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229 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』前編
2006.4.24(月)06:40 - じゅんぺい - 9235 hit(s)

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 次元犯罪組織ザ・ナイトメアの本拠地である黄金宮。その中の謁見の間では、闇色とし
か呼べない色の巨大な目玉の前に、三大幹部である機械大元帥、悪魔大元帥、死霊大元帥
たちが片膝を床につけて頭を下げていた。
 目玉は真っ赤な瞳で三人を見下ろしている。
 『・・・・・思うような功績が上がっておらぬようだな』
 謁見の間に響き渡るような声が目玉から発せられた。その声にはわずかに怒気が含まれ
ている。それに最初に答えたのは機械大元帥だった。二メートル以上の大きな機械の体を、
真っ直ぐ目玉の方へと向ける。
 「いえ、異次元戦士どもに邪魔されることもありますが、全てではありません。今のと
ころ――」
 『言い訳はいい! 計画が遅れていることは変わらぬのだ。過程ではなく、結果が全て
だというのがわからぬのか』
 機械大元帥は再び頭を下げた。弁解する余地が何もない為、無言で受け止める。
 『【アレ】を完成させるまでの間、小さな作戦でもミスは許されんのだ。よいな!』
 目玉はそれだけ言うと、次第に薄れて消えていった。謁見の間が静まり返る。しばらく
して、機械大元帥はイラ立ちながら立ち上がった。怒りのやり場が見つからず、うめくよ
うに声を漏らす。
 「おのれ異次元戦士共め! 必ず皆殺しにしてやるっ!!」
 いきり立つ機械大元帥を見て、死霊大元帥は笑い声を上げた。謁見の間に老婆の声が響
き渡る。機械大元帥が横目で睨みつけても、死霊大元帥は構わず笑う。代わりに、
 「次の作戦はわしが担当じゃ。まあ、自分の体に油でも差しながら黙って見てるんじゃ
な」
 とだけ言うと、さっさと謁見の間を出て行った。間もなく悪魔大元帥も無言で出て行く。
一人残った機械大元帥は右の拳を力任せに床に叩きつけた。甲高い音と共に黄金の破片が
辺りに飛び散る。
 「くそっ、バカにしおって! 生物ごときが機械に勝てると思っているのか!?」
 機械大元帥の声が謁見の間全体に轟いた。



 「イオルラ様。移動の準備が着々と整っておりますぞ」
 イオルラは呼ばれて目を開けた。眠っていたわけではなく、物思いにふけっていただけ
だ。鋭い目で自分を呼ぶ相手を見る。
 「明日には、この街を出発できるかと」
 そう言ったのは、自分・・・というより、『父』の部下であった男である。今は亡き父
の代わりに自分の右腕となって動いてくれている。名はケルバ。歳は四十を過ぎたが、昔、
とある王宮の戦士だったこともあり、戦士としての能力はそこら辺の若い戦士には勝ると
も劣らない。肩まで髪を伸ばし、ある程度生やした髭が彼をよりたくましく見せている。
使い込まれた鎧と腰に差した剣が老年の戦士の風格をかもしだしていた。
 それに比べて自分は、正直戦いには向いていない体つきである。女であることもそうだ
が、生まれ持って華奢な体格が大きな原因だった。貴族の娘としてならば良いことばかり
だが、今の自分の立場では欠点につながる。最近やっと多少剣を扱えるようになったが、
それでもまだまだだ。後ろに小さくまとめた栗色の髪も本当は切ってしまいたかったが、
ケルバがそれを止めた。戦場では邪魔になるだけだというのに。
 「・・・どうされました、イオルラ様?」
 ケルバがイオルラに尋ねた。イオルラは考え事をしているのか、時々、話しているこち
らに目の焦点が合わないときがある。
 大きなテント内に今はこの二人しかいない。他の部下たちは今、移動するための準備に
追われている。ケルバは対妖魔の反乱組織、レジスタンスの現リーダーであるイオルラの
護衛兼右腕である。若干二十四歳のイオルラがリーダーでいられるのも、元リーダーであ
った父の娘であったことと、ケルバの助力のおかげだった。だが、イオルラのカリスマ性
も捨てたものではなく、組織の力は日増しに伸びている。
 尋ねられたイオルラは目の焦点をケルバに戻し、安物の木の椅子に座りなおした。そし
てゆっくりと言う。
 「・・・・・父が死んでもう一年か」
 ケルバは一度ゆっくりと頷いた。
 「早いものです。見事な討ち死にでした」
 「そうだ。父はとても勇敢な人だった」
 そこで二人は沈黙した。テント内が静まりかえり、街の喧騒が聞こえてくる。と、テン
トに一人の男が入ってきた。部下のオマーズだ。父が生きていた頃、レジスタンスに参加
した戦士であり、数々の戦場を渡り歩いてきた猛者である。リーダーがイオルラに代わっ
