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230 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』後編
2006.4.24(月)06:42 - じゅんぺい - 8958 hit(s)

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 ブラスターとオマーズは迫り来る大群を待ち受けていた。戦う前なのに汗が身体中を伝
っていく。小山の向こうにはもう数え切れないほどの敵がいるだろう。二人は武器を構え
たまま小山の頂上を睨んでいる。
 小山から数匹のゴブリンが飛び出してきた。小さな人間型で醜い容貌をしたゴブリンた
ちは奇声を発しながら二人に飛び掛っていく。
 二人は勢いよく一歩前に出て、お互い一振りでゴブリンを屠った。返す刃で次のゴブリ
ンを斬る。
 (叩っ切るんじゃない、斬るんだ!)
 自分にそう言い聞かせつつ、ブラスターはひたすら斬ることだけに意識を集中する。オ
マーズも、小山の向こうから次々とあふれ出てくるゴブリンをひたすら斬り伏せる。
 「おらあっ!」
 オマーズがゴブリンの手斧との鍔競りあいに勝ち、ゴブリンを後ろに大きく吹き飛ばす。
ブラスターも横から来るゴブリンを蹴り飛ばし、目の前のゴブリンの胴をなぎ払う。さら
に何匹かを斬ったところで、突然二人の周囲の地面が揺れ始めた。間もなく小山の上から
巨大な怪物が飛び降りてくる。二人の目がその怪物へと向く。怪物を確認したオマーズが
思わず顔をしかめた。
 「ちっ、オーガーか!」
 怪物はオーガーと呼ばれていて、毛むくじゃらの原始人のような姿をした人喰い鬼であ
る。三メートル弱の巨体を誇り、右手には大きな棍棒を持っている。
 オーガーは棍棒をオマーズに振り下ろした。オマーズは横に飛んでなんとか回避したが、
ゴブリンが一匹巻き添えを食らって棍棒に潰される。オーガーは尚もオマーズを狙って近
づく。立ち上がろうとしているオマーズに向かって棍棒を振り回そうとするオーガーに、
ブラスターが後ろから背中に斬りかかった。オーガーは悲鳴を上げて仰け反ったが、深手
を負わせるまでには至らなかったようだ。
 「片足を狙え!」
 オマーズがブラスターに言った。ブラスターは頷く代わりに行動に出る。ブラスターが
オーガーの左足を、オマーズが右足を交差するように駆け抜けながら切り裂く。
 オーガーがさらに高い悲鳴を上げてふらつき、仰向けに倒れた。オマーズはその機を見
逃さずに、目の前に来たオーガーの首に全力で剣を振り下ろし、切断する。
 「仕留めたぞ――」
 喜ぼうとするオマーズの背中をゴブリンが短剣で切りかかった。鎧を裂かれ、肉が少し
切られる。オマーズはうめき声を上げながらも、振り返り様に切りつけてきたゴブリンの
胴を薙いだ。
 ブラスターはオマーズに構っている余裕がなく、何匹かのゴブリンを斬って蹴り飛ばし
たあと、腰の袋からまた赤く小さな結晶を一つ取り出し、勢いよく小山の遠く向こう側に
放り投げた。
 少しの間の後、大爆発が起きてゴブリンたちの悲鳴が聞こえた。これで何十匹かは減ら
せたろう。
 「こうなりゃあ、二人で生きて凱旋してやろうかっ!」
 オマーズは笑みを浮かべながら背中越しにブラスターに叫んだ。そのついでにゴブリン
を一匹斬り裂く。ブラスターも一匹斬り倒しながら、大声で叫んだ。
 「そうだな!!」
 二人は息切れしながらも、小山のすぐ側まで駆けていった。


 ブラスターは呼吸を荒くして小山の方を睨んでいる。刀を地面に差し、杖代わりにして
前傾にもたれかかっている。敵の第一陣はなんとか蹴散らしたようだった。もう間もなく
