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224 異次元戦士ブラスター第六話『闇夜の想い』
2006.4.24(月)06:25 - じゅんぺい - 8844 hit(s)

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 次元間の空間を巨大な戦闘艦が飛んでいる。全長二百メートルほどの、縦長の艦体は白
と青の綺麗なカラーリングを見せ、小さな前翼とX字の大きな後翼が雄々しく映えている。
異次元警察の誇る、超次元戦闘母艦第五号艦アルディオスである。
 その艦内にあるブリッジには、椅子に座って大きなモニターを見る純平の姿があった。
モニターにはたくさんの新聞の記事が映っている。純平が生まれ育ち、担当している世界
の新聞だ。
 『今のところ、大きな事件の存在は確認してないよ』
 モニターからブリッジに若い女性の声が響く。それは元気が有り余るような気配を窺わ
せる。声の相手は今、異次元警察本部のオペレーター室内から話していた。
 純平は相手の声を聞きながらも、モニターの新聞をすみずみまで細かく目を通していく。
その目は真剣である。
 『じゅんじゅん・・・じゃなかった。ブラスター、今度そっちに行って――』
 「ん、何だ?」
 相手の声をかき消して、純平は新聞の一部分に目が止まった。大きな見出しではないが、
『夜中に徘徊する大きな獣』と出ている。内容に目を通してみると、どうやら真夜中の街
を徘徊する不審な獣の目撃者が後を絶たないらしい。「タイトルそのままだな」と、ふと
思う。
 『・・・・・ねえ、聞いてるぅ? エミーの話』
 「それじゃあエミーさん、見回りに出かけてきます!」
 不機嫌そうな声に気をとめることなく、純平は椅子から立ち上がって、さっさとフロア
を出て行った。後には声だけが残される。
 『ねえブラスター。ブラスターってば! もう、じゅんじゅんって最低っ!!』



 夕陽の光が差し込む道場内には、練習を終えたばかりの颯樹と、いつも通りひょっこり
とやってきた純平の二人しかしない。
 道場生たちはもう皆練習を終えて帰ってしまっている。『まあ、昔自分が通っていたこ
ろから道場生は少ないんだけど』と、道場の壁に背をもたれかけたまま純平は心の中で苦
笑した。道場内が少し寂しく感じるのは外の雑音があまり入ってこないからか。
 颯樹の方は道着姿で木の床に座り込み、体を休ませていた。白く細長いタオルで顔の汗
を拭いている。
 「あ、そうだ。アホ、昨日美沙に手紙送ったんだってな」
 急に思い出して、颯樹は純平に言った。純平は中学を卒業してすぐ姿を消したあとから、妹にちょくちょく手紙を送っている。家族に会うと、仕事がら危険が及ぶ恐れがあるので、それは今でも続いていた。
 「嬉しさのあまり、あたしにも見せびらかしてたぞ」
 続けて苦笑まじりに純平に言う颯樹。純平が姿を消したあと、美沙の面倒を代わりに見ていたため、実の姉妹のような仲になっていた。
 「まだ会ってやらないのか?」
 「・・・いずれ、仕事が一段落したら会おうと思ってます」
 やっと口を開いた純平の声は、重く苦しかった。表情は喜怒哀楽のどれもを思わせない淡々とした顔だった。颯樹はあえてそれ以上は何も言わない。純平が美沙に会いたくないわけが無いのだと知っていたからだ。
 颯樹が純平と出会ったのは中学1年のころだった。それから3年間、学校と道場とで顔を合わせているうちに親しくなった。
 (そういえば、出会ってから一度もアホと本気で組み手したことが無いな)
 ふとそう思い出す。昔から純平は女性に力を振るうことを嫌っていた。それは格闘技に関してもそうで、組み手をするのを嫌がったり、やったとしても本気を出すことは無かった。そのために道場の師範である自分の祖父に注意されている光景をよく見かけていた。
 そこまで思い出したところで、
 「で、今日は組み手をしてくれる気になったか?」
 颯樹に横目で問われ、純平は苦笑していつも通りの答えを言った。
