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228 長編:異次元戦士ブラスター第九話『結びし絆の必殺剣』
2006.4.24(月)06:38 - じゅんぺい - 9160 hit(s)

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朝早く、静かな森の中に純平は居た。うっすらと霧が辺りを漂い、周りの木々が所々姿
を隠す。その中で純平は上半身裸で地面に座り込んでいた。体中から汗が滝のように流れ、
心臓が大きく波打つ。心臓の動きに合わせて体が振動している感覚を感じつつ、純平は達
成感で心を満たしていた。
 純平の手元には黒くて地味な鞘に収められた刀が置かれており、周辺には分厚い本や雑
誌などが散らばっている。どれも格闘技関連のものだ。しかも、辺りの地面が所々大きく
えぐられていたり、真っ二つに切断された大木が転がっていたりと、異様な雰囲気がただ
よっている。
 心臓の鼓動が段々落ち着いてくる。だが達成感による興奮はまだ収まりそうにない。純
平は時折自分の拳や刀に目をみやる。
 「満足したか?」
 林の影から初老の男が姿を現した。白髪で体はそれほど大きくなく、江戸時代の庶民の
ような格好をしている。だが、目つきは意外と鋭く、背筋は若者と同じか、それ以上にし
っかりしていた。
 男は矢洲圭蔵(やず・けいぞう)という名で、純平は一ヶ月も前から矢洲に刀の指導を
受けている。どういう関わりがあるのかは知らないが、上司であるアッシュに紹介された。
それだけに、刀を扱う腕はかなりのものだ。
 矢洲はしっかりとした足取りで純平のそばにやってきた。周りをゆっくり見回すと軽く
笑う。
 「体術の方の修行も一段落したようだな。もうそろそろ良いだろう」
 矢洲が純平に刀を貸せと、左手を差し出した。純平は軽く頷きながら手元の刀に手を伸
ばし、矢洲に渡す。矢洲は刀を受け取ると、右手で鞘から刀をゆっくり引き抜いた。刀身
を舐めるように見る。刀身は激戦を潜り抜けてきたほどの破損の具合だった。
 「そろそろ一ヶ月か。修行ももう終わりのようだな。家に戻ろう」
 矢洲は刀を鞘にしまうとそれを持ったままとっとと純平に背を向け、もと来た道を戻っ
ていった。純平は矢洲の姿が見えなくなるほどになると、大きく息をついて大の字に寝こ
ろがった。



 縁側では、矢洲が腰をかけて夜空を眺めていた。一言も発さず、身動きもせずにただ眺
めている。遠くからは緩やかに虫の音が聞こえてくる。しばらくすると顔を横に向けて、
座敷に居る純平に声をかけた。
 「こっちへ来なさい」
 純平はゆっくり縁側に向かうと、矢洲に手招きされて縁側の彼の横に腰掛けた。矢洲は
再び夜空を見て、静かに口を開く。
 「お前さんがここへ来てもう一ヶ月になるな」
 「はい」
 純平は頷いた。矢洲も返事を聞くと一度頷く。矢洲は大分前からこの山奥の家に一人で
住んでいるらしい。自分のことはほとんど語らないが、剣術については厳しく、その他に
ついては心優しく面倒をみてもらった。
 しばらくすると、矢洲はゆっくりと口を開いた。
 「最初の頃、お前さんはこう言っておった。『恐怖にかられて大事な人を手にかけた夢
を見て以来、剣を持つと心が乱れる』、『恐怖に負けてしまう自分の心が許せない』と」
 今度は純平から返事は帰ってこなかった。矢洲から少し視線を外し、顔を下に向ける純
平に気づいているのか、矢洲はまた一度頷いた。
 「・・・恐怖というのは、人間にしろ動物にしろ、誰しもが背負っているものだ。恐怖
を感じないから強いというものではない。恐怖を知り、それに屈しないことこそ強いとい
うことなのだよ」
 純平は黙って矢洲の話を聞いていた。矢洲は一呼吸置いて、相変わらず夜空を見たまま
話を続けた。
 「『恐怖を感じぬように』、『恐怖に負けぬように』、それではすでに恐怖に染まって
しまっておる。よいか、恐怖にではなく、その時に自分にとって大切なモノに心を向ける
のだ。さすれば、恐怖に屈しない本当の勇気が見えてこよう」
 そこまで言うと、矢洲は純平の方を向き、静かに笑い、純平の肩を片手で軽く叩いた。
笑いながら純平に話し掛ける。
 「まあ、お前さんも一ヶ月の間にうすうすは感じておるだろう。一ヶ月前にあの男と来
たときよりも一段と良い顔つきになったからな」
 純平は照れ笑いを浮かべて後頭部を軽く掻いた。矢洲も軽く笑うと、思い出したように
話を変えた。
 「あの男、いや、あっしゅ殿は、あのぐらいの年齢にしては老年の剣士並みの風格が備
わっておる。数え切れないほどの死闘を経験しなければ、あれほどにはならんだろう。
・・・不思議な男だ」
 矢洲の話を聞きながら、純平は自分の上司であるアッシュをあまり知らないことに気が
付いた。アッシュが自分の過去を話すことが稀だというのもあるが、隊員たちの間でもあ
まり仲間の過去を詮索しないという暗黙の了解があるせいだろう。実際、純平も仲間内の
数人にしか自分の過去を話していないし、それに全てを話したわけでもない。
 (いつか隊長の過去を知る時が来るんだろうか?)