た今でも、変わらず部下として働いてくれている。
 鎧を擦り鳴らしながらイオルラの近くまで歩いてきて、小さな声で話す。
 「何やら、移動の護衛に加わりたいという者たちがいるのですが」
 イオルラは怪訝な顔でオマーズを見る。
 「確かに護衛の数は心もとないが、素性も分からないような者を護衛にするわけにはい
かん」
 「いや、それが・・・コアネルド卿の紹介状を持ってきたのです」
 そう言って、イオルラにロウで封をされた紙を渡す。受け取ったイオルラは、封を解い
て紙を広げ、目を通す。しばらくすると、紙から目を上げ、立ち上がった。
 「その者たちに会おう。案内しろ」
 「し、しかし、イオルラ様、こんな時にやってくるなんて、怪しいにもほどがあります。
紹介状も偽物の可能性が・・・」
 狼狽するオマーズにイオルラは鋭い目を向けた。
 「間違いなくコアネルド卿の字だ。サインも見慣れている。本物だ」
 止めようとするオマーズを振り払い、イオルラはさっさとケルグを従えてテントの外に
出て行った。オマーズも仕方なくその後を追う。
 テントは街の片隅の広場を使わせてもらっている。街の権力者が喜んで宿を提供してく
れると言ってくれたが、いつ襲撃を受けて迷惑がかかるか分からないため、断ったのだ。
 オマーズに先導され、大きなテントといくつかの小さなテントをすり抜けていくと、数
人の部下の兵士たちが集まっているところにたどり着いた。兵士たちはオマーズとイオル
ラ、そしてケルグに気づくと、軽く頭を下げて後ろに下がった。そこには、三人の男と一
人の女が立っている。イオルラたちに気づくと、四人は左ひざを地面につけ、右足を立て
て頭を下げた。四人のうち、男一人が前で残りの三人がその後ろで横一列に並んでいる態
勢だ。前の男は珍しく銀色の髪をしていて、物腰はとても柔らかい。着ている鎧や背中に
差している大剣はボロボロで年季の入ったものらしいが、イオルラには作法の仕方だけで
騎士の出身であるという直感が働いた。多分間違いないだろう。
 「顔を上げよ」
 イオルラの言葉で、四人は顔を上げた。前の男は人間で、自分と同じかより若く見える
が、その顔つきは自分の部下に劣らない猛者だという風格が漂っている。
 その後ろの三人にも左から順番に目を向ける。一人目はよく見るとハーフ・エルフのよ
うだ。人間と森の妖精エルフの間に生まれた子供は、その二種族の特色が受け継がれる。
人間よりも少し細長い耳と華奢な体が、ハーフ・エルフだという証だ。着ている鎧は革で
作られた軽装のもので、精霊使いや狩人たちが好んで着ているものである。しかし、弓も
何も持っていないようだった。金髪の前髪が軽く目を隠すように伸びているが、見た目か
らして青年のようだ。前の男よりも若いことは確かである。
 二人目は人間の青年だ。黒く短い髪に、強面の顔でこちらの顔を見ている。歳は横の男
と同じくらいだろうか。鎧は革の上に鉄片を縫いこめた、軽装より少し硬いものだ。体の
横に置かれている、布で巻かれた細長い曲剣のような物が気になったが、あえて尋ねはしな
い。
 三人目は自分より少し若く見える人間の女だ。灰色のローブを身にまとい、涼しげな顔
をしている。青紫の髪が綺麗に後ろに流れている。若く見えるがもしかしたら自分よりも
年上かもしれないと思えるほど落ち着いている。
 観察の最中に、前の男が口を開いた。
 「コアネルド卿より派遣された傭兵隊の隊長を務めます、アッシュです。後ろの者たち
は私の部下で、イオルラ様より左から、ゼロ、ブラスター、メイと申します」
 後ろの三人が軽く頭を下げた。イオルラは警戒を怠ることなく観察を続けた。敵意を剥
きだしにしているようには見えないし、こちらに対しての警戒はしていないようだ。まる
で自分たちは迎えられて当然だと言わんばかりに。
 「・・・どういたしますか?」
 ケルグが耳元で尋ねてきた。イオルラは四人の目を見、容姿を見、少しの間考えた。そ
して――
 「お前、この男と手合わせしてみろ」
 イオルラはブラスターにオマーズと戦ってみろと顔で示した。オマーズはすでにやる気
で、イオルラに軽く礼をしてからイオルラの前にさっさと立つ。4人は立ち上がり、ブラ
スター以外は脇にどいた。ブラスターは左手に持った、布に包まれた曲剣のようなものを
使うかと思いきや、それを近くに立っていたイオルラの部下の1人に持たして手ぶらにな
る。
 「おのれ、愚弄する気か!」
 素手対剣で勝負をするのかと、オマーズは腹を立てて怒鳴った。だが、ブラスターは構
わず辺りを見回し、近くの地面に置いてあった、一メートル半ほどの普通の細長い棒を見
つけると、足ですくい上げて宙に放り、左手で持つ。棒で剣と戦う気なのだ。
 「さっき持っていたのは武器ではないのかっ? なぜ使わん!」