 「勘弁してくださいよ。本気の颯樹さんには勝てないっすよ」
 颯樹は答えを分かっていたらしく、追求はしなかった。しかし、ふてくされてあさっての方を向く。数十秒ほどその状態が続き、純平は申し訳ない表情を段々顔に浮かべ始めた。
 「怒んないでくださいよ」
 壁から起き上がり、膝立ちで颯樹に近づいて何度も謝る。颯樹の方はというと、さらに純平の居る方向とは逆を向く。そんなことを数度繰り返している内に、純平は大きく溜息をついた。そして颯樹の策略にギブアップを宣言する。
 「分かりましたっ。組み手をしましょう! いえ、させて下さい!!」
 颯樹はすぐさま立ち上がって嬉しそうに準備を始めた。それを呆れて見ていた純平も、もう一度大きく溜息を吐くと立ち上がる。
 「一本勝負だ。手加減無しだぞ」
 言って、颯樹は道場隅の棚から指先の無い薄手のグローブを2セット取り出し、1セットを純平に放る。受け取った純平は、元からはめていた黒いドライビンググローブの『上』にグローブをはめつつ、着ていたサバイバルチョッキを道場の隅にゆっくりと置いた。
 一瞬、純平のグローブのはめ方に颯樹は眉をひそめたが、そう気にはしなかった。満面の笑顔の颯樹と浮かない顔の純平。はたから見ればなんとも奇妙な光景である。しかも、道着姿の颯樹と対している純平は、白いGパンに黒いTシャツという格好である。とても組み手には見えなかった。
 アンバランスな光景にも関わらず、颯樹は真剣な表情で、仕方なくゆっくりと構える純平を見る。
 (さすがアホだ。なかなか踏み込めない)
 純平は左足を肩幅くらい前に出し、こちらに対して体を少し斜めにする。斜めにすることで、敵の攻撃が体に当たりにくくなるからだ。それから左手を顔から拳三つほど離したところ、右手は顎のところに置くことで攻撃・防御ともどちらにでもすぐに対処することができる。最後に両膝を軽く曲げ、両手は軽く指の関節を曲げる程度にしておく。これで移動をスムーズにし、打撃・関節・投げ技のどんな技でも繰り出すことが出来る。純平の構えは正にいかなる実戦でも通用するのだ。
 純平は移動せず、こちらの目を見たまま動かない。これは昔からで、純平は後手に回ってからの強打攻撃が得意であったのを思い出す。
 そんな純平に対しこのままでは何の進展も無い。純平の隙を『無理矢理』作るため、数歩踏み込んで右手の拳を純平の顔へと素早く放つ。グローブをしているとはいえ本気でやっているので、当たればダメージは大きい。
 純平は焦る様子もなく、一歩後ろへと下がった。これだけで攻撃をかわす。構わず颯樹は息をつかせぬスピードでもう一歩踏み込み、純平の胸へと突きを放つ。すると次の瞬間、思わぬことが起きた。
 「いたあっ!」
 突きが胸に当たり、純平はうずくまった。判定者が居ればこれで一本である。しかし納得がいかない。あの突きは当てるつもりなどなく、構えを崩すためのものだったからだ。自分が知っているアホの実力ならば、当たるはずがない。
 棒立ちになって困惑する颯樹を尻目に、純平は床をのたうち回り始める。
 「うわあ、肋骨があ。折れたかもしれない〜。じゃあ、そういうことで・・・」
 棒読みのセリフを言ったあと、さっさとホフクでその場から立ち去ろうとした純平の両足を、我に返った颯樹は逃さず両手で掴んだ。そのまま逆エビ固めにもっていく。
 「アホっ! わざと負けたなっ!?」
 颯樹は怒りの力を込め、おもいっきり純平の両足を反らす。純平の顔が痛みで歪んだ。
 「痛い痛い痛いっ、ロープロープロープ!!」
 構わず今度は素早く四の字固めに移行する颯樹。骨や筋肉がきしむ音を痛感する純平は、必死で何度も床に手の平を叩きつけた。
 「ギブギブギブギブギブっ! ぎゃあああぁっっ!!」



 都会もさすがに夜遅くになると人通りが途絶えてしまう。遠くから車の走行音が流れてくる巨大なビル群の片隅で、純平はビルの外壁にもたれかかりながら周囲に目を配っていた。
 弓張り月が上空に浮かび、たまにそれを見上げながらまた周囲を見る。
 (・・・・・そろそろか?)