 「実はな、以前にも一度、あっしゅ殿と会ったことがあってな。その時にあっしゅ殿の
剣捌きを少し見たんだが、あれは実戦の中で練り上げられた実戦のためのものだ。余程の
戦場を渡り歩いてきたのだろう。凄まじい剣士よ」
 矢洲は手元におかれていた地味な色合いの湯のみを手に取り、口元へ持っていった。湯
のみだが、中には酒が入っている。矢洲は酒を一口だけ喉に通すと、湯のみをまた手元に
置いた。
 「まあ、人の過去はあまり詮索せんほうがよいな。とにかく、お前さんは一ヶ月の間、
よく頑張りおった。それだけの腕は身につけておると思ってよい」
 笑みをこぼしながら矢洲は言った。純平は黙って矢洲の話を聞いている。
 「今日はもうゆっくり休みなさい。明日、最後の仕上げをするとしよう」
 純平は矢洲の言葉に小さく頷いた。一ヶ月もの間、異次元警察の仕事から離れてひたす
ら剣技と体術の修行に打ち込んできたが、シドムとの決着はそろそろ着けなければならな
い。そう思うと、闘志とともに不安も心に現れてきた。
 (・・・俺は、勝てるのだろうか?)
 純平はふと夜空を見上げる。星空は純平の不安をよそにただ黙って輝いていた。



 翌日の昼。純平と矢洲の二人は家から少し離れた広場にやってきた。ある程度の距離を
取って向かい合う。お互いの左手には刀が納められた鞘が握られている。
 「よし、おさらいといこう。かかってきなさい」
 矢洲は自分の愛刀を鞘から抜いた。刀の中では特別大きくはないが、小さくもない。だ
が、刀身の精巧さは目を見張るものがある。鞘を腰に差し、刀を両手で持って静かに構え
る。さっきまでの優しい表情が嘘のように消えて、歴戦の猛者の威圧感を発し始めた。
 純平もまた、鞘から刀を抜いた。矢洲と同じように鞘を腰に差し(布を腰に巻いて刀を
差せるようにしている)、刀を両手で持ってゆっくり構える。
 二人の視線が交錯する。二人は少しの間、身動きせずに刀を構えていた。お互いがお互
いの動き一つを見逃さまいと精神を集中しているのだ。
 純平が、じりっ、じりっ、と矢洲ににじり寄っていく。焦らず、慎重に、かつ矢洲に圧
力をかけながら。
 あと一歩踏み込めばお互いの斬撃が届く距離で純平は止まった。沈黙が二人の周りを包
む。
 純平の額に汗が浮かぶ。
 「いやあっ」
 純平が矢洲に切りかかった。飛び込んで、構えた刀を上段から鋭く振り下ろす。矢洲は
それを下から刀で受け止めると、自分よりも数十歳若い相手と互角の力で鍔競り合いをす
る。数秒もその状態を続けると、矢洲は下から純平の剣を跳ね除けて袈裟切りに斬りつけ
た。純平はぎりぎりで後ろに飛んでかわす。矢洲は構えを直しながら口を開いた。
 「そう。刀はただ振り回す刃物ではない。敵の魂を、そして弱い自分の心を断つための
器だ。例え囮の一撃でも魂を込めなさい。何も込めなければ、囮と言えどその一撃は何の
意味も持たない」
 純平は黙って刀を構えなおした。今度は矢洲が動く。静かに、そして驚くほど早い踏み
込みで純平との距離をつめる。
 矢洲は息を鋭く吐きながら純平の胸元に刀を突き刺す。純平は表情を険しくしながらも
その場を動かなかった。自分の刀で矢洲が突き出してきた刀を横から払い。そのまま矢洲
の横胴を狙う。
 だが、矢洲は慌てることなく、刀を払われてバランスを崩した体勢からそのまま純平に
自らぶつかっていった。至近距離に持ち込むことで斬られるのをふせいだのだ。今度は逆
に純平の体勢が若干崩れたがすぐに持ち直し、それから二人は幾度も刀を交えた。一見互
角のようだが、少しずつ、じわじわと矢洲が純平を押している。
 純平は慌てて矢洲から距離を取った。離れたあとで、矢洲は『うむ』と頷く。
 「やはりお主は両刃の剣よりも刀の方が性に合っているようだ。前よりも着実に強くな
っておる」
 純平は息を切らせて矢洲を見る。それに対して矢洲はゆったりと構えて純平を見やる。
二人の実力の差はあきらかだった。
 「さあ、次でもう終わりにしよう。来なさい」
 言われた純平は両足に力を込めた。人工の強化筋肉が反応する。純平は数度呼吸をする
と、力強く地面を蹴った。常人を超えたスピードで矢洲へと向かう。
 素早く矢洲の横を駆け抜ける純平。駆け抜ける際、強い金属音が鳴ると同時に、その純
平の動きに合わせて矢洲は後ろを振り返った。振り返る際にも金属音が一度鳴る。駆け抜
けた純平は両足でブレーキをかけたものの、勢い余って回転しながら砂煙をあげて矢洲の
後ろ数メートルを行って止まった。
 数秒の後、純平はショックを受けた顔で振り返る。
 「・・・・・磨きに磨いた必殺技が通じなかった?」
