬいぐるみは、困っ
たように顔を動かし、一声鳴いた。



 「美沙は元々、猫のぬいぐるみだったんだよ。ほら、おとぎ話とかによく出てくるだろ?
付喪神ってやつ」
 自宅の居間でソファーに腰掛けながら、颯樹はエミーに説明する。あの後すぐに「騒ぎ
になってはまずい」と、エミーと美沙を家に招き入れたのだ。エミーはテーブルを挟んで
颯樹の向かい側に座っている。美沙は颯樹の横で、バツが悪そうにうつむいて座っていた。
頭の猫耳も伏せている。
 「ツクモガミ?」
 エミーは理解できなかったようでオウム返しに聴き返してきた。颯樹は一度息を吐くと、
ゆっくりと説明し直す。
 「大事にされていた物に命が宿るってやつだよ。あたしも美沙に会うまでは信じてなか
ったんだけどな。今もたまに信じられなくなる」
 「ふーん」
 大して驚きもしないエミーに颯樹はいぶかしげな目を向けた。
 「・・・それほど驚いてないようだけど、まあ、いいや。・・・それで、アホや私が中
三の時に美沙が生まれて、中学卒業直後に旅に出たアホの代わりにあたしがたまに面倒を
見てるってわけさ」
 「颯樹お姉ちゃん、お兄ちゃんをアホって呼ばないでよ」
 頬を膨らませて注意してくる美沙に、颯樹は苦笑しながら頷いた。美沙の頭を軽くなで
てから、立ち上がる。エミーを見て、
 「麦茶でいいだろ? ちょっと待ってな」
 「悪いね。そんなお構いなく」
 「まあ、一応あんたは客だからな・・・ん?」
 聞こえてくるはずのない真後ろから声がした。慌てて後ろに振り返ると、いつの間にか
金髪の青年が屈託の無い笑顔で立っている。
 「なんで、お前がいるんだよ!?」
 颯樹の鎖骨折りチョップが青年へと炸裂した。青年は「ぐはあっ」とのけぞりながらも
他の二人に片手を挙げて挨拶する。
 「やあ、どうも」
 「あ、クリス君じゃん〜」
 クリス=ゼロは苦笑しながら鎖骨をさすりつつ、ソファーの空いている場所に座った。
さっさと台所に行く颯樹を見ていたが、美沙の視線に気づいて振り返る。
 「キミが美沙ちゃんだね。僕はキミのお兄さんの友達だよ。仕事仲間とも言うかな」
 笑顔で挨拶したゼロとは違い、美沙は不思議そうにただじ〜っとゼロを見つめている。
 「・・・・・」
 「ん、どうかした?」
 ゼロが尋ねると、美沙が不思議そうな顔のまま、口を開いた。
 「・・・・クリスお兄ちゃんは人間じゃないの?」
 一瞬、その場の時間が止まる。美沙以外の三人の視線が美沙へと重なった。
 「フッフッフ、その通りだよ」
 突然ゼロが笑い出した。体を乗り出して、美沙に近づいて両肩に手を置く。
 「僕はこの世界を征服しに来た生命体なのだ〜」
 すかさずゼロの後頭部に颯樹の手刀が当たった。
 「馬鹿やってんじゃねえよ。美沙も美沙だ」
 颯樹はさっさとテーブルの上に盆から烏龍茶の入ったコップを四つ置く。両手でコッ
プを持って飲む美沙を横目で見ながら、ゼロも一口飲む。
 (なんで分かったんだろ? 耳には魔法をかけてあるから、他人からは人間の耳にしか
見えないはずだし・・・ブラスターの言った通り、この子には不思議な力が色々あるみた
いだな)
 「そうだ、この際、じゅんじゅんのことを色々知りたいな。美沙ちゃん、教えてよ」
 エミーは座った状態から乗り出すような姿勢で尋ねた。美沙は少し考えてから、相談す
るように颯樹の方を見た。颯樹も少し考えてからゼロを見る。相変わらずゼロは気楽な様
子で答えた。
 「いいんじゃない? 一応信用できる子だよ」
 『一応』という言葉にエミーは何か言いたそうだったが、口には出さなかった。颯樹は
ゼロの言葉を受けて美沙を見て頷いた。美沙はエミーの方を見る。
 「でも、何を言えばいいの?」
 「・・・ええっと、ほら、何人兄妹とか、昔はどんな子供だったとか」
 (安っぽい質問だな)
 ゼロは心の中で思ったが口には出さず、一口麦茶を飲んだ。そんなゼロは置いといて、