 純平は壁から背を離し、地面にしっかりと立った。そろそろ新聞の記事にあった獣の目撃時刻の始まりである。純平はその捜査のためにこの場所にやってきたのだ。帽子を深くかぶり、気を取り直して歩き出そうとすると、
 「ちょっといいですか?」
 横から急に呼びかけられ、純平が顔だけ向けると、そこには濃い藍色の警官服を着た、つまり警察官が二人、目の前に立っていた。
 状況が掴めない純平に構わず、職務に忠実そうな中年のおじさん警察官二人は純平に尋ねてきた。
 「ここで何をしているんですか?」
 「お仕事は何をしていらっしゃるんですか?」
 矢継ぎ早にどんどん質問されている中、純平はふと思った。何時間も同じ場所で周囲の様子を伺っている帽子をかぶった男。しかもこの場所は色々と新聞沙汰になっているいわく付きの所。
 (・・・俺は何て怪しすぎるんだろう)
 まさか『すいません、同業者なんですけど、仕事中なんで勘弁してもらえませんか』とは言えないので、純平は困惑する。
 「・・・人を待ってる・・・んですけ・・ど」
 とりあえず言ってみたが、警察官がまったく信じる様子は無い。例え自分でも信じられないだろう。困惑の色を深くして帽子の上から頭をかいていると、片方の警察官が片腕を掴んできた。
 「とりあえず、交番に行きましょう」
 今更ながら本当に大変なことになってきたと感じた純平は、急いで何か手を考える。今更言い訳したところで無駄なのは明白だった。あとは力づくか・・・
 (蹴り飛ばして逃げるか?)
 警察官に腕を引っ張られながら本気でそんなことを考えていると、急に背後から警察官を呼び止める声が聞こえてきた。
 「すいません、彼と待ち合わせていた者ですが、何かありましたでしょうか?」
 背後から丁寧な物腰で警察官に尋ねる声を聞いて、どこかで聞いたことがあると感じた純平は見知った一人の男を脳裏に浮かべる。そして振り返ってみると、やはりそこに居たのはグレーのスーツを着た鋭い目の男。羽佐間だった。
 「あ、そうですか。最近この辺りで事件が続発していますので気をつけてください」
 警察官たちは笑顔でそう言うと、さっさとこの場から去っていった。純平は警察官の背中を見送りながら真剣な顔で羽佐間に尋ねる。
 「・・・何で俺を助けた?」
 その問いに羽佐間が答えることはなく、純平に背を向けるとゆっくりと道を歩き始めた。
 ビル街の闇に消えていく羽佐間を見送りながら、純平はふと夜空を見上げる。都会の夜空は星が輝かず、街の人工の明かりや騒音を引き込む本当の闇のように思えた。



 真夜中、ビル街には人の気配がまったく感じられなくなっていた。ビルの明かりはほとんど消えている。人工の音も聞こえない。
 純平は小さな路地をゆっくりと歩いていた。五感を研ぎ澄まし、音や気配を探りながら異変が無いか調べていく。改造手術を施された身体が、普通の人間よりも鋭敏になっているのを感じる。
 ふと何かを感じて足が止まった。傍の三階建てのビルの屋上の方を見上げると、何か黒い影が動いたように見えた。
 純平は慌てて凄まじい脚力を発揮し、地面を両足で強く蹴ってビルの屋上に飛び乗ろうとする。
 「おわっ?」
 しかしわずかに届かず、両手で屋上のへりを掴んで空中にぶらさがる状態になった。大急ぎで両腕の力を使い、屋上の床の上に這い上がって体を投げ出すと、安心して大きく1度息を吐く。そしてふと顔を上げて前を見ると、5メートルほど離れたところで大きく黒い四足の動物がこちらを見ていた。
 「・・・うわ、すげえやべえ・・・」
 動物から距離を置こうとした純平だが、それよりも先に動物が動いた。仰向けに倒れたまま慌てて防御の構えを取った純平だったが、動物は純平とは逆の方向に猛スピードで駆けていった。ビルとビルの間を飛び越えて、あっという間に消えていく。
 一瞬の出来事に呆然としつつ、ゆっくりと構えを下ろした純平だったが、確信をもって一つの答えを出した。