 ボソリと純平は言葉を漏らした。聞こえていたのか、矢洲は静かに首を横に振る。そし
て刀を鞘に静かに収めた。
 「いや、わしでなかったら防げなかったろう。自信を持っていい、今の技ならば怪物で
も命を断ち切れる」
 矢洲は途端に表情をやわらかくして純平に近づいていった。
 「あとはお前さんの使う刀だ。お前さんが今使っているのも含め、わしの持っている予
備の刀ではお前さんの力について来れんだろう。自分で自分に合う刀を探しなさい」
 純平は手に握っていた刀に視線を移した。今まで使っていた刀は矢洲から借りたもので
あり、その刀身ももうボロボロだった。
 純平は一ヶ月の間修行だけに気を取られていて、刀のことについては何も考えていなか
ったのだ。複雑な気分に支配されてしまって、純平は困惑する。
 「とりあえず、修行は今日で終わりだ。借りを返してきなさい」
 純平の肩を軽く叩いて、矢洲は家の方角にゆっくりと歩き始めた。純平はそれに気づく
と何か言おうとしたが、思いとどまって、静かに礼儀正しく頭を下げた。



 夕方、純平は矢洲に別れの挨拶を告げて、自分の荷物を片手に矢洲の家を出た。
矢洲は玄関前に立ち、優しく笑いながら黙って見送ってくれた。帽子を深くかぶり、昼間
の広場にやってくると、一応周りを警戒しつつ、左手に埋め込まれたクリスタルを見る。
 「グランランサー!」
 純平の呼び声に呼応して、間もなく純平の側の空間の一部がガラスのように砕けて、中
から大型バイクが飛び出してきた。荒々しく止まって、エンジン音を震わす。砕けた空間
の壁はすぐに塞がった。
 荷物を無理やりバイクの後方に縛り付ける。ある程度の衝撃にも耐えられるように念入
りにきつく縛ったあと、純平は一度矢洲の家の方角を見た。だが、すぐに純平は愛機であ
るグランランサーにまたがった。一度アクセルをふかすと発進させる。すぐにバイクは次
元の壁を突き破り、次元の狭間に突入した。右も左も分からず、何色ともわからない空間
を駆け抜けていく。ここではバイクの次元間移動の機能にすがるしかなく、迷えば戻って
くることは大変難しい。本来ならば普段基地として利用している超次元戦闘母艦に乗って
移動すればいいのだが、今回はそれほど次元間の距離が離れていないのでめんどくさがっ
てバイクを使ったのだ。
 純平はバイクにまたがってハンドルを握りつつも頭の中では思考をフル回転させていた。
 (刀を学んだのはいいけど、これからの戦いについてこれるような刀を手に入れなきゃ
いけないんだよなあ。普通の刀じゃすぐ使い物にならなくなりそうだし。・・・それに、
クリスタルとリンクさせるのにも時間が――)
 頭を悩ませて、純平は困り果てていた。これからさらに厳しい戦いが始まるだろうとい
うのに、自分に合いそうな刀を見つける手立てが思いつかないのだ。本部の方でも、以前
使っていた剣ぐらいのものしか作ることはできないらしい。
 (仕方ない、手当たり次第に世界を回って探し・・・・あら?)
 次の瞬間、左手がハンドルからすっぽ抜けてしまった。考え事のしすぎで手に力が入っ
て滑ったのか、それとも、単に汗か何かで滑ったのか。
 ともかく純平は体勢を崩してしまった。思わず残った右手に力を集中して、変な方向に
ハンドルをきってしまう。グランランサーはその急な操作に過敏に反応すると、いきなり
次元の壁を突き破って、知らない世界に突入した。
 「おおぉっ!?」
 世界に出たのはいいが、出た瞬間の位置がまずかった。そこは地面からビルの4〜5階
ぐらいの高さだったのだ。
 純平は驚きと焦りでさらに体勢を崩し、とうとうバイクから転げ落ちた。バイクはその
ままどこかへ飛んでいってしまう。
 かなり高い位置から落下した純平は、背中から地面に叩きつけられた。大したケガを負
わなかったのは、受身をとれたということと、改造人間としての人並みはずれた体のおか
げだった。
 痛みで苦い息を吐きながら、上半身を起こして背中をさする。と、何か視線を感じて背
中をさする手を止め、顔だけ横に向ける。
 いつの間にか、側に青年がいた。そこそこの長身で、無表情に上から自分を見下ろして
いる。
 水色の長髪に銀色の瞳という不思議な美青年といった感じの青年(歳の程はよく分から
ないが)はしばらくこちらを観察するように見つめる。多分この世界の住人なのだろう。
周囲を少しだけ見てみたが、ここ一帯が小さな島のようになっているように見えるが詳し
いことは分からない。とりあえず、目の前の青年以外に人はいないようだ。
 (・・・しかし、この状況をどう説明しよう・・・?)