美沙がエミーの質問に答える。
 「四人兄妹だよ。・・・あ、三人だよ、三人!」
 大げさなほどに慌てる美沙に颯樹とエミーがいぶかしむが、ゼロの言葉が間を挟んだ。
 「純平の上に兄が一人いるんだ。で、本人は幼い頃は無口で、親の仕事の都合であちこ
ちに引越しし続けたせいもあって友達もそれほど居なかった・・・だよね」
 エミーに説明したあと、美沙に確認する。美沙は少し驚いて、小さく頷いた。それに対
してエミーの驚きは大きかった。
 「クリス君、知ってんじゃん! 最初からそう言ってよ」
 「だって、聞かれなかったし」
 いたずらっぽく笑いながらまた一口麦茶を飲むゼロ。エミーはむっと頬を膨らませたが、
すぐに機嫌を直し、美沙に質問を続ける。
 「じゅんじゅんの趣味ってなに?」
 「えっと・・・格闘技と本を読むこととテレビを見ることとオカリナを吹くことと、そ
れから・・・」
 指を折りながら数える美沙。エミーは関心の声を上げる。
 「へえ、色々と趣味があるんだね。・・・ところで、美沙ちゃんはツクモガミってやつ
で、元々はただのぬいぐるみだったんだよね?」
 「そうだよ。お兄ちゃんが小さい時から可愛がってもらってたの」
 「それで命が宿ったんだ。へえ〜」
 感心したように何度も頷くエミー。しかしその時、ゼロが一瞬意味ありげに笑ったのを
他の三人は気づかなかった。美沙が話を続ける。
 「でも最初はお爺ちゃんに可愛がってもらってたの。それからお兄ちゃんが小さい時に
何度も頼んでもらったんだって」
 その後しばらく純平に関する話は続いた。「中学時代の学業の成績は下の上だった」と
いう話から「中学最後の運動会内の種目・部活対抗リレーに、純平と颯樹が帰宅部代表と
して参加し、運動部を全て一蹴した」というくだらない話まで、内容は多岐に渡った。
 ある程度盛り上がった所で、ゼロが話を変えた。
 「ところで、その紙袋なんだけど。何が入ってるのかな?」
 「何か格闘技の本だって。返すとかなんとか言ってた」
 エミーが答える。颯樹が何か思い当たるふしがあるらしく大きく頷いた。
 「ああ、なるほどね。美沙、今家の方に行ってもいいか?」
 颯樹に尋ねられ、美沙はすぐに答えた。
 「いいよ」
 「よし、じゃあ行くか」
 颯樹は立ち上がると、他の三人を促し、家を出た。



 『金剛大帝! バク・サイ・オー!!』
 真っ白な巨大人型ロボットが街中で咆える。それと相対して、凶悪そうな赤黒い巨大人
型ロボットが足元の住宅やビル群をなぎ倒しながら、真っ白な巨大ロボットへと向かって
いく。
 一方、真っ白なロボットの内部では、少年とも青年とも言えない年齢の男の子が、精密
機械に埋め尽くされたコクピット内で目の前のスクリーンに映る赤黒いロボットを睨んで
いる。
 『行くぞ、爆砕皇! お前の力を見せてやれっ』
 おもちゃ屋の入り口に設置されたTVでそんなアニメを見ながら、純平は今日数十回目
のため息をついた。
 (あいつに頼んだとはいえ、困ったことになってきたなあ)
 「行け! 爆砕皇!! そこで龍王金剛斧を出せぇっ」
 横からの大きな声に、純平はおもわずそちらを見やった。横では金髪碧眼の青年二人が
TVに向かって興奮していた。他に客がおらず、その二人は、はたから見てかなり目立っ
ている。
 二人のうち、短髪で少し背の低い方(それでも純平と同じくらいだが)が純平の視線に
気づいて顔を向ける。
 「あんたもオタクかい?」
 やけに流暢な日本語でこちらに話し掛けられ、少し戸惑ったものの、純平は頷いた。
 「・・・まあ、どちらかといえば」
 「そうかそうか! やっぱり『この世界』のアニメや特撮はピカイチだからなあ」
 嬉しそうに背中を叩いてくる相手に困惑しながらも、純平は相手が喋った言葉の中の一
単語を聞き逃さなかった。
 (・・・この世界?)