第二陣が来るだろう。
 魔法の効果はとっくに切れ、ボロボロの鎧を血に染め、凄い形相で周りを見る。自分と
オマーズが倒したゴブリンたちの死体が溢れるように地面に転がっていた。とにかく目に
入る物は全て斬り伏せてきたのだ。自分たちが生きているのが本当に不思議なくらいだっ
た。
 「なあ、そろそろ――」
 ブラスターの口が動きを止めた。自分から少し離れたところで、オマーズが両膝を地面
につけて微動だにしなくなっている。体を何本もの剣で貫かれ、何本もの手斧が突き刺さ
っていた。すでに絶命していたが、それでも剣を握り締め、小山の方を睨んでいる。
 「・・・・・・嘘だろ、おい」
 オマーズは何も答えない。それでもブラスターは声を張り上げた。
 「何やってんだよ、おい! 生きて帰るんだろうがっ!」
 小山の頂上にゴブリンたちがまた姿を現し始めた。ブラスターは少しの間固まっていた
が、やがて口を開いた。
 「・・・・・くそったれがああぁぁっ!!」
 ブラスターは刀を振り上げて、小山の頂上に駆け上っていった。



 アッシュたちは峡谷を抜けて、荒野に出た。方角を確かめながらも、急いで馬を走らせ
る。
 しかし、少しするとアッシュたちは進むのを止めた。アッシュたちは遥か前方を眺める
ように見る。
 「こんな風景は久しぶりに見るなあ」
 感嘆をもらすようにアッシュがつぶやいた。ケルグがアッシュの横で顔を強張らせてい
る。他の者は誰も言葉を発しない。いや、発することができないのだろう。
 異変に気づいて馬車から顔を覗かせたイオルラの視線の遥か先には、本拠地の側まで続
く巨大な石造りの橋が見えた。そして、その橋の前には前日の奇襲部隊の何倍、何十倍も
の妖魔の軍勢が待ち構えているのも見える。まるで広大な分厚い黒い壁のようにも見える
が、あの壁にぶつかれば命は無いだろう。誰もが途方に暮れるような軍勢を前にして、十
人いるかいないかの少数部隊はもはや立ち往生するしかない。しかもここから本拠地へ行
くにはあの橋を渡るしかないのだ。
 本拠地に居る仲間たちが妖魔の大軍に気づいて援軍を送っていたとしても、今からでは
間に合わない。前後を敵に挟まれていては、仲間も救出に来られないだろう。
 絶望の色を顔に浮かび上がらせて、イオルラは馬車を降りた。全員がイオルラに注目す
る。
 「もう我らの負けだ。本拠地から援軍が来るかどうかも分からん。こうなれば、我らの
誇りにかけてもできるだけ敵を道連れにしてやろう」
 そう言ったイオルラの前に、いつの間にかアッシュが馬を降りて近づいてきていた。そ
してイオルラの頬をいきなり平手打ちする。
 「貴女はリーダーなんだろう! 何百、何千という部下が貴女の元で命を懸けて戦って
いるんだろうっ! それなのに貴女が死を受け入れたら、今まで死んでいった戦士たちは
どうなる!?」
 イオルラは平手打ちをされたまま、黙ってうつむいている。他の皆も黙ってアッシュを
見る。アッシュは怒りを露にしながら自分の馬へとゆっくり戻っていく。
 「人々の希望を背負ったものは、目的を達成するまでは何があろうと生き残らねばなら
ないんです。・・・それに、今現在命を懸けて道を切り開いてくれている二人の人間がい
ることを忘れないでください」
 アッシュは再び馬の背にまたがった。ケルグは乗っている馬をアッシュの側に寄せて話
し掛ける。
 「我らが馬車を囲み、一本の矢となって駆け抜けるしかあるまい」
 アッシュは頷いた。そして怒りは消えたが、興奮したような表情で口を開く。
 「奴らはここで反乱軍のリーダーを始末しようと勝負に出てきた。俺たちも勝負をかけ
る時だ」
 「何人生き残ると思う?」
 「さあ、どうだろうな。だが久しぶりに騎士だった頃の血が騒いできたよ」