 “あれは明らかにこの世界の生き物じゃない”
 凶暴で鋭い野生の眼に狼よりも一回り大きく黒毛に覆われた体。どこの世界かは分からないが、確かに異世界の生き物だ。ごくたまに次元間が湾曲して多世界間に見えないトンネルのようなものが自然とできることがある。そこを通れば異世界に移動することができるのだ。
 “多分、それが原因だな”
 ゆっくり立ち上がって黒い獣が逃げていった方角を見る。正体がバレる前に捕獲して元の世界に送り返さなければならない。殺すという選択が一番手っ取り早いが、できるだけ取りたくない選択でもある。
 目的をはっきりと決めて、純平は左手の甲のクリスタルを口元に近づけた。本部に連絡しようとした時、純平は何かを察知して慌てて飛びのく。すると周囲から今居た場所に小さなナイフが無数に飛んできた。ナイフは床に当たると甲高い音がしてあっちこっちに跳ねていく。
 その後すぐにビルの下から木人形たちが何体も這い上がってきた。純平は焦りながらも構えをとる。
 木人形たちは有無を言わさず襲い掛かってきた。小さな刃物を片手にくる木人形たちを一人ずつ迎え撃つ。
 (焦るな、相手はザコだ)
 自分に言い聞かせながら、純平は木人形たちを叩きのめしていく。木人形たちはそう強くはない。これならコンバットスーツを着る必要もないと判断すると、数分後には襲ってきた木人形たち全てを打ち倒していた。木人形たちは機能を停止すると、闇へと溶けて消ていく。この木人形たちを操る組織はただ一つ、
 (ザ・ナイトメアか・・・)
 改めて周りを見渡すと、獣の姿はおろか気配すらも感じられなくなっていた。どうやら
獣を追っているのは自分だけではないらしい。それに羽佐間の動向も気になった。こちら
を敵視しているようではないが、味方とも限らない。
 「・・・・・複雑なのは嫌いなんだよなあ」
 溜息をもらすと、どっかりと屋上の床に座り込んだ。冷たい風が少し身にしみて、純平
はおもわず一度身震いをした。



 次元の間に存在する小さな世界に建立された黄金宮内の謁見の間にて、額から一本の太
い角を生やし赤いマントを羽織った悪魔大元帥と、白いローブに身を包んだ老婆の死霊大
元帥、そして緑のマントを羽織った人間型ロボットの機械大元帥の三人が顔を合わせてい
た。
 「また、異次元戦士どもがしゃしゃり出てきおったようじゃのう。今回も失敗するの
か?」
 挑発するかのように笑いながら喋る死霊大元帥だが、悪魔大元帥は特に感情を動かすこ
ともなく、横目で死霊大元帥を見る。
 「手は打ってある」
 「並大抵の手ならば、奴らは噛み砕くぞ」
 機械大元帥は2メートル以上の体格でゆっくりと悪魔大元帥の近くに歩み寄る。それで
も悪魔大元帥は感情を動かさない。まるで感情を動かすことを知らないかのように。
 「・・・噛み砕かれるのは奴らだ。そう、文字通りにな」
 淡々と悪魔大元帥は言う。死霊大元帥は「ふんっ」と面白くなさげに謁見の間の奥を見
た。奥には巨大な闇色の玉が音も無く浮かんでいる。
 「我らの主ももうすぐ帰ってくる。それまでには多くの配下を用意しなければ。主を喜
ばすためにも」
 死霊大元帥の言葉に、目のレンズを動かしながら機械大元帥が静かに頷く。しかし悪魔
大元帥は横目で闇色の玉を見るだけだった。



 翌日の深夜、純平は再び同じ場所にやってきた。ビルの屋上で昨日の獣の姿を探す。獣を見失ったあとで本部に調べてもらったところ、やはり異世界の生き物だったことが分かった。生き物を襲うことはあまり無いらしいが、追われたり攻撃されたりすればどうなるかは分からない。結局は素早く捕獲して元の世界に送り返すしかない。
 (ナイトメアも狙ってる。奴らより先に見つけないとな)
 溜息をつきつつ、帽子をかぶり直す。そして改めて捜索を開始した。常人よりも研ぎ澄まされた感覚をアンテナにして情報を探す。