 純平はおもわずいぶかしげに相手を見てしまった。相手はその変化に何かを感じたのか、
少し純平の身体を観察する。そして左手の甲を見た瞬間、驚愕の表情で後ろにあとずさる。
そして、未だTVに熱中する背の高い方に近寄る。
 「兄貴っ、兄貴!!」
 「バカヤロウ! これから爆砕皇が新技・金剛竜鎖弾を繰り出すんだっ! 黙って見て
ろ!!」
 「大変なんだよ、兄貴! あいつ、あいつっ!!」
 背の高い方がイラ立ちながら顔だけ横に向ける。背の低い方が指差す方向を視線で追っ
ていくと、純平の左手の甲に行き着いた。そして背の低い方と同じく驚愕の表情に変わる。
 「まずい、逃げるぞ、弟よ!!」
 「うん、兄貴!!」
 二人は全力ダッシュで逃げ出していった。その後ろ姿をただ呆然と見つめていた純平は、
ただ黙って首をかしげるしかなかった。



 「お兄ちゃんは今どこに居るの?」
 道を歩きつつ、美沙が見上げて尋ねた。颯樹とエミーもゼロを見る。ゼロは片手でバイ
クを押しつつ、困ったように耳を掻く。
 「・・・色々と忙しいんだよ。仕事柄、家族にはできるだけ会っちゃいけないって決ま
りがあるしね」
 「・・・・ふうん」
 釈然としない様子だったが、一応美沙は頷いてくれた。ゼロは笑顔を浮かべつつも、頭
の中はどんな質問にも上手く言い訳ができるようにフル回転させていた。普段であれば、
故郷の世界とは違って精霊の活動が弱いこの世界の自然を憂いたりするのだが、今は目の
前の状況だけでやっとだ。
 今度は颯樹がゼロに尋ねる。
 「それにしても、お前はこんな所でぶらぶらしてていいのか?」
 「今日は僕の仕事はお休み。純平の方が急に仕事が入ったんで、丁度近くに居たからそ
の代理で呼ばれたんだよ」
 「代理?」
 エミーが聞く。ゼロはいたずらっぽく笑って、
 「帰るとき、君を家まで送らないといけないでしょ?」
 ゼロの言葉の真意を理解したのはエミーだけだった。颯樹と美沙は特に気にはせず、表
面だけの意味を理解して納得する。
 (まったく、緊急ということで呼び出されたけど・・・こんなタイプの緊急は勘弁して
ほしいなあ)
 ゼロは、他の三人には分からない位の小さなため息をついた。



 純平は颯樹の家の近くにあるスーパー・マーケットにやってきた。
 (ケーキでも買ってくか)
 颯樹の機嫌がよくなるように何か買おうと店内をうろつく。帽子を深くかぶりながら、
他の客にぶつからないようにしつつ思案する。それほど大きくはない店だが、意外と客は
多い。
 (ショートケーキあたりで充分か。いや、颯樹さんには普段色々と頼みを聞いてもらっ
てるからチーズケーキあたりだな。それで、ゼロの分だけ安いやつにしとこう。「この世
界では高価なケーキだ」とか言ってもバレやしないし。あ、リミアさんも前に欲しいとか
言ってたからもう1つ買うか)
 自分の所持金を頭の中で計算しながら、ケーキが置いてあるコーナーへと向かう。そん
な中、関係者以外立ち入り禁止とある扉の前を通りかかった時、ふいに扉が開いたかと思
うと、中から人の両腕が伸び、強い力で純平の片腕を掴んで内側へと引きずり込んだ。純
平は扉の内側へと引きずり込まれたが、すぐにその手を振り払い、振り返って構える。
 (・・・・・?)