 「そうか、やはり騎士だったか」
 「ああ、ずいぶんと昔だったような気がするけどな。・・・とにかく、策はある。俺た
ちであの壁に穴を空けるから、そこを思いっきり突っ走るぞ」
 「出来るのか?」
 アッシュは軽く笑って見せた。その笑顔は騎士というより、血気盛んな若者といった笑
顔だった。
 「やるしかない。そうだろ?」
 ケルグも思わず笑ってしまった。そして呆れたようにつぶやく。
 「お主といると、何故か死ぬ気がせんよ」
 アッシュは再び笑った。そしてゼロとメイを呼ぶ。二人が急いでやってくると、アッシ
ュは馬に乗ったまま二人に指示を出した。二人は頷く代わりにすぐ動き出す。ゼロはイオ
ルラが乗っていなかった方の馬車の屋根に登った。そして今度はメイがイオルラの乗って
いた方の馬車の屋根に登る。登る際、イオルラを馬車の中へ誘導した。イオルラは黙って
それに従う。
 その間にもアッシュの指示が残りの兵士たちに出される。馬に乗れず、剣を扱う者はイ
オルラの乗る方の馬車へ。弓を扱う者はもう一つの方の馬車へ乗り込む。そして馬に乗っ
ている兵士たちはアッシュとケルグの後ろにつく。これで準備は整った。
 「いくぞ! 何も考えるな、ただ突っ走れぇっ!!」
 アッシュが叫びながら馬を走らせた。ケルグもすぐ後を追い、馬に乗った兵士たちも後
に続く。さらにその後ろにすぐ馬車が続いた。一番後ろはイオルラの馬車である。
 アッシュたちが動き始めて間もなく、峡谷の方から敵の大群が姿を見せ始めた。数百体
もの妖魔が全力で走って追いかけてくる。だが中には傷を負っている妖魔もいて、動きは
バラバラだ。足止めの効果もあって、こちらにそう早くは追ってこれないだろう。
 「後ろに構うな! とにかく駆け抜けろぉっ!!」
 ケルグが叫ぶ。アッシュたちは一団となり、猛スピードで一直線に前へと進む。
 前で待ち構える敵の軍勢はまったく動かず、アッシュたちを待ち受けた。敵の前衛は槍
を前に突き出して、馬で突っ込んでくるのを防ごうとする。
 (僕たちを舐めると、火傷どころじゃないよ)
 ゼロは馬車の上で目を閉じて精神を集中させる。そしてエルフ語を語り始めた。
 『天空の防壁の役を担いし風の精霊よ、その力を持ってあらゆる敵を退けよ!』
 一瞬、強い風が一団の周りを駆け抜けた。ただそれだけようのにも思えるが、ゼロは強
い疲労感に襲われる。そして新たなエルフ語を語るために精神を集中させた。
 「今度は私の番ですね」
 ゼロの行動を後ろから観察していたメイがつぶやいた。そして前方の妖魔たちへと視線
を移した。目つきが鋭く変わる。
 「私の名はメイ。メイジ(魔法使い)のメイ。生まれた時からメイジとして生きてきた
私と敵対することを後悔するがいい」
 氷のような冷たい声でメイはそう言った。するとメイの額に縦長の目が生まれ、双方の
目と共に妖魔たちを睨みつける。そのままで左手をローブの内側に入れ、紙製のカードを
取り出した。カードには荒々しくも神々しい鎧を着た巨人が描かれている。
 「猛き戦神!」
 今度は右手をローブの内側に入れ、先ほどのとは違い、空を飛びながら大きく口を開け
ている竜が描かれたカードを取り出した。 
 「司竜の咆撃!」
 片手に1枚ずつカードを持ち、そのまま両手を重ね合わせた。つまり、カードとカード
を合わせる形になる。途端に両手が輝き始め、手と手を開くと、その間にはカードの代わ
りに大きな光球が発生した。光球は直視するのがつらいほど光り輝く。
 「愚かなる者どもよ、滅するがいい!!」
 メイは光球を放り投げた。光球は高速で飛んでいき、敵の軍勢のど真ん中に落ちる。す
ると間もなく、そこを支点に大爆発が起きた。何十・何百という敵が爆発で消滅し、吹き
飛ぶ。