 空から落ちてきた人間、しかもほとんどケガらしいケガをしていない人間なんてものが
この世界に存在するのだろうか? そもそもこの世界はどこだ? 純平は冷や汗を背中に
感じつつ、とりあえず何とかごまかそうと口を開いた。
 「え〜と・・・」
 「君は誰だ?」
 青年は落ち着いた声で尋ねてきた。その声は性別の境にあるような綺麗な声だった。純
平は愛想笑いを浮かべながら、軽く後頭部を軽く掻いた。
 「いやあ、あの・・・」
 ごまかすために相手の情報を得ようと純平は青年をさりげなく観察する。服装は白学ラ
ンのような服の上にクリーム色の帯を右肩から左腰にかけて羽織るように巻いてベルトで
止め、下は純平と同じように普通の青いジーンズを穿いている。耳にはしおりのような長
方形のイヤリングがしてある。
 純平は必死でこんな服装をしている住人がいそうな世界を頭の中で検索してみたが、や
はり何も引っかからなかった。言語は左手のクリスタルが勝手に翻訳してくれるので、そ
こからは情報を得られない。正に八方塞がりだった。
 (・・・ここはとりあえずダッシュで逃げるか? とりあえずグランランサーを呼べる
ところまで行って・・・)
 逃げる算段をしながら、とりあえず立ち上がろうとすると、青年は無言で手を差し伸べ
てきた。純平は一瞬戸惑ったが、とりあえず青年の手を軽く掴んで立ち上がる。
 「・・・どうも」
 青年はお礼を言う純平の目をじっと見ていた。そして、ふと少しだけ表情を和らげた・
・・ような気がした。
 「私の名はアリディス。この世界の神だ。まあ、太陽神と思ってもらえばいい」
 「・・・・・え?」
 純平は自分の耳を思いっきり疑った。この青年、アリディスと名乗った青年は、自分の
ことを神と言った。純平は今まである程度色々な世界に行ったが、神に出会ったことは一
度も無かった。しかも見た目はおもいっきり人間っぽい。
 (・・・・・待てよ?)
 純平はさらに思考をフル回転させる。今まで見た事が無いのなら、逆に『神ではない』
と断定できるはずがない。それに『普通』の青年ではないことは雰囲気でなんとなく分か
る。それに本人は堂々とそう言っているのだ。冗談を言っている感じではない。・・・や
はり――
 「どうも、自分は新條という者です」
 純平は深く悩みぬいたあと、とりあえず姿勢を正して帽子を頭から取り、軽く頭を下げ
て挨拶した。するとアリディスは警戒心をさらに解いてくれたようだった。しかし、それ
でも無表情から少し崩れたぐらいでしかないが。アリディスは純平の目を真っ直ぐ見なが
ら口を開いた。
 「君は変わった人間だな。どこから来たんだ?」
 「・・・・まあ、色々なところを行ったり来たりしてます」
 当り障りのない答えを返してみたが、神ならば自分の心を読まれているのかもしれない。
純平は内心ヒヤヒヤしていたが、アリディスは特に追及はしてこないようだった。代わり
に違うことを聞いてきた。
 「『ここ』に何のようだ?」
 『ここ』という単語をやけに強調してアリディスは言ったが、純平はそのことには気が
回らなかった。純平は苦笑いして後頭部を軽く掻く。
 「いやあ、事故というかなんというか・・・・・あ、そうだ。この辺りで刀とか手に入
るところってありますか?」
 丁度いいやとばかりに純平は聞いてみた。話をそらしたいという気持ち半分と、神に聞
けばいい刀が手に入るのではないかという期待が半分というところか。純平はアリディス
のことを神だと本気で信じ始めていた。
 アリディスは少し考える素振りを見せてから、右手を純平の前に差し出し、掌を広げて
純平に見せるように上に向けた。
 「カタナというのはこれのことか?」
 次の瞬間、音も無く、アリディスの右手の上に鞘に納められた刀が現れた。純平は思わ
ず一歩後ろに下がる。
 「おおっ?」
 「・・・これでいいのか?」
 アリディスは現れた刀を握って、そのままの体勢で純平に再度尋ねた。純平は刀とアリ
ディスとを何度も往復して見る。
 (やはり神様なのか!? 俺が想像していた姿とは似ても似つかないが)
 アリディスは静かに純平を見ている。それに気づいた純平は恐る恐る両手を伸ばして刀
を受け取った。胸の高さに持ってきて、まずじっくりと鞘を見る。
 (鞘は全体的に深い紺色か。材質は・・・・・何だろ? とりあえず、俺の世界のとは
違うようだが、おかしなところは無いな)
 次に左手で鞘を持ち、右手で柄を持ってゆっくりと鞘から刀を抜く。金属がかすかに触
れ合うような音を立てて、刀身が鞘から姿を現した。透けるように綺麗で光を反射させて
いる。まるで澄み切った青空のようだ。今度は刀身を目の高さまで持っていく。