 しかし、純平の視界内には引きずり込んだ相手の姿はない。それよりも奇妙なのは、扉
の向こう側に来たはずなのに『引きずり込まれる前の場所に』いることだ。後ろには関係
者以外立ち入り禁止とある扉がある。さらに、視界が少し薄暗く、さっきまで居た客たち
の姿が無い。というよりも『人の居る気配』が無い。
 「・・・次元の狭間か?」
 思わず小さな声でつぶやく。緊張感が純平の身体を駆け巡る。構えたままで目だけを周
囲に向ける。品物や棚などはさっきと変わりは無い。
 少しの間観察したあと、純平は周囲を警戒しながらゆっくりと歩き始めた。静まり返っ
た店内に自分の足音が響き、それがより緊張感を高めた。店内の一角を曲がろうとしたと
き、突然角の向こう側から鋭い刃が飛び出してきた。純平は上半身を後ろに傾け、なんと
かかわす。すると、向こう側から服を着たのっぺらぼうの木人形が手にナイフを持って飛
び出してくる。純平は後ろに一歩下がって構え直す。だが、後ろからも気配を感じた。
 「くそっ」
 半分振り返った状態で、後ろに蹴りを繰り出す。後ろからナイフで襲い掛かろうとした
木人形がその蹴りを腹部に受けて吹き飛んだ。構わず純平は先ほどの木人形へと目をやり、
ナイフを振りかざしてきた木人形の腕を掴むと、捻って相手の身体を回転させ、前方に投
げる。
 もうその相手に構うことなく、次の相手へと構える。木人形たちのナイフをかわしなが
ら移動しつつ、時にはカウンターで肘を相手のわき腹に打ち付け吹き飛ばす。吹き飛ばさ
れた木人形は商品棚にぶつかり、倒れこんで、棚から落ちてくる商品に埋もれる。
 純平は移動しながら、足元に落ちている買い物カゴを拾い上げると、両端を持って木人
形と向かいあう。木人形を振り下ろしてきたナイフをカゴで受け止め、振り払って体制の
崩れた木人形の側頭部を蹴りつける。
 蹴った体制を整えながらも他の敵にカゴを投げつけ、動きを封じる。そしてその隙を逃
さず、自分の着ているチョッキの端に右手を伸ばす。端には小さな金属の輪がくっついて
おり、その輪に人差し指を引っ掛けて少し引くと、細い金属のワイヤーが輪に引かれてチ
ョッキの中から少し出てきた。純平は前方に居る木人形に駆け寄りながら、さらにワイヤ
ーを出す。木人形がナイフを振り回すより先に接近し、密接する直前に身体を回転させな
がら、木人形の脇をすり抜ける。と、いつの間にか純平は輪を元に戻してワイヤーをしま
っており、ワンテンポ遅れて木人形の首から上が綺麗に切り取られて床に転がる。
 (やっぱり、この武器はあまり好きじゃないな)
 そんな感想を思い浮かべたあとで約十体ほどを叩きのめすと、木人形たちは退散してい
った。純平はあえて追わず、周囲の気配をうかがう。
 少しの沈黙の後、純平の居る通路の両端に一人ずつ男が現れる。純平は二人を両脇に見
定めて、注意深く観察する。その2人は先ほどおもちゃ屋の前で会った2人組だった。
 長髪で背の高い方が大げさなポーズを取って叫んだ。
 「ズバット参上、ズバット解決! 人呼んでさすらいのヒーロー、シュナイダー兄弟と
は俺たちのこと!」
 数秒間、場が沈黙した。そして男が再び口を開く。
 「俺たちは刺客稼業を営む兄弟。今はザ・ナイトメアに雇われ、恨みは無いがお前たち
異次元戦士を始末させてもらう」
 「あんたとは良い友達になれそうな気がしたんだけどな」
 続いて短髪で先の男よりも少し背の低い方が口を開いた。純平は黙って2人を交互に見
る。そしてまた背の高い方が口を開く。
 「改めて名乗らせてもらおう。オレが兄のスパイクだ。そして向こうが弟のロッサ。我
らの兄弟拳を受け止めてみよ!」
 (・・・兄弟拳? どこかで聞いた名だな)
 ふと頭の中をそんなことが駆け抜けたが、純平はすぐ集中し直した。どちらにでも対処
できるように構える。
 スパイクはやけにハデなポーズをとったあと、大きな声を張り上げた。
 「アクセェス、フラッシュ!!」
 弟の方も何か大仰なポーズを取って叫ぶ。
 「超力変身!!」
 二人の全身が光に包まれ、光が凝縮して二人の体に吸い込まれていく。光が消えると、
二人は全身スーツを身にまとっていた。二人が含み笑いをもらす。そしてスパイクが得意
げに語り始める。
 「お前たち異次元戦士のコンバットスーツを真似て作った強化戦闘スーツだ。これでお
前はもう負けたも同然!」