 『天空を駆ける風の精霊よ、我が武器となりて敵を撃て!!』
 ゼロの腕から一本の巨大な竜巻が生まれ、凄まじい勢いで敵の軍勢へと伸びていく。竜
巻は妖魔たちの一部分を飲み込み、遥か空中に放り投げ、地面に激突させる。
 「赤砂の風、暴魔の槍!」
 メイの両手から扇状に強力な振動波が発せられる。それに触れた妖魔たちは内臓器官を
壊され、血を吐いて倒れていく。
 いよいよアッシュを先頭とした一団は敵の軍勢内に突入した。前もって進行方向の敵を
ゼロとメイの魔法が退けているので、敵は為すすべも無く突入されたのだ。あちこちから
同士討ちを無視した大量の矢が一団へと放たれるが、矢が一団に近づくと壁にはじかれた
ように跳ね返される。それは剣や槍も同様で、見えない壁が刃を跳ね除ける。一団の前の
馬車の中から弓を持った兵士が横穴を空け、そこから弓矢を出して、進行を防ごうとする
妖魔たちを狙う。矢を次々と放ち、矢はアッシュたちの上や横を駆け抜け、妖魔たちを貫
いていく。
 アッシュやケルグたちも、片方の手で馬から振り落とされないよう手綱を強く握り締め、
もう片方の手で剣を振り回し、近づく敵を追い払う。
 敵陣の真ん中ぐらいまで差し掛かると、前方から大きな喚声が聞こえてきた。アッシュ
が視線を遠く前方に向ける。そしてニヤリと笑った。
 「やっと来たか」
 橋の方からレジスタンスの軍勢が大軍でやってきた。妖魔たちは人間たちの増援の対応
と目の前の標的とで混乱し、陣形が崩れる。
 敵の軍勢内をひたすら駆け抜け、とうとう抜け出たところでアッシュは馬を止めた。ケ
ルグたちも馬を止める。馬車だけが止まらずにその横を駆け抜けていった。だが、馬に乗
っていた一人の兵士が馬車の後を追おうとする。それをアッシュが剣でガードして止めた。
その兵士が敵の方へ向き直るのを確認してから、馬から降りて、間もなく妖魔たちとぶつ
かる。ケルグたちも馬を降り、できるだけ敵を引きつけようと戦う。
 敵の後衛は槍ではなく、主に剣を所持しているため、距離は互角だ。アッシュは一振り
で確実に一匹を倒す。ケルグたちも負けじと戦うが、いかんせん敵の数が多すぎる。一人、
二人とやられ、たまらず後退しながら戦う。
 「我が命をそう簡単に取れると思うなよ!!」
 叫びながらケルグは目の前のゴブリンを一匹斬り倒した。しかし、不意に横から敵の攻
撃を喰らって鎧が切り裂かれる。少しわき腹をやられているかもしれなかったが、ケルグ
は構わずその敵の右腕を肩から切り裂いた。右腕を切断された敵は倒れてもがく。そして
すぐに違う敵と剣を交え始めた。
 アッシュの周りには敵の死体が溢れていた。アッシュはじりじりと橋の方へ後退しなが
らも確実に敵を倒していく。そして間もなくレジスタンスの軍勢が合流してきた。喚声と
馬の蹄の音と鎧の擦れ合う音、そして剣を交える音が轟音となって周りを駆け巡る。
 アッシュは前方の敵から違う方に注意を向けた。辺りを見て、生き残っていたイオルラ
の護衛の兵士を見つける。先ほど、馬車の後を追おうとした奴である。アッシュは近づく。                       
 その男はアッシュに気づくと首を横に振った。
 「私は大丈夫です、構わず攻めてください!」
 しかし、アッシュは黙って男の目を見続けた。男が怪訝な顔をする。
 「何をしているんですか!? 戦闘中ですよっ!」
 「もういい。正体を現せ!」
 「何を言ってるんです! 気は確かですか!?」
 「俺を舐めるな。もう分かってるんだよ」
 男は次の瞬間、顔の造形が崩れるほどに不気味な笑顔を作った。そして身体が影となり、
溶けるように地面へと崩れていく。ある程度崩れると、今度は違う形をとり始める。間も
なく影はアッシュの背を少し越えるぐらいの大きな死神となって姿を現した。黒いローブ