 数十分が経った頃、何の手がかりも得られないため、純平は隣のビル群へと跳躍して渡っていく。いくつか目のビルの屋上へと渡った時、はるか視線の先の空に黒い影が瞬いたような気がした。純平は急いでその黒い影を追おうとしたが、何かを感じて立ち止まると、ビルの周囲下から木人形が何体も這い上がってきた。純平はすかさず近くの雨水を逃がすパイプの一部分をはぎ取り、両手で持って構える。
 木人形たちに周囲を囲まれて油断なく視線を回りに向けていると、突然大きな怪物が屋上に飛び上がってきた。純平よりも一回り大きな巨体で、二つの足で床に重く着地し、轟音と共に床が少し揺れた。純平の顔が一層険しい顔になる。
 「・・・ステージのボスの登場か」
 怪物は巨体にふさわしい凶悪な顔とぶ厚い筋肉に覆われた体をこちらに向ける。体は人間と同じような形だが、筋肉の付き方が人間を大きく超えている。片手には2メートルほどの両刃の大剣を握りしめ、いつでも戦闘を開始できる体勢のようだ。
 怪物の殺気に押され、純平が長さ一メートルほどのパイプを持つ両手にさらに力を入れた時、突然目の前に何かが上から降ってきた。
 (敵か!?)
 慌ててパイプを振ってきた物体に叩きつけようとしたが、その物体の正体にすぐ気がついて途中で手を止める。
 物体、いや『人間』はこちらに背を向けて怪物の方を見ていた。グレーの背広を着てい
る人間は、視線を変えぬまま着地の姿勢からゆっくりと立ち上がる。怪物や木人形たちは
一歩も動かず突然現れた人間を観察している。
 「羽佐間か?」
 混乱する頭を抑えようとする純平に、人間、羽佐間は肩越しに口を開く。
 「こいつらは俺がやる」
 言い終わる間もなく、羽佐間の足元に火がついて一瞬で燃え上がった。炎が羽佐間の足
から頭の先まで包み込んだが、今度も一瞬で足元の方から炎が消えていく。炎が消えてい
ったところからは、深緑一色のブーツやロングコートが姿を現していった。しかし、変わ
ったのは服装だけのように見える。
 「早く本来の標的を追え」
 呆然と観察していた純平を我に戻さすと、羽佐間は一歩だけ前に出た。純平は状況に
戸惑ってなかなか動けない。
 「この世界ではまともにスーツを着て戦えないだろう?」
 純平はじっと羽佐間の後姿を見ていたが、まもなく軽く頷くと、後ろを振り返って駆け
だす。それに合わせて木人形や怪物も動こうとするが、それよりも一瞬先に羽佐間が動い
た。
 「貴様らの相手は俺だ」
 言いながら、右手でコートの内側、左肩から下げているホルスターから、普通のオート
マチックよりも一回り大きくした拳銃を取り出して引き金を引く。銃口からは普通の弾丸
ではなく、弾丸の形に似た緑色に発光する玉が発射された。しかもフルオートらしく、引
き金を引いたまま、凄まじい速さで連射される。発砲音は普通の銃よりも小さくより高い
音が鳴っている。
 周囲に乱射するように銃を素早く動かすが、ただ無作為にやっているわけでなく、純平
を外してしっかり木人形たちに弾丸が当たっていく。緑色の弾丸を叩き込まれた木人形た
ちは為す術もなく体中を穴だらけにされて倒れ、闇へと消えていった。
 それでも他の木人形は羽佐間へと向かってゆく。羽佐間はひたすら撃ち続けていた銃を
素早く元のホルスターにしまい、そのまま今度は反対側のコート内に手を伸ばした。何か
を掴むと、勢いよく引っ張り出す。
 コートの中からは鈍い鉄色のショットガンが姿を現した。右手はしっかりグリップを掴
み、左手を銃身の先の方に当てて掴む。
 数秒とかからずその動作を終えると、近づいてきた木人形へと銃口を向けて引き金を引
く。轟音と共に散弾が発射され、まとめて三体ほど木人形が吹っ飛んだ。
 「こざかしい、雑魚めが!」
 初めて怪物が口を開いた。獣が唸るように低くかすれた声が羽佐間に届く。だが羽佐間
