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223 異次元戦士ブラスター第五話『女子高生探偵? の事件簿』
2006.4.24(月)06:16 - じゅんぺい - 8758 hit(s)

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 次元の狭間に存在する黄金宮殿内の謁見の間では、二メートル以上の鋼鉄の体を持つ機
械大元帥と、対照的に大きな憎悪を顔に出す小さな老婆=死霊大元帥が、空中に浮かぶ死
霊大元帥の顔ほどもある大きな水晶球を見ていた。いや、水晶球内に映る映像を見ていた。
 水晶球には、メタリックブラックの装甲を身にまとった戦士が手長ザルのような怪物と
戦っている。
 「見ての通り、この異次元戦士の特徴は秀でた接近戦闘能力にある。それが長所であり、
短所でもある」
 ニヤリと死霊大元帥が笑う。説明を受けた機械大元帥も、目のカメラのズームを動かし
大きく笑った。
 「なるほど、奴の弱点は分かった。所詮は人間か」
 水晶球の映像が消え、死霊大元帥の手元に戻ってくる。機械大元帥は拳を握り締めると、
床に強く打ち付けた。
 「何のとりえも持たない人種、下等動物が。覚悟しているがいい!」
 特殊な金属でできた床は、鋼鉄の拳によって破片を巻き上げながら大きく穴を開けた。



 「いやあ、最近のゲームはおもしろいよ」
 昼下がり、通いなれた酒場『じゅらい亭』にてふもふもと昼食をとる純平は、隣に座る
仕事の同僚のゼロにせっせと最近ハマっていることを説いている。ゼロはただ単にするこ
とが無いため、文句一つ言わずに純平の話を聞いていた。今日は担当世界の見回りを昼前
にさっさと済ませてある。
 「群がる悪魔相手にたった一人、剣や銃で立ち向かっていくなんてカッコよすぎるぜ、
まったく!」
 コップ内のオレンジジュースを一気に飲み干して、純平は溜息をついた。自分の世界で
友人の颯樹にやらせてもらったゲームがよっぽど気に入ったらしく、最近はその話しかし
ない。
 そして今まで何度となく口にしたことをまた言う。
 「ああ、飛び道具がほしいなあ! カスタムハンドガンとかビームライフルとか、もう
腕や額から発射する光線技でもいいや」
 「なら、自爆ボタンでもつければ?」
 溜息をもらしつつグチをこぼす純平に気楽な口調でゼロが言う。純平はジト目でゼロを
見た。
 「・・・お前、嫌がらせだろ?」
 酔っ払いにカラまれているような気分になったゼロは、もう純平を相手にすることはせ
ず、目の前のジュースを飲むことだけに専念した。それを見た純平はいつまでも持ってい
たコップを強くカウンターに置き、ゼロへと完全に体を向けた。
 「お前、飛び道具たくさん持ってるじゃん。俺にも分けてくれよ!」
 からんでくる純平を、ゼロは「はいはい」と軽くあしらいつつ、
 「僕のは精霊魔法。純平はそれが存在しない世界の人間なんだから仕方がないでしょ」
 ゼロは精霊を友に持つエルフと人間から生まれたハーフエルフである。そのため幼いこ
ろから精霊の力を借りた魔法が使えるようになっていた。彼の持つ、人間よりも少し細長
い耳がそれを物語っている。
 「そんなにほしかったら、自分の腕でも飛ばしなよ」
 「俺の体は機械か!?」
 「もう、我がままだなあ」
 「それを我がままとぬかすか!?」
 やや細長い耳を軽く片手で掻きつつ、やれやれと肩をすくめたゼロに対し、今にも噛み
付きそうな勢いで迫る純平は、入口の方へ指をさした。
 「表、出ろ。俺のトリプルクロスカウンターを決めてやるっ!」
 「・・・僕の精霊魔法をどうやってカウンターするの?」
 ゼロに冷ややかに言われた純平はショックで固まり、しばらくするとカウンターのテー
ブルに泣きながら突っ伏した。