 含み笑いを続ける二人に純平も少し笑って返した。そして左手を挙げて顔の前まで持っ
てくる。
 「偽物が本物に勝てたという話は一度も聞いたことがないぜ?」
 『む、確かに!!』
 兄弟は驚愕して一歩後ろに後ずさった。構わず純平が叫ぶ。
 「烈破!!」
 純平の身体を青い光が包み込み、コンバットスーツを身にまとう。仁王立ちして二人を
交互に見やる。
 兄弟は体勢を整えると、同時にブラスターへと駆けていく。ブラスターは腰を落として
身構えた。



 美沙が部屋の扉を開け、二人を部屋に招き入れる。部屋は六畳ぐらいで、本棚や小物な
どを入れる棚が綺麗に並んでいる。棚の上などに置かれたたくさんのぬいぐるみを、エミ
ーは笑いながら眺めた。
 「美沙ちゃんの部屋って、かわい〜」
 機嫌を伺うように見上げている犬のぬいぐるみをなでるエミーの横を、颯樹がさっさと
通り過ぎる。ちなみにゼロは「僕が部屋に入るとあとで彼にどやされるから」と言って外
で待っている。ちなみにその時、エミーにこっそり「余計なことは言わないように」と釘
を刺していた。
 颯樹は部屋の隅に置かれた棚の前に立った。棚は颯樹の身長を超えるほどの高さで、何
故か上からポスターが下げられていて中が見えない。颯樹は持っていた紙袋(純平が持っ
てきた袋)を下に置くと、ポスターをめくりあげた。それに気づいたエミーがそちらを見
やると、なんと棚にはぎっしりと本が入れられていた。
 「・・・・・何、コレ?」
 エミーの颯樹の後ろまでやってきて、じっくりと棚を観察した。棚に詰め込まれた本は、
『初心者のための空手』・『截拳道への道』・『実戦擒拿術』・『図解・草薙流古武術』
など、どうやら全て格闘技関係らしい。颯樹はエミーに構うことなく、紙袋から本を取り
出して棚にぎゅうぎゅうに詰めていく。
 「・・・美沙ちゃん、こういうの好きなんだ・・・」
 ぬいぐるみとのギャップに呆然としながら、エミーはつぶやいた。しかし、美沙は首を
横に振って答えた。
 「全部、お兄ちゃんのだよ」
 エミーは「ああ」と納得して二、三度首を縦に振った。だがすぐに新しい疑問が湧いて
きて、表情が曇る。
 改めて部屋をよく見てみると、隅の方にサンドバッグやらキックミットやら格闘技関係
の物が置かれているし、壁には『極派八炎轟』や『功・戒・胆・義』と書かれた紙が貼ら
れている。多分、これらは全部純平の物だろう。
 「何で、じゅんじゅんの物が美沙ちゃんの部屋に置いてあるの?」
 美沙の方へ振り向いて聞いたが、答えたのは颯樹だった。
 「もともとアイツの部屋だったからだよ」
 美沙が「うん」と頷く。エミーも再び納得して頷いた。カラカラと笑う。
 「そっかあ。そうだよね〜。格闘グッズとぬいぐるみの両方が美沙ちゃんのモノのわけ
ないもんねえ」
 「アハハ」と笑うエミーだったが、他二人は笑わなかった。エミーが二人の様子に気づ
いて笑うのを途中で止める。
 「・・・・・両方ともアイツのだ」
 目を閉じて苦い顔をしながら、ボソリと颯樹がつぶやいた。エミーは慌てて颯樹の方に
振り返る。
 「え、じゅんじゅんってそんな趣味があったのっ?」
 「・・・・・そんなにおかしいかな?」
 颯樹とは対照的に、美沙が首を横にかしげている。颯樹は美沙に構わず乾いた微笑を浮
かべながら、ゆっくりと首を横に振った。
 「・・・・・アイツは可愛い物が大好きなんだよ。・・・あの顔に似合わず」
 「颯樹お姉ちゃん、お兄ちゃんの悪口言わないでよ」
 むくれる美沙をよそに、颯樹とエミーはゆっくりとため息をついた。



 ブラスターは大きくふき飛ばされた。商品棚に勢いよく背中を打ちつけ、床に倒れる。
しかしすぐによろめきながらも起き上がり、片膝を床につけ、片足を立てる。
 「どうだ、オレたちは強いだろ?」
 少し離れたところからスパイクが自慢げに言った。ロッサもスパイクの横で両手を腰に
当てて笑う。
 ブラスターは立ち上がると、首を大きく回した。手首を回し、足首を回す。
 「久しぶりにマトモな格闘家と戦うもんでな。どうも調子がでないんだよ」
 改めて構え、意識を兄弟へとさらに集中する。
 「これからが本番だ!」
 ブラスターは兄弟へと殴りかかった。兄弟もそれぞれ構える。
 (兄の方はボクシング系、弟の方はテコンドー系か)
 兄弟はブラスターを挟むように移動する。ブラスターはまずスパイクの方へ狙いを定め
る。
 (ボクサーには足元の攻撃だ!)