は何も言わず、怪物を見たまま手だけを動かして銃を横に向け、側面から襲い掛かろうと
した木人形めがけて引き金を引く。
 「バラバラにして喰ってやるわ!」
 吹き飛ぶ木人形をチラリと見ると、怪物は剣を構えて羽佐間へと駆け始めた。羽佐間が
ショットガンを怪物の胴体に向けて撃つが、怪物はそれよりも早く跳躍して羽佐間の頭上
から大剣を振りかぶって襲い掛かる。羽佐間が後ろに飛びのいてそれを避けると、元居た
場所の床に大剣が轟音と共に叩きつけられた。床の一部が損壊して破片となり、周囲に飛
び散る。
 怪物が床に埋まった剣を引き抜いて再び構えを取ると、羽佐間はショットガンを右手で
回転させながらコート内にしまう。そして両腕に力を込める。
 すると両手首の中から刃が飛び出した。例えるならショートソードの刃の部分だけが生
えたような。
 それを見た怪物は目を細めて動きを止めた。
 「・・・人間ではないようだな」
 羽佐間はそれに答えることなく、仁王立ちで怪物と対峙する。顔の表情もまったく変わ
ることはない。
 「ならば、全力をださせてもらおうか」
 怪物が剣をゆっくり頭上に掲げると、突然羽佐間を一瞬の眩暈が襲う。次の瞬間にはい
つの間にか周囲の景色が薄暗く見える。怪物の姿は忽然と消えていた。
 (・・・やはりナイトメアは自在に世界間の壁をこじ開けられるようだな)
 油断せず、ゆっくりと周りを見る。景色は薄暗く見えることを除いては先ほどとは変わ
りが無いように見える、が、さらに音がまったく聞こえてこなくなっている。自分だけが
この場に存在しているように感じた。
 『これで遠慮なく戦えるというものだ!』
 どこからともなく怪物の声が響いてきた。羽佐間はわずかに両膝を曲げて、いつでも素
早く動けるように構える。
 数秒が経過した後、羽佐間は何かを体で感じとってその場を飛びのいた。すると、羽佐
間の居た地点の床下から怪物が剣を先端にして飛び出してきた。もしあのまま居れば、怪
物の剣で串刺しにされていただろう。怪物は羽佐間と数メートルの距離を置いて着地した。
 羽佐間も飛びのいて着地したあと、すぐ先ほどの構えに戻る。
 「お前が人間でなかろうと、悪魔に勝てるわけが無い。しかも我はそこら辺の下等な悪
魔ではない! お前はこの場で我のエサとなるのだあぁっ!」
 「よくしゃべる悪魔も相当な下等だな」
 咆える怪物、悪魔に対して羽佐間は軽く挑発するだけだった。悪魔は獣のような咆え声
をあげる。大分頭にきたのだろう。小細工はせずに、真っ直ぐ羽佐間に斬りかかる。羽佐
間は体制を低くすると、自分も悪魔へと駆けた。
 悪魔が剣を横になぎ払おうと腕を動かすと同時に羽佐間はスライディングをして悪魔の
大きく開いた股の間をすべり抜けていく。その際、悪魔の両足を両手の刃で切り刻む。
 おもわず低いうめき声を上げてしゃがみこむ悪魔から数メートル離れて、羽佐間はスラ
イディングの姿勢から綺麗に立ち上がると、振り返りながら右手の刃を体内に戻しつつ振
り返ったと同時に右手でまたさっきの拳銃を抜くという行為を一瞬ですました。そして悪
魔の背中へと銃の引き金を引く。
 小高い音と共に緑色に発光する弾丸が発射され、悪魔の背中に何回、何十回と突き刺さ
る。悪魔は苦痛に顔を歪ませ、前のめりに倒れる。
 羽佐間は銃の引き金を戻し、うつ伏せに倒れている悪魔を静かに観察する。十数秒か一
分が経つと、悪魔はゆっくりと起き上がった。よく見ると身体中の傷口が、緩やかだが確
かにふさがり始めている。
 「その程度の攻撃で我を倒せはせん。だが、なんの生き物かは知らんが、これだけやっ
たことは賞賛に値する」
 悪魔はゆっくりと羽佐間へ振り返る。羽佐間は相変わらず無表情だった。それが悪魔を
苛立たせる。
 (何故、こやつは我を恐れん? 並大抵の生き物では悪魔である我に勝てるはずがない
のだぞっ!?)
