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222 異次元戦士ブラスター第四話『背負った自責』
2006.4.24(月)06:10 - じゅんぺい - 8770 hit(s)

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 いつものごとく天気の良い昼間。の、巳滄流古武術の道場にて。
 うっすらと床や壁の木の匂いが漂う中、純平は青いGパンに黒いTシャツという格好で
床に座り、壁にもたれかかっていた。両手には指先が無い黒いグローブをはめている。
 「・・・美沙は田舎に行ったんですか」
 自分の妹の名を口に出しつつ、片手に持っていた五百ミリリットルのペットボトルを
口に持っていく。オレンジジュースの甘い味が匂いと共に咽喉を通っていった。
 道場の中央に居る道着姿の若い女性、颯樹は左腕を腰に置きながら純平と会話を続ける。
 「墓参りだってよ。アホの祖父の一回忌らしいじゃねえか。新しく墓を建てたそうだ」
 「そうっすか」
 また純平はオレンジジュースを口に入れた。颯樹は純平の様子を見て目つきを鋭くする。
 「お前、葬式にも参加しなかったそうじゃねえか。なんとも思わないのか?」                                                       純平は何も言わず、オレンジジュースを飲みつづけた。颯樹は一度溜息をつくと表情を元に戻した。そして話を続ける。
 「まあいいけどよ。・・・ところでさあ、明日、ヒマか?」
 尋ねられた純平は、視線をペットボトルから颯樹へと上げ、少し考えてから、
 「確か、大丈夫だったはずっすよ。はい」
 「じゃあ、祭りに行かないか?」
 数回まばたきして数十秒考える。やがてポンッと手を打った。
 「ああ、そういえば近くの神社でお祭りがありましたっけ」
 「昔からあったんだぞ、行ったことがないのか?」
 ジト目で見る颯樹に、純平は軽く頭をかいた。昔、何度か友人と行ったことがあったの
を思いだす。お好み焼きとチョコバナナを同時に食べて腹痛を起こした時から良い思いで
があまりないが。
 「で、どうなんだ?」
 答えをせかす颯樹に純平はこともなげに頷いた。
 「別にいいっすけど?」
 「そうか!」
 颯樹は飛び上がりそうなほど喜ぶと、はたと純平の不思議そうな視線に気づいて慌てて
表情を元に戻す。
 「勘違いするなよ!? あたしはただ暇だから誘ったわけで、ほら、あの、【枯れ木も
山の賑わい】って言うだろっ?」
 颯樹の勢いに押され、純平は上半身だけを後ろに少しのけぞらせながら何度も急いで頷
いた。はあはあと息を荒げる颯樹は、(本人にとっては)さりげなく違う話に移した。つ
つつ・・・と純平の近くに寄る。
 「あ、あのさあ、何・・・着ていったら良いと思う?」
 颯樹の問いに「僕に聞いてるんっすか?」と自分を指さした純平。何度も強く頷かれ、
仕方なく考える。こういったことには本当に無頓着なため、颯樹をよく観察し長い間悩ん
だ。颯樹は期待の目で答えを待っている。
 答えが出たのか、突然ポンッと手を打って純平は口を開いた。颯樹は体を乗り出して答
えを待った。
 「奇を狙って、道着はどうです?」
 次の瞬間、颯樹の右足のかかとが純平の頭に炸裂していた。



 次元の狭間にある黄金宮の謁見の間では、年老いた老婆=死霊大元帥が自分の顔ほどの
大きな水晶球を胸の高さまで浮かせてのぞき、不気味な笑みを浮かべていた。
 「大分、たまったのう」
 「くだらんな」
 謁見の間の入り口に緑色のマントを羽織った人型ロボット=機械大元帥が居た。2メー
トル以上の巨体で死霊大元帥を見下ろすように見る。
 死霊大元帥は振り返りもせず、嫌悪の表情を浮かべる。機械大元帥は目のズームカメラ
を少し動かすと、再び口を開いた。
 「人の恐怖の念ばかりを集めて何がおもしろい?」
 「うるさい! 失敗ばかりのキサマに言われることは何も無いわっ! 負の念は良いエ
ネルギーになるんじゃ」