 スパイクに近づいて膝上を狙った蹴りを繰り出した。だが、スパイクは素早いフットワ
ークでかわす。かわし際に放たれたスパイクの連続ジャブがブラスターの顔面を攻撃する。
そしてひるんだブラスターの隙をついて、ロッサの飛び蹴りがブラスターの背中にヒット
した。たまらずブラスターは前方に倒れこむ。
 「どうした、異次元戦士? 噂ほどでも無いな。まあ、オレたち兄弟が強すぎるのか」
 スパイクがブラスターを挑発する。ブラスターは再び立ち上がって構える。
 (くそったれ、マジで頭に来たぜ!)
 そう心の中で思っている間にも兄弟の攻撃が続く。
 「シュナイダァァッ、キィィィック!」
 ロッサの強烈な飛び蹴りをすんでのところで、転がってかわす。外れたロッサの蹴りが
背後にあった棚を粉々に粉砕した。
 (調子こいてんじゃねえぞ!)
 ブラスターの中で何かがはじけた。スコープが赤く光り、床を力強く蹴って一直線にス
パイクへと向かっていった。スパイクのけん制のジャブを防御せず顔面に受けながら、強
引に接近する。
 「なにっ?」
 驚くスパイクの片腕を掴みあげ、強引に投げに持っていく。だが、やはりそこでロッサ
がブラスターの足を払って倒し、兄をフォローする。ブラスターは転がって兄弟から距離
を取ると、その反動で飛び上がって立つ。
 「随分とイラだってるようだな。所詮その程度か。なあ、弟よ」
 「兄貴、コイツの次はどいつにする?」
 そんな兄弟の挑発にブラスターはもう反応しなかった。構えを取らずに床を強く蹴る。
 兄弟はブラスターの行動に反応して構えようとしたが、ブラスターはそれよりも速かっ
た。爆発的な加速力で瞬時にロッサに接近すると、両腕から半月型の刃を出し、ロッサに
斬りつける。なんとかかわしたロッサだったが、次の瞬間にはブラスターの片肘が顔面に
打ちつけられていた。まともに受けて倒れたロッサから視線を外しつつ、スパイクによる
後ろからのパンチを瞬時にかわして、側面から喉・顔面・側頭部へと手刀が入る。スパイ
クもたまらずよろめいて倒れた。
 「兄貴! コイツさっきとちげえよっ」
 「・・・くっ、しかもえぐい攻撃をしてきやがるぜ、弟よ」
 不気味に黙って立つブラスターを前にして兄弟は立ち上がると、改めて構え直した。
 (・・・・俺は何をしていたんだ?)