に身を包み、下半身が無く宙に浮いている。右手には巨大な鎌を持ち、ローブからわずか
に見える顔は骸骨で、額には緑色に光る小さな宝石が埋めこまれていた。
 周りにいた人間の戦士たちが死神に対して剣を構えるが、アッシュはそれを制した。
 「こいつは俺の担当だ! 構わず攻め込め!!」
 戦士たちは了解して敵の軍勢へと攻め込む。アッシュと死神の周りには大きな空間が空
いた。
 「よくも邪魔してくれおったな!」
 骸骨の口がカタカタと動くが、声は容姿からは不釣合いな老婆の声だった。
 「この罪、死を持って償うがいいっ!!」
 死神が大きな鎌を振りかぶった。アッシュも剣を構える。そこへ遠くから大きな叫び声
が聞こえてきた。普通なら周囲の音でかき消されるのだが、アッシュは確実に聞き取って
いた。その声がした方へ視線を移す。
 「隊長ぉぉぉっ!!」
 顔を血だらけにしたブラスターが馬に乗って敵陣を駆け抜け、こちらへと向かってきて
いた。顔でアッシュに何か合図を送る。アッシュは頷くと、左手で剣を持ち、右手を死神
へと向けた。
 「ハアッ!」
 見えない衝撃が死神を襲った。死神が横から何かに衝突されたように大きく吹き飛ぶ。
死神は橋下のガケへと突き落とされた。その後をブラスターが追い、ガケ近くになると馬
から跳んで死神と一緒にガケ下へと落ちていく。そして間もなくガケ下の方から青い光が
放たれた。
 アッシュはそれを確認すると直ぐ敵の軍勢へと体を向けた。未だ戦闘は続いている。
 「多少のアフターフォローは許されるよな」
 アッシュは誰にともなくつぶやくと、地面を力強く蹴って駆けはじめた。鎧の重さを感
じさせないほどの速さで敵の元へと駆け寄ると、大きく横一文字になぎ払う。アッシュの
大剣がゴブリン2匹の胴を同時に切り裂く。アッシュはさらに敵の中へと潜り込んでいっ
た。手当たり次第に敵を斬っていくと、その内、しっかりとした作りの鎧を着た人間が一
人、アッシュの前に立ちふさがった。顔は邪悪で歪み、鎧は人間の血で汚れている。魂を
妖魔に売った人間だ。その男はゆっくり口を開く。
 「なかなかの腕だな。どこの国で教わった?」
 アッシュは改めて剣を構えなおした。そして答える。
 「我が師は風、水、火、天、大地」
 男は「我流か」と軽く笑うと、侮蔑の笑みをアッシュに向けた。そしてアッシュへと向
かっていく。アッシュの方はその場で男を待ち受けた。そして一瞬の交錯の後に、男が後
ろに倒れていく。アッシュはいつの間にか剣を振りぬいた状態でいる。男は胴から真っ二
つにされていた。すでに絶命している。
 「だから言ったろう。我が師は『自然そのもの』だ。・・・それに」
 アッシュはチラリと男の方を見る。
 「俺を倒したきゃ、魔王でもつれて来い」
 そして改めて周囲を見た。戦況はこちらの方が圧倒的に有利になっているようだ。敵に
追撃をかける戦士たちを背に、アッシュは軽くため息をついた。
 「早く帰ってタバコ吸いたいなあ・・・」


 橋が遥か上に見えるガケ下では、ブラスターが死神と距離を開けて対峙していた。ブラ
ックメタリックに輝くコンバットスーツを着て、固い地面を強く踏みしめている。
 「レジスタンスのリーダーは殺せずとも、今回は貴様を殺せただけで良しとしよう」
 死神の口から老婆の笑い声が発せられる。笑い声は不気味に辺りに響き渡った。だが、
ブラスターは黙ったままで死神の方を見ている。
 「地獄への渡し賃になるよう名乗っておいてやろうかの。わしの名は死霊大元帥。ザ・
ナイトメア三大元帥の内の一人よ!」
 ブラスターは相変わらず黙ったままだった。それを見て、死霊大元帥が含み笑いを漏ら
す。
 「どうした、怖くて声も出せまいか? やはり我らの敵は聖剣を持つ男だけじゃのう」
