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23 短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」
2001.12.24(月)19:12 - ゲンキ=M - 23793 hit(s)

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じゅらい亭日記・特走編



「聖夜〜虹と太陽の夜〜」


0.プロローグ

 走って、走って、走って、コケる。
 コケて、起きて、走って、コケる。
 道の途中で迷子を見つけ、親を尋ねて三千里。
 保護者発見、さあ急ぐ。
 今度は老婆だ、荷物を担ぐ。
 走る、走る、走って、コケる。
 慌てて、転んで、泥まみれ。それでも走って、またコケる。

 虹のあわただしい一日が始まった。



1.サンターズ

 じゅらい亭に駆け込むなり、虹は叫んだ。
「光流くんは!?」
「今日は来てないわよ?」
 風舞の即答。虹は落ち込んだ。
 でもすぐに復活した。
「はぁ、よかったぁ……」
 実は待ち合わせの時間に遅刻したのだ。
 しかし相手がまだ来てないのなら、遅刻もなんとなく正当化されるものだ。
「それじゃあ、オレンジジュースください」
 走ってきて喉が渇いたので、飲み物を注文する。
 すぐに風舞はにっこり笑ってカウンターの方に歩いていった。
 それを見送り、ぼんやりする虹。
 ほどなくして注文の品が目の前に置かれ、お礼を言ってから一口啜る。
 レジェが駆け込んできて叫んだ。
「大変です、光流くんが誘拐されました!!」

ぷぱっ

 じゅらい亭に来てから多少のことには驚かなくなった虹も、さすがに吹いた。
「ゆ、誘拐でござるって?」
「そうなんです、青服の男達が突然光流くんを!!」
「そ、それは大変でござる。よし、拙者達も手助けを──みんな!!」
 じゅらいが呼ぶと、看板娘を始めとするじゅらい亭のスタッフ達が奥から現れて、皆で
ドドドと愉快な音を立てながら、店の外に走っていった。
 いきなりの状況にもじゅらい達にもおいてけぼりを喰らった虹は、しばらくぼんやりと
一人でジュースを飲んでいた。
 やがて、ストローの先がズズズッと音を立て始めた頃になると、ようやく我に返る。
「なんでこんな日に!?」
 結局虹も外に駆け出していった。