 ブラスターはふと我に返った。スコープの赤い光が消え、怒りで数秒間我を忘れていた
ことに気づくと、ゆっくりと息を整えることに集中する。腕の刃が引っ込んで収まった。
 (落ち着け、落ち着くんだ。力を抜いて心を水のように、体は風のように・・・)
 「今のはなかなかだが、二人がかりではさすがに勝てまい。おとなしく降参すれば命ま
ではとらんぞ」
 ブラスターはスパイクの言葉をよそに軽く手首と足首を回し、拳を握ったり開いたりす
る。兄弟はブラスターの様子の違いに気づいて言葉を止めた。
 「確かに二対一はつらいな。なら、俺も相棒を呼ぶか」
 するとブラスターの左手のクリスタルが青く輝いた。間もなくロッサの居る位置からす
ぐ傍の壁をぶち破って、ブラスターの愛機グランランサーが猛スピードで飛び込んできた。
 グランランサーは驚いているロッサに構わず体当たりをしかける。ロッサは大きく吹き
飛ばされ、店内の離れた壁に叩きつけられた。
 「弟よ!?」
 ブラスターは高速で駆け、隙を見せたスパイクに接近する。踏み込みながら腰を捻り、
その捻った腰を元に戻す勢いと共に全力で前足側の拳をスパイクのわき腹に横から打ち込
む。
 「くはっ」
 スパイクの口からは息が洩れ、体は横にくの字に曲がり一瞬動きが止まった。ブラスタ
ーは動きを少しも止めずに次の攻撃に移る。先の攻撃で捻った腰をまた元に戻しつつ、フ
ック気味に反対の拳をスパイクの頬を殴りつける。そのまま腰を強く捻り、後ろの足を少
しだけ前に出しながら姿勢を低くし、捻った腰を元に戻す。その際、殴りつけた方の肘を
勢いよくスパイクのみぞおちに突き刺した。その衝撃が二人の体に響く。
 数秒とかからずに今の三連撃を受けたスパイクは、最後の攻撃の衝撃で後方に吹き飛ん
だ。幾つかの商品棚を巻き込んで床に倒れ、腹部を押さえて立ち上がれそうに無い。
 (・・・炎轟六式・草薙の剣)
 実戦で使うのは今回が初めてだったが上手くいったようだ。やはり一ヶ月の修行は無駄
ではなかったと再確認したブラスターは、視線をスパイクの方から遠くにいるはずのロッ
サに移した。が、予想以上にロッサの行動は素早く、もうすぐ近くまで距離を詰めていた。
 「おらあっ」
 ロッサの回し蹴りが唸りをあげて襲う。だがそこにはもうブラスターの姿は無かった。
 「なにっ?」
 蹴りが空を裂く中、ブラスターは瞬時にロッサの背後に移動していた。それを感覚で知
ったロッサは一撃受けることを覚悟する・・・が、その一撃は来ず、代わりに首に何かが
巻きついた。それがブラスターの腕だと気づいた瞬間には、ロッサの負けが決定づけられ
ていた。
 「うりゃああっ!」
 ブラスターはロッサの首を締め上げた。なんとか振りほどこうともがくロッサだが、ブ
ラスターはさらに締め上げつつ、もがくこともできないように床に倒れ、両足でロッサの
両足にからませる。
 ロッサのスーツの首部分がメキメキと悲鳴を上げる中、ブラスターは尚も腕に力を込め
続ける。
 「ぐ・だ・ば・れ・や・あ〜!」
 やがて、ロッサの動きが止まり、うめき声も上げなくなった。ブラスターはそれを確認
したあと腕を放し、立ち上がると、倒れたまま微動だにしないロッサを観察する。どうや
ら気を失っているらしい。
 次にスパイクの居る方向へと向き直った。スパイクはすでに立ち上がっていて、ゆっく
りとこちらへ近づいてくる。ある程度近づくと、スパイクはボクサースタイルを取り、ブ
ラスターも構える。沈黙の中、じりじりと距離が縮まり、お互いがあと一歩踏み込めば攻
撃が届くところまで近づくと、スパイクの足が止まった。さっきまでと違い、スパイクは
リズムを取って動き回ろうとはしない。
 しばしの間の後、スパイクが動いた。ブラスターへ一直線に近寄り、右の拳を顔面へと
打ち出す。が、顔面に当たるよりも少し早く、ブラスターは片手で受け流し、代わりにも
う片方の手でショートアッパーを繰り出す。しかし、スパイクも上体を後ろにそらしてそ
れをかわした。