 死霊大元帥はここで機械大元帥へと振り返り、水晶球を機械大元帥に向けた。水晶球の
中では濃い紫色の渦がまいている。機械大元帥は「フン」と死霊大元帥に背を向けた。死
霊大元帥はニタリと笑い、
 「この前も二度に渡って異次元戦士に邪魔されたそうじゃの。二度目などは精霊使いの
異次元戦士たった一人にだとか」
 機械大元帥は舌打ちして、金属が擦れるような足音を大きく立てて出て行った。死霊大
元帥はしてやったりと不気味に笑ったあと、再び水晶球を覗き込んだ。



 小さな街とは対照的に大きな神社は人の群れでごったがえしていた。人ゴミはあまり好
きではないが、祭り自体は嫌いではない。そんな純平は帽子を深くかぶりつつも、あちこ
ちと視線を動かす。大音量の太鼓や笛の音が耳にぶつかってきている。
 いつもの格好をした純平の横では、颯樹がついて歩いている。服装はTシャツにズボン
という普通の私服だった。
 純平は他の通行人にぶつからないよう避けつつ、小さな声で颯樹に尋ねた。
 「あのう、美沙の正体はバレてませんか?」
 「ああ、大丈夫だよ。たまに耳やしっぽを出しちまうけど、他の誰かに見られ
たってことは無いし」
 「それならいいんですけど」
 難しい顔をして悩む純平を見て、颯樹は困った顔を浮かべた。何か楽しい話題になる物
を探す。
 「おっ、小物屋だ」
 颯樹はふと目にとまった出店に近寄り、赤い布がしかれたテーブルの上にある小物類を
見回した。純平も颯樹の後をついていき、その横で一緒になって売られている品物を見る。
小さな置物や女性用の髪どめ・ペンダントが、そこそこの値段で売られていた。値段通り、
品質もそこそこのようだが。
 「颯樹さん、これなんか買ってみたらどうです?」
 純平は布製の細長く淡い赤色のリボンを手にとって颯樹に見せた。颯樹はリボンを見て
軽く笑う。
 「リボンなんて、まるであたしが女みたいじゃないか」
 「だって、女性じゃないっすか」
 「・・・・・え?」
 颯樹は笑いをピタリと止め、純平の顔を見る。純平は不思議そうな顔をしていた。
 「でしょ?」
 「・・・・・・・あ、ああ」
 視線を泳がせ少し頷く颯樹の動揺を知ってか知らずか、純平はリボンと皐月とを見比べ
て笑う。
 「颯樹さん、髪をおろすと腰まで来るでしょ? それにリボンをつけたら似合うと思い
ますよ」
 顔を赤くしてあさっての方向を向く颯樹を置いて、純平は店番のおじさんにお金を渡す。
そして颯樹の前にリボンを差し出した。
 「いつも妹がお世話になってますから」
 颯樹は無言でリボンを受け取った。ふと、おじさんがニヤニヤと笑ってこちらを見てい
ることに気が付くと、「もう、やめてよ」と照れ隠しに漫才の突っ込みのようにチョップ
をおじさんの体にヒットさせる。
 「ほ、他のところに行こうぜ」
 颯樹は慌てて店を後にしようと、純平の腕を引っ張った。純平はやけに大ダメージを受
けているおじさんを見て「今のって鎖骨折りの手刀だったような」と思いつつも、とりあ
えずそのことには触れず、颯樹の後についていった。
 その後二人は立ち並ぶ出店を適当に見ていった。出店が様々ならば、売っている物も様
々である。例えば『昔TVのヒーローが正体を現す時に使った眼鏡のおもちゃ』や『おい
しそうな焼き鳥』、『金属製のバケツ』などなど。食べ物や小物を売る店が複雑に混ざっ
ていた。
 「なあ、知ってるか?」
 かき氷を凄い勢いで食べる純平に、颯樹が尋ねた。頬を膨らませた状態で振り向く純平
を見て溜息をつきながらも、話を続ける。
 「最近、あちこちの大きな神社の祭りで事件が起こってるんだってよ」
 「へえ」という表情で口の中の氷を飲み込む純平。颯樹は調子に乗ってさらに話を続け
た。
 「祭りに来ていた一般人が、バケモノに襲われそうになったっていうんだよ。幸いケガ
とかは無かったらしいんだけど、人通りが無い場所に少し足を踏み入れた途端に襲われた
んだと」
 「・・・バケモノですか」
 「・・・ここの祭りも結構でかいからなあ。もしかしたら今夜あたり出るかも」