 光流はロープでがんじ絡めにされて、倉庫か何かの建物の床に転がされていた。
 目の前には数人の男達。皆覆面で顔を隠し、色の青いサンタの衣装を身につけている。
 ついさっき光流は、じゅらい亭に向かう途中、この男たちに拉致されたのだ。
 もちろん神の器を持つ彼にとって、ロープを外すことなど造作も無い。
 だが、光流を縛めているロープはただのロープではないようだった。
 何か特殊な力で封印がかけられている。そうそう簡単には外れそうもない。
 やがて、一人の男が目の前にやって来た。
「やあ、光流くん」
 三十路をとうに過ぎているのに、いまだに銀縁円サングラスと長髪という組み合わせを
やめない男──それは、大魔王ゲンキだった。
「ゲッ、ゲンキさん?!」
「ふっふっふっ、いかな君でも僕がありったけの呪力を込めたロープは解けまい」
「何でゲンキさんが、こんなことするんだぜ?!」
「何で? 何でだって?!」
 仰け反って大仰に驚いてみせながら、ゲンキは顔の高さまで両手を挙げて、十本の指を
わななかせた。
「娘を……娘をとられた父親の気持ちが、君にはわからんのか?!」
「へっ?」
「虹と付き合ってるだろう!!」
「うん」
 思いっきり正直に光流は答えた。というより、何を今更。
 第一ゲンキもこのことは知っていたはずだが?
「たしか夏に皆で海に行く前、俺に『虹のことをよろしく頼む』って……」
「あ、それはそれ。これはこれ」
 と、左右に交互に何かを置く仕草をしつつ、ゲンキ。
「じゃあ、『これ』は一体どういうことだぜ?」
 保護者公認の交際だというのなら、何でこんなことをされなければならないのだろう?
光流が尋ねると、ゲンキはニヤリと笑い、懐から何かを取り出した。
 ノートの端か何かを千切ったような紙キレだ。。しかも、光流にとっても見覚えのある
ものである。
「あっ」
「聖夜にデートの約束とは、素晴らしいね光流くん」
 それは虹との待ち合わせ場所などを決める時に使ったメモだった。たしか最後には虹が
持っていたような気がするが、ということは……。
「あの子が昨日の夜、これを落としてくれて助かった。でなければ、こんな大事を見逃し
てしまうところだったよ」
「大事って、ただデートするだけ……」
「シャラップ!!」
 ゲンキの一喝がピシリと空気を張り詰めさせた。いや、それだけではない。何故か今の
光流の一言で、建物の中の温度が数度下がったようだった。
 それに気付いているのかいないのか、チッチッチッと指を動かしてゲンキは言う。
「いいですか光流くん? 今日は聖夜です。こんな時に、若い男女が二人っきりでデート
なんてしてみなさい。きっと、十時には婚約を交わして、十一時には両親に挨拶を済ませ
て、十二時にはウェディングベルを鳴らして、明日の一時にはハネムーンの真っ最中に違
いありません。ソナコト、ワタシ断ジテユルサナイネー」
 何故か怪しい丑国人口調になって「やれやれ」と頭を振るゲンキ。かなり無茶な理屈を
言っているようだが、彼は本気だ。大魔王ゲンキは、そういう親バカ──もとい、保護者
バカだ。
「俺達、そんなことしないよ。いや、虹ちゃんと結婚したくないとか、そういうことじゃ
なくて……そりゃ虹ちゃんとは……って、そうじゃなくて、ほら俺達まだ法律で結婚でき
る歳じゃないだろ?」
 奇襲には真っ向勝負の力攻め。無茶な理屈には正論で返すべし。そう思って、光流はい
つもの彼には似つかわしくないほど常識的なことを言った。
 でも、常識外れの大魔王に世間一般の常識なんて通用しなかった。
「それは困るなぁ。実はこっそりクリスマスプレゼントに偽装して結納の品とか用意して
あったりするし」
「結婚して欲しいんかい」
 ようやく周りの青サンタ達からツッコミが入った。
 そのツッコミで少しは正気を取り戻したのだろう。ゲンキは懐中時計を取り出して時刻
を確認してから、シュパッと片手を上げる。
「すまんね、これから妻とデートなんだ。僕は先に帰るよ」
「あっ、ずりい!?」
「はっはっはっ、よい聖夜を〜♪」
 と、至極あっさり建物を出て、どこかへと走り去っていくゲンキ。
「俺はぁ〜!?」
 後ろ姿に叫んだ光流の声は届かなかった。
 かわりに、それを聞いた青サンタ達が説明してくれる。
「無駄だ。彼は我々との取り引きに応じたのだ」
「なっ? そういえば、あんたたち誰なんだ?!」
 もう少し早くツッコミましょう。
 それはともかく。
「私達の個人名を明かすことはできない。だが、我々はこの姿でいる時、常に様々な二つ
名で呼ばれている。あるいは『聖夜の破壊者』あるいは『青いヒゲヅラ』……しかし、そ
の実体は!!」

「「「「「とうっ!!」」」」」

 突然、帽子にツノのついている青サンタが腕を掲げたのを合図に、全員が宙に舞った。
服に二本の線が入っているサンタ。よく見ると「ザンタ」と胸に刺繍の入っているサンタ。
その他数名のサンタが、同時に着地して、ポーズを決める。
 彼らは高らかに名乗りを上げた。
「我等!! 幸せカップルバスターズ!! その名もステキ──」