 「飛び道具なんか、大っ嫌いだあっ!!」
 ゼロはまあまあと純平の背中を叩いてやる。
 「またアニメとかトクサツバングミとか見て作ればいいじゃん。さあ、そろそろ午後の
仕事に戻ろうよ」
 椅子から立ち上がると、まだむせび泣く純平の背中を引っ張り上げ、立たせる。
 純平は沸き立つ悲しみをなんとか抑えつつ、ゼロへと真剣な顔を向けた。ゼロも真剣な
顔つきになっている。
 二人の間を数秒の沈黙が流れたあと、2人は同時に片手を前に差し出した。無言でジャ
ンケンをし、ゼロはグー、純平はチョキを出す。さっさと外に出て行くクリスを背に、純
平は舌打ちしながら自分のサイフを取り出して、2人分の代金を支払った。



 人の気配が途絶えた都市の隅で、純平は左手の甲に埋め込まれたクリスタルを使い、異
次元から車を呼び出す。スマートな車体の黄色い車は次元の壁を突き破り、純平の前に急
ブレーキで荒々しく止まった。
 「あれ、グランランサーはどうしたの?」
 横に居たゼロが純平の愛用のバイクの名を口にする。純平は溜息をついて、
 「この前、『機械何とか』ってほざく奴がいたろ? あいつに体当たりさせた時にイカ
れて、今修理中」
 ポンっと先輩から借りた車のボンネットに手を置く。水をエネルギーに変える高性能の
エンジンが大きく震えている。
 ゼロは自分のバイクを呼び出すとそれにまたがり、軽く挨拶に片手を上げてバイクを発
進させた。純平は担当世界に戻るゼロを見送ると、車の運転席側のドアを開ける。
 「・・・ん?」
 一瞬、何か視線を感じて純平は後ろを振り返った。しかし、周りには木々がいくつか立
っているだけで、人は誰も居ない。
 別に殺気を感じたわけではないが、念のために純平は車のドアを閉めて、視線を感じた
原因を調べに車を後にした。視線を感じた方向へ歩き出す。
 車から少し距離をとった純平は気づかなかったが、純平が向かった方向とは正反対から
小柄な人影が急いで車に走り寄り、後部座席に乗り込んでいた。
 「・・・・・おかしいな、気のせいかな?」
 しばらくするとぶつぶつと文句を言いつつ、純平が戻ってきた。後部座席の下に潜りこ
んでいる人影には気づかず、さっさと運転席のドアを開け、乗り込む。
 車はもういつでも発進できる状態にあった。純平は座席横にある大きなレバーを手前に
引き、アクセルを踏み込む。
 車は急発進して次元の壁を突き破り、次元の狭間に入った。



 車が止まってしばらくしたのち、人影は車内や周りに人がいないことを確認すると、座
席下から這い出てきた。
 「もう、体のあちこちが痛いよう」
 軽く背伸びをしつつ、後部座席に座る。車の外を見ると、どうやら建物内らしい。周り
にはたくさんの車やバイクなどの乗り物が規則正しく整列して停めてある。しかしその数
が半端ではなかった。おそらく百台以上はあるだろう。
 「うわー、すごーい! ここにじゅんじゅんが居るんだあ」
 人影、10代の半ばほどで華奢な体にガングロメイクという容姿を持つ少女は、しばら
く窓から壮大な景色を見た後、純平を探しに行こうと、ドアを開けようとする。が、急に
辺りが騒がしくなったので慌てて座席の下に身を潜めた。
 たくさんの人の話し声や足音が聞こえ始め、しばらくすると運転席のドアが開いた。誰
かが乗り込み、エンジンをかけてあちこちスイッチを入れている。
 「先輩、どんな調整してるんだろ? かなりの暴れ馬だぜ。ったく」
 荒れ狂うようなエンジン音を上げる車に文句を言ってるのはどうやら純平らしい。座席
下から少し顔を上げて見上げるように様子を見ると、純平は外を見て仲間たちに軽く手で
挨拶したあと車を発進させた。どうやらまったくこちらには気づいていないらしい。服の
中に縫いこんでいるマジックアイテムの効果が出ているからだろう。
 (こうなったら、徹底的にじゅんじゅんの秘密を暴いてやるんだから!)