 「・・・・・死んだよ」
 ボソリとブラスターが言葉を漏らした。聞き取れなかったのか、死神が怪訝そうな顔を
する。
 「何じゃと?」
 「死んじまったんだよ。信念を貫き通した1人の戦士がな!」
 「ふざけたことを。シンネンなど、人間のたわいもない戯言よ」
 ブラスターは一度両手の拳を強く握り締めた。そして少し力を抜いて、両足の膝をある
程度曲げて完全な戦闘態勢に入った。
 「なら見せてやるよ。人間の信念の強さをなあっ!!」
 「バカめ、地獄へ落ちろ!」
 途端に周囲が薄暗くなった。ガケの上から聞こえていた戦闘中の音が一切聞こえなくな
る。ブラスターが全力で殴りかかろうとすると、死神は大鎌を両手で回転させながら、何
事かつぶやき始めた。すると、ブラスターの視界が闇に閉ざされ、音も遮断された。おも
わずブラスターの足が止まる。
 (何だ? ・・・・・この感覚は前にも一回・・・・)
 周囲を見回しても、何も見えはしない。いや、少し離れた前方に、何か人影が見えた。
人影は子供のようだが、ここからではよく分からない。凝視していると、近づいてきたわ
けでもないのに、人影が段々とその姿を現す。人影はやはり幼い子供で、うつむいている。
ブラスターの記憶が蘇った。以前にも同じような場面に会わせられたことがあった。
 『・・・・・お兄ちゃん』
 子供はうつむいたままで、か細く言った。中性的な声で性別が分からないが、直接脳に
聞こえてくるような感覚だった。ブラスターは黙ったままその子供を見る。しかし、左手
の中に刀を転送させた。右手で刀の柄を掴み、ゆっくりと鞘から引き抜く。刀の刃と鞘が
擦れあう音が響いた。そして鞘だけを送り返す。
 『・・・・・お兄ちゃん。・・・また殺す気なの?』
 ブラスターはそれ以降動かなかった。子供はうつむいたまま、足を動かしていないのに
少しブラスターへと近づく。
 『・・・殺せないよね。だってお兄ちゃんは愛してくれているんだもんね』
 子供の声は少し笑っているようだった。そしてまた少しブラスターへと近づく。いつの
間にか、子供とブラスターの距離は大分縮まっていた。
 ブラスターは自分の前に刀を下に突き刺した。少しの沈黙の時が流れる。
 『・・・・・お兄ちゃん?』
 子供が不思議そうに尋ねた。しかしブラスターはそれに答えない。代わりに左手の人差
し指と中指を伸ばしてくっつけ、体の前に持っていく。そして大きく息を吸った。
 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!」
 一言一言で宙に斜めの線を引くように指で切り、二言二言で×の字に切る。言い終わる
と同時に目の部分であるスコープが青く光り始め、右手で差してあった刀の柄を握り、勢
いよく引き抜く。そして大きく踏み込んで子供を大上段から斬り伏せた。子供の姿が闇へ
と溶けて消える。
 炎轟八式・心の活法(しんのかっぽう)という技で、ブラスターが上司の一人である真
影から教わった技を自分流にアレンジしたものだ。精神を極限まで集中するための方法で
ある。
 斬るとすぐにブラスターは前方を遠く見た。そして何かを感じ取る。
 「そこかあっ!」
 刀を闇へと投げる。刀は高速で飛んでいき、前方で何かに当たった。すると、闇が一瞬
で消え去り、元の薄暗いガケ下の風景が目に飛び込んできた。刀を投げつけた先には、鎌
を刀ではじかれて飛ばされた死神の姿がある。死神の背後で刀と鎌が地面に勢いよく突き
刺さった。
 「何故だ!? 前はあんなにも苦しんでいた貴様が・・・」
 「レーザ−アーム!」
 とまどう死神を無視して、ブラスターは左手で右腕をなぞる。右腕を青く輝かせて、す
ぐさま地面を蹴った。姿が人の目に映らなくなるほどの高速で死神へと走り寄る。