 「・・・あれは大切な友人からのもらいものでして。こんなことに使う気はありません」
 左足を前に出して体を斜めにし、棒を左手で軽く持ち、棒の先を地面に置く。その構え
をとりながらブラスターは言った。オマーズはさらに怒りを募らせる。腰に差した剣の柄
に右手を当てて、勢いよく抜いた。
 「地面に這い蹲わせてやる!」
 オマーズはブラスターに斬りかかった。ブラスターは左足をさらに一歩踏み込みつつ、
右足を左斜め前方に動かす。こうすることで、紙一重でオマーズの横に回りこめるのだ。
オマールの剣は宙を斬り、体勢を若干崩す。ブラスターはオマーズの腰の脇を、右足で押
すように蹴りつけてやる。予想以上の力で、さらに横にもたつくオマーズ。ブラスターは
蹴った右足を左足の少し前に置きながら、左手の掌で棒を高速で何度か回し、その勢いで
オマーズに向かって棒を突いた。棒はオマーズの喉の手前で止められる。オマーズはそれ
以上動くことができなかった。
 少ししてブラスターは棒を引くと、先ほどの荷物を持ってもらっていた兵士のところに
行き、棒と交換した。他の三人が脇から戻り、先ほどの場所でひざまずく。ブラスターも
遅れて三人の後ろで倣う。
 アッシュは表情を変えていないイオルラを見て、とぼけるように言う。
 「これで如何ですかな?」
 「・・・分かった。よろしく頼む」
 「イオルラ様!」
 イオルラの返事にオマーズは異を唱えようと近づこうとした。だが、いつの間にか横に
いたケルバが、片腕でそれを制した。代わりにイオルラが口を開く。
 「もしこの者たちがその気ならば、今すぐにでも私を殺せるだろう。腕も信頼できる」
 それに対してオマールがまた異を唱えようとしたが、イオルラとケルバの目がそれを制
した。オマールはしぶしぶ数歩後ろにさがると、振り返っていずこかへ去っていった。そ
れに構わずイオルラは四人を見る。
 「よろしく頼んだぞ」
 四人はイオルラの言葉に再び頭を下げた。



 翌日の朝。テントなどは片付けられ、少し頑丈に手を加えられた荷馬車2台に荷物が詰
め込まれていく。その間、イオルラと何人かのメンバーは移動の最終打ち合わせをしてい
る。
 アッシュはその打ち合わせに参加し、ブラスターは荷場所付近の見回り、ゼロは街で情
報収集、メイは特定の品物の調達に行っている。
 ブラスターは荷馬車を何気なく見つめていた。手を加えられているため、多少の弓矢な
どの攻撃には耐えられるだろう。だが、馬の負担を考え、鉄板を使えないのが痛い。そし
て、今現在いるレジスタンスのメンバーは十数人。自分たちを含めれば二十人になるかな
らいかだ。
 これで敵の大軍の中を切り抜けなければならない。
 (・・・・・これは難しいな)
 大きくため息をついたブラスターの頭に何かが当たった。ブラスターが後ろを振り返る
と、ゼロが片手に一個ずつリンゴを持って側に立っていた。ゼロからリンゴを受け取ると、
ブラスターは早速かじった。新鮮な美味さが口の中に広がる。
 ゼロはブラスターの横に立って一緒に荷馬車の方を見た。小さな声でブラスターに話し
掛ける。
 「やっぱりここのところ、多数の不審者が街をうろついてるってさ」
 「それより、この鎧、着心地がよくないんだけど」
 「仕方ないよ。この世界の戦士なら皆着てるんだもん」
 「お前や隊長は昔から着慣れてるからいいけどさあ、俺なんか着ることさえありえなか
ったんだぞ?」
 両肩をすくめてみせたゼロを見て、ブラスターは困ったように軽く頭をかいた。
 「・・・守り抜けるとおもうか?」
 「さあね、やるしかないんじゃないの? それに保険をかけておいたしね」
 「?」
 ブラスターはゼロに尋ねようとしたが、アッシュがこちらにやってきたので、中断して
そちらを見た。
 「打ち合わせは終わったぞ。もう間もなく出発する」
 アッシュは二人に「ついて来い」と誘うと踵をかえしてまた歩き出した。二人はアッシ
ュの後に従う。
 三人は間もなくイオルラたちの元に着いた。イオルラは部下たちと最後の確認をしてい
たが、ケルバが三人の方に気がつき、場を離れて歩いてきた。周りを見回しながら、
 「オマーズが見当たらないんだが、見かけなかったか?」
 三人が顔を見合わせたあと首を横に振る。ケルバが困惑げに考え込もうとすると、街の
方から丁度オマーズがこちらにやってくるのが目に入った。オマーズは悪びれた風もなく、
小さな紙袋を片手にケルバの前にやってくる。
 「買い物をしていたら遅くなりましたよ。これから準備をしてきます」
 オマーズは横目でブラスターたちを睨むと、とっとと歩いて行った。ケルバが細くため
息をつく。
 「間もなく出発だというのに・・・」
 アッシュはオマーズのもと来た方角を見て少し考え込んだようだったが、それもすぐに