 最近こっちがいくらデートに誘っても、「仕事が忙しいから」とまったく相手にしてく
れない純平に腹を立て、その仕事とやらを見てやろうと決めてから5日後。自分の小遣い
をはたいて買ったマジックアイテムや、最近よく通う冒険者の店の常連から教わった尾行
テクニックを駆使し、やっと尾行することに成功した。今まで仕事のことを尋ねても言葉
を濁すだけだったのだ。きっと何かすごい秘密が・・・
 高校からの下校途中だったため、服装は制服のままである。知らない者が見たら、誰も
彼女が一国のお姫様だとは分かるはずがない。知っている者からしても、信じられないこ
とではある。その代表格が実は純平なのだが。
 車の中に小さなノイズ音が響いた。純平はハンドル脇にある小さなスイッチを押し、誰
かと話し始めた。
 「・・・はい。この前の敵は力押しでは来ませんでした。・・・・・大丈夫です。今も
自分が怖いですが、なんとか」
 彼女には純平が誰と何のことを話しているのか分からなかったが、純平の言葉には元気
がないように思えた。
 「・・・・・隊長は、大切な人を斬った夢を見たことがありますか?」
 その言葉以降、車は静寂に包まれた。
 しばらくの沈黙のあと、突然車内に甲高いサイレンのような音が鳴り響いた。驚いて顔
を少し上げると、純平が何やらスイッチをいじっているのが見えた。焦る声も聞こえてく
る。
 「ブラスターより本部へ。現在アルディオスに帰還中だが、次元の歪みを確認した。何
かが無理矢理次元間を移動したらしい。近くに居るので追跡を開始する」
 それ以降はまた沈黙が訪れた。かすかにハンドルを動かしたりする音が聞こえるが、純
平は何も口にしない。車内に少しずつ緊張感が漂い始める。
 「またあの組織か? この前の礼を嫌というほど返してやる」
 『隊長』・『本部』・『追跡』・『組織』・・・分からない単語だらけを口にした純平。
仕事というのは警察なのだろうかと、彼女は考えた。しかし、いつも私服姿で行動してい
るので、仕事をしているようには思えない。いくら考えても答えは出てこなかった。やは
りもう少し尾行しなければ。
 結論を出したところで急に車が激しく揺れだした。デコボコ道を走っているらしく、何
度も舌を噛みそうになる。声も出してしまいそうだったが、手で口を抑えてなんとかこら
える。
 「早く止まれ!」と三十回程祈ったところで車はやっと停車した。
 停車してすぐ車のエンジンは切れ、ドアを開け、閉める音が流れるように聞こえた。純
平はさっさと車を出たらしい。
 そして彼女、エミーの尾行は再開された。



 視界には瓦礫の山と化した建物の残骸しか入らない。もともとは文明が栄えた世界だっ
たらしいが、今では地上に住む者は無く、地下社会を築いているらしい。自分の担当世界
ではないので詳しくは分からないが。
 文明の残骸となった瓦礫を軽く片足で蹴飛ばす。すでに風化され始めていた材質も分か
らない瓦礫は、粉々になって風にまぎれるように飛んでいった。その光景が風景の寂しさ
をあおる。
 気を取り直して、探索を始める。誰が何をしようとしているのかは分からないが、この
世界に干渉するのを防がなくてはならない。それが悪いことならなおさらだ。
 (・・・?)
 純平の視界の片隅に、人影のようなものが現れた。かなり遠くにいるようだが、ここか
らではこの世界の人間なのかどうか分からない。
 その後すぐ、人影のようなものは瓦礫の影に入って視界から姿を消した。純平は不審に
思いながらも、人影が消えた瓦礫のところまで向かった。
 5分も歩いたころにはその場所に着いた。瓦礫は元々は何かの建物だったのだろうが、
今は片辺の壁しか残されていない。それすらも、削られるように酷く崩れていた。
 周りに地下への入口などは見当たらない。さっき見た物も見つからず、さらに不審感を
つのらせて、周囲にくまなく目を向ける。すると・・・
 地面に闇が生まれ、そこから飾り気のない木人形のような物体が数体這い出てきた。
 (この前と同じ奴らか?)