『ロンリーサンターズ!!』


 ズバーン!! ど派手な爆発が起きて、スモークが建物の中に充満した。慌ててサンタ
達が走り回り、窓を開けたりして換気する。
「ゲフッゲフッ。危うく死ぬところだった……」
「あんたたちバカだろ?」
 ムクムクの白ヒゲの下で咳き込むサンタ達の姿に、思わず素でそう言ってしまう光流。
 だが、サンタ達はめげなかった。
「うるさい、この幸せ者め」
「お前に俺達の気持ちがわかってたまるか」
「そうだっ、あんなに可愛い彼女と付き合いやがって」
「ワシなんか七十年も独り者ぢゃあぁぁあぁ〜……!!」
「おっ、落ち着いて長老!? また血圧が上がって倒れてしまわれますよ!!」
 口々に、ひがみとも、ねたみとも、なんだかちょっと可哀相なことともとれる事を言い
始めるサンタ達。特に四番目。光流はちょっと涙した。
「ううっ、みんな頑張れ……」
「ぬぐうっ、本気で涙してやがる……屈辱的だが、ちょっと嬉しい」
「そんな自分達が悲しい」
 光流の涙をキッカケに、またも哀愁の雰囲気を漂わすサンターズ。
 いや、それはそれとして。
「そういえば、取り引きってなんだ?」
「こいつ今頃気付いたぞ」
「天然だ。いいお笑い芸人になれるぞ」
「なりたくないよ」
「むうっ、残念だな」
 いつのまにかちょっと親しくなりつつ、会話を交わす光流とサンターズ。
 そのおかげか、サンターズはいともあっさり答えた。
「ゲンキ氏は、我々の持ちかけた取り引きに応じてくれたのだよ。我々が彼のデートを邪
魔しないかわりに、君の身柄を差し出すというね」
「そんなわけないぜ。ゲンキさんは、そんな取り引きに応じるような人じゃない」
「いやいや、さしもの有名な彼も、我々の力を見せ付けられては、そうするしかなかった
のだよ……」
 クックックッと含み笑いをするサンターズのリーダー(ツノ付き)に、光流は不気味な
ものを覚えた。別に見た目まったく全然大したことのないやつのようだが、たしかに自分
はこうして捕らえられ、ゲンキも彼らに協力していた。ということは、実は力を隠してい
るだけで、とんでもない奴らなのかもしれない。
 警戒する光流に、サンターズは自分達がゲンキに言うことを聞かせるため行った脅迫の
数々を、聞いてもいないのに説明し始める。
「まずはお歳暮作戦だ」
「ウドンに見せかけてロウで作った麺を送ったのだ」
「さしもの魔王も、鍋の中で溶け行くロウ麺の姿には涙したことだろう」
「空腹ならば尚更だ」
「しゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ……!!」
 やっぱりただのバカかもしれない。光流は半信半疑になった。
「そして次に油性マジック大作戦だ」
「奴のサングラスのレンズを黒く塗りつぶしてやったのよ」
「あわれ、奴は気付かずにそれをかけ、壁に正面衝突しおったわ!!」
「もっとも、サンタ六号が大事なアフロをサングラスに喰われて入院中だがな」
「うしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ……!!」
 いや、こいつらバカだ。光流は確信した。
 でも、面白いのでもうちょっと聞いてみる。
「そして極めつけが、プロジェクトO=『大掃除作戦』だった!!」
「我等の優秀な諜報部が大魔王は虫が苦手という情報の入手に成功したのだ」
「ふふふ、彼奴が大掃除する日に合わせて、彼奴の家に一万匹のクモを放してやったわ」
「もっとも、まさか周囲七軒の家が壊滅するとは思わなんだが」
「なまんだぶなまんだぶ〜……」
 決めた、こいつらアホだ。
 光流は立ち上がった。
 何を勘違いしたのか、リーダーが感動の面持ち(ヒゲのせいで表情はわからないけど)
で手を広げ、抱擁態勢に入る。
「おおっ、もしや君も我等の理想に賛同してくれるのでは?」
「しないって」

ズガンッ!!