止めた。これからが始まりなのだということを心に留めて、アッシュは二人を従えて自分
たちの持ち物を取りに歩き始めた。



 街を出て街道の一つを進む。あまり整備されていないが、この街道を使えば他の街道よ
り安全に行くことができる。
 2頭の馬をつないだ荷馬車2台を囲むように、イオルラの部下やアッシュたちが馬に乗
って進んでいく。ケルバとアッシュが先頭、部下数人とブラスターが馬車の両脇、残りの
部下たちとゼロが馬車の後方に配置されている。そして後方の馬車の中にはイオルラとメ
イがいた。馬車とは言っても荷馬車であるため、座席などはない。イオルラは顔を強張ら
せながら馬車の床に座っている。手元には鞘に収められた剣が置かれ、イオルラの右手が
常に柄を握っている。一方、メイは目を閉じてゆったりと座り、瞑想していると思えるほ
どにリラックスしていた。馬車に揺られながら、お互い無言で時を過ごす。
 「随分余裕だな」
 ある時、ポツリとイオルラがこぼした。メイはゆっくりと目を開けると、静かに微笑ん
だ。
 「いつも緊張していたのでは体が持ちません。準備は怠りませんが、あとはその時をゆ
っくりと待つだけです」
 イオルラは何も言わず、視線を床に落とした。メイが再び目を閉じて黙ると、あとは荷
馬車の揺れる音と馬の歩く音、そして鎧がこすれる音だけが聞こえてきた。
 (馬はいいな〜おおがみぃ〜♪)
 馬の背に乗りながら、ブラスターは頭の中で色々なことを喋ったり歌ったりしていた。
緊張をほぐすためにやり始めたことだが、今は止まらなくなっている。
 (うなる鉄拳、ひりゅうけん〜、岩をも砕く、パンチ、パンチ、パンチ〜♪・・・)
 ふと、自分が悲しくなって、歌うのを止める。それに、集中力を欠きそうだと気づいて、
ブラスターは思わずため息をついた。そして遠くを見ながら考える。
 (・・・・・護衛か)


 「今回の任務は護衛だ」
 異次元警察本部の次元隊々長室内にて、アッシュはデスクの席に座ったまま部下たちに
向かって言った。三人の部下は横に並んでアッシュの言葉を真剣に聞いている。
 「D7の世界では今、妖魔・・・簡単に言えば悪の勢力とそれに対するレジスタンスと
の戦いが繰り広げられている。そのレジスタンスのリーダーを守るのが今回の任務となる」
 「でも、その世界に関わることは禁止されているんじゃないですか?」
 尋ねたのはゼロだった。異次元警察は多世界間に渡る犯罪を取り締まるのが仕事であり、
その世界内のことには関わらないのが決まりである。アッシュは頷く。
 「もちろんだ。だが、ザ・ナイトメアがレジスタンスのリーダーの命を狙っているとな
れば話は別だ」
 「しつこいな、あいつらも」
 ブラスターは顔をしかめてつぶやいた。アッシュは話を続ける。
 「レジスタンスのリーダーは現在側近たちと共にレジスタンスの本拠地まで向かってい
る。極秘裏に移動中のため少人数だ。・・・そこを大軍で狙われたらアウトだな」
 「何故、ナイトメアがレジスタンスのリーダーを狙うんですか?」
 「悪の勢力が世界を制すれば、ナイトメアも色々と活動がしやすいということだ。手を
組む可能性も否定はできない」
 ゼロの問いにアッシュが答えた。ゼロが視線を床に落として少し考え込んでいると、ブ
ラスターは明るく言った。
 「まあ、今回は隊長とメイ先輩が一緒だし、なんとかなりますよ」
 「それだけ今回の任務が難しいってことだよ」
 ゼロがジト目でブラスターを見た。ブラスターは冷や汗を流しながら動きを止める。横
でメイが静かに笑った。
 「まあ、なんとかするしかないだろう。とにかくリーダーを無事に送り届ければいいん
だ。最悪の場合、俺たちが囮になればいい」
 アッシュが笑いながらブラスターに助け舟を出してやった。そこでメイが口を開く。
 「ところで、急に私たちが行っても護衛として参加させてもらえるのでしょうか?」
 「その点は問題ない。一応『異次元警察』だからな、活用できるコネは幾つかある。そ
れから・・・」
 一度アッシュは話を止めると、片手に持っていたレポートに目をやる。
 「俺の剣と鎧、ブラスターの刀、それと三人のコンバットスーツは今回無しでやる」
 それを聞いた純平とゼロは表情を険しくした。それに構わずアッシュは話を続ける。
 「以上だが、質問は?」
 「俺の刀も駄目なんですか?」
 ブラスターが尋ねた。素手の他にも色々使える武器はあるが、刀が無いと心もとない。
アッシュはまたレポートに目をやってしばらく考える。
 「どうやらこの世界では、刀はとても珍しいものらしい。使うとしたら、本当にいざと
いうときだけだな。それ以外は人の目に触れぬようにしておかなければならないが、それ
でもいいなら大丈夫だろう。・・・・・他は?」
 「精霊魔法はどうですか?」