 つい最近見た憶えがある木人形たちは素手で純平に殴りかかってきた。戦うしかないと
覚悟した純平は、向かってきた一体目の腹部をカウンターで蹴りつけた。倍以上の威力に
なった蹴りをくらい、木人形はハデに吹き飛ぶ。二体目、三体目は敵の攻撃をかわしつつ、
隙を見つけては顔面を殴り倒す。四体目からは少し勝手が違い、その手にはナイフなどの
小さい刃物が握られていた。
 まだ実戦に慣れきっていない恐怖心をなんとか抑え、冷静に対処しようと努める。ナイ
フで斬りかかってくる腕を危なげに左手で掴み、反時計周りに捻る。右腕を逆関節に捻ら
れた木人形はたまらず(目や鼻が無いので表情は分からないが)体勢を崩す。さらに全力
で捻りつつ右足を左足で勢いよく払ってやると、綺麗に宙に浮き上がり、一回転して木人
形は地面に叩きつけられた。すぐさま、手を離しその場から離れる。敵に背後を取られる
のが一番危ないからだ。
 数体の敵と距離をとりつつ、着ているサバイバルチョッキの裏ポケットから十センチほ
どの銀色に光る金属棒を取り出す。右手だけで持ち、おもいっきり空を払う。すると金属
棒は三十センチほどに伸びた。特殊警棒である。
 特殊警棒を使い、刃物と対峙する。一体の首を警棒で殴って倒すと、ふと何か嫌な予感
を憶えて、純平は慌てて上半身を後方へ引かせる。
 遠くから高速で飛んできたいくつもの小さな弾丸が、鋭い音を立てて純平の顔や体をか
すめていく。そして弾の進行方向にあった瓦礫の壁を貫通した。
 「危ねえ、カスったあ!」
 体中に冷や汗を浮かべつつ、考える間もなく急いで地面を転がって、近くの遮蔽物にな
りそうな建物の廃墟の影に身を潜めた。同時に銃弾の雨が純平の元へと降り注ぎ、壁の端
が飛んでくる銃弾で削られていく。
 「・・・罠か。ちっ、どうすっかな」
 無用心だった自分を悔やみながら、警棒を壁に垂直に勢いよく突きつけて畳んでいると、
突然銃弾の雨が止んだ。少し覗いてみると、遠くに木人形の集団が銃を構えてこちらに向
けていた。そのうちの一体が大きなバズーカ砲を担いでこちらに向けているのが見える。
 「マジかよ!」
 慌てて建物から離れようとする。しかし、動こうとしたのと敵がバズーカ砲の引き金を
引いたのはほぼ同時だった。
 「烈破!」
 爆発する建物を背に、敵の前に飛び出してきた純平の体を青い光が一瞬包み、次の瞬間
にはメタリックブラックに輝くスーツを全身にまとっていた。
 ブラスターとなった後、地面を転がりながら再びせまる銃弾の雨をよけつつ器用に起き
上がると、左手を前に突き出す。
 「アタック・シールド!」
 左手の先から半径一メートルほどの青色の円が現れ、銃弾をはじき返していく。それで
も敵は撃つのを止めない。
 (くそっ、バリアってかなりエネルギーを喰うんだぞ!)
 心の中で敵に文句を言ったあと、青い円を消し、今度は高速で走り始める。
 「うおおりゃあ!」
 銃弾を潜り抜けながら高速であちこちと走り、敵をかく乱させたあと素早く敵の一体に
近寄り殴り倒す。そして銃弾の雨にさらされる前にまた走り出し、かく乱させたあと一体
を殴り倒すという風に繰り返す。しかしこのままではラチがあかない。焦りが体を駆け巡
り、冷静さを失いつつある。その時、
 “・・・・・?”
 足に何か違和感を憶えた。だが、今は気にしている暇は無い。と、次の瞬間、よそ見し
たスキをつかれ、敵の銃弾の数発が、動きが鈍くなったブラスターの身体に直撃した。当
たった胸から火花が飛び散り、衝撃で一、二メートルほど後ろに飛ばされて倒れる。
 慌てて銃弾の雨をかわそうと体を地面の上で転がし、敵から距離をあけつつ、足で反動
をつけて素早く起き上がる。
 「痛てえじゃねえか!」
 近くのガレキの山に急いで身を隠し、クリスタルの力を使って異次元から左手に剣を転
送させる。しかし、ふと剣に目をやり、少し見つめた後苦々しい顔で舌打して剣を異次元
に戻す。そうしているとまた、
 (何だ、さっきから足が・・・)
 足が違和感を憶えたままだった。今気が付いたが、足の膝から下が、うす青く発光して
いる。しかもわずかながら放電しているようだった。どうなっているのか、自分でも分か
らなかった。
 (敵の攻撃にでもやられたか?)