 下方からの、突き上げるようなキック。それをまともにアゴで受け止めたリーダーサン
タは、昔のマンガみたいな吹っ飛び方をして、床に落ちた。無論気絶。
「なっ、なにをするんだ?!」
「ていっ」
 うろたえてオロオロしていた別のサンタを一撃。
 そして光流は、頭を振った。
「あんたたちは間違っているぜ……」
「なっ、なんだと?!」
「何が間違っているというんだ!!」
 ロープで縛り上げたはずの相手に、立て続けに二人が倒されたことのショックをも忘れ
て怒り心頭の面持ちで詰問してくるサンターズ。
 やれやれと光流は、もう一度頭を振った。
「こんな、こんなことこと間違ってるぜ……だって、そうだろう?!」
 光流の全身から噴き出した猛烈な輝きが、ゲンキの呪力の込められたロープを引き千切
る。たじろぐサンターズに光流は怒りの言葉をぶつけた。


「こんなことをする暇があったら、彼女を探せばいいじゃないか!!」


『ぬうあっ!?』
 サンターズに大ダメージ。彼らもきっと、うすうす「そうなんじゃないかなー」とは気
付きつつ、こんなことを始めてしまった手前、互いに言えずにいたのだろう。そこを光流
に突つかれてしまったのだ。
「皆の邪魔をしたって……俺と虹ちゃんのデートを邪魔したって、あんた達に彼女が出来
るわけじゃないっ!!」
『ぬぐはうあーっ!?』
 痛恨の一撃。
 バタバタと倒れて、自分の胸をかきむしるサンターズ。
 勝った……ほんの少しの虚しさを覚えながらも、光流は確信した。
 だが、まだ早かった。
「わしゃ、わしゃ……」
 ただ一人、立ち上がる者がいた。他のサンタとは違う。自前の白いヒゲを持つ男。光流
は知らないが、彼は今年で七十歳を迎えたロンリーサンターズの長老・サンタ一号。別名
『長老サンタ』である。
 そんな長老サンタが、妄執と憎悪に満ちた目で光流を見据えている。とても老体とは思
えぬ殺気に、思わず光流も身構えた。この老人は、他のサンタ達とは違う。正に「本物」
のニオイがした。
「わしゃ、わしゃのう……」

ブアッ

「くっ……!」
 物理的な圧力すら伴って怨念を乗せた殺意の風が吹き付けてきた。これが、これが人間
の力だというのか? 七十年間彼女がいなかった男は、こうなるというのか?!
「わしゃ……彼女が、欲しかったんじゃぁ〜」
「うわっ!?」
 老人が毒々しい赤色の涙を流した途端、黒い人型の影が光流に襲い掛かってきた。
 怨念が強すぎて実体化したらしい。それは、凄まじい勢いで手刀を放ち、床を抉る。
「くっ、負けられないぜ!!」
 さすがに、こんなものを出されては手加減もしていられない。自分を覆う輝きを手の平
に収束させて、影を迎え撃つ体勢に入る光流。周囲を見ると、起き上がった他のサンター
ズが逃げ出していくのが見えた。自分達がさらって来といて白状だけれど、今はその方が
都合が良い。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 手加減は出来ない。一撃で決めなければ自分が危ないだろう。光流は影の素早い攻撃を
かいくぐり、その懐に飛び込んだ。そして、手の平の光を押し付ける。
「じいちゃん、ごめんよ!!」
 七十年の妄執よ、憎悪よ、消えてなくなれ!!