 今度はゼロが尋ねた。アッシュはレポートに目をやることも無く答える。
 「問題はない。メイも大丈夫だ。二人の力が今回重要な役目を果たすだろう」
 「う〜ん、大軍が相手ならヴォルガン先輩が適任なんですけどねえ」
 ブラスターは宙を見て独り言を言った。それをしっかり聞いていたゼロはため息をつい
た。
 「あのねえ、ヴォルガン先輩は存在自体あの世界じゃ禁止じゃない。・・・気持ちは分
かるけどね」
 「他に質問はあるか?」
 苦笑しながらアッシュは三人に尋ねた。三人は首を横に振る。
 「よし、じゃあ早速準備に入ってくれ」


 (護衛なんて任務は初めてなんだよなあ)
 ブラスターは小さくため息をつき、前方を見やった。今のところ、何も起きる気配はな
い。
 なんとなく右側を見ると、広大な森がすぐ目に入る。今通っている街道はこの森を迂回
するように作られている。森を突っ切れば近道になるのだが、この森はエルフたちの土地
であり、よそ者は入ることが出来ないのだ。
 左側は大きな岩場が連なっていて、殺風景な感じが寂しく伝わってくる。人が通れない
ほどのゴツゴツした大きな岩場はこのまま街道沿いにずっと続いているそうだ。
 ふと気になって、ゼロの方を振り返ってみる。ゼロは慣れた様子で馬に揺られながら遠
くを見ている。こっちに気づくと、片手を軽く上げて挨拶してきた。ブラスターも軽く挨
拶をすると体の向きを元に戻す。
 数時間も馬に乗っているとさすがに堪えるが、何しろ急ぎの旅のため、出来る限り休憩
は取らずに進むことになっている。敵にしてみれば、絶好の機会なのだ。油断はしないに
越したことは無い。
 と、アッシュが不意に馬を止めて岩場の方を見た。ケルグもアッシュに気づいて止まり、
後ろの者たちも止まろうとした時、アッシュが叫んだ。
 「敵だ!!」
 それと横の岩場が崩れだしたのはほぼ同時だった。崩れた岩場は破片を撒き散らして前
方をふさぎ、地面が揺れる。そして崩れた岩場の方から、小さな人間型で醜い顔をした怪
物や、暗褐色の肌の小鬼の姿で背中にコウモリの翼を生やしている怪物たちが、手に手斧
や小槍を持って岩場から無理やり飛び出してくる。先の怪物はこの世界ではゴブリン、後
のはグレムリンと呼ばれている妖魔たちである。
 妖魔たちは奇声を発しながら襲い掛かってくる。その数は数十、いや百体近くいるかも
しれない。
 「慌てるな! 陣形を取れっ!!」
 アッシュの言葉を合図に戦闘は始まった。アッシュを始め、外に出ている者たちは皆、
暴れる馬から強引に降り、剣を持っている者は鞘から抜き、弓を持っている者はイオルラ
の馬車を囲むように移動して矢を用意する。
 「イオルラ様を守れぇ!」
 ケルグが叫ぶ。兵士が放つ矢を背にして、剣を持った者たちが壁となって向かってくる
敵を迎え撃つ。イオルラの居る馬車からメイが降りてきた。それを見たブラスターはメイ
の名を叫ぶと持っていた布に包まれた物をメイに投げる。メイは気づいてそれを受け取る
と、馬車の中から持ってきた、予備の武器として用意されていた剣をブラスターに投げる。
それを左手で受け取ったブラスターは、振り返りざまに右手で剣を鞘から引き抜き、目前
まで来て手斧を振りかぶっていたゴブリンを横一文字に切り裂いた。ゴブリンはうめき声
を上げて地面に倒れる。そして鞘を腰に差しつつ、ゴブリンの落とした手斧を拾い、宙を
飛ぶグレムリンの一匹に狙いを定めた。
 「トマホォォォク・ブゥゥゥメラン!」
 野球のピッチング・フォームの要領で投げた手斧が勢いよく回転していき、狙いどおり
一匹のグレムリンの胸に突き刺さる。グレムリンは悲鳴を上げて地面に落ちた。
 アッシュたちも同時に戦闘を開始していた。手当たり次第にゴブリンやグレムリンたち
を斬って行く。ケルグやオマーズを始めとするイオルラの部下たちも少数とはいえ、選り
すぐりの精鋭たちである。奇襲されても、臆することなく敵と戦っている。
 剣を持つ者たちと弓を持つ者たちの間にいるゼロは、精神を集中させる。そして勢いよ
くしゃがみ込むと右手の掌を地面にある自分の影につける。
 『闇よ、吠えろ!!』
 ゼロの影の全域から、影絵のような黒いナイフが無数に飛び出し、宙を飛ぶグレムリン
たち数匹に突き刺さった。
 詠唱無しで精霊魔法を使えば隙を小さくできるが、疲労度は高くなる。それでもゼロは
構わずに続けて精霊魔法を使う。
 『風よ、切り裂け!』
 掌からCDぐらいの丸い真空の刃を作り出し、ゴブリンたちに投げつけていく。ゴブリ
ンたちは腕や足、首などを切断されて地面に倒れた。
 一方、アッシュは先陣を切って、凄まじい剣捌きでゴブリンたちを絶命させていく。そ
れを横目で見たケルグやオマーズたちが震撼する。
 (何て強さだ!? これほどの剣捌きができるものは大陸でも数人ほどだ。それなのに
無名とは一体・・・?)