 とにかく今は敵の方に専念しなければならない。故障にしろ何にしろ、全ては敵を倒し
たあとだ。敵はあくまで遠距離からの攻撃にしぼっている。やはりこちらの弱点をついて
きているようだ。
 (逃げるか? ・・・いや、これをクリアしない限り同じことの繰り返しだ)
 銃弾が空気を裂いていく音を耳にしつつ、またふと自分の足を見る。足の放電はさらに
大きくなっているようだった。そして思いつく。
 (イチかバチか!)
 頭の中で『それ』をイメージしつつ、両足に全エネルギーを集中させる。放電はますま
す大きくなり、それを確認すると、ガレキから勢いよく飛び出す。
 「とおりゃあっ!」
 気合と共に右足で回し蹴りを放つと、足が通った軌道から半月形の青いエネルギーの固
まりが高速で飛んでいった。さらに続けて、銃弾をかわすようにしゃがみながら左足で地
を這う回し蹴りを放つ。同様に地を這うエネルギーの固まりが飛んでいった。しかしブラ
スターは大量の銃弾を身体に浴びて吹き飛ばされる。
 同時にブラスターの放ったエネルギーの固まりが木人形に触れると、その部分を切断し、
木人形たちを真っ二つにしていった。ある者は体を、ある者は腕を、ある者は足を切断さ
れ、もがきながら闇となり、地面に溶けて消えていく。
 「なめてんじゃねえぞ、こらあ!」
 なんとか立ち上がると、また数発のエネルギーの固まりを足から放つ。木人形たちはな
すすべもなく青い半月円に倒されていった。
 木人形たちを全て倒したことを確認すると、ブラスターは大きく息を吐いた。身体のあ
ちこちが痛む。数十発もの銃弾を浴びているから当たり前なのだが、コンバットスーツの
あちこちがだいぶ破損している。スーツを着ていなければ、最初の1・2発ぐらいで即死
だったろう。
 「・・・人間の意志力をなめてんじゃねえよ」
 呼吸を荒くしながら、自分の足を見る。足にまとっていた光は消えており、違和感も消
えている。やはりまだなんだったのか分からない。
 今のブラスターは疲れのために、それ以上考えるのを放棄した。ただ早く休みたいと思
う。
 「・・・もう、帰ろう・・ぐっ!?」
 車の元へ帰ろうとすると、真後ろから突然首を締められた。強力な力で、振りほどくこ
とができない。
 慌てて両足を宙に振り上げ、地面におろす力を利用して背負い投げの要領で後ろの敵を
投げる。昔、巳滄流古武術で習った、躁崩華(そうほうか)という技だ。
 ブラスターの首を締めていた腕を放し、地面に叩きつけられた敵は、よく見ると人型の
ロボットだった。ブラスターと同じくらいの身長の不恰好なロボットは、起き上がりざま
に銃器になっている右腕をこちらに向けた。
 「やべっ!」
 至近距離からマシンガンの弾丸を発射され、急いで横に飛びのいてさらに後方に下がり
距離を置く。ロボットは右腕の銃を撃ちっぱなしにしつつ、フタになっていたらしい胸を
勢いよく開ける。その中から大量の小型ミサイルが発射された。
 ロボットから一定の距離をおき、あちこちに飛びのいてミサイルをかわす。大爆発して
いく周りに気を止めることなく、一瞬の隙を伺うとちらりと足元を見る。さっきの技はで
きる様子はない。だが、勝てる要素はあった。
 「一対一なら大丈夫だ!」
 左手に意識を集中し、その手で右腕をなぞっていく。なぞられた右腕が薄青く発光し始
めた。そして向かってくる十数発程のミサイルの束に向かって、全力で振りかぶった右腕
を叩き付ける。
 「くらえぇっ!」
 ミサイルの束がブラスターの右拳によって一気にまとめて爆発した。爆風の中に飲み込
まれたブラスターは、一秒後には中から飛び出してきた。
 右腕のエネルギーによって爆発の威力が相殺されたため、ミサイルによるダメージは受
けていない。
 一回の踏み出しで爆発的な加速力を見せ、ブラスターは走り出す。止むことの無いミサ
イルと銃弾の雨を猛スピードで駆け抜けながら、また左手に意識を集中し、その手で右腕
をなぞっていく。なぞられた右腕が薄青く発光し始める。
 「見せてやるよ。これが炎轟一式・改【駆琉葩(くるは)】だ!」
 あっという間にロボットの側面に移動し、こちらに振り向かれる前に、全力の右腕で下
から思い切りすくい上げるようにボディブローを放った。脇腹に突き刺さると、その部分
からロボットの方へエネルギーが流れて爆発が起こり、ロボットは空中へと吹き飛ばされ
た。
 脇腹を大きくえぐられ、遠くの地面に激しく叩きつけられると、ロボットはなんとか起
き上がろうとしたが、微妙に身体を振るわせただけで動きが止まる。そしてロボットが大
爆発を起こす。
 間もなく、エネルギーを使いすぎたために、コンバットスーツが元の特殊記憶合金の粒
子に戻って空中に霧散していく。純平は体から力が抜け、地面に片膝をついた。「もう敵
は居ないよな」と願いつつ、とりあえず、少し休むことにした。



 遠くの物陰からこっそり見ていたエミーは、今までのことを呆然と見ていた。
 「・・・うそ・・?」
 こんな危険なことを彼はいつもしているのだろうか? そもそも彼はなぜ戦っているの
だろう?