 「咆えろ、俺のブロぉっ!」
 ほぼ一瞬で距離を詰め、そのまま死神の額に右の拳を叩きつける。拳を支点に死神の額
の方へ爆発が起き、死神は遥か後方へ吹き飛ばされた。同時に額に埋め込まれていた宝石
が砕け散る。
 地面にゆっくり倒れる死神を見もせずに、うつむき加減でブラスターは小さな言葉を吐
いた。
 「・・・・・優希は、とても優しいやつだったんだ。優希は絶対にあんなことを言うわ
けがねえんだよ・・・」
 間もなく周囲が明るくなった。ブラスターのコンバットスーツが青く光る粒子となって
消えていく。ブラスターはゆっくりと死神へと近づいていく。死神のローブはボロボロに
飛び散り、あちこちにヒビが入った顔だけが転がっているような状態だった。
 目の前に立つと、死神の口がゆっくりと動いた。
 「我を解き放った者よ、礼を言おう」
 その声は低く波打つように発せられた。ブラスターは黙って死神の話を聴く。
 「・・・・・何か、聞きたいようだな。答えられるものならば、答えよう」
 ブラスターは少し黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
 「死神なら分かるだろ。死んだ生き物は、いつか生まれ変わるというのは本当なのか?」
 死神は頷こうとしたのか、顔を微妙に震わせた。そしてまたゆっくりと口を動かす。
 「この世界だけの話ならば、その通りだ。・・・さらばだ、異界の者よ」
 死神の顔が粉々に砕け散り、風化して消えていく。ブラスターは黙ってその跡を見つめ
つづけたまま微動だにしなかった。



 レジスタンスの本拠地では、イオルラが自分用に用意されていた部屋の中で、古ぼけた
椅子に座っていた。
 (私は心が未熟すぎた。それを彼らが教えてくれた)
 部屋にたった一つだけある窓の方を見る。牢屋の窓のような物に無理やり手を加えた粗
末なものだが、そこから夕日が落ちていくのが見える。
 アッシュたちは戦いが終った後、軽く挨拶だけしてすぐに立ち去っていった。どうやら
援軍の迅速な手配も、アッシュによるものだったようだ。アッシュに「仲間になってくれ
ないか」と頼むと、アッシュは静かに笑って首を横に振った。「貴女にやるべきことがあ
るように、自分たちにもやるべきことがあるので」と言い残して。
 「行ってしまいましたな」
 いつの間にかケルグが部屋の中に入ってきた。ボロボロの体でヒビの入った石造りの床
を踏みしめながら、ゆっくりとイオルラの横に立つ。
 「本当に不思議な奴らでしたな」
 笑顔で言うケルグにレオルラは頷いた。
 「ああ、本当に不思議な男たちだった。・・・だが、彼らは人の強さ・弱さをよく知っ
ていたような気がする」
 ケルグはゆっくりと頷く。イオルラは再び窓の外を見る。
 (彼らが命がけで教えてくれたことを私は忘れない)
 これからの戦いが正念場となる。だが、絶望だけはするまいと、イオルラは心に強く誓
った。


 「あんたの死は無駄にはならなかったよ」
 寂しく作られた墓の前で、ブラスターは言った。夕日がそろそろ大地の彼方に落ちてい
きそうで、それがさらに一層さびしくさせた。墓の向こうにはイオルラたちが居る本拠地
が小さく見える。ブラスターは高台になっているその場から本拠地を見下ろした。そして
すぐまた墓の方を見る。
 墓は粗末な作りで、ボロボロに欠けた剣が突き立てられていた。その剣の傍らには小さ
な野の花が添えられている。
 「あんたの信念は確かに見届けた。あんたこそ真の戦士だ」
 ブラスターは足を揃えて真っ直ぐ立つと、左手を出して、拝むように目をつぶり、静か
に黙祷した。
 (俺も、命ある限り信念を貫いてみせるよ)
 しばらくの間、ブラスターは一人の戦士に黙祷し続けた。