 ケルグたちの思考はそこで中断された。思考に気を取られていては満足に戦えないから
だ。目の前のゴブリンを切り伏せて遠くを見る。岩場からはぞくぞくと敵の増援が出てく
る。このままではキリがない。
 「森の中に退却しろ!!」
 アッシュが岩場を睨みながらそう叫んだ。ケルグやオマーズたちは「ここで延々と敵の
相手をするよりは、エルフたちに睨まれる方が良い」と判断して、ゴブリンたちをけん制
しつつ、少しずつ森へと下がっていく。ゴブリンたちも、同族がどんどん殺されていくの
を見て攻めあぐね始めた。しかも森のエルフとは敵対関係にある。森の中まで攻めること
は不可能だ。
 馬車からイオルラが降り、兵士たちに囲まれて森へと逃げ込んだ。ゼロや様子を見てい
たメイもそれを確認してから森へ入る。最後に残っていたアッシュ、ケルグ、オマーズ、
そしてブラスターが、近づくゴブリンたちを切り払いながら森へと飛び込む。少し奥まで
進むと、ゴブリンたちはもう追っては来なかった。
 (前途多難だな・・・)
 茂みの中で額の汗を拭いながら、ブラスターは深くため息をついた。
 


 森の中をしばらく進んだところに、森のエルフが度々使用していたであろうキャンプ地
があった。そこを借りてイオルラたちは一夜ここで休むことになった。イオルラは小さな
岩に腰掛けながら、ゆっくりと辺りを見回す。
 ケルグとオマーズは野営の準備を兵士たちに指示している。アッシュとゼロは事前に森
のエルフとコンタクトを取っていたらしく、何かを交渉しに森の奥へ出かけていった。ブ
ラスターは兵士たちと一緒に焚き木を集めたり、テント(数人のエルフが来て貸してくれ
た)を広げたりしている。メイは自分の側で、また瞑想するように目を閉じている。あま
りにも静かなので眠っている錯覚すら覚える。
 荷物をあらかた馬車の中に残してきてしまったため、野営のための細かな道具、そして
食料はエルフから分けてもらった。これもゼロたちが事前にもしものことを考えて頼んで
あったらしい。
 幾つかのテントが張られ、野営の準備が進んだ頃、アッシュとゼロが戻ってきた。ケル
グやオマーズが2人に気がつくと近づいていく。ブラスターやメイも同じで、最後にイオ
ルラもアッシュたちの元へ行く。
 「近道を教えてもらいました。それから馬車2台と馬数頭も分けてくれるそうです」
 アッシュが皆に説明した。ケルグが「う〜む」と唸る。
 「何故そこまでしてくれるのだろうか。エルフは今まで中立を保ってきたはずだが」
 「元々、エルフたちは妖魔たちのことを嫌っていましたからね。そこへ人間がレジスタ
ンスを作り、対抗し始めた。この森のエルフたちもいずれは協力するつもりだったそうで
す。そしてこのゼロが橋渡しとして説得してくれました」
 アッシュがゼロの肩を軽く叩く。ゼロは少し照れくさそうに人間よりも少し細長い耳を
掻いた。
 「それよりも問題なのは・・・」
 アッシュの顔が険しくなる。イオルラやケルグたちもアッシュの言いたいことに気づい
て頷いた。
 「そう。今日のルートは今日の出発直前に決めた。だからあそこで待ち伏せされていた
ということは、我らの中に内通者がいるということだ。信じたくはないが」
 イオルラは沈痛な面持ちで言った。今日に始まったことではなく、レジスタンスの本拠
地に向けて旅立ってから何度か同じようなことに見舞われてきた。それを警戒して、今日
はルートをギリギリまで決めなかったのだ。しかし、それすらも敵に察知されている。明
らかにこちらの情報が漏れていた。
 「それでも行くしかない」
 イオルラは決意を込めてつぶやいた。ケルグやオマーズも頷く。アッシュはその様子を
見届けたあと、軽く笑って見せた。
 「最後までつきあいますよ。だから貴女方は生き抜くことだけを考えてください」
 アッシュの言葉にイオルラは頷いた。アッシュも一度頷くと、自分たちのテントを張る
ために部下を引き連れてキャンプ地の隅へ向かった。
 それを横目で見ていたオマーズは、ある程度アッシュたちと距離が空くと、小さな声で
イオルラにささやく。
 「あいつらは信用できません。銀髪の男の並外れた強さといい、得体の知れない奴ばか
りです。やはり、これからは我らだけで行きましょう」
 イオルラはオマーズを睨みつけた。オマーズはおもわず押し黙ってしまう。
 「さっきの戦闘で何人かの同士を失ってしまった。今は少しでも戦力が欲しいのだ。
・・・それに――」
 イオルラは横目でアッシュたちの方を見る。キャンプ地の隅で、テントを張ろうとして
布にからまってしまったブラスターを見て笑うアッシュたちの姿が目に入った。
 「彼らは信用できる気がする。・・・・・なんとなくだがな」



 夜中、イオルラは目を覚ました。上半身を起こすと片手で毛布を払い、ゆっくりと立ち
上がる。小さなテントの入り口を屈んで出ると、テントの側でケルバが地面に座って眠り
込んでいるのが目に入った。いつでも自分を守れるようにしているらしい。
 その次に焚き火の光に気が付く。少し離れた焚き火の元へ視線を移すと、一人の男が焚
き火の側に座って焚き火の炎を見つめていた。男は口元を片手で押さえて一度咳き込むと、
口元を押さえた掌を軽く見てから、水を切るように何度か手を振る。
 イオルラは焚き火の元へ歩いて行った。近づいてから、男があの四人組の一人であるブ
ラスターという男だということが分かった。側に寄っても、ブラスターは無言で焚き火を
見つめたままだった。
 「見張り、ご苦労」
 言われてブラスターはイオルラの方をゆっくり見た。無愛想なようだが、愛想が良すぎ