 エミーは混乱する頭をなんとかしようと、とりあえずブラスター、純平の方へ向かおう
とする。
 「俺が来るまでもなかったな」
 突然背後から声がした。エミーが慌てて後ろを振り返ると、いつの間にか人が立ってい
て、同じように純平を見ていた。
 純平よりも少し年上ぐらいで、上から下まで白ずくめの格好をした、銀髪の体格の良い
男が腕組みをしている。純平の方からゆっくりと視線をエミーへと向けた。
 「ブラスターもまだまだだな。素人に後をつけられるとは」
 男は怒っているわけでも笑っているわけでもなかった。エミーはブラスターという単語
が分からず、さらにどうしてよいのか分からないため、ただ黙って男を見つめ返す。と、
男がまた口をひらいた。
 「君の記憶を消すのはそう難しくないが、あまりそういうことは好きじゃないんでね」
 男はそう言いつつ、胸のポケットからタバコを取り出し、一本だけ抜いて口にくわえる。
 「どうする気? あんた、誰?」
 いつでも純平の元に逃げられるように、じりじりと少しずつ移動するエミー。男は尋ね
られても答える様子は見せず、マッチをポケットから取り出して、親指の爪でこすり火を
つけ、タバコの先に当てる。そのうち、タバコから紫煙が出始めると、タバコを手に持ち、
やっと口を開いた。
 「まあ、こちらの話を聞いてもらって、君の意見を聞いてから決めるよ。それから俺は
ブラスター、純平の上司だ。悪いようにはしないよ、ついてきてくれ」
 片手で「ついてこい」と合図しながら、男は背中を向けて歩き出した。エミーは車の方
へと向かおうとする純平と男を交互に見て、少し考えたあと男についていくことにした。
男が悪者のようには見えなかったからだ。



 翌日、純平は仕事の担当世界である、自分の生まれ育った世界に居た。バイクに乗りな
がら、あちこちと見て回る。いつもの巡回だった。
 不意に左手のクリスタルが青く発光し始めた。誰かからの通信である。バイクを近くの
路上に停め、クリスタルをヘルメットに近づける。
 『よう、調子はどうだ、ブラスター』
 声は隊長だった。純平はクリスタルに小さく話し掛ける。
 「今朝頼みました件はどうでしたか?」
 『調査結果によると、お前の脚力がスーツの限界反応を超えたのが原因でエネルギーが
暴走して足にエネルギーが集まり、その場のお前のイメージと結びついた結果があの技ら
しい』
 「はあ・・・なるほど」
 純平にはあまりよく分からなかったが、結局昨日の足の飛び道具は偶然の産物らしい。
 『またできるかどうかは分からないってよ』
 純平の考えの先を越して隊長が付け加えた。純平は極端に肩を落として溜息をついた。
せっかく自分にも飛び道具が使えるようになったと思ったのに。
 『でも、カッコよかったよ、じゅんじゅん』
 不意に女性の声が聞こえた。純平は思わずけげんな顔でクリスタルを見る。
 『ああ、そうそう。今度あたらしくオペレーター等をやってもらうことになった人を紹
介しよう』
 次に嬉々とした女性の声が聞こえてきた。
 『今度から【バイト】で働くことになった、エミーです。よろしくね、じゅ・・・ブラ
スター♪』
 「・・・・・・はあっ?」
 かなり間の抜けた声を出して、純平は絶句した。「何故、何で、どうして?」と言おう
とするが、口がパクパクと動いただけだった。歩道を歩く通行人たちが通り間際に不思議
そうに純平を見ていくが本人は気づいていない。
 『・・・というわけだ。以上』
 『じゃあね♪』
 「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」
 通信を切ろうとする隊長を慌てて止める。気持ちが通じたのか通信はまだ切れず、クリ
スタルからまた隊長の声が聞こえてきた。
 『ああ、それから、昨日の調書、内容が少ないから書き直しな』
 そして今度こそ、通信は切れた。純平はそれでも、声を発し続けた。
 「隊長! ねえ、ちょっと! 隊長おぉっ!!」
 無情にもクリスタルから光が消えていく。完全に光が消えたあとでも、純平は必死にク
リスタルに叫び続けた。
 「隊長おおぉっ! あんた鬼だああぁっ」