 少し引きつった笑顔で颯樹が言った。それに対し純平は、はっはっはと笑う。
 「大丈夫ですよ。颯樹さんだったら、一撃で倒せますって」
 次の瞬間には颯樹の鎖骨折りのチョップが純平に炸裂していた。『ぐはあっ』と純平は
鎖骨に大ダメージを受けて、痛みを和らげるために一生懸命手でさする。
 「一言多いんだよ、アホ!」
 他の通行人を気にせず腕組みをして怒鳴る颯樹の機嫌をなんとかしてよくしようと口を
開きかけた時、純平は何かを感じて横に振り向いた。そして遠くの方を見る。
 「何だよ、どうしたんだ?」
 颯樹の声が耳に届いているのかいないのか、純平は視線を変えない。何人かの通行人に
ぶつかってもそれは同じだった。颯樹はさらに不機嫌になり、純平の肩を掴んだ。
 「おい・・・」
 「すいません、急用ができました!」
 突然、純平は颯樹にそう言うと、少し体を動かしただけで掴まれた手をほどき、自分が
見ていた方向へと走り始めた。器用に通行人を避けつつ颯樹の方へ一度振り返り、
 「一時間後に、またここに戻ってきますから!」
 颯樹は純平を追おうとしたが、通行人の群れに逆らうことができずにその場に立ち尽く
した。あっという間に純平の姿は見えなくなり、しばらく純平の消えた方向を見て呆然と
していた。



 純平は、人がまったくいない神社の裏の林へとやってきた。祭りの音がやけに遠くに聞
こえる。
 (確か、この辺りから殺気を感じたんだけどな)
 常人離れした五感が、自分に教えてくれている。ここには何かがあるはずだ。
 (いや、何かが居るのか)
 純平はとにかく月明かりを頼りに辺りの景色を伺う。人の姿は無い。虫の声も聞こえな
い。正しく何かが起きそうな感じがする。
 (バケモノとやらの正体は、もしかしたら・・・)
 思考が急に遮られ、純平の体が脳よりも先に反応した。真上の3メートルほどの高さも
ある太い木の枝に飛び乗る。今まで立っていた場所の地面から、突然動物らしき手が現れ、
本当ならば居るはずだった純平の足を掴もうと手探りで探す。5秒ほどで純平が居ないこ
とに気が付いたのか、地面の中から大きな影が飛び出した。
 (これが噂のバケモノか!)
 純平は木の枝から飛び降りて、地面に着地すると同時に大きな影を探した。しかし、い
つの間にか大きな影は消えていた。慌てて周りに目をやる。
 すると茂みや木の影の中から、人間の大人大の木人形が何体も這い出してきた。そして
一斉に純平へと襲い掛かる。
 「ちっ、タチの悪いホラー映画だ。マジで怖えじゃねえか!」
 純平はすぐさま腰を低く落とし、戦闘に備えた。両手は軽く握る程度で、握り締めるこ
とはしない。あらゆる攻撃ができるようにするためだ。
 最初に襲い掛かってきた一体目の顔(目や鼻はなく、のっぺらぼうみたいなものだが)
に右の拳を軽く当てる。これはフェイントで、ひるんだ隙を見逃さずに左のボディブロー、
右のフック、左のアッパーと連続で叩き込んで相手をふき飛ばした。そして後ろを振り返
ると右足、左足と地面を蹴って、並んで襲い掛かってくる二体をドロップキックの要領で
まとめてふき飛ばす。
 すぐさま飛びおきて、ナイフを持っている木人形に対処する。自分の顔に向かってくる
ナイフを横にかわし、相手の腕を両手で掴む。
 「おおりぃや!」
 そのまま一本背負いのように投げるが、違うのは地面に相手の脳天を叩きつけたことだ
った。木人形は何も言わず地面に倒れ、闇となって地面に溶けていく。残った人形たちが
一斉に純平に襲い掛かろうとしたが、突然動物の長い腕がそれを制した。
 動物、いや怪物は手長ザルを2回りほど大きくしたような体で、顔には鋭く凶暴な目し
かない。明らかにこの世界の生き物でないことを確認した純平は、気合を込めて叫んだ。
 「烈破!!」
 純平のキー・ボイスに左手に埋め込まれたクリスタルが反応し、次の瞬間にはメタリッ
クブラックのスーツが純平の全身を覆っていた。少ない月の光がスーツを鋼鉄色に光らす。
 「異次元戦士、ブラスター!」
 改めて戦闘態勢を取る純平=ブラスターは一瞬だけ目眩に襲われた。生物の気配が無く