るのにも問題がある。イオルラは特に気にはしない。イオルラはそこで、ブラスターの右
手が手元に置かれている布で巻かれた曲剣に伸びていたことに気が付いた。ブラスターは
イオルラの視線に気が付いて、ゆっくり右手を引く。
 「座るぞ」
 一声かけてイオルラは地面に座る。ブラスターはまた焚き火の方へ顔を向けた。
 「お前たちは本当に傭兵なのか? コアネルド卿とどういう関係なんだ?」
 ブラスターはしばらく黙っていた。無視しているのかと思うほど時が経つと、ブラスタ
ーはボソッと答えた。
 「隊長に聞いてください。自分からでは何も言えません」
 「じゃあ、その布に包んである武器は何だ? それならば答えられるだろう」
 「・・・・・友人からもらった貴重な武器です。いざという時にしか使いません」
 「・・・そうか」
 イオルラは話を打ち切った。ブラスターがあまりにも無愛想過ぎて、会話にならないの
だ。
 またしばらく焚き火の燃える音だけが響く。二人は焚き火を見つめつづける。
 「・・・・・不安ですか」
 ボソッとブラスターがつぶやいた。イオルラはその言葉に一瞬戸惑ったが、一度大きく
息を吐き、吸って答える。
 「ああ、怖い。毎日神に祈らないと落ち着かないぐらいだ。・・・・・お前はどの神を
信仰しているんだ? 傭兵だから、幸運の神か?」
 話の雰囲気を変えたいというイオルラの気持ちが伝わったのか伝わっていないのか、ブ
ラスターは少し間を置いて口を開いた。
 「【神仏を尊び、神仏に頼まず】」
 意味が分からず、キョトンとするイオルラの方を初めて見て、ブラスターは話を続けた。
 「僕の尊敬する人たちの内の一人が生前言っていた言葉です。『神を敬い、大切にはす
るが、決して頼りはしない』。僕も神は信仰していません」
 ブラスターはそこで話を終らせると、立ち上がって近くの大木の方へ振り返る。地面に
落ちている小石を1つ拾い上げ、大木の上にある大きな枝に投げた。小石は枝に当たると、
少し鈍い音を上げて地面に落ちた。少しすると、上から人影が落ちてくる。
 「よっと」
 人影、ゼロは上手く地面に着地すると、ブラスターの方へ振り向いた。
 「交代の時間だぞ」
 ブラスターはそう言うと、さっさと自分の寝る場所へ向かって行った。ブラスターの背
中を見つづけるイオルラに気づいたゼロは近づいて小さな声で囁く。
 「彼は女性とのコミニュケーションが苦手でしてね。それに昔、異性との嫌な思い出が
あったらしいんで。まあ、許してやってください」
 ゼロは苦笑しながらブラスターのフォローをする。イオルラはイマイチ釈然としなかっ
たが、ゼロが何気なくブラスターが座っていた地面の一部分を片足で擦るのを見逃さなか
った。だが、何のためにしたのか分からないので、あえて気が付かなかったフリをする。
イオルラはゼロを見て一度頷いてから、
 「私はもう一眠りしてくる。見張りを頼んだぞ」
 と、さっさと自分のテントへと帰っていった。後に残ったゼロは焚き火の前に来て座る。
兵士が一人、見回りをしているのか辺りを歩いているのが視界の隅に入ったが、ゼロは特
に気にせず、睡魔との戦いを始めた。



 翌朝、イオルラたちは森を抜け、エルフに本拠地へ続く道への近道だと言われた峡谷を
進んでいた。荷馬車はまた二台で、片方にイオルラとメイが乗り、残り一台には馬が足り
なくて乗れなかった兵士が数人乗り込んでいる。
 先頭は前日のようにアッシュとケルグ。両脇をオマーズやブラスター、それから兵士数
人。後ろにはゼロと残りの馬に乗った兵士たちが付いている。
 ゼロは精霊魔法を使って、大きく離れた周囲を監視している。何かが近づけば、視界に
入る前に気づくことが出来る便利な魔法だが、他の行動がろくに取れない上に疲労が激し
いという弱点がある。あまり多用したくはない魔法だ。
 ブラスターはさりげなく周りの兵士やオマーズたちを観察する。
 (・・・この中にナイトメアのスパイがいるのか)
 誰を疑っても、確証を持つことができない。もっとも、向こうも馬鹿ではない。そう簡
単にはボロを出さないはずだ。
 (一番怪しいのはオマーズか。もしかしたら偽物にすり替わっている可能性もある。い
や、オマーズと断定するのはまだ早い。とにかく相手はどんな手段も辞さない連中だ、心
してかからないと)
 ブラスターはすでに強張っていた顔をさらに強張らせた。周りの者からも緊張感が漂っ
てくる。誰も口には出さないが、不安と戦っているのだ。峡谷に入って二〜三時間が経っ
たころ、いよいよその時が来た。
 「隊長、後方から敵の大群がやってきますっ!!」
 一番後方に居たゼロが一番先頭に居るアッシュに叫んだ。全員が立ち止まり、表情を険
しくする。全員が直ぐにイオルラの乗る馬車の前に集合した。イオルラとメイも馬車から
降りて出てくる。
 「やはり行動が筒抜けのようだ」
 ケルグが悔しそうにうめく。だがアッシュはこの事態を見透かしていたかのように、気
にせず口を開く。
 「それよりも、この場をどうするかだ。ここからでも本拠地までには結構距離がある。
それに峡谷を出た先は、本拠地側へと続く橋まで辺り一帯は荒野だ。多分待ち伏せている
に違いない。ここであまり人員を裂きたくは無い」
 アッシュは冷静に全員に説明する。他の皆も黙ってそれを聞いていた。少しの沈黙の後
に、ブラスターが突然声を上げた。
 「俺が後方の奴らを1人で足止めします! 隊長たちは少しでも先に行ってください」
 アッシュ、ゼロ、メイの三人を除く全員がブラスターを信じられない顔で見た。しかし
ブラスターは真顔でアッシュを見ている。思わずイオルラが口を開こうするが、それより