 そんな悪魔の心を顔の表情から読み取ったのか、羽佐間はゆっくりと静かに、かつ小さ
く笑みを浮かべた。
 「下等は訂正してやる。肉体と口先だけが取り柄のゲスな悪魔だ」
 悪魔が怒りで咆えようと口を開きかけたが、羽佐間の微かな異変に気づいて動きを止め
る。
 羽佐間から異様な気配が漂い始めていた。そして体中に力を込める。最後に羽佐間が口
から低音の咆哮を上げると、身体から真っ赤なオーラが漂い始め、威圧感が周囲に広がる。
 「お前も悪魔かあっ!?」
 驚きと興奮で悪魔はおもわず羽佐間に一歩近づく。羽佐間は元の冷たい表情を顔に戻し
ている。
 「面白い、面白いっ、面白いぞおぉぉっ!」
 そう叫びながら、悪魔は口から大きな火の玉を吐き出した。火の玉は真っ直ぐ羽佐間へ
と飛んでいく。しかし、羽佐間は逃げようとはせず、声を出して気合を入れるだけだった。
火の玉は羽佐間の纏うオーラに当たると、弾けて霧散する。その衝撃でビル全体が揺れた。
 悪魔はそれに驚くことはなく、不敵に笑みを浮かべたまま剣を構えた。だが、羽佐間の
次の行動で笑みをかき消される。
 羽佐間は軽く溜息をつくと、左手の刃、右手の拳銃をさっさとしまってしまった。悪魔
は理解できずに動きを止める。
 「何故だ、今更命乞いかっ?」
 「馬鹿め、どこを見ている?」
 羽佐間のその言葉と視線の変化、そして何かの気配に気づいて悪魔がわずかに後ろに振
り返った。その瞬間から、悪魔の視界は間近に飛び込んできたブラックメタリックに輝く
人型の姿で埋まっていた。
 「咆えろ、俺のブロォッ!!」
 純平、ブラスターの輝く右拳が悪魔の胸元へと叩き込まれる。爆発と共に悪魔が吹き飛
ばされ、ブラスターはその場に両足でブレーキをかけ立ち止まる。
 悪魔は空中へと飛ばされたが、空中で体を一回転させて隣のビルの屋上になんとか着地
する。だが、胸元が酷く抉られていて中から蒸気のような物が噴出している。片膝を床に
つけたままなかなか立ち上がることができず、二人を睨みつける。
 「くそっ、硬いな、あいつ」
 こちらを睨んでいる悪魔を見ながら、ブラスターは愚痴をこぼした。必殺技を耐えきら
れた敵は初めてだ。
 「奴は当たる寸前で少し後ろに逃げてダメージを減らしていた。お前の踏み込みも甘か
ったようだ」
 羽佐間は悪魔を見ながら言った。純平は舌打するとまた改めて右手に力を込める。
 「もう最初の用件は済んだのか?」
 「あんまりすばしっこいんで、スーツを着装して手短に済ませた」
 二人は二、三の会話を交わしながらも悪魔を見つづける。対して悪魔は減らしたとはい
え相当なダメージを受けた胸元を苦しげに手で抑えながら、恨みの声を飛ばした。
 『またいずれ決着をつけよう。我の名はバルハック。憶えておけ、同類たちよ!』
 そう言うと、悪魔はふらつきながらもビルから飛び降りた。同時に景色が元の明るさ
(とはいっても真夜中だから明るくはないが)に戻る。遠くから車の走行音などが聞こえ
始めた。
 「・・・・・俺は人間だ」
 ブラスターは羽佐間が微かな声でそう言ったのを聞いた気がした。しかし、羽佐間はい
つもと変わらぬ顔で悪魔が元居た場所を見続けていた。



 「何年か前、俺は悪魔に取り憑かれた」
 超高層ビルの屋上で、フェンス越しから下に広がる街のイルミネーションの夜景を見な
がら羽佐間が口を開いた。翼は消えていて、元のスーツ姿になっている。羽佐間の横には
同じように元の姿に戻った純平が居る。
 「なんとか精神を乗っ取られるまでには至らなかったが、体は手遅れだった」
 二人は視線を交わすことなく夜景を見下ろしている。もうすぐ夜が明ける時刻だ。イル
ミネーションが少しずつ消えていく。
 羽佐間はそれ以上のことは何も言わなかった。純平も聞くことはしない。しばらく時が
静かに流れる。
 「お前が他人と思えないからだ」
 不意に羽佐間が口を開いた。純平は言葉の意味を理解しかねて羽佐間の方へ顔を向け、
目を見た。相変わらず冷たい表情だった羽佐間は、フェンスに背をむけ、静かに歩き始め
る。
 純平は黙って羽佐間の後姿を見送った。途中で羽佐間は歩みを止め、純平に背中を向け
たまま口を開いた。
 「・・・昨日の答えだ」