 (刃長は大体75センチ・・・打刀だな。反りは・・・刀身全体が均一に反っているか
ら京反りというやつだ。反り具合は・・・2.5〜3.0といったところか。切っ先は中
切っ先、刃紋はごく緩やかに曲線を描く湾れ刃だ)
 刀身を色々な角度から観察する。刀は昔から興味を持っていたのでそこそこの知識はあ
る。材質などは分からないが、とにかく極上の作りになっているのは確かだ。真剣な顔で
刀身を見つめる純平にアリディスが言う。
 「ずいぶん詳しいようだな」
 「・・・・・え? ああ、そうですね。小さい頃から時代劇が好きで見まくってました
し」
 真剣な顔を崩して純平はアリディスに答え、また真剣な顔で刀に見入る。アリディスの
方はというと、ジダイゲキという言葉を理解できなかったのか、一瞬目を細めた。しかし、
特に気にしなかったのか、また口を開く。
 「1000年も前に知り合いから記念にもらったものだ。素材も作り方も聞いていない
が、斬れ味には不安を持たなくていい。それに、刀身を自然光に数時間当てつづければ、
刃こぼれなどの欠損は勝手に自己治癒してしまう。名前はまだない。君がつけるといい」
 「・・・・・え、ということは、これを頂けるんですか?」
 刀から、すらすら語るアリディスに視線を移すと、目を白黒させながら純平はアリディ
スに尋ねた。アリディスは一度ゆっくりと頷く。純平は刀とアリディスとを何度も往復し
て見た後、もう一度恐る恐る尋ねてみる。
 「いいんですか? こんな凄いものを」
 「私は使わないからな。それに、君なら誤った使い方はしないだろう?」
 アリディスは純平の目を射抜くように見て言った。純平は再び心を読まれているのだろ
うかと一瞬体を強張らせたが、神ならばそれぐらいのことはできるんだろうなと勝手に納
得する。そして刀を鞘に納めた。
 「君はなぜそんなにも恐れている?」
 急なアリディスの問いに純平は答えに詰まった。少し考えたあと、片手を後頭部に当て
て、恐る恐る口を開く。
 「・・・いやあ、神様に会ったのはこれが初めてなもので――」
 「そうではない」
 アリディスはゆっくり首を横に振った。純平がその反応にあっけに取られると、アリデ
ィスは純平の目を見続けて言う。
 「君は、他人が自分の心に踏み込んでくることを強く恐れている」
 純平は思わず顔を強張らせてアリディスを見つめ返してしまった。アリディスは構わず
話を続ける。
 「自分を蔑むのは自由だが、君は私が見る限り、まともな『人間』の一人だ」
 純平は何も言わない。アリディスも少し黙って純平を見続ける。沈黙の後、突然アリデ
ィスは純平に背を向けた。
 「神からの言葉として受け取ることが重いのなら、友人からの忠告だと思えばいい。で
は、私はそろそろ失礼する。もう会うことはないだろう」
 「何故、初めて会ったのにこれほどのことをしてくれるんですか?」
 歩き出そうとするアリディスを純平の言葉が呼び止めた。アリディスは体を止めて、少
しの間向こうを見たまま黙っていた。純平は真剣な顔でアリディスの答えを待つ。
 アリディスは肩越しに振り返った。アリディスの表情は相変わらずだったはずだが、純
平は、アリディスの表情がさっきまでとは少し違うような錯覚を覚えた。・・・本当にた
だの錯覚かもしれないが。
 「誰かのために血と涙を流せられる。・・・君のような人間は、嫌いではない」
 純平は反応に困ってしまった。言葉を探す純平にアリディスが追加で言葉を掛ける。
 「そうだ、君と私が会えたのは『彼女』のおかげだろうな。彼女に感謝することだ」
 アリディスは何故か純平の左手のクリスタルを見て言った。純平にはそのことがよく分
からなかったが、とりあえず小さく頷いた。アリディスは満足したように前を向き、歩き
出した。純平からゆっくりと遠ざかっていく。
 純平は黙ってアリディスの背中を見送った。アリディスの姿がほとんど見えなくなる頃、
意を決したようにアリディスが歩いていった方とは逆に振り返る。周りを多少警戒し、左
手のクリスタルに意識を集中した。グランランサーを呼び戻すためである。と、それを遮
って、クリスタルが青く発光しだした。クリスタルから声がする。
 『ブラスター、奴がまた姿を現した。修行を終えたばかりで悪いが、今から行けるか?』
 隊長からの通信だった。純平は表情を険しくしながら少し考え込む。
 「・・・他の人たちは近くに居ないんですか?」
 『・・・冷たいことを言うようだが、ケリはお前が着けたほうがいい』
 「・・・・・分かりました!」
 純平は強くはっきりと頷いて言葉を返した。真剣な表情で刀と自分の拳とを見る。両手
にいつの間にか力が強く込められていた。
 (迷いを完全に断ち切る時だ。やってやる!)