も先にアッシュが言葉を発した。
 「分かった。作戦を教えるからその通りにやれ」
 「はい!」
 「一人でだと!? 死ぬ気かっ!」
 オマーズがブラスターに怒鳴る。だがブラスターはそれを無視してアッシュの目を見て
いる。しかし、それまで黙っていたケルグは1度深く息を吐いて吸うと、険しい顔でブラ
スターの肩を叩く。
 「頼むぞ、若いの。我らの命はお主にかかっておる」
 ブラスターは顔だけをケルグに向けた。ケルグの目が悲しそうに揺れている。ブラスタ
ーはゆっくりと一度頷いた。
 オマーズがさらに何か言おうとしたが、押し黙ったままイラ立つように首を強く横に振
った。イオルラも黙ってブラスターの横顔を見る。
 「全員、何か使えそうな物があったら出してくれ」
 アッシュの言葉にブラスターを除く全員が頷く。そして、アッシュがブラスターの前に
立ち、ブラスターの目を見る。ブラスターは決意を固くした表情でアッシュの目を見つめ
返す。
 アッシュが口を開いた。
 「いいか。お前の仕事は敵を足止めすることだ。敵を全滅させることでも、命を捨てる
ことでもない。機を見て、お前はこの場から逃げろ。あとは俺たちがなんとかする」
 いつになくアッシュの口調は優しかった。ブラスターは強く頷いた。そしてアッシュた
ちの前に続々とアイテムが集められる。アッシュはその中から幾つかを選び、そのアイテ
ムの使い方や用法を細かく聞いて少し考えた。そして、ブラスターにだけ聞こえる声で何
かを伝え始めた。さらに集めたアイテムを兵士からもらった小さい袋に入れ、ブラスター
に手渡す。ブラスターは頷きながら、袋を腰に縛り付ける。
 アッシュは伝え終わると、最後に一言、強くはっきりと言った。
 「戦士というのは戦況をよく見ることも要求される。逃げ時を間違うなよ」
 アッシュはブラスターに背を向ける。そして他の者たちに指示を出す。
 「これから我々は全速力で駆け抜ける! 馬に乗れぬ者は馬車の中に移動しろ!! と
にかくこれからはスピードが命を左右することを肝に銘じておけっ!!」
 ケルグたちはもう、アッシュが若いことや途中から参加したということを忘れ、指示に
素直に従い始めた。ケルグとオマーズと兵士数人、そしてアッシュは馬に乗り、他の者は
馬車に乗り込んでいく。それを背後にゼロがブラスターの元へ行き、何かを囁き始めた。
 「光をはじき、色をはじく闇の精霊よ。この者にその力を分け与えよ」
 ゼロが言い終わると、ブラスターが着ていた鎧の色が真っ黒に染まる。
 「これである程度の攻撃は受け止められるよ。でも、無限じゃない。そのことは忘れな
いようにね」
 「ああ」
 お互いの腕を軽く当てた後、ゼロは馬車の方へと向かった。ブラスターは幾つかのアイ
テムを持って後方へと振り返る。かすかだが、敵の軍勢の足音が聞こえてくる。やってく
るのはもうすぐだろう。
 「おい」
 呼ばれてブラスターは顔だけ振り向いた。近くにイオルラが立っている。
 「何故お前はそう簡単に命を懸けることができるんだ。怖くはないのか?」
 イオルラの問いに、ブラスターは冷や汗をかきながらも、初めて笑顔を見せた。
 「・・・ええ、怖いですよ。怖くて怖くて、今にも逃げ出したいくらいです」
 それに対してイオルラが何も言えずにいると、メイが来て馬車へと誘う。イオルラが馬
車へと向かうと、今度はメイがブラスターに言った。
 「貴方はここで死ぬべき人間じゃない。それを忘れないで」
 静かに、そして優しく言うとすぐに馬車へと戻っていく。用意を整えたアッシュたちは、
掛け声を出して馬を走らせた。馬車も間もなく出発する。イオルラの乗る馬車の屋根には
ゼロが乗っていた。
 それらを見送ることなく、ブラスターは敵が来る方向を睨みつけていた。先の方に敵の
先頭の姿が見えはじめる。
 ブラスターはもらったアイテムの内、赤く光る小さな結晶を袋から取り出し、勢いよく
近くの峡谷の壁に投げつけた。結晶は峡谷の壁にぶつかると爆発を起こし、壁を崩れさせ
る。ブラスターの少し前方が小山となって道を大きくふさいだ。イオルラたちを追うには
小山を登らねばならず、一気に押し寄せることができなくなった。ブラスターは小山から
少しずつ出てくる敵を各個撃破しようという作戦なのだ。
 (・・・やれるか?)
 不安が心を覆いつくそうとする。ブラスターは振り払うように首を横に強く振った。
 「いや、やれるかどうかじゃない、やるんだ!」
 自分に言い聞かせるように言うと、持っていた刀の布をほどき、鞘を腰に巻いてあった
紐の中に差した。そして勢いよく刀を抜く。刀身は作りたてのように綺麗で澄み渡ってお
り、日の光を反射して眩しく光る。
 すると、背後に人の気配がした。顔だけ後ろを向くと、いつの間にかオマーズが一人で
歩いて戻ってきている。
 オマーズは黙ってブラスターの横へ行く。そして鞘から剣を引き抜いた。
 「この前のカリを返すまでは、お前を死なせるわけにはいかん」
 それだけ言うと、オマーズは小山の方を睨んだ。ブラスターも何も言わず、小山の方を
睨む。
 敵の大群の足音がすぐ近くまで迫ってきていた。耳の奥まで低く響いてくる。二人の緊
張度は最大に達していた。
 「人間の強さをみせてやる!」
 オマーズが叫ぶ。だが、その声は敵の足音や鳴き声にかき消された。ブラスターだけが
それを聴き、心の中で強く頷いた。
 人間二人対妖魔の大群の戦いが今、始まろうとしていた。


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