「ゲイボルグ!!」


 太陽のような輝きを放つ槍の力が、老人の心の闇を消し飛ばした──



2.ニヤリ

 時刻もすっかり夜になり、セブンスムーン全体がお祭り騒ぎで浮かれている。
 老いも若きも、男も女も、それぞれが『聖夜』という特別な夜を、楽しんでいる。
 そして、ここにも過去の聖人には興味無しだが、祭りには好んで参加している男が一人。
「ふむ、今年は久々にテレ砲台でケーキを射出か」
「楽しみね」
 隣の妻が、一緒に祭りの進行表を覗き込みながら言う。
 たしかに楽しみだと頷いてから、ゲンキはふと視線を虚空に彷徨わせた。
 そして、スイッと一方向にそれを定める。
 妻がその視線を追うと、虹が通行人の間を抜けて、こっちに走ってくるところだった。
「お兄ちゃん、光流くんは見なかった!?」
「光流くんか? いや、今日はまだ見てないなぁ」
「そう、じゃあ行くね」
「こらこら、ちょっと待ちなさい」
 さっさと行ってしまおうとした虹の前に腕を差し出して、引き止めるゲンキ。
 妻がすかさず財布を取り出す。
「はい、おこづかい。楽しんできてね」
「あっ、うん。ありがとう」
 にっこり笑って、虹はおこづかいを受け取った。だが、それでもゲンキは腕をどけない。
 妻と虹とが揃って不思議そうな顔をしていると、彼は「ああ」と頷いた。
「そうそう、忘れてた。たしか第一病院の方に光流くんがいたなぁ」
「病院? なんでそんなとこに?」
「んー、友達がケガをしたとか、なんとか」
「そうなんだ……それなら言ってくれれば良かったのに」
「うむ、そういえば『ごめん、後で必ず行く』と虹に言っといてくれと頼まれたような気
がしてきたぞ……」
「お兄ちゃんのせいなの!?」
 犯人が判明した途端、怒り出してしまう虹。親の仇を見るよりも険しい目で睨まれてゲ
ンキは慌てて言い添えた。
「この時間なら、多分まだ病院じゃないかなー」
「行ってくる!!」
 と、こちらに対する言及もそこそこに走り出して行ってしまう虹。フウと息を吐いて、
ニヤリと笑うゲンキ。妻も笑う。
「相変わらず、ヘタなウソ」
「ウソじゃないとも。光流くんは、虹が到着する頃に、病院に『来る』よ」
「そっちじゃないわ」
 また笑う妻の言葉に、ああと頷くゲンキ。すっかりバレてるらしい。
「大丈夫。光流くんにはケガ一つないから」
「それはよかったわ」
「うむ、呪縛をかけても格闘能力からして並じゃないしなぁ」
 あのサンタ達ごときに傷一つ負わすことは出来まい。
 まあ、ここ数年冬の名物になっていた集団が消えるのは寂しい気もするけれど。
「僕と君と、そしてあの子達のデートを邪魔するような輩に、遠慮はいらないよね?」
「ええ、まったくいりませんわ」
 二人とも、ニヤリと笑う、悪人夫婦。
 ちようど、その時、雪が空から舞い降りてきた。



3.エピローグ

 走って、走って、走って、転んでも、起き上がって、また走りだして。
 たくさんの人達に聞いて回って、ようやく、虹はそこに辿り着いた。
「光流くん!!」
「虹ちゃん?」
 いきなり呼びかけられて、ビックリした顔で振り返る光流。
 その胸の中に、虹は勢いよく飛び込んだ。
「うわわわっ!?」
「きゃあっ!?」
 いつもならこの程度どうってことのない光流だが、地面が凍っていたために、さすがに
足を滑らせてしまった。二人そろって、倒れ込む。
「いたたたっ、大丈夫かい、虹ちゃん?」
 打った頭を押さえながら頭だけ持ち上げて光流が見ると、虹はニコニコしながらこっち
に視線を送っていた。
「……頭打った?」
「違うよっ」
 光流の言葉に、おかしそうに笑う虹。
 そして、ここに来るまで、ずっと大事に抱え続けていたものを、光流の胸の上に置く。
「プレゼントだよ。これからも、よろしくね光流くん」
「うん、これからもよろしく、虹ちゃん」
 互いに微笑んで、抱きしめて、病院の大きなツリーの飾り付けが光り輝く下で、ほんの
少しの間、唇を重ねる二人。
 そして自分達が何をしているのかに気が付いて、慌てて起き上がり、距離をとる。
「あっ、ありがと。えっと、まだ、なんだか分からないけど大事にするよ!!」
「う、うん。マフラーと手袋なんだけど、大事にしてくれるなら、嬉しい!」
「はっ、ははははっ。そうかぁ、大事に使うよ」
「うん、ほら光流くんって、いつもちょっと寒そうな格好だからね」
 と、なんだかちょっと白々しい会話を交わす、若者二人。
 頭上から、それを見下ろす視線が一つ。
「やれやれ、やってられないわ」
 ゲンキの手で「邪魔するな」とツリーに紐で結び付けられてしまった、財布だった。
 そんな財布も、通りすがりの雪の精霊を見つけるなり、自力で紐を切って脱出し、追い
かけて行ってしまう。
 街のどこかでは、ゲンキ達が。クレイン達が。京介や火狩が。そして、この場所では光
流と虹が、何年ぶりかで静かな聖夜を過ごそうとしている。
「もうすぐ新年だね」
「うん、お正月も静かだといいね」
 街の中心部から聞こえてくる僅かばかりにの喧騒に耳を傾けつつ、語り合う二人。
 その直後、ちょうどそれは起こった──



チュッドォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオンッ!!!



「あ、爆発」
「じゅらい亭の方だね」
 そして、結局二人は気がつく、思い知る。
「この街で」
「静かな日なんて、あるわけないよね?」
 連続して起こる爆発は、次第にこちらに向かってきているようだった。
 まったく。

『また借金増えちゃうよ?』

 口を揃えてそう言って、二人は笑った。




                                     おわり


〔ツリー構成〕

[22] ゲンキ=M 2001.12.24(月)19:09 ゲンキ=M (143)
・[23] 短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.24(月)19:12 ゲンキ=M (16136)
・[24] あとがき 2001.12.24(月)19:20 ゲンキ=M (856)
・[25] 感想:短編 じゅらい亭日記・特走編「聖夜〜虹と太陽〜」 2001.12.25(火)11:43 藤原眠兎 (433)
・[26] 感想感謝でーす♪ 2001.12.25(火)16:51 ゲンキ=M (366)
・[27] うーん、うらやましい。(ぉ 2001.12.25(火)20:52 クレイン (1259)
・[28] 感想感謝2! 2001.12.26(水)00:32 ゲンキ=M (792)
・[90] 長編 じゅらい亭日記──超・暴走編7「竜女再来」 2002.11.27(水)17:24 ゲンキ (996)
・[91] 超・暴走編7「竜女再来」(1) 2002.11.27(水)17:28 ゲンキ (48213)
・[92] 超・暴走編7「竜女再来」(2) 2002.11.27(水)17:31 ゲンキ (57614)
・[93] 超・暴走編7「竜女再来」(3) 2002.11.27(水)17:34 ゲンキ (53509)
・[94] 超・暴走編7「竜女再来」(あとがき) 2002.11.27(水)17:44 ゲンキ (1083)
・[141] 感想 2003.6.8(日)10:22 藤原 眠兎 (530)
・[168] うぃさっさ 2003.12.24(水)15:02 ゲンキ (111)
・[96] 長編 じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」 2002.12.24(火)15:21 ゲンキ (462)
・[97] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」前編 2002.12.24(火)15:25 ゲンキ (52057)
・[504] 削除
・[98] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」中編 2002.12.24(火)15:28 ゲンキ (47780)
・[99] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」後編 2002.12.24(火)15:30 ゲンキ (34765)
・[100] じゅらい亭日記・遁走編「聖夜−幸せの白い花−」あとがき 2002.12.24(火)15:31 ゲンキ (960)
・[101] お疲れ様です。 2002.12.28(土)11:04 じゅんぺい (256)
・[107] ありがとうございます 2003.2.24(月)14:51 ゲンキ (168)
・[142] 感想 2003.6.8(日)10:29 藤原眠兎 (587)
・[169] なんというか 2003.12.24(水)15:03 ゲンキ (169)
・[122] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:50 ゲンキ (1163)
・[123] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」 2003.3.16(日)17:51 ゲンキ (20724)
・[124] 短編 じゅらい亭日記──超・暴走編8「その日、彼女は」あとがき 2003.3.16(日)17:52 ゲンキ (1714)