 純平は心の中でそう叫んだ。



 シドムは遠くを見ていた。足元で寝転がっている人間にはすでに興味を失くしている。
燃えるような夕日が赤く大地を差す。廃墟が並ぶ都市の片隅で、シドムはため息をもらし
た。周囲に人気はない。
 「魂と魂とをすり減らせるほどの強い戦士はいないのか」
 シドムは改めて足元の人間を見た。人間はボロボロのマントに身を包み、うつ伏せにな
ったままで、ピクリとも動かない。つい先ほどとどめをさしたばかりだった。この辺りで
も名のある戦士だったが、命の危険を感じるほどではなかった。正直、シドムは落胆して
いた。
 ふとシドムの本能が何かに気づき、視線を移す。自分が立っているボロボロになったア
スファルトの道路の遠く先の方から人間がゆっくりと歩いてくる。もうこの街には生き物
が居ないはずだった。シドムはその人間の姿を見極めようと見据える。
 その人間には見覚えがあった。以前、戦って破った男だ。
 男はシドムから10メートルという距離で立ち止まった。片手に持っていた刀を下に置
き、かぶっていた帽子を脱ぎつつ、シドムを睨む。男、純平とシドムは真っ向から睨みあ
った。
 「また戦うというのか。今度は誰も助けにきてはくれぬかもしれんぞ?」
 シドムが馬鹿にするように言った。それを合図に周囲が薄暗くなる。一瞬気が遠くなる
ような感覚に襲われても、純平は仁王立ちのままシドムを睨んでいた。
 「何故戦う? お前は何故命を捨てるのだ?」
 理解しかねると言った表情でシドムが訊く。純平は睨み続けたままで答える。
 「お前が破壊するために戦うのなら、俺は守るために戦う。守る為に生きる!」
 「幻想だな。お前が、いや、お前たちが命を捨てようと、全ての世界が救われはしない
のだ」
 「その幻想を少しでも真実にするために戦ってやる」
 「・・・・・そうか。ならば、その言葉を力で示してみろ」
 シドムは純平から何かを感じたのか、戦う意欲が先ほどよりも増してきた。若干嬉しそ
うにも見える。純平は一度両手の拳を強く握りしめたあと、少し考えてからゆっくりと力
を抜く。
 (落ち着け、俺は俺だ)
 「チェェンジッ!」
 言いながら、右手を前に伸ばして人差し指・中指・薬指の三本を、つまり『3ピース』
 をシドムに見せる。
 「スイッチオン!!」
 右手を下ろし、仁王立ちに戻る。
 「ワン・ツー・スリーっ!!」
 言葉に合わせて順番に、右手を左胸に当て、左手を右胸に当て、最後にクロスした両手
を真っ直ぐ上に伸ばす。
 それらの動きが完了すると同時に左手のクリスタルが輝き、純平の全身が青色に発光し
たかと思うと、次の瞬間にはコンバットスーツを着ていた。
 「異次元戦士、ブラスター!」
 戦闘の構えを取って、シドムを正面から見据える。
 「ほう、変わったのは精神力だけではないようだな」
 シドムは観察するようにブラスターを見ている。だがブラスターは『フッ』と小さな笑
いを漏らした。
 「いや、これは俺の趣味だ」
 ブラスターは左手のクリスタルにしっかりと意識を集中できれば、どんなポーズを取ろ
うが掛け声を出そうがコンバットスーツを着ることができる。普段の掛け声は、より早く、
正確に意識を集中できるだけなのだ。時間さえ余裕があれば今のようなこともできるが、
普段は滅多にできることではない。
 「そんなふざけたことができるほど余裕があるのか」
 (余裕なんかねえよ!)
 ブラスターは心の中で舌打ちをする。今の変身ポーズ(気に入っている特撮用変身ポー
ズの1つ)は戦うための気合を身体中に乗せるための、いわば、ストレッチなのだ。
 シドムも戦いの構えを取る。前回と同様、獲物を狙う獣のような姿勢だ。
 「あまり、期待はずれなことをするな」
 シドムはブラスターの行動に腹を立てたのか、唸るような声を立てた。だが、ブラスタ
ーは構わず無言で構え続ける。
 シドムが地面を強く蹴った。高速でブラスターへと駆け出す。ブラスターも一瞬遅れて
シドムへと駆け出した。
 「なにっ?」
 シドムの顔が驚きで歪んだ。ブラスターの移動スピードが前回よりも速くなっており、
自分を超えるかもしれないほどになっていたのだ。
 ブラスターが超高速でシドムへと接近すると、そのスピードでそのままシドムの顎へと
飛び膝蹴りを突き刺す。驚きで虚を突かれたシドムは防御を取れぬまま顎を跳ね上げられ
て、宙に浮いた。
 前回はスピード勝負で負けたはずのブラスターだったが、実際のスピードはシドムと変
わりは無いほどだった。だが、前回はシドムに威圧されて本来の力を発揮できずにいたの
だ。それでも若干、前回よりもスピードが上がっているのは確かであり、コンバットスー
ツが純平と共に成長している証拠でもある。
 シドムは後方に飛ばされて、背中から地面に倒れた。一方、地面に着地したブラスター
は追い討ちをかけようと、シドムへと飛び上がる。空中からのブラスターの蹴りをシドム
は地面を転がって避けた。シドムがいた場所にブラスターが着地する。
 シドムは転がりながら、その勢いを利用しつつ腕で反動をつけて立ち上がる。構えると、
準備運動のように軽く首を動かした。
 「おもしろくなってきた」
 今度はシドムがブラスターへと駆け出した。お返しとばかりにスピードをつけた体勢か
ら殴りかかる。ブラスターは左足を前に出して左手を体より少し前に出すだけでシドムを
待ち構える。
 シドムが殴りかかってきたところに合わせ、左足を後ろに下げながら左手で体の内側へ
捌きつつ、左足を前に戻しながらがら空きのシドムの腹部へと左肘を突き刺す。ブラスタ
ーが必殺技としている『炎轟二式・颯樹』である。
 カウンターで強力なダメージを受けたシドムがたまらずうめく。ブラスターは間髪入れ
ずに右足を前に出して距離をつめた。
 「いぃぃやっ!」
 搾り出すように鋭く息を吐きながら、右足の移動に乗せて右拳をシドムの顔面へと突き
出す。
 手ごたえは確かにあったが、シドムは数歩よろめいただけで体制を保った。ブラスター
がおもわず舌打ちをする。
 (相変わらず硬ぇな!)
 ブラスターは構わず近づいて、シドムの左足へとローキックを打ち込む。そこら辺の生
き物が相手なら、太腿の筋肉を断絶できるほどの威力を誇るが、シドムの足はビクともし
なかった。
 (これでも駄目か!?)