 ブラスターとの通信を切ったあと、横に居るエミーの方を見た。エミーは笑い転げなが
ら通信用のマイクを見ている。よほど純平のうろたえた応対ぶりがおもしろかったのだろ
う。まあ、確かにおもしろかったが。
 「もう、後戻りはできないぞ。これでいいのか?」
 エミーに最後の確認をとる。彼女が危険な任務につく道理は無いのだ。
 しかし、エミーはこちらの気持ちを知ってか知らずか、笑うのをなんとか止めようとし
ている。そしてやっと止めると、笑顔でこちらを見た。
 「もう決めたもん。それに後悔するぐらいなら、もとからやんないよ」
 そう言うと、周りを見渡して、現在居るオペレータールーム内の設備をおもしろそうに
見る。様々な世界の科学が結晶した技術で作られた通信機があちこちに設置され、それが
エミーの好奇心をくすぐっているのだ。
 (こういう人間たちがいるから、異次元戦士はやめられないな)
 エミーを横目で見ながら、静かに笑った。しばらくの間、エミーのはしゃぐ声がオペレ
ータールーム内に響いていた。


〔ツリー構成〕

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・[221] 異次元戦士ブラスター第三話『戦う覚悟』 2006.4.24(月)06:06 じゅんぺい (23510)
・[222] 異次元戦士ブラスター第四話『背負った自責』 2006.4.24(月)06:10 じゅんぺい (16485)
・[223] 異次元戦士ブラスター第五話『女子高生探偵? の事件簿』 2006.4.24(月)06:16 じゅんぺい (21452)
・[224] 異次元戦士ブラスター第六話『闇夜の想い』 2006.4.24(月)06:25 じゅんぺい (23241)
・[226] 長編:異次元戦士ブラスター第七話『火蓋は切って落とされた!』 2006.4.24(月)06:32 じゅんぺい (28802)
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・[228] 長編:異次元戦士ブラスター第九話『結びし絆の必殺剣』 2006.4.24(月)06:38 じゅんぺい (32843)
・[229] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』前編 2006.4.24(月)06:40 じゅんぺい (33489)
・[230] 長編:異次元戦士ブラスター第十話『信念を貫く者たち』後編 2006.4.24(月)06:42 じゅんぺい (21373)
・[231] 長編:異次元戦士ブラスター第十一話『解け行く過去』 2006.4.24(月)06:45 じゅんぺい (31695)
・[232] あとがき 2006.4.24(月)06:59 じゅんぺい (1072)
・[238] 長編:異次元戦士ブラスター第十二話『邪念を超える信念』 2008.10.25(土)10:47 じゅんぺい (42895)
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・[240] どもども。 2008.10.30(木)11:00 じゅんぺい (423)
・[233] 短編:異次元戦士ブラスター外伝 2006.4.24(月)07:03 じゅんぺい (235)
・[234] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『勇者とお姫様』 2006.4.24(月)07:05 じゅんぺい (24185)
・[235] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『風と木漏れ日の中で』 2006.4.24(月)07:09 じゅんぺい (23975)
・[236] 短編:異次元戦士ブラスター外伝『真夜中の秘密』 2006.4.24(月)07:27 じゅんぺい (20527)
・[237] あとがき 2006.4.24(月)07:29 じゅんぺい (303)

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