・[143] 感想 2003.6.8(日)10:39 藤原 眠兎 (405)
・[170] ばふぉー 2003.12.24(水)15:05 ゲンキ (79)
・[147] 漫画 じゅらまんが大王 2003.6.30(月)23:11 ゲンキ (189)
・[148] 漫画 じゅらまんが大王1 2003.6.30(月)23:18 ゲンキ (263)
・[152] 感想(画像の投稿ってできたんですね!) 2003.7.7(月)02:37 星忍とスタ (322)
・[156] ご感想ありがとうございます 2003.7.7(月)23:42 ゲンキ (261)
・[149] 漫画 じゅらまんが大王2 2003.6.30(月)23:21 ゲンキ (215)
・[153] 感想(おそるベシ、風舞さま) 2003.7.7(月)02:39 星忍とスタ (48)
・[157] ……ひい 2003.7.7(月)23:43 ゲンキ (32)
・[151] 漫画 じゅらまんが大王3 2003.6.30(月)23:23 ゲンキ (278)
・[154] 感想(インパクト) 2003.7.7(月)02:40 星忍とスタ (64)
・[158] すごいですよね 2003.7.7(月)23:44 ゲンキ (40)
・[160] おお、4コマ漫画だ! 2003.7.10(木)07:31 じゅんぺい (252)
・[167] うへへ 2003.12.24(水)15:01 ゲンキ (79)
・[197] 漫画 じゅらまんが大王4 2005.3.30(水)22:59 ゲンキ (302)
・[199] 感想 2005.4.25(月)11:41 CDマンボ (199)
・[200] 感想どうもでーす 2005.4.30(土)09:33 ゲンキ (139)
・[165] 短編 じゅらい亭日記特走編2「聖夜 魔王の祝日」 2003.12.24(水)14:58 ゲンキ (18491)
・[166] あとがき 2003.12.24(水)15:00 ゲンキ (192)
・[171] うわー…(笑) 2003.12.24(水)19:36 じゅ (582)
・[172] お疲れ様でした〜☆ 2003.12.24(水)19:47 CDマンボ (258)
・[173] 何は無くとも 2003.12.24(水)20:18 藤原眠兎 (372)
・[176] 短編 じゅらい亭日記奔走編2【聖夜 ジングルオールザウェイVer.J】改 2003.12.26(金)01:27 ゲンキ (16950)
・[177] あとがき 2003.12.26(金)01:29 ゲンキ (242)
・[178] かんそうー 2003.12.26(金)02:06 藤原眠兎 (345)
・[188] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.22(水)05:36 ゲンキ (817)
・[189] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】 2004.12.24(金)00:55 ゲンキ (49950)
・[190] 短編 じゅらい亭日記・哀走編【聖夜〜彼が余計な知識を仕入れたら〜】あとがき 2004.12.24(金)01:18 ゲンキ (585)
・[191] 感想 2004.12.24(金)23:35 CDマンボ (215)
・[192] 感想ありがとうございます 2004.12.24(金)23:43 ゲンキ (151)
・[201] 短編 じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:50 ゲンキ (272)
・[202] じゅらい亭日記・狂走編<モンスター・ハンターJ> 2005.7.23(土)14:54 ゲンキ (64063)
・[203] 感想〜☆ 2005.7.23(土)23:29 CDマンボ (315)
・[204] 感想 2005.7.24(日)00:46 眠兎 (178)
・[205] 久々じゃのう(笑 2005.7.25(月)04:38 幾弥 (422)
・[206] 感想ありがとうございます 2005.7.25(月)11:30 ゲンキ (1008)

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