 仕掛けたブラスターに隙が生じた。シドムが見逃すはずもなく、反対に右足でブラスタ
ーの側頭部を薙ぐように蹴りかかる。それを両手で受け止めたブラスターだったが、予想
以上の威力のため、両手でガードしたまま横に大きく吹き飛ばされた。アスファルトを転
がりながらも、反動をつけて立ち上がる。
 (まともにやりあうな! 自分のやり方で戦うんだっ)
 心の中で言いながら、再び構え、シドムへと向かっていく。シドムもブラスターへと近
づき、一気に至近距離へと迫った。
 ブラスターは先手必勝とばかりに、左拳を素早く、且つ力強くシドムの顔面へと放つ。
シドムはやってみろとばかりに無防備にブラスターの攻撃を受けようとした。だが、ブラ
スターの左拳はシドムの顔面に当たらなかった。左拳はフェイントだったのだ。それも、
ただのフェイントではない。矢洲から教わった、殺気が込められた一撃だ。シドムは意識
をおろそかにしていた自分の腹部に、ブラスターの右の掌低が勢いよく伸びてくるのを見
て顔を険しくした。
 掌低が腹部に激突した。普通の拳で殴るのとは違い、掌低はダメージを体の内部に伝え
る。
 シドムが一瞬だけたじろいだが、それでもブラスターにとっては充分だった。ブラスタ
ーはすかさずシドムの両手を取り、十字にクロスさせると、背負い投げの要領で投げにか
かる。以前使った、十字背負い投げだった。両手の関節を極めた上に投げてダメージを与
える大技である。
 「うおおりぃゃあっ!」
 叫びながら、巨体のシドムを持ち上げて、全力でアスファルトに叩きつける。叩きつけ
られたシドムは、さすがにダメージを隠し切れず、倒れた状態で朦朧としている。そこに
ブラスターが追い討ちをかけようと体勢を整える。
 しかし、それと同時にシドムの手の指が奇妙に動いた。それを合図にしてブラスターが
大きく横に吹き飛ばされ、近くの建物に叩き付けられる。さらに宙に上げられて、何度も
アスファルトに叩き付けられて、最後は放り投げられた。
 アスファルトの上に倒れたブラスターは、何とか四つんばいになって立ち上がろうとす
る。ろくに受身も取れずに叩き付けられていたので、ダメージは大きかった。
 「飛び道具を持ってねえ奴に、魔法なんか使うんじゃねえよ・・・」
 吐き捨てるように言っていると、いつの間にか朦朧状態から回復していたシドムが目の
前に立っていた。ブラスターはさらに舌打ちする。
 (アンタ、タフガイすぎるよ)
 シドムはブラスターの首を右手で掴むと、片手でブラスターの体を振り上げて反動をつ
け、アスファルトに勢いよく叩きつけた。アスファルトの破片が辺りに飛び散る。
 それでもシドムは右手を離さない。ブラスターを持ち上げると、近くのビルの廃墟に向
かって走り始める。もがくブラスターの力をあざ笑うように、力づくでビルの壁に叩きつ
けた。もともと崩れかけていたビルが、バランスを崩して一気に崩壊する。シドムは右手
を離してビルから大きく離れた。
 ビルが完全に崩れ、破片や砂煙が辺りにばらまかれる。しばらくするとそれらが収まり、
辺りが静かになった。シドムは離れた距離から崩れたビルのあたりを見つづけている。と、
急にビルの瓦礫が動き出し、中からゆっくりブラスターが出てきた。
 「・・・技で勝てないなら、力づくかよ。くそったれが」
 体の所々が傷ついていたが、足取りはしっかりしていた。ビルの下敷きになる前にバリ
アで防いだのだ。瓦礫から少し歩いて立ち止まる。シドムが右手を自分へと突き出してい
る。暗黒魔法を使うのかと、ブラスターが身構えたが、何も起こる様子はなかった。けげ
んに思うブラスターをよそに、シドムは右手を下ろし、声を発した。
 「これ以上、魔法を使うのは邪推か。ならば決着は剣でつけよう。この前のようにな」
 ブラスターはしばらく身構えていたが、シドムが本気らしいことに気づくと、構えを一
時解いた。シドムを警戒しつつ、近くにある刀をゆっくり取りに行く。シドムは攻撃する
気配を見せず、ブラスターをじっと待つ。
 ブラスターは刀を拾うと、左手で刀の鞘を強く握り、刀の柄に右手を当てて掴む。金属
と金属が触れ合う音を出しながら刀を鞘からゆっくり引き抜く。
 (頼むぜ、光牙(こうが)!)