 羽佐間は再び歩き始め、さっさとビルの中に入っていった。純平は羽佐間の言葉の意味
を理解して表情を緩めた。そして口を開く。
 「前もどこかでこういうことがあったな」
 羽佐間に対してでも、自分に対してでもなくそう言うと、純平はズボンのベルトに挟ん
であった帽子を取り、深くかぶった。そして再び下の日の出の先端に照らされる風景に目
をやる。
 たまに吹く風が、身体に心地よかった。


〔ツリー構成〕

[217] じゅんぺい 2006.4.24(月)05:47 じゅんぺい (382)
・[218] 異次元戦士ブラスター 2006.4.24(月)05:52 じゅんぺい (449)
・[219] 異次元戦士ブラスター第一話『その名は異次元戦士ブラスター』 2006.4.24(月)05:57 じゅんぺい (16846)
・[220] 異次元戦士ブラスター第二話『発端となる帰郷』 2006.4.24(月)06:00 じゅんぺい (18602)
・[221] 異次元戦士ブラスター第三話『戦う覚悟』 2006.4.24(月)06:06 じゅんぺい (23510)
・[222] 異次元戦士ブラスター第四話『背負った自責』 2006.4.24(月)06:10 じゅんぺい (16485)
・[223] 異次元戦士ブラスター第五話『女子高生探偵? の事件簿』 2006.4.24(月)06:16 じゅんぺい (21452)
・[224] 異次元戦士ブラスター第六話『闇夜の想い』 2006.4.24(月)06:25 じゅんぺい (23241)
・[226] 長編:異次元戦士ブラスター第七話『火蓋は切って落とされた!』 2006.4.24(月)06:32 じゅんぺい (28802)
・[227] 長編:異次元戦士ブラスター第八話『破壊する者と守る者』 2006.4.24(月)06:35 じゅんぺい (29081)
・[228] 長編:異次元戦士ブラスター第九話『結びし絆の必殺剣』 2006.4.24(月)06:38 じゅんぺい (32843)
・[229] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』前編 2006.4.24(月)06:40 じゅんぺい (33489)
・[230] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』後編 2006.4.24(月)06:42 じゅんぺい (21373)
・[231] 長編:異次元戦士ブラスター第十一話『解け行く過去』 2006.4.24(月)06:45 じゅんぺい (31695)
・[232] あとがき 2006.4.24(月)06:59 じゅんぺい (1072)
・[238] 長編:異次元戦士ブラスター第十二話『邪念を超える信念』 2008.10.25(土)10:47 じゅんぺい (42895)
・[239] 感想です〜☆ 2008.10.27(月)18:23 CDマンボ (480)
・[240] どもども。 2008.10.30(木)11:00 じゅんぺい (423)
・[233] 短編:異次元戦士ブラスター外伝 2006.4.24(月)07:03 じゅんぺい (235)
・[234] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『勇者とお姫様』 2006.4.24(月)07:05 じゅんぺい (24185)
・[235] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『風と木漏れ日の中で』 2006.4.24(月)07:09 じゅんぺい (23975)
・[236] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』 2006.4.24(月)07:27 じゅんぺい (20527)
・[237] あとがき 2006.4.24(月)07:29 じゅんぺい (303)

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