〔ツリー構成〕

[217] じゅんぺい 2006.4.24(月)05:47 じゅんぺい (382)
・[218] 異次元戦士ブラスター 2006.4.24(月)05:52 じゅんぺい (449)
・[219] 異次元戦士ブラスター第一話『その名は異次元戦士ブラスター』 2006.4.24(月)05:57 じゅんぺい (16846)
・[220] 異次元戦士ブラスター第二話『発端となる帰郷』 2006.4.24(月)06:00 じゅんぺい (18602)
・[221] 異次元戦士ブラスター第三話『戦う覚悟』 2006.4.24(月)06:06 じゅんぺい (23510)
・[222] 異次元戦士ブラスター第四話『背負った自責』 2006.4.24(月)06:10 じゅんぺい (16485)
・[223] 異次元戦士ブラスター第五話『女子高生探偵? の事件簿』 2006.4.24(月)06:16 じゅんぺい (21452)
・[224] 異次元戦士ブラスター第六話『闇夜の想い』 2006.4.24(月)06:25 じゅんぺい (23241)
・[226] 長編:異次元戦士ブラスター第七話『火蓋は切って落とされた!』 2006.4.24(月)06:32 じゅんぺい (28802)
・[227] 長編:異次元戦士ブラスター第八話『破壊する者と守る者』 2006.4.24(月)06:35 じゅんぺい (29081)
・[228] 長編:異次元戦士ブラスター第九話『結びし絆の必殺剣』 2006.4.24(月)06:38 じゅんぺい (32843)
・[229] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』前編 2006.4.24(月)06:40 じゅんぺい (33489)
・[230] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』後編 2006.4.24(月)06:42 じゅんぺい (21373)
・[231] 長編:異次元戦士ブラスター第十一話『解け行く過去』 2006.4.24(月)06:45 じゅんぺい (31695)
・[232] あとがき 2006.4.24(月)06:59 じゅんぺい (1072)
・[238] 長編:異次元戦士ブラスター第十二話『邪念を超える信念』 2008.10.25(土)10:47 じゅんぺい (42895)
・[239] 感想です〜☆ 2008.10.27(月)18:23 CDマンボ (480)
・[240] どもども。 2008.10.30(木)11:00 じゅんぺい (423)
・[233] 短編:異次元戦士ブラスター外伝 2006.4.24(月)07:03 じゅんぺい (235)
・[234] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『勇者とお姫様』 2006.4.24(月)07:05 じゅんぺい (24185)
・[235] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『風と木漏れ日の中で』 2006.4.24(月)07:09 じゅんぺい (23975)
・[236] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』 2006.4.24(月)07:27 じゅんぺい (20527)
・[237] あとがき 2006.4.24(月)07:29 じゅんぺい (303)

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