なり、視界がさらに暗くなる。どうやら次元の間に引きずり込まれたようだ。
怪物は6メートルほど離れた距離にもかかわらず、左腕を振りかぶる。ブラスターは腰
を低くして相手の出方を待つと、怪物の振りかぶった腕が伸び、こちらへと飛んできた。
 対応に遅れたブラスターは伸びる腕につかまり、体を巻かれたあと近くの大木に叩き付
けられる。腕はなお巻きついていて、何度も大木や地面に叩き付けられた。スーツは痛み
を和らげてくれるが、それでも辛いことに代わりはなかった。スーツは中の純平の体と同
調し合成したような状態にあるため、スーツが破損すれば当然ダメージは純平の体にも来
る。
 「くそったれがあ!!」
 ブラスターは全身に力を込め無理矢理中から腕を跳ね飛ばした。が、その反動で地面を
転がる。怪物の腕は体の方へと元に戻っていった。
 ブラスターは立ち上がり、どこらともなく肺をすりつぶすような不気味な笑い声を上げ
る怪物に向き直った。
 「V・ソード!」
 左手に埋め込まれたクリスタルの力を使って左手に柄頭の無いロングソードを転送させ、
右手に持ち代えて構える。そして10メートルほど離れた敵へと投げつけた。剣は凄いス
ピードで相手の胸へと一直線に向かう。しかし簡単にかわされ、後ろに居た木人形の一体
の体に突き刺さった。もがく木人形は闇となって消える。何の支えも無くなった剣は、カ
ランと地面に落ちた。
 怪物はまた不気味な笑いを上げた。完全な侮辱である。しかしブラスターは剣を持った
時の構えをくずさない。奇妙な雄叫びを上げ、再び怪物が左腕を振りかぶって伸ばしてき
た。ブラスターは迫る腕を無視して意識を左手に集中する。すると、左手にさっき投げた
剣が瞬時に転送されてきた。
 驚く怪物だったが、腕を戻すよりも先にブラスターが動く。剣を両手で持ち、目の前ま
で伸びてきた怪物の腕を全力で斬り落とす。怪物の悲鳴と共に腕はボトリと落ちてすぐさ
ま煙となって消えていった。怪物は痛みのためか、地面を転げ回る。転げ回るうちに、怪
物たちの姿が消え、ブラスターは周囲を警戒する。と、
 「・・・何!?」
 両足が何かに強く掴まれ、何の抵抗も出来ずに地面へと引きずり込まれる。そしてもが
こうとした時には、ブラスターはいつの間にか闇の中で立っていた。音も視界も闇に遮断
され、何の情報も得られない。
 それでもブラスターは暗闇の中で周りを注意深く見回す。無駄な努力だとは思うが、そ
れ以外にできることが思いつかないので仕方がない。
 ふと、どこからか視線を感じ、慌てて視線の元を探す。暗闇だけが存在しているはずな
のに、確かにどこからか視線が――
 “・・・純平・・・”
 「!?」
 声にならない驚きの声を上げて数歩あとずさる。ブラスターが見てい方向には、何か人
のような輪郭が見える。暗闇の中ではありえないことだが、たしかに見える。ブラスター
は剣を構え、注意深くそれを見ると、人の輪郭は次第に確かな人へとなっていった。暗闇
の中でポツンと一つのライトを浴びているかのように、はっきりと人の姿を現した。どう
やら老夫のようである。
 老夫は静かにこちらを見ている。まるで心の中まで見透かされるような。
 「・・・・・あ、あなたは!?」
 ブラスターは驚きと恐怖でまた一歩あとずさった。その老夫には見覚えがあった。しか
し【一年前に亡くなっている】はずなのだ。ブラスター、純平の祖父である。
 “・・・・純平・・・・”
 悲しげに自分を見ている祖父から逃げるようにまた一歩下がる。と、今度は横から視線
を感じた。顔だけ急いでそちらに向ける。
 小さな子供がこちらを見ていた。幼くて、男の子なのか女の子なのか分からない容姿の
子供は、やはり悲しげにこちらを見ている。
 両手を広げ、まるで抱いてくれと言わんばかりにこちらを見る子供。ブラスターは祖父
のことも気になるが、どうしても子供から目を離せなかった。そしてある疑問が浮かび、
子供からも数歩遠ざかる。
 「う、嘘だろ? やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれっ!!」