 アリディスから譲り受けた刀は夕日を刀身に受け、なんとも言えない綺麗な光を反射し
た。
 シドムはその刀が普通の武器ではないことに気が付いたのか、何も言わずに、腰に収め
られていた高速振動剣を両手で持って構えた。わずかに低く唸るような音が聞こえてくる。
 それを確認すると、ブラスターは鞘を地面に置き、集中力を高めていく。それを表すよ
うに、スコープ部分が青く発光し始めた。
 「レーザーブレード!」
 左手で刀身をなぞり、エネルギーを付与していく。青く発光しだした刀身をシドムへと
向け、ブラスターは刀を正眼に構えた。今はもう、刃を使うことにためらいはない。
 「成長したようだな。尚更おもしろくなってきた」
 シドムは嬉々としながら一歩、また一歩とゆっくりとじょじょにブラスターへと近づく。
ブラスターは静かに、そして緩やかにその場で構えている。
 お互いの距離が5メートルほどになると、シドムはおもいきりブラスターへ飛び掛った。
剣を大きく振りかぶって袈裟切りに振り下ろす。だが、ブラスターは斜め前に飛ぶように
転がるとシドムの後ろを取った。シドムは着地した態勢で大きく隙ができている。それを
ブラスターは振り向きざま、横一文字になぎ払う。シドムは隙が大きい攻撃をしたにもか
かわらず、驚異的な速さで体勢を整えるとブラスターの攻撃を剣で受け止めた。刀と剣が
触れ合う部分から火花が飛び散る。
 刀と剣を間に、二人の視線が交錯する。二人の気迫は肉薄していたが、力の差はシドム
の方に部があった。ほんの少しずつブラスターが押されていく。
 ブラスターは大きく後ろに飛びのいた。飛びのく瞬間、シドムの返り刃が軽くブラスタ
ーの胸をかすめる。
 シドムから大きく距離を取ったブラスターの胸の部分が薄く裂かれ、微妙に火花が散っ
ていた。
 シドムは重心を落として、いつもよりもさらに前傾の姿勢になった。一撃でケリをつけ
ようとブラスターを誘っているのだ。ブラスターも同意するように重心を落として、右足
を前に出し、刀を左腰の横に添えた。抜刀の構えのようにも見える。
 数秒経ったのか、それとも数分経ったのか、沈黙は続いた。お互いがお互いの身体のほ
んのささいな動きを見逃すまいと睨んでいる。ブラスターの精神力が緊張とプレッシャー
でどんどん削ぎ落とされていく。ブラスターは心の中で、必死で自分の闘志を燃やし立て
る。
 (恐怖に飲み込まれるな。・・・俺には守るべきモノがある!)
 ほぼ同時にお互いが駆け出した。全速力で接近する。周りの時が止まっていると錯覚す
るぐらいの高速で走り、剣撃が届く間合いにお互いがためらわずに踏み込む。
 シドムがブラスターの胸元へ真っ直ぐ剣を突き刺した。しかし、ブラスターの胸元へ剣
が突き刺さるよりも、ブラスターの居合切りのような下段からの振り上げる斬撃の方が速
かった。
 刀はシドムの上半身を、機械化している部分ごと深く切り裂き、天に振り上げられる。
 ブラスターはその勢いを利用して、シドムの横を駆け抜けると同時に身体を回転させな
がら袈裟切りにシドムの体の側部から背中にかけてなぎ払っていく。回転しながら両足で
地面にブレーキをかけ、地面から砂埃が舞い上がる。シドムから数メートル後方で背中を
向けた姿勢でやっと止まった。これまでの動作はほんの数秒間の出来事だった。
 シドムも突いた体勢で駆け抜けたが、立ち止まるとそれ以降微動だにしなかった。する
と体に刻まれた一撃目、二撃目の傷から血が溢れ出す。だがシドムはそれを抑えようとも
しない。
 そして、まるで無傷のように通った声を出す。
 「・・・見事だ。・・・・・その技の名を知りたい」
 「54点斬改め、煌く桜羅(きらめくおうら)」
 シドムに聞こえるか聞こえないかぐらいの小さい声でブラスターは答えた。精神的な疲
労が強力にブラスターを襲っている。それぐらい紙一重での勝利なのだ。心臓が強く波打
っている。
 「・・・・・良い戦いだった」
 シドムはか細い声を漏らすと、前のめりに体勢を崩した。剣を地面に突き刺し、それに
両手ですがってなんとか倒れないように体を保つ。ブラスターは背中を向けたままだった。
 「次は負けんぞ」
 シドムはまたか細い声でそう言った。さっきと違うのは、シドムの表情が若干笑ってい
ることだった。
 まもなくシドムの前の空間の一部がガラスのように砕け散った。砕け散った空間は真っ
黒な闇になっている。シドムは倒れこむようにその闇に入っていった。シドムの身体が全
て闇に消えると同時に空間が修復していく。
 ブラスターはそれまで何もしなかった。・・・・・いや、『できなかった』のだ。身体
が疲労と緊張感の欠如によって動くことを拒否しようとする。時間がある程度経過し、少
し落ち着いたブラスターはふらつきながらも刀の鞘を取りに行き、鞘を手に取るとゆっく
り刀を鞘に納めた。
 「・・・また俺は強くなれた」
 宙に向かって一言だけつぶやいた。辺りは静寂に包まれている。心に穴が空いたような
気持ちで、ブラスターはさらに遠い宙を見た。
 (・・・・・俺は、これからも戦いつづけられるのだろうか? 逃げずに、そして・・
・生き残っていけるのだろうか?)
 しばらくして、ふとブラスターは左手に持っている刀に目を落とした。神との不思議な
出会いで手に入れた刀は、無言だが、丁寧な作りと確かな感触でブラスターに答えている。
 「・・・・・俺は、一人じゃないのか」
 ブラスターは小さく、自分でも言ったかどうか分からないような声で言った。
夕日が、ブラスターの身体を押すように照らしながら、地平線の彼方に沈んでいった。


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