 そんな攻防を何度か繰り広げたあと、スパイクが大振りの右ストレートをブラスターめ
がけて放った。ブラスターの先ほどの攻撃で痛めた右のわき腹が攻防に耐えられなくなっ
たのだ。
 もちろんブラスターはそれを見逃さず、左手で体の内側へとスパイクの右腕を払う。体
勢を崩し、ガラ空きとなったスパイクのみぞおちに右拳を真っ直ぐ突き刺した。息が漏れ、
動きが完全に止まったスパイクの首根っこを問答無用で右腕の脇で挟みこむと、左手で自
分の右腕を押さえつつ、残る力を振り絞って思いっきりスパイクを空中に持ち上げた。ス
パイクの体は逆さまになり、両足と体が天井へと一直線になる。
 「ぬありゃあっ!」
 ブラスターはスパイクを持ち上げたまま少し飛び上がると、自分の両足を宙に投げ出し、
後ろに倒れこむ形でスパイクの頭を床に叩きつけた。凄まじい衝撃と共に床が砕け、破片
が周囲に飛び散る。スパイクは床に沈むようにうつ伏せに倒れ、動かなくなった。
 同時にブラスターも床に座った姿勢で、息を切らして戦闘態勢を解く。それでも横目で
スパイクやロッサを見ながら、警戒は怠らない。
 しばらくの後、スパイクがうつ伏せの状態からゆっくりと動き始めた。なんとかうつ伏
せからあお向けになり、首だけをブラスターへ向ける。
 「・・・オレたちの、負けだ」
 ブラスターは横目で見ているだけで、言葉は返さなかった。スパイクは構わず続ける。
 「ナイトメアは大きな計画を推し進めているようだ。様々な世界で着々とそのための準
備が行われていると聞いた。気をつけることだな」
 「いいのか、そんなことをバラして?」
 スパイクは枯れた声で軽く笑った。
 「お前たちを倒せなかった以上、オレたちはもう用済みだ。また新しい仕事を探すまで
だ・・・・・と言いたいところだが」
 スパイクは一度言葉を切った。少し間を置いて再び話す。
 「異次元警察からの処罰次第だな」
 スパイクの言葉にブラスターは黙り込んだ。スパイクが笑う。
 「いいさ。刺客稼業を始めた時から覚悟はしていたんだ」
 目を覚ましたロッサが、ふらつきながら兄の側に歩いていく。スパイクは一度ロッサを
確認すると、再びブラスターの方を見る。
 「潔く処罰を受けよう。さあ、連れて行け」
 ブラスターは勢いよく立ち上がった。間もなくグランランサーが現れ、ゆっくりと目の
前に停まる。ブラスターは黙ったままグランランサーにまたがると、ハンドルを握って一
度エンジンを吹かし、発進させた。グランランサーが開けた穴を抜け、兄弟の前から消え
ていく。
 「兄貴・・・・・」
 「・・・・・・なかなか骨がある連中のようだな、異次元戦士っていうのは」
 スパイクは笑みを浮かべて大の字に寝転がった。「あの男とは良いオタク仲間になれそ
うだ」と、スパイクはそう思った。



 「行くよ〜」
 ゼロが自分のバイクを押しながら後ろを振り返る。後方にある颯樹の自宅前で、颯樹と
美沙とエミーの三人が向かい合っていた。
 「じゃあ、またね。美沙ちゃん」
 美沙の頭をぐりぐりと撫でると、エミーは颯樹の方を見た。颯樹と真正面から目が合う。
 「・・・・・負けないもんね」
 「勝手にしろ」
 舌を出すエミーに、颯樹は両手を腰に当ててあきれたように返した。美沙は二人の様子
を不思議そうに、交互に見上げている。
 エミーは最後にもう一度、美沙の頭を撫でると、ゼロの方へ走っていった。ゼロはそれ
を確認すると、バイクを押すのを止めてまたがり、エンジンをかける。エミーはゼロから
ヘルメットを受け取り、後ろに乗る。
 「なんだかなあ・・・」
 走り去っていく二人を見送っていた颯樹が、ぼそっともらした。美沙は腕を振るのをや
めて颯樹の方へ振り返る。
 「イイヒトたちだったね」
 嬉しそうに言う美沙の言葉に少し考え込んだ颯樹だったが、やがてため息まじりにつぶ
やいた。
 「ま、悪いヤツではないみたいだな」
 颯樹は美沙を連れ、自宅へと帰っていった。


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