 ブラスターの悲鳴が聞こえているのかいないのか、子供は何も言わず、その小さな口を
開きもせず、まだ両手を広げている。
 恐怖か焦りか、逃げようとして後ろを振り返った。しかし、いつの間にかそちらの方向
に祖父が居た。さっきと変わらず自分を見ている。悲しげな表情で。それを確認した瞬間、
ブラスターの感情が爆発した。
 「うわあぁぁぁっ!!」
 両手で強く剣を握りしめ、叫んだまま祖父へと飛びかかり縦に大きく切り裂いた。斬っ
た感触は感じられなかった。そして祖父の悲鳴も。そして同じように子供を――
 祖父と子供の姿はいつの間にか消えていて、また周りは暗闇だけになった。息を荒げ、
力を無くした手から剣を落とす。剣は音を立てずに下を転がった。
 と、後ろから何かに強く突き飛ばされ、ブラスターは何メートルもふき飛ばされた。強
い衝撃が体を突き抜ける。
 痛みをこらえ、心の乱れを一時封印する。何度か転がったあと、その勢いで瞬時に立ち
上がった。向き直ったブラスターの前方には左腕をなくしたさっきの怪物が居る。
 「てめえ、絶対許さねえ!!」
 輝き出すクリスタルが埋め込まれた左手で右腕をなぞっていく。右腕は青い光を放ち始
め、暗闇を照らし出した。
 怪物はその光に恐れをなすかのように、数歩後ずさりながら残った右腕を伸ばしてこち
らへと飛ばしてきた。
 ほぼ同時にブラスターも右足に力を入れ、踏み切る。急激な加速の衝撃を合図に高速で
走り始め、相手の伸びてくる腕が自分の肩をかすめる中、構わず相手へと瞬時に近寄った。
 「吠えろ、俺のブロォ!!」
 相手に飛びかかりながら、振りかぶった右腕であいての胸へと叩き込む。何の抵抗もで
きなかった怪物は全身がバラバラになりそうな衝撃に動物のような悲鳴を上げた。ブラス
ターの右腕のエネルギーが、モンスターに触れているところを基点にして相手側へと爆発
を起こし、怪物の体が霧散していく。
 しばらくすると爆炎と煙が消えた。強制的に元の空間へと戻される中、ブラスターは何
も言わずに立ち尽くしていた。
体が、わずかに震えていた。



 翌日。太陽は悲しいぐらいに明るく、空の真上に存在していた。純平はしゃがんで、目
の前にある小さいながらも身綺麗な墓に線香を一本そえた。緩やかな風が線香の匂いを空
へと運んでいく。
 そしてその墓の隣に寄り添うように立つ小さな子供の仏像にも線香を一本添える。さら
に一輪だけ花を手向けた。
 そして両手を合わせ、目を閉じ、黙祷する。
 しばらくすると目を開け、ゆっくりと立ち上がる。横を向くと、墓の場所を家族に聞い
て道案内をしてくれた颯樹がいる。颯樹は黙ってこちらを見ていた。
 純平は視線を墓に戻した。素材は何か分からないが、何かの石で作られた墓は無機質で
やけに寂しい感じがした。まあ、墓なら大抵みなそうだろうが。
 「・・・祖父が亡くなったと知った時、僕は涙を流せませんでした」
 墓を見たまま不意に純平が口を開いた。颯樹は黙って純平を見ている。
 「怖いぐらいに悲しいと思えなかったんです」
 弱々しい声は今の純平の心を表しているようだった。純平は話を続ける。
 「あの子の時だって、僕はどうすることもできなかったんです。それどころか、あの子
のことを何も知らなかった」
 颯樹に話しているのではなく、自分を責めるように口調が早くなっていた。
 颯樹は小さな仏像を見て【あの子】と言う純平を見て疑問に思ったが、あえて聞くのを
やめた。本人が話したくなったら黙って聞いてやれば良いのだ。それまで待てばいい。颯
樹はそう思った。
 純平は最後に一呼吸置き、ゆっくりと口を開く。
 「最低ですよね、僕」
 かぶっていた帽子を深くかぶりなおす純平。颯樹は純平のそばにゆっくりと近寄った。
 「そんなことないよ」
 近づきながら、優しく静かなその言葉を言った颯樹は、墓に向き直り、両手を合わせて
目を閉じた。純平は何も言わず、静かに、もう一度墓に黙祷